02 幼き日のボク等 -良次Side-
「姫様。走り回ってはいけません。早くお戻り下さい」
「良次もこっちにおいでよ!」
大内裏を姫様が駆け回っていた。
初めてくる大内裏の、姫様の屋敷とはまた違うその広さに、興奮しているのだろう。
姫様はいくら呼びかけても走るのを止めはしない。
俺も姫様を追いかけ、走った。
辺りに他に人影は無く、此処にいるのは俺たち二人。
姫様はあくまで楽しそうだったが、俺は必死だった。
――忠邦様に姫様のことを任されたんだ。
明子姫に何か無い様に、しっかりしないと――
っていうか、止まってくれ・・・!
情けないけど、もう、足が縺れそうで限界。
そんな俺の思いもよそに、姫様は止まってくれる様子も見せ無い。
一体、その小さな体のどこにそんな体力があるんだ?
早く姫様を掴まえないと・・・。
そう思って、以前来た時に覚えた此処の地理を考える。
と、ふと思い出せた。
あれ、確かこの先は・・・
「姫様、危ない!其方には池が・・・!」
「え・・・?」
そう叫んだ刹那。
バシャーン―――
鯉が飛び跳ねる。
池に思いっきり俺の体が浸かっていた。
明子姫様は池の前で尻餅をつき、唖然としてこっちを見ている。
実は、姫様が池に落ちそうになった時に、俺は咄嗟に姫様の手を引いていたのだ。
で、それで明子様を無事助けられたら良かったのだけど、
代わりに勢いが付いて止まらなくなった自分の体を、其処に落としてしまっていた。
服はビショビショ。
冬だからちょっと寒いな、なんて暢気に思ったりしてみたり。
乾いた笑いが出てくる。
はは・・・。
俺、格好悪――
けど、
「姫様、御怪我はありませんか?」
明子姫が無事で良かった―――
「良次・・!えっと、どうしたら・・・」
明子姫はその一言に我を取り戻したのか、急にオロオロし始めた。
そんな様子が可愛くて、思わず笑ってしまう。
「取り合えず、池から出てもいいですか?」
池に落ちてびしょびしょの者が笑顔で、逆に落ちていない者が慌て顔。
傍から見たらきっと変な光景だっただろう。
けど、そんな幼き頃が、幸せな日々だった―――――
ねぇ、姫様。
あの頃は唯、無邪気で。それがどんなに幸せだったか。
知ったのは、其れを失くした後だったけど。




