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第85話 抜擢

 

 その日のHRで、品沼の言う通り、『聖なる魔装戦セント・フェスティバル』についての話をされた。

 とは言え……全員、流すように聞いていた。

 なぜなら、試合に出場する生徒は、生徒会の選考により決まる。もちろん、教師陣の了承も取るのだが、なんせ適当な人達だからな。学校の命運がかかろうとも、本気で考えようとはしないだろう。

 つまるところ……一年生は選ばれない。

 よっぽどの才能があったりすりゃ別だが、基本は三年生の選手ばかりだ。少なくとも、生徒会の方はまともだからな。

「輝月先輩と千条先輩は、出るんだろうなぁ~……」

 俺が欠伸混じりに言うと、隣の瑠海が首を傾げた。

「そう言えば、今日の朝に、その二人が話してたよ? 陰の方で、随分神妙な顔して」

 なんか……嫌だなぁ……あの人達が喋ってるのって。

 いや、悪くはないんだけど……悪くはない……ハズ、なんだけど……。

 ほとんど、風紀委員は出場していたハズだからな。千条先輩は確実だろう。

 HRが終わって席を立つと、品沼が近付いてきた。

「昼休み、輝月生徒会長に会っといてね? 話があるらしいから」

 うっわあ~……嫌な予感、当たってんじゃねえの?

 あの人に呼ばれて、いいことを聞かされた覚えがない。皆無だ。

 

 ◇

 

 昼休み……昼食もそこそこに、生徒会室へと向かう。

 九割方、ここにいるだろう。

 ノックをすると、どうぞ、と言う声がした。

 やっぱいた。生徒会室の住人か。

 いや、ほぼ住人か。

「失礼します」

 一礼して入ると、いつも通り、輝月先輩は生徒会長席に座っていた。

「やあ……品沼から、話は聞いたのかい?」

「いえ……詳しいことは……」

 品沼から聞いたのは、輝月先輩が会いたがっているという話だけだった。

「ま、完結的に言えば……そうだね……」

 何を言い出すか、直感で分かった。

聖なる魔装戦セント・フェスティバルに、第三高校の代表の一人として出場してもらいたい」

 俺はズバッと頭を下げる。

「ご遠慮します!」

「いや、断るの早すぎない?」

 緊張感のない会話が続く。

「俺みたいな一年が出たら、どんなに批判されるか……てか、いじめの的になるじゃないですか」

「いやいや、考えすぎだよ。少なくとも、君には素質があるのだから」

 俺が首を傾げる。

「素質……?」

「そう、素質。元々、学校のイベントなんだからさ……成長が必要だと思うんだよ」

 ますます分からなくなってる。

 輝月先輩は笑顔を崩さずに続けた。

「この大会は、勝つだけでなく、成長が必要だと思っているんだよ。そのために、一年である君を入れようと思う」

 詳細も分からないのに……そんなこと言われたってなあ……。

「品沼は――」

「出ない」

 短く、少し表情を固くして、輝月先輩が答えた。

 少し、悲しそうでもある。

「俺じゃなく、品沼でもいいじゃないですか……」

 俺と互角……いや、俺が互角に戦った相手、品沼なら、俺よりも向いてるとも思えるのだが……。

 しかし、相変わらず表情を固くしたまま、輝月先輩は首を振った。

「今回、先生方から許されている、無条件の一年生枠は一つだけだ」

「……どうして、俺……なんですか? 他の実力ある一年生に、失礼っていうか……不平等というか……」

 そこで、輝月先輩は表情を崩した。

 ニコリと笑い、馬鹿にしたようなため息をついて、やれやれと椅子にもたれ掛かった。

「失礼じゃないし、不平等でもない。君の実力は知れてるし、一年生は何も言わないだろう。二年生だって、君の名は知れている。三年生にも文句は言わせないさ」

 二年生にも名が知れてるって……不良の件とか、井之輪先輩と話してる所とか、そこじゃねえか?

 あんま、いい感じじゃねえじゃん。

「まあ、俺が気に入ってるというのもあるんだけどね。何より……君には、進化の可能性がある。もちろん、他の生徒たちにもあるが……君の場合は、別格だ」

 別格。

 正直な話、自分自身で思っていたことだ。

 俺は特別だってことを。

 それは……今だって、変わらない。

 自分が特別だという事実を、謙遜みたいなことはしたくない。

 だって、別に……嬉しいことでも、綺麗なことでも、素晴らしいことでも……望んたことでも、ないんだから。

「成長と言うよりは、進化。可能性と言っても……君は選ばれたような存在、逸材だ。ほぼ、確実だろう」

「……そこまで、過大評価してもらって恐縮ですが……俺に、そんな可能性なんて……」

 やはり、断りたい。

 一年で出たら、色々と言われそうというのも、面倒そうだというのもあるが……。

 何かあったら……俺の力がどうなるか分かったもんじゃない。

 進化の可能性はあるだろう……けれど、それと同じくらい、破滅の可能性がある。

 俺の力どころか、俺自身が――未知の魔法、巡る命の、不死鳥の魔法なんだ。

 下手に暴れたくはない。

「いいから、出ろっての」

 突然、生徒会室の奥の扉が開き、千条先輩が入って来た。

 既に話の内容は知っている、という感じだ。

「大抜擢なんだぜ。別に、一年生で出るのが悪いことじゃない……確かに珍しいが、この学校だけで、過去に四人の実例がある」

 どうやら、俺の出場に、千条先輩も異論はないようだった。

 二人の性格上……これは別に、俺のためという訳でもないんだろう。最初からメンバーは決めていて、それを出来るだけ変えたくない……って感じか。

 ……遂に、折れた。

「出場させて頂きます」

 

 ◇

 

 とりあえず、品沼には話してみた。

 少し申し訳ないような気もしたので、迷ったのだが……品沼は、事前に察していたようだ。

「まあ、全く悔しくない訳じゃないけど」

 品沼はそう言って苦笑いした。

 選ばれる理由は分かるから……その台詞は、少し悲しげにも聞こえた。

 

 その日の放課後に、大会の資料を貰った。

 出場者は、各校の現生徒から五名。学年制限はない。

 武器の持ち込みに関しては、特に制限はない。ただ、事前に用紙の提出があり、そこで通過できれば、だ。

 会場は、飛斗梶(ひとび)スタジアム。

 東京第1魔装高校がある都市――魔装三大都市で一番開発の進んでいる都市に存在する、大型の競技用スタジアムだ。

 設備を説明すると……イタリアのコロッセオに近い作りになっている。ただ、とても大きく、安全性を考えて、壁が高い。壁には、大型モニターが付いていて、防弾ガラスが張られている。

 五人がそれぞれ、順番で戦っていく。順番は第一対第二、第二対第三、第三対第一の順だ。それを繰り返していく、長時間のイベントだ。

 試合時間は四十分。

 その間に、相手を地面に倒した状態で、三十秒経てばいい。そうじゃなくとも、戦闘不能状態と判断されれば、その時点で負け。時間内に決着がつかなければ、判定へと移る。

 主なルール等はこれぐらいだ。

 

 ◇

 

 帰り道。

「す、すごい……! さすがだね!」

 陽愛は無邪気に手を叩いて、目を丸くしている。

 俺は自転車を押しながら、嘆息する。

「あのなあ……確かに、すごいのかもしんないけど、赤っ恥かいて帰ってくるだけかもしんないんだぞ?」

 意外にこれでも、プレッシャーを感じている。

「でも……やっぱり、すごいよ……頑張ってね?」

 桃香が俯き気味に言ってきたが、俺は何とも言えない。

「やっぱ、さすがだよ~黒葉!」

 瑠海が俺の後ろから抱きついて来ながら言うので、慌てて離れる。

 こいつ……この頃、大胆になりすぎじゃないのか?

 みんなに、性格の違いを見られたら、色々と困ると思うんだが……。

「とりあえず、結構辛いもんなんだよ……あまり、言いふらしたりとかすんなよ?」

 釘を打っとくと、全員、笑顔で頷いた。

 この笑顔が怪しい……。

 あまり、目立ちたくはないし。

 かなりヨロヨロしながら、俺は家へと向かった。

 

 まだ、青奈は帰っていなかった。

 部屋に入った時、あることを思い出す。輝月先輩から貰った紙を取り出した。

 予定表……?

 どういうことだ?

 見てみる。……これって……。

「まさか……訓練?」

 予想はしていたけど。

 てか、想定内だろうけど。

 聞いてない。

 面倒なのに……練習まで付くのか!

 しかも、あの人たちとやる訓練って……想像したら、軽く死ねる。

 いや、重く死ねる。

 放課後に、ところどころ入っているようだ。

 俺は脱力しながら、ベッドに倒れ込んで、ため息をついた。

 それでも……存外、他校の実力者を見れることに関しては――楽しみだった。

 

  

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