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緑の海のぷーりあ  作者: 阿釜月高
緑の海
5/10

海の底

 草のなぎさに生えている草は、ただの草とは思えないほどに重たくてなかなかかき分けるのが大変でした。

 草のなぎさの深さは、ぷーりあの背たけよりもずっと深くてどちらに向かっているのかもわからなくなってしまいそうです。

 お耳にからまる草を何とかほどいて前に進むと、だんだんと草がまばらになってきました。

 生えている草もだんだんと小さくなってきているようです。

 ふいに目の前が広くひらけました。

 草のなぎさがとつぜん終わったのです。

 目の前には薄暗くコケのような小さな草がびっしり生えた地面からずうんとそびえる大きな樹が並ぶ深い深い森が広がっていました。

 ――緑の海です。

 本物の緑の海が目の前にありました。

「ぷー……」

 思わず小さく声がもれました。

 知っていた通り、知っていたよりもはるかに大きな緑の海の姿に、ぷーりあはただただ圧倒されてしまいました。

 あたりを見回してみましたが、誰も居ません。

 ここにいるのはぷーりあだけのようです。

 ぷーりあはそろりそろりと足を出して、コケのような草の上を歩きだしました。

 シャクシャクと乾いた足音が誰もいない海の中にひびいています。

 さっき笑いながら飛んで行った大きなトンボはどこへ行ったのでしょうか。

 あの笑い声も聞こえません。

 シャクシャクというぷーりあの足音と、はるか上のほうから聞こえる葉っぱのこすれる小さな音だけしか聞こえません。

 地面は固く、びっしり草が生えているというのに湿った感じはしません。

 かといって埃っぽいわけでもないのです。

 大きな樹は広く枝をのばし、ぷーりあの居るところから空を見ることはできませんでした。

 あたりはだんだん暗くなってきていました。

 海の深くに入ってきたからだけではありません。

 夜になろうとしているのです。

 夜になったらきっと海の中は本当に真っ暗になってしまうでしょう。

 そろそろ引き返したほうがいいかもしれません。

「ぷー……」

 残念ですが冒険はここまで、もと来たほうへ帰ろうとしたその時。

 ――キチキチキチ。

 音がしました。

 ――キチキチキチ。

 音がしました。

 キチキチキチ。

 キチキチキチ。

 キチキチキチ。

 たくさん音がします。

 何の音でしょう?どこで鳴っているのでしょう?

 シャクシャク――と音がしました。

 足音です。

 誰かの足音です。

 足音はどんどん大きくなって来ています。

 ――少し違いました。

 足音はどんどん増えているのです。

 シャクシャク――キチキチ――シャクシャク――キチキチ。

 樹の向こうで何かが動きました。

 黒い何か――大きさはぷーりあの倍ほどでしょうか。

 黒い体に細い足が生えたそれは、昆虫――アリのようです。

 大きな頭の上には小さな角が何本も生えていて、頭の上でわっかになっていました。

 それはまるで王さまの冠のようです。

 樹の向こうそこここからアリさんの顔がのぞいています。

 キチキチキチ。

 いやな感じがしました。

「ぷー」

 ぷーりあが一歩あとずさると、アリさんたちは二歩近づいてきました。

 いやな感じがしました。

「ぷーぷー!」

 なかよしになれそうな感じはありません。

 ぷーりあは走って帰ることに決めました。

 いきおいよく走りだします。

 ですが目の前の樹の影からアリさんが顔を出しました。

 こちらは通行止めでした。

 ぷーりあはスピードをゆるめず右に向きを変えて走りました。

 ぷーりあの足はとてもちっちゃいですが、走るのは得意なのです。

 ぴょんぴょんととぶようにして大きな樹の間を走り抜けていきます。

 ですがアリさんの足音はずっとついてきます。

 キチキチキチと大きなアゴを鳴らしながら走ってきています。

 いやな感じがしました。

「ぷー!」

 もっと頑張って走りました。

 けれどもアリさんたちはついてきます。

 しばらく走り続けると目の前にこんもりとした茶色い塊が見えました。

 ぷーりあは勢いをつけてその上に飛び乗りました。

 茶色い塊はなんだかもこもこしています。

 キチキチキチ。

 アリさんたちが近づいてきます。

 追いかけてきていたアリさんは、ぷーりあが思っていたよりずっとたくさん居ました。

 ちょっと逃げるのは難しそうです。

 そう思った時、ぷーりあの足元のもこもこ塊がムズリと動きました。

 むくりと顔を上げたそれはウサギのような動物でした。

 ぷーりあが知っているウサギとはちょっと違うようですが、長いお耳とジャンプの得意そうな大きな足はウサギそのものでした。

 あたりを見回したウサギさんの長い耳がピンと立ちました。

「チチチ」

 ウサギさんが短く声を上げました。

 するとどうでしょう。あたりの樹の向こうから次々にウサギさんたちが姿をあらわしました。

 ぷーりあがのっかっている茶色いウサギさんと似た色のウサギさんだけでなく、黒だったり白だったりまだら模様のウサギさんもいます。

 いつの間にかアリさんたちのアゴを鳴らすキチキチという音が聞こえなくなっていました。

 集まってきたウサギさんの一匹が、ぺろりと長い舌をのばしました。

 長い舌はアリさんの一匹を捕まえると、するりとウサギさんの口の中に戻っていきました。

 もちろんアリさんを捕まえたままです。

 次々にウサギさんたちが長い舌をのばしはじめました。

 ウサギさんたちのお食事会がはじまりました。

 アリさんたちはクモの子を散らすように逃げ出しました。

 ――アリさんなのに。

 ウサギさんたちはそれを追いかけながら、ペロリペロリとアリさんを捕まえていきます。

 茶色いウサギさんの背中にいたぷーりあはとつぜんのことにびっくりして、アリさんを追いかけはじめたウサギさんの背中から転がり落ちてしまいました。

 アリさんもウサギさんも見えなくなるまでボーゼンと見ているしかできませんでした。


 どれくらいたったでしょうか。

 あたりはすっかり真っ暗でした。

 何も――見えません。

 さっきまで見えていた大きな樹もどこにあるかわからないくらい真っ暗です。

 もちろんぷーりあの白い大きなお家がどこにあるのかもわかりません。

 ぷーりあは真っ暗な海の底で迷子になってしまいました。


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