ノワルティス
わけが分かりませんでした。
ぷーりあの白いお家はいつの間に真っ黒になってしまったのでしょうか?
いつの間にこんなにボロボロになってしまったのでしょうか?
いいえ、違います。
さすがにぷーりあにも分かります。
ここはぷーりあの白い大きなお家ではありません。
別の場所です。
「ぷー……」
がっかりでした。
帰ってこれたと思ったのに。
ぷーりあのお家だと思ったのに。
違いました。
ここではありませんでした。
ぷーりあはがっくりと座りこんで、灰色の壁によりかかりました。
かたむいた塔の上の方を鳥が飛んでいました。
ずっと高いところなので、どんな鳥かまでは分かりません。
ぷーりあも鳥みたいに飛べたらお家にもすぐ帰れるかもしれないのにと思いました。
あの鳥さんの目から見える緑の海はどんなふうなのでしょうか――。
「ぷ!」
ぷーりあは気がつきました。
あの高い塔の上に上ったらぷーりあのお家が見えるかもしれません!
いいえ、きっと見えます!
「ぷー!」
ぷーりあは立ち上がって黒いお家に向かって駆け出そうとしました。
その時です。
「ドォォォォォォォォォォ」
すさまじい音に地面がふるえました。
緑の海の樹々もふるえています。
この音は何なのでしょう。
どこから聞こえるのでしょう。
答えはすぐにやってきました。
黒いお家の向こうから空をおおうようにあらわれた大きな影。
いいえ、影ではありません。
それは黒いのです。
黒いとてつもなく大きなつばさ。
――それはドラゴンでした。
黒いドラゴンは塔の先っぽをかすめて、ゆう然と空を飛んでいます。
真っ黒い全身は光をすいこむウロコにおおわれていて、ただ大きな眼だけが白くうきたっていました。
ドラゴンが口をひらきました。
真っ赤な口の中に大きなキバが並んでいるのが見えました。
「ドォォォォォォォォォォ」
しょうげきが飛んできました。
黒いドラゴンの大きな声が、しょうげきになって飛んできました。
ぷーりあははね飛ばされて灰色の地面をゴロゴロと転がりました。
ぷーりあはあおむけに寝ころがったまま黒いドラゴンを目で追いかけました。
そして、気がつきました。
黒いドラゴンの頭からのびる大きな4本の角。
その上に乗っている小さな何か――誰か。
その人は、細い体その全身に真っ黒な服を着て、真っ黒な長い髪をなびかせながら、空を飛ぶ黒いドラゴンの角の上に立っていました。
ひと目見て分かりました。
黒いドラゴンは緑の海の動物たちが、どんなに頑張ってもかなわないほど強いです。
でも、それでも、緑の海で一番強いのはあの人です。
何でそれが分かるのかは分かりません。
ただ分かってしまうのです。
あの人こそが、緑の海の王様なのだと。
それはほんのわずかな間のことでした。
黒いドラゴンが塔の向こうからあらわれて飛び去るまで、本当に短い間のことでした。
あの人たちは、ぷーりあのことには気がついていないでしょう。
それでもぷーりあにはしょうげき的な出来事でした。
アリさんたちに追いかけられたことなんてくらべものになりません。
あの人たちは空の上を飛んでいっただけで、ぷーりあにはあぶないことは何もありませんでした。
それなのに、ぷーりあはおそろしかったのです。
緑の海はドキドキしてワクワクするステキな場所でした。
ウケケと笑うトンボや、冠をしたアリさんたち、長い舌をのばすアリクイウサギ、やさしくおだやかなウサミミトカゲたち。
そして、黒いドラゴンと黒い王様――もしかしたら女王様かもしれません。
たった一晩でたくさんの出会いをしました。
でも楽しいことばかりではありませんでした。
ぷーりあは強い子です。
こわいことなんて何もないと思っていました。
違いました。
それは間違いでした。
ぷーりあよりも強い人たちはたくさんいるし、こわいこともたくさんあるのです。
お家に――帰りたいと思いました。
空は明るく、熱い光がふりそそいでいました。
焼きぷーりあになる前に黒いお家に入りましょう。
黒いお家はボロボロでしゃぼんのマクもありません。
緑の海から誰かが入り込んでいるかもしれません。
気をつけていきましょう。
ぷーりあは走りだしました。
ボロボロの黒いお家に、かたむいた黒い塔に――運命の出会いが待つその場所に。
数秒しか進んでいない?
いえいえ数分は進んでいますよ!
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