プロローグ
その星は豊富な水をたたえ、青く輝く美しい星だった。
かつてこの星には、支配者と言っていい種族が存在した。
仮にこの種族を『人間』と呼ぼう。
人間は築き上げた高度な技術で、大地を海を空をこの星のありとあらゆる場所を支配下に置いた。
ただ、それはこの星そのものを支配したということではなかった。
まず海が干上がった。
蒸発した水は雲となって空を漂い、山で街で大雨となって降り注ぎ、あらゆるものを押し流した。
星は降り注いだ雨を丸ごと飲み込み、大地の下にため込んだ。
多くの生き物が途方に暮れ、なす術もなく死んでいった。
人間たちの中からも多くの死者が出た。
やがて人間はこの星を捨てた。
沢山の空飛ぶ船が空を超えて、はるか彼方へ旅立った。
行くあてがあったのかどうかは分からない。
全ての人間がこの星からいなくなったわけではなかった。
貧しく力のない者たちは、この星に留まった。
多くは望んで残ったわけではなく、ただ見捨てられたのだ。
望んで残った物好きは少数派だった。
元通りの暮らしは出来ない。
深い深い井戸を掘り、わずかな水を確保した。
洞窟の奥から水をくみ上げてくる者もいた。
かつてこの星の支配者と嘯いた人間は、既に地を這う獣の一種でしかなかった。
長い時間が経った。
あるいはそれほど長い時間ではなかったのかもしれない。
かつて海だった場所に大きな樹が生えていた。
天を衝くほどの巨大な樹だった。
樹は星が地の底にため込んだ水を吸い上げ、巨大さを増していった。
樹は根を広げ、子株を増やし、森を作った。
森は瞬く間に領域を広げ、かつて海と呼ばれていた場所全てを覆い尽くした。
いつしか森は樹海と呼ばれるようになった。
その星は豊富な水をたたえ、青く輝く美しい星だった。
今は樹木の海に覆われた緑の星である。
まだ前置きです。
次から本編スタートです。