第8話 決戦へ向かう時
家に着いた後は昨日通り……着替えるなど準備をした。
そして、今日は真っ直ぐに、町の廃工場へと向かう。急げば5時半までには間に合うだろう。
正直言って、昨日の暗闇での戦いというのは大変だった。分からない場所というのもあり、本気の力を出しきれなかった。
もう一つの魔法を使おうかと思った。
まあ、そんなこんなで、道中特に障害もなく廃工場に着いた。周りに人影もなく、ひっそりとした廃工場だ。
さて……こんなに上手く出てくるかな?
まあ、居てもらわないと困る訳だし……とりあえず入ろう。
工場の扉に手を掛ける。
キィィィィィィィィィイイイイン!!
「ハハハハハ!」
振り返った俺は、取り出した魔装法用ナイフで、辛うじて相手の長剣を受け止める。
笑いながら飛びかかって来た相手をよく見る。
細身で長身……こいつも木戸内ではないな。情報による木戸内は、背が少し低い平均的な体型だという。遠目に見れば、こいつの可能性もあるが……おそらく違うだろう。
何より、長剣という武器だ。
近頃では長剣を所持武器とする奴は少ない。
リーチが長く、戦闘となると使い易いが、それを所持するというのは面倒だからだ。目立つし、戦い以外は邪魔になる。そのため、近頃使ってる奴は本当に少ない。
それを使うというのは、不良らしいと言っちゃらしい。人目を気にしなくて良いからだ。いや、むしろ見せびらかしてしまった方が良いからだろう。
木戸内はメジャーに拳銃らしい。
さて……。
「よう。昨日はお邪魔してたんだけど、留守番しか居なかったようだね」
ナイフに力を込めながら言うと、相手は不快そうに笑う。
「ああ……あいつしかいない時に来るとはなぁ……。ったくよお!」
いきなり、ナイフへの重みが増す。
耐え切れないな。
俺はなんとか移動魔法を使いながら、バックステップで距離を取る。
「お前、魔装生だろう。隠したって無駄だ。さすがに調べが付くんだよ」
バレてしまったら仕方ない。
相手も調べたからこそ、工場の外で待ち構えていたのだろう。
今日で、仕上げれば良いんだからな。
「そうだぜ、先輩。白城って言うんだ」
俺はナイフを左手に持ち替え、右手でゆっくりとパラを抜く。
「そうか、後輩。俺は井戸北って言う」
ふざけたようなやり取りをした後、井戸北は長剣を俺に真っ直ぐ向けた。
ドンッという音と共に、井戸北は素早く俺に突進してきた。
こいつも……思考発動が出来るのか。
2年だしな。出来て当たり前か。
「不良のくせに、魔装法だけは勤勉なのか!?」
移動魔法で右前に飛び込み、突き技を躱す。それに反応した井戸北は、素早く回転斬りをしてきた。
ナイフに防御魔法を張って受け止めるが、衝撃で俺は後方に吹き飛んだ。
移動魔法っていうのも万能ではなく、あくまで移動速度を補助するだけだ。
だから、連続の使用は難しい。てか出来ない。だって、全力ダッシュした後に、続けて全力ダッシュはきついだろう?
だから、移動した後は別の魔法を使わなければいけない。
そうじゃなくとも、思考発動は使い続ければ、精神力などが疲れて使用出来なくなるし。
なんとか受け身をとり、銃口を向けて追撃を阻止する。
「攻撃力、攻撃速度を上げるのが得意らしいな」
ただの防御魔法では、防ぎきれないかもしれないな。
「まあな。追加効力系の魔法は、あまり得意じゃないんだわ」
井戸北は再び加速移動をし、突きを放つ。
俺はそれを、左手のナイフで外側に受け流す。しかし、それは予測済みだったのだろう。左手を長剣から離し、拳を固めて殴ってきた。その拳を右腕の前腕部分でカードする。
ぐっ……!
中途半端な防御魔法だけだったから、ダメージが残る。普通に手だけだったから、魔装法の攻撃ではなかったけれど。
「ハハハハハハ! どうしたってんだぁ!」
ぐらついた俺の腹を蹴り、そのまま長剣を振り下ろしてくる。
俺は腹を蹴られた勢いをそのまま使い、後方へ不格好に加速回避をした。そのため、振り下ろされた長剣は俺の前髪を掠っただけだった。
しかし、この回避行動のために防御魔法を張らなかった。なので、腹部へのダメージはそのままだ。
「チッ……! くっ……うぐ……」
俺はなんとか痛みを堪え、銃を構える。
「ほお……まだやる気かよ。後輩が先輩に勝てるかよ」
「つい昨日、勝ったばかりだよ!」
なんとか叫ぶと、銃口を真っ直ぐ相手に向けた。
しゃあない……思いっきりやってやるよ。場所は外だしな……!
「いくぜ……開放風」
俺は靴に移動魔法を使って井戸北に駆け寄りながら、服全体から斜め右後ろに風を噴出する。
「ハアッ!」
真っ直ぐに長剣を振るった井戸北の左側に、風の力で移動し、長剣ももちろん回避する。
俺が風魔法を気に入ってる理由なんて簡単だ。
なんか昔から機動力が高いものは好きだった。自由なものが、好きだった。
移動魔法だけでは移動に限界があっても……その移動後、更に風で自分を押せば、移動できる。それを交互に繰り返せば……。
「畜生……この! ……テメエェ!」
そう、交互に使い、相手の周りを踊るように動き、攻撃を回避していく。
膨大な精神力の消費だ。相手の動きも読みながらの連続魔法。それも、自分を動かせる分の強力な風だ。
井戸北はついに、適当に回転斬りをやり出した。
俺よりも精神力が保てないらしい。既に、魔装法を使った攻撃の空振りで、思考発動は出来なくなったようだ。
それでも、回転斬りでは俺も当たってしまうだろう。
「もう、無駄だ」
移動魔法で後ろに一歩下がる。
丁度さっきまで俺がいた場所を、長剣が空振った瞬間……俺は靴に風の力を纏わせ、鋭い速さで相手の手首を蹴り上げる。
「グアアァァァァ!」
しまった……おそらく左手首を折ってしまった……右手首も結構な怪我だろう。
長剣はもちろん地面に落ち、井戸北は手首を庇うようにうずくまる。
「お、おい……。大丈夫か……?」
確かに手首を折ってしまえば、ほとんど反抗出来ないだろう。
利き手であろう右手が、まだ使えるのは救いだな。それでも、両手が不自由というのは、大変だろう。
「ううむ……陽愛に助けを頼もうか……」
そこで、陽愛にメールをしていない事を思い出す。
しまった……また怒られるぞ……今からでも遅くないかな……?
「助け、か。自分で傷付けた相手のために、他の奴を呼ぶのか?」
殺気……久しぶりに感じる、本当の殺気だ。
「真打ち登場か。遅かったな……木戸内 陸人!」
背後の殺気を放つ人物に、パラを向ける。
間違いない……特徴と一致する。腰にある拳銃も……情報通りだ。
「まあな。主役は遅くに来るもんだろ?」
冷静だ――最初に戦った不良の先輩も冷静だったが――落ち着き過ぎているぐらいだ。
「お前の仲間は、既に全滅だぜ。後はお前だけだよ、木戸内」
パラを向けられていても、全く動じない木戸内に話しかける。
既に日は沈みきり、これからもっと暗くなるだろう。
「『先輩』を付けろよ後輩。一人だけでもなんとか出来ると思っていたが……結局負けたのか」
木戸内は仲間であるハズの井戸北を、冷たい目で睨む。
なんだ……この違和感……不良やってるつうから、もっと荒っぽい奴だと思っていたのに……。
「さて、ここまでやってくれたんだ。もちろん、俺と戦うつもりなんだろう?」
「そりゃそうだろうが。お前を倒さなければ俺も困るんでな」
そう言った瞬間……銃声が鳴り響き――
気付けば、俺の右脇腹を銃弾が貫いていた。