07 カレの本性 -瑞穂・靖也-
いよいよこの話もあと少し。
ですが、ここから靖也のキャラが壊れてきます。
壊れた執事さんを見たくない方はご注意を。
「し、心中!?」
「丁度そこに湖もあることですし、二人で入りますか?」
「っちょ、ちょっと待って、靖也。心中ってのはちょっと・・・」
瑞穂が慌てたように返事をする。
靖也は至って冷静そうで、真顔だった。
「冗談ですよ。ようは、その程度の覚悟があるかって事です」
第一、折角両思いだと言うのに死んだら意味無いですし。
そう言う靖也に、瑞穂はあんな顔でそんなこと言われたら冗談に聞こえないって。
心の中で突っ込んでいた。
「っていうか、靖也ってこんなキャラだっけ・・・?」
もっと真面目で誠実って感じだった気がするのに。今ではまるで・・・
―――黒い?
と言うかまるで、王子様的性格のような。
今までと正反対の性格に見えるんだけど・・・。
一人心の中で思案していると瑞穂の思いもよらぬ所から返事が返ってきた。
「そんなことありませんよ」
勿論驚いたのは瑞穂である。
「え!?もしかして靖也って心の声が聞こえたり・・・」
「心の声?思いっきり声に出てましたが」
「えぇ!?」
一歩、靖也が近づいてくる。思わず、瑞穂は一歩後ずさった。
が、後ろは木。
下がれない。ヤバイと思ったが、時既に遅し。
靖也の両手に阻まれ、横に逃げることも叶わなかった。
靖也の手が伸びてきて、頬に触れる。
そして、彼の顔も近づいた。お互いの吐息が感じられる距離。
「俺は、元がこの性格なんです。
確かに今までは瑞穂の執事だったから性格作ってましたけど?」
「・・・っ」
―――ななな・・・顔が近い!
間近で見る靖也の顔は端整で。
真直ぐと見つめてくるその瞳は鋭く、瑞穂を縛り付けて逸らすこともできない。
瑞穂の顔は見る見る赤くなり――。
完全に、靖也が主導権を握っていた。
「こうなった以上、もう瑞穂とは主従関係でなくなった訳ですし。
その必要もありませんからね」
そういって靖也が微笑む。
その表情は、執事だったときのそれとはまた違っていた。
顔の温度が更に上昇していくのを感じる。
もう、瑞穂は何も言い返すことが出来ない。
ついには靖也の顔も見ていられなくなって、俯いた。
靖也はそんな瑞穂の変化を分かってか分からずか(否、絶対分かってだけど)、更に言葉を続ける。
「さて、結婚式当日にこうやって美しい花嫁を奪還できたのは良いですが、どうやって瑞穂の御父様(社長)に認めてもらいましょうか。
既成事実でも作っときますか?」
「き・・・既成事実って・・・?」
「瑞穂の想像通りだと思うけど?」
靖也は瑞穂の反応を見て楽しんでいた。
それはもう。こんな嬉しそうな靖也を見たのは久しぶり、って程に。
それとは反対に、瑞穂の心臓は緊張で破裂しそうな気分だった。
―――悪魔だ。
生まれてから今までずっと一緒だった筈なのに。
なんでそのことに気付かなかったんだろう。
「私、人選間違えた?」
「後悔しても遅いよ。瑞穂が俺を誘惑したんだから」
こんな靖也とだと、心臓が幾つあっても足りない。
これからどうしよう、と思いつつも、どうやって両親を説得するか悩んでいた。
やっぱり、大好きなのだ。
世界で一番、靖也のことが。
そしてまた、靖也も――――・・・
近づいてくる唇に、瑞穂はゆっくりと瞳を閉じた




