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この世に神はいない  作者: YOGOSI
一話
5/6

この世に情けはない

 暴力を初めて受けたのは、きっとまだ意識もない頃から。


 保育園に行く頃には、教育として殴る蹴るが当たり前だった。まだか弱かった子供時代は、今思えばかなり加減されていたほうだった。泣くことはあっても、身体に痕がつく行為は無かった。


 暴力が本格的になってきたのは、小学校に上がった時だった。


 私は容姿は良かったが、勉強への熱意と、運動神経に欠けていた。


 好きこそものの上手なれ、という諺もあるとおり、私の能力は自分を飾ることに特化していった。


 父親は、酒を飲んで帰ってきては、何かしら私を殴る口実をつけて、暴力を振るった。


 家に帰った時にお帰りなさいと言わない。勉強をしていない。化粧をしている。テストの点が悪い。


 私はそれにただ耐えるばかりだった。酒が抜けると土下座をして謝ってきたし、ただ酒癖が悪いのだと、そう割り切っていた。


 母は、弱い人だった。


 どうして父と結婚したのかも不明。とにかく、私への暴力を止めようともしない。


 正直、母親と思ったことはここ数年無い。


 中学で生理が来て、女になった頃。父の暴力が減り始め、そして性的な目で私を見るようになった。


 少し強く暴力を振るったあと、舐めるような手で私の皮膚をなぞる。


 正直、寒気がした。まだ殴られる方がマシだと思って拒絶すると、予想どうり殴られた。


 このままではいつか犯される。


 相手は大人の男。本気でこられては、私は為すすべもない。


 中学三年の春、私は家を出ることを決意する。


 それに必要なのは何か。金だ。


 お金があれば、一人暮らしできる。大学には行かずに、働こう。


 虐待されたと助けを求める選択肢もあった。


 だが、私がいなければ、きっと父と母はいい夫婦だったのではないか。そんな情が邪魔をした。だから、黙って去ることにした。


 そう決意して、公立の高校に入学。ここは生徒の半数が進学せずに就職する学校。真面目に勉強する人は、正直に言えば少数派。


 入学すると同時に、援助交際を始めた。


 処女を捨てるのは惜しくなかった。私の体は否応なく男を誘うようになっていく。遠からず、父に襲われるような気がしていた。むしろ、早くしなければ、という気持ちだけが私を突き動かしていた。


 セックスに関しては、今まで気持ちいいと思ったことはない。リスクはあるとは言え、一、二時間で数万のアルバイト。悪くない条件だ。無論、避妊はきっちりしている。


「その仕事を、俺に見られた訳だ」


 私の裸を見ても、彼は全く動揺しない。


 はっきり言って、身体には自信がある。胸もそこそこいい大きさだし、肉付きだって悪くない。


 火傷の後や、変な傷跡が体中にあり、痣も所々にあるけれど、まあそれも一つのセックスアピール。変態にはウケがいい。


「そゆこと。で、どうする?」


 口止め料として、抱かれてあげることも吝かではなかった。むしろ、そっちの方が信用できる。


「どうするもこうするもねぇよ。服着ろ」


 しかし、彼は私が脱いだ制服を私に投げつける。


「わっぷ……。乱暴だなぁ」


 受け止めて笑うと、彼は呆れた瞳で私を見ていた。


 男はいつも私を欲に塗れた瞳で見る。私を、ただ自身の欲求を満たすための道具のように男は見る。


 ただ、堤恭一という男子は、私を哀れんでいるわけでもなく、侮蔑するわけでもない。そんな瞳。


「いいの?チャンスだよ?女子高生が下着で、イイ、って言ってるんだよ?」


「うっさい。早く着ろ」


「……ハーイ」


 本気で手を出してくる様子がない。ちょっと驚きながらも、セーラー服を着る。


「お前の事情はよーくわかった。同情はしてやれないが、よくわかった。大変だな、感動したよ。お前のことは絶対、誰にも言わない。これからも頑張って稼いで、夢を叶えてくれ。だから、今すぐ帰れ」


 堤恭一は、全く感情の篭っていない声でそう言った。


 その時だろうか。私の中に、彼に対する興味が生まれた。今日の仕事は無くなってしまった、いや、彼が破談にしてしまったのだ。その補填をして貰ってもいいのではないか?私の中に、そんな小悪魔じみた考えが浮かぶ。


「ヤダ」


「……は?」


 彼の顔が引き攣った。


「ヤダ。ここ居心地いいし、テレビおっきいし。まだここに居る」


「お前……」


 ソファにあるクッションを抱いて、徹底抗戦の構え。


 彼は結構本気でいらついている。こんなに感情を出す彼を初めて見た。面白い。


「堤くん、私の裸見たし。これ残念ながらタダじゃないんだなー」


「お前が勝手に見せたんだろ……」


「それも料金の内なの。だからさ、堤くんの話ししてよ。そしたらさ、帰るから」


「……本当だな」


 彼は伺うような視線を私に送る。以外と表情が豊かだ。学校では意図的にああしているのだろう。


「ホントホント!私、今まで男騙したこととかないから。そこは信用して」


「援交やってる奴に信じろって言われてもな」


「女子高生の闇は深い、ってね。いるもんだよ。援交やってる子。まあ、私みたいな理由でやってる子は少ないけど」


 他の子は大抵、即物的な金欲しさ。学生以外だと、その日を過ごすために身体を売ってる子もいる。ホテルにはお風呂も、ベッドもある。そしてその費用は男が出してくれるのだ。


「……誰にも言うなよ」


 念を押すような震える声で、堤恭一くんは話し出す。

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