06 トワの絆 -明子・良次-
明日がいよいよ入内の日。
今晩が明子が此処で過ごす最後の夜だった。
――眠れない――
もう、夜は深い。
早く寝ないととは思うのだが、明子はどうしても寝付けなかった。
明日からのことを思うと憂鬱でたまらないのだ。
気晴らしに、少し月でも見よう。
そう思って部屋から出た。
冬の夜の空気は冷たく、透き通っていて。満月が綺麗に見えた。
「っきゃ・・・」
どのくらい月を眺めていたのだろう。
気付けば月に見惚れていて、時間感覚がない。
突然、後ろから口を塞がれた。
――誰?
そう言い掛けて思いとどまった。
私、この人を知ってる。
明子は口を塞いでいる手を外し、名前を呼んでみる。
「良次・・・」
振り返って見た顔は、やはり良次のものだった。
「明子姫様。御無礼をお許し下さい。
姫様が入内してお会いになれなくなる前に一度・・・」
明子は良次を咎める気など無かった。
寧ろ、会えて嬉しいと思っていた。
二度と叶わないと思ったことが、今、叶っているのだ。
こんなに近くで会うのは、そして触れることが出来たのは、一体何時ぶりだろう。
お互い無言で、しばらく座って月を眺めていた。
「明日、入内したらこんなことも二度とできないわね」
「・・・・・・」
「また、昔みたいに二人で遊びたい」
「・・・・・・」
「私、―――入内したくない」
「姫様・・・」
「良次、お願い。此処から連れ出して」
「本気・・・ですか?」
前からずっと言いたかったこと。
もう、迷いはない。
明子が無言でうなずくと、良次は立ち上がって、明子に手を差し出した。
明子は其の手を取る。
二人で屋敷を抜け出した。
◆ ◆ ◆
屋敷を出るのは何とかなった。
けど、明日には明子がいなくなったのが見つかってしまうだろう。
きっと明日には、明子を探しに追っ手が来てしまう。
そうなれば、スグに見つかってしまい、明子は無理やり入内させられ、良次は殺されてしまう。
こうなった以上、それは分かりきったことだった。
二人は、昔よく遊んでいた湖のそばにいた。
「良次、こんなことに巻き込んでごめんなさい。
でも・・・私はずっと貴方のことが好きだった。今までも、勿論今も」
「姫様・・・」
「ごめんなさい。こんな気持ち、貴方に言うつもりでは・・・」
「俺も」
「え?」
「俺も姫様のことが好きです」
そんな窮地に立っているのに、二人の心は穏やかだった。
二人とも、「好き」。唯その一言でよかった。
二人で寒さを紛らすように、お互い引っ付いて其処に座り、夜が明けるのを待つ。
昔の思い出話を沢山した。
直接会えなかった年数を埋めるかのように。
沢山のことを話した。
「こんなに喋ったのは久しぶり」
そう言って、また笑った。
吐いた息は真っ白だったが、そんなのはまったく気にならない。
幸せな時間だった。
もう直ぐ、日が開ける。此れからどうするか。
―――もう、二人の気持ちは決まっていた。
「行こうか」
どちらとも無くそう言った。
良次が先に立ち上がり、明子に手を差し出す。差し出した手を取って、明子も立ち上がった。
二人とも、無言だった。
唯、お互いの手を堅く繋いで
――――湖に向かって歩き出した
これからは、ずっと一緒にいられる。
貴方と、永久に・・・・・・・
空から静かに雪が舞い落ちた―――




