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緑の海のぷーりあ  作者: 阿釜月高
緑の海
6/10

まいご

 真っ暗な海の底はとても静かで何の音もしません。

 明るいうちには聞こえていた樹の葉っぱのこすれるかすかな音も今はすっかり聞こえなくなっていました。

 ぷーりあのお耳はとてもよく聞こえますが、それでも何も聞こえないのは、何も音がしていないからでしょうか?

 それともぷーりあのとてもよく聞こえるお耳でも聞こえないくらい小さな音が何かあるのでしょうか?

 分かりません。

 とても大事な事な気がしますが、どうすることもできません。

「ぷー……」

 ぷーりあの小さな声が、びっくりするほど大きく暗い海の底にひびきます。

 このままここにいていいのでしょうか?

 分かりません。

 でもじっとしていても仕方がありません。

 ぷーりあは立ち上がって歩き出しました。

 

 どすん!

 

 樹にぶつかってひっくり返りました。

 いたいです。

 気をつけて進みましょう。

 おめめをこらして、お耳をすまして、そろりそろりとゆっくりと歩きました。

 どれほど歩いても聞こえるのはぷーりあの足音だけです。

 何も見えません。

 何も聞こえません。


 とてもつかれましたが、がんばって歩きました。

 どれくらいの時間がたったのかよく分かりませんが、行けども行けども辺りのようすは変わりませんでした。

 いつの間にかぼんやりとまわりのようすが見えるようになっていました。

 けれどもさっきと変わらずに真っ暗なままなのです。

 真っ暗だけれども少し見えるのです。

 なぜ見えるのかは分かりません。

 とてもつかれて考えることもできません。

 歩いて歩いてまた歩いて……ふと見ると、ひときわ古い大きな樹が前にありました。

 他の樹もとても大きいですが、この樹はその3倍ほどの太さです。

 ぷーりあはぐるりと大きな樹のまわりをまわってみました。

 太い根っこがうねうねと盛り上がり、地面の上をはうようにのびていました。

 この根っこだけでぷーりあの背たけの何倍もあります。

 盛り上がった根っこは、大きな樹の下にちょっとしたすき間をつくっていました。

 ちょっと頭をかがめればすき間に入り込めそうです。

 中をのぞくとぷーりあが眠っていたベッドの5倍ほどの広さがあります。

 地面に草はなくて大きな葉っぱがしきつめられていました。

 しかしかなり古いもののようです。

 むかし誰かがお家にしていたのかもしれません。

 でも今は空き家のようです。

 今夜はここで休むことにしましょう。

 ずっと歩き続けていたのでヘトヘトです。

 ぷーりあは根っこに寄りかかってふぅと息をつくと、コテンと横になりそのまま眠ってしまいました。


 ――シャクシャクシャク。

 誰かが歩いている音がします。

 ――シャクシャクシャク。

 たくさんの足音です。

 ぷーりあが目を開けると、根っこのすき間の外が少し明るくなっていました。

 ――シャクシャクシャク。

 ぷりーあの寝ぼけた頭もすっきりしてきました。

 足音は誰のものでしょうか……。

 昨日のアリさんでしょうか?

 そっと根っこのすき間の外をのぞいてみました。

 すらりとした体をゆらしながら四足で歩いている行列がありました。

 全身がザラザラとしたウロコでおおわれた彼らはトカゲのようです。

 ただその頭の上にはウサギのようなふさふさで長いお耳がついていました。

 ウサミミトカゲの一団は行儀よく一列に並んで、シャクシャクと足音を立てながら海の底を行進していました。

「ぷー……」

 ふしぎな光景に思わず声がもれました。

 するとウサミミトカゲの行進がピタリと止まり、いっせいにクルッとぷーりあの方を向きました。

 ウサミミトカゲたちはじーっとぷーりあを見つめると、そろって口を開きました。

「あーー」

 あいさつをしているようです。

 ぷーりあもあいさつをかえさなければいけません。

「ぷー!」

 おはようございます。

「あーー」

 ウサミミトカゲたちはもう一度声をあげると、また行進をはじめました。

 どこへ行くのでしょうか?

 ぷーりあは急いで根っこのすき間からはい出ると、ウサミミトカゲたちを追いかけました。

 どこへ行くのかは分かりませんが、ぷーりあがひとりで歩きまわるよりも帰り道につながる何かが分かる可能性があります。

 ウサミミトカゲたちは、ぷーりあよりも体が大きいこともあって思ったよりも早足です。

 ぷーりあは少しスピードを上げて走って行進の一番後ろに並びました。

 一番後ろのウサミミトカゲはちらりとぷーりあを見ると「あー」と短く声を上げて立ち止まりました。

 ウサミミトカゲは少し体をかがめると、もう一度「あー」と言いました。

 どうやら背中に乗ってもいいよと言っているようです。

「ぷー!」

 ぷーりあはお礼を言って大きな背中に飛び乗りました。

 ウサミミトカゲは背中に乗ったぷーりあをちらりと見ると、のそりのそりと歩き出しました。


 ウサミミトカゲの背中の上でゆらゆら揺られながらしばらく進むと、辺りが明るくなってきました。

 ウサミミトカゲたちが行進していく先の方から光が差し込んできています。

 草のなぎさです。

 緑の海の端まで帰ってくることができたのです。

 行進の前の方を歩いていたウサミミトカゲたちは、すでにひなたに並んで寝そべり、ひなたぼっこをはじめていました。

 ぷーりあを乗せていたウサミミトカゲもその横に寝そべってひなたぼっこをはじめました。

「ぷー!」

 ぷーりあはぴょんととびおりてウサミミトカゲにお礼を言いました。

 ウサミミトカゲはぷーりあをちらりと見ると「あー」と短く言って、すぐに目を閉じてひなたぼっこを再開しました。

 ぷーりあはウサミミトカゲに手を振っておわかれをして草のなぎさに飛び込みました。

 草のなぎさはぷーりあの背たけよりもずっと深いので、前に進むのは大変です。

 ぷーりあは夢中で草をかき分けて前に前に進みました。

「ウケケケケケケケケケケ」

 どこか遠くでワライトンボが笑っています。

 草をかき分け、草をかき分け前に進むと突然草のなぎさが終わりました。

 ぷーりあはいきおい余ってコロンとつんのめって転がってしまいました。

 ゴチンと灰色の壁(・・・・)にぶつかってしまいました。

 いたいです。

 ちょっと泣きそうだけど泣きません。

 お家に帰ってきたのですから。

 辺りを見回して出入り口を探します。

 すぐ近くにはないようです。

 ぷーりあは左手の方に進んで出入り口を探してみることにしました。

 すごくあついですが、がんばって歩きました。

 しばらく進むと灰色の壁のとぎれ目が見えました。

 どうやらあそこが出入り口です。

「ぷー!」

 うれしくなってぷーりあは走りだしました。

 そのまましゃぼんのマクに飛び込んで――いいえ、しゃぼんのマクはありません。

「ぷ?」

 白い大きなお家もありません。

 灰色の地面には砂がつもり、ところどころ草が生えていました。

 その向こうには高い塔が、少しかたむいて空に伸びていました。


 ぷーりあの前にあったのは、ボロボロに荒れはてた黒い大きなお家でした。



児童向けですので、基本的に早くお話を展開させるように意識しています。


豆知識。

一般に蛇やトカゲの鳴き声と認識されている「シュー」というのは噴気音と言って、要するに鼻息です。

亀のオスは交尾の時高い声を出して鳴きます。

亀飼育愛好家の間では『漢鳴(おとこな)き』と呼ばれています。

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