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お役目ご苦労

作者: 瀬川潮

「長い間、良く頑張ってくれたな」

 上司からのねぎらいの言葉。私が職を失った瞬間だった。

 言葉はうれしい。何せ神も仏もないような上司だったのだから。

 ただ、退職金がないのが悲しい。

 地獄の沙汰も金次第というが、まさか地獄が折からの不況で倒産するとは思わなかった。

 そう、地獄は倒産したのだ。百年に一度と言われる世界不況のあおりを食らって。一般の会社などは法律にしたがって再生できるようだが、超国家機関である地獄にそんな神の手は差し伸べられない。まあ、当然の話であるが。

「現在は、介護・看護職の求人が多く出ています。頑張ってみる気はありませんか?」

 ハローワークに就職相談に行くと、窓口の係員からそう言われた。

「私は、死神だった男です。人に優しくする自信がありませんし、元死神に介護されたい人もいないでしょう」

「でもあなたは今、人の痛みが分かるような瞳をしています。頑張ればできますよ」

 励まされて、逆に肩を落とした。こちとら人生死神一筋。人の痛みが分かるような瞳をするまでに落ちぶれてしまったのか。今まで地獄に案内した人々に申し開きができねぇなと、しみじみ思う。

「もうちょっと、今までのスキルが生かされる職につけるよう、頑張ってみます」

「……分かりました」

 係員の瞳は、「でももう、地獄はないのです。地獄以外に死神の働く場所はないでしょう」と言っていた。それを言わないのは、私にとっての死刑宣告と同義であると読み取ってくれているからだろう。優秀な係員である。


 中央第二十六公園。

 ここが、私の新たな住処だ。遊具を楽しむ子どもやペット連れの人が利用する昼間は、訪れる人が心地よく利用できるようよそへ出掛け、夜に帰ってくる。ただ寝るだけに帰ってくるのは以前とあまり変わらない。ただ、働けないのが違う。人をばっさりぶった斬れなくなった。……ああ、働きたい。働きたいぞ、ちくしょう。

 ある晩、中央第二十六公園に以前の上司がひょっこり現れた。

「地獄が、復活するぞ」

「……まさか」

 どうも、地獄がなくなって人が死ななくなっているらしい。

「みんな天国に行っているのだとばかり思ってましたよ」

「あのお高くとまった天国が、そんな敷居の低いことするわけがないだろう」

 つまり、世の中のほとんどの人が地獄に行っているわけで、地獄が倒産して行き場のなくなった人が死ぬに死ねなくなっている、と。

「でも、運営資金がなくなったから倒産したんですよ。金はどうしたんです? こちとらボランティアでやってたわけじゃないでしょう。金がなきゃ、地獄はあり得ません。……一般の会社じゃないんだから、どこの国も資金援助してくれませんよね。あのお高くとまった天国が地獄に対して出資するわけもないし」

「まあ、天国が地獄に対して金を出さないのはその通り。……そんなことより、話は後だ。再開するにも死神がいなくちゃ運営もできん。とにかくすぐ一緒に来て働いてくれ」


 そんなわけで、私は閻魔さまについて地獄行き。めでたく復職したわけだ。

「ああ。額に汗して働くって、いいもんだなぁ」

 地獄では、皆が生き生きと働いていた。

 その働きっぷりは筆舌に尽くしがたくR指定を受ける可能性が出てくるので、伏せる。見たかったら地獄に来い。

 そんなこんなで、今日も私はばっさばっさと人々の命をぶった斬って魂を地獄に導いている。

 それはともかく、資金はどうしているのだろう?

「各国から出たのさ。人が死ななくなって膨大に膨れ上がった福祉費用に悲鳴をあげようだな」

 閻魔さまはそう言って、ニタリ。

「おっと、口外するなよ。各国から口止めされているんだから」


   おしまい

ふらっと、瀬川です。


働くということは社会に貢献しているのだと思いたいものですね。

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