08 恋愛のカタチ
「おかあさま、おとうさまがかえってきたよ!」
まだ二、三歳の可愛い男の子が嬉しそうに玄関へ向かう。
その姿は、幼い頃の靖也そっくりだった。
「おとうさま、おかえりなさい!」
「ただいま、拓真」
そう言って頭を撫でられた拓真は、嬉しそうに目を細める。
そして、彼は後から急いでやってきた女性に目を向けた。
「ただいま、瑞穂」
「お帰りなさい、靖也」
靖也と瑞穂がお互いの気持ちを告げてから、八年の年月が経っていた。
今、暖かな家庭がここにある。
あの後式場に戻ると、瑞樹がいなくなったと式場は大騒ぎになっていて、勿論、二人はこってりと叱られた。
が、結婚のことに関しては、瑞穂がしたくないならそれでいいと言われたのだ。
元々、両親は一人娘の瑞穂には甘かったし、如月家と三坂家の繋がりも、
あっちが執着していただけで、世界の如月財閥としては美坂グループとの繋がりはどっちでもよかったらしい。
唯、次期社長である雅紀の年齢や容貌で瑞穂の相手に相応しいだろうと言うことで決めたとか。
だから、そこまでして本当に好きな人がいいならそれでいいと。
寧ろ、靖也の方が昔から知ってるから安心だ、とまで言われた。
正直、二人は心中・・・とまでいかないが、勘当は覚悟していたので、拍子抜けだったけど。
しかし、そんな寛大な両親のおかげで二人は付き合うこととなり
(実は、瑞穂の両親より靖也の両親のほうが大変で。仕えているはずの主人に手を出すとは何事だ、と怒鳴られ散々だったのはまた別の話)、
三年前、ついに結婚した。
今は長男の拓真も生まれ、家族円満。
それに会社のほうも順調で、財閥は靖也が継ぐことに決まっていた。
そのため、少し忙しいけど、それは仕方ない。
今、幸せ真っ盛りだった。
―――ねぇ、知ってた?
私たちがあの日逃げて行ったあの湖。
昔、私たちみたいに身分違いの恋をした人があそこで心中したんだって。
私たちも、御父様達が許してくれなかったらそうなってたのかな。
それもきっと一つの愛の形だけど。
私は御父様たちが許してくれたことに感謝してるの。
だって、
今此処に靖也がいて、私がいて。
そして、拓真がいる。
それがとても幸せだから。
私はあの日のことを後悔してない。
靖也は―――今幸せ?
それは、あまりにも当たり前すぎる問いかけで。
靖也は答える代わりに、瑞穂の肩を抱き寄せると、そっと唇を合わせた。
「今度、あの湖に拓真を連れて行ってみようよ」
「そうだね、拓真に教えてあげないと」
「なんて?」
「それはもちろん、
―――ここでお父さんとお母さんは初めてキスしたんだよ
って」
「そ、そんなこと拓真に言わなくていい!
・・・でも、教えてあげなくちゃね」
―――二人にとって大切な場所なんだよって
二人は膝の上で健やかに眠っている拓真を見て、微笑んだ。
これからも、ずっとずっと愛してる
窓の外では月明かりの元、静かに雪が舞っていた―――
これが私達の、恋愛のカタチ
これでこの作品は完結です。
ここまでおつきあい有難う御座いました。
感想などがあれば是非お聞かせ下さい。
−莉雨−




