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第81話 参加客

 

 正装に着替えた俺は、大広間へ行く途中の廊下で瑠海に再び出会った。

「あ、黒葉! うわ~……とっても似合ってるよお~」

 うっとり顔で言ってくる瑠海に、俺は安堵のため息を洩らす。

 大丈夫、元気そうだ。

「にしても、随分な人だな……何もなしに、パーティーを開いたのか?」

 俺が訊くと、瑠海は首を振った。

「ううん。お父さんの仕事関係の方で、お祝い事があったって聞いてる」

「そうか……お前も大変だな」

 父親の仕事関係でわざわざパーティーを開いていたら、疲れるだろう。

 それにも、慣れてしまったのかもしれないけれど。

「俺は端の方で待ってりゃいいか?」

 前に参加した時は、挨拶で歩き回っている瑠海を見ながら飲み食いしてただけだったしな。

「え~!? 一緒に歩こうよ~踊ろうよ~」

 なんでだ。

 てか、自分の別荘を歩き回って何が楽しいんだ。

 それと、踊るってなんだ。

 いや分かってんだけどさ……このパーティーは、そういう場面もあるって、知ってるけど……。

 まるで、海外のパーティーのようなものだ。

「そういや、海外のお偉いさんも来るのか?」

 俺が、ふと疑問に思ったことを口にすると、瑠海はすんなりと頷いた。

「来るよ、仕事関係だもん。でも、親善パーティー? みたいな感じなんだよね~」

 そういや、貿易関係の仕事してたな。

「親善パーティー……ねえ……お前の家、祖母の影響が強いよな」

「うん、まあね」

 祖母の影響、というのは他でもない。

 瑠海の両親は、一応日本人だ。しかし、母親の母親……つまり、祖母は外国人なのだ。

 少しだけ、瑠海にはアメリカ人の血が流れている。

「伝統的って訳じゃないんだけどね~……社交パーティーだろうとなんだろうと、パーティーでは踊れるようにしてるんだよね」

「あれ……でも……お前の両親が踊ってるの、見たことねえんだけど」

 この別荘では、パーティーのために会場を二つ使っている。

 正式会場では、日本的(?)に行われている。

 もう一つの会場では、ダンスが出来るとかなんとか、陽気なムードである。

「そんな柄じゃないしね。おばあちゃんが、ダンスが好きだったって理由から、だったかな……?」

 俺は、話しか聞いたことはない。

 瑠海と出会った時には、既に亡くなってしまっていたからだ。

「それを言うなら、俺だって柄じゃないんだけど」

 俺の言葉は完全にスルーされた。

「ごめん! ちょっと待ってて。挨拶しなきゃいけない人が……」

「はいはい、いいぜ。行ってこい」

 手をひらひら振って、小走りで去って行く瑠海を見送る。

 とりあえず正式会場の方に入り、近くの席に座って飲み物を取る。

 結構、人が集まってるんだな……。

 色々な人が喋っている。中には、どこかで見たことがあるような人もいる。

「ここ、いいかな?」

 突然の声に横を向くと、初老の男が俺を見ていた。

「ど、どうぞ」

 戸惑いながらも頷く。

 人懐っこい笑みを浮かべ、男は俺の前に座った。

 紳士的な雰囲気だ。少なくとも、踊るような人には見えない。

「私は樋渡(ひわたり)

 短く、自己紹介をされた。

「あ……俺は白城って言います」

 あまり慣れていない……と言うか、この会場の雰囲気に呑まれている。

 それでも、なんとか返す。

 樋渡と名乗った男は、微笑んで頷いた。

「よろしく、白城くん。それにしても……君は、姫波嬢のお友達かい?」

 瑠海のことを姫波嬢ときたか。

 こりゃ、金持ちっぽいと言うか、金持ちだよな。

「そうです。中学の時に出会ったんです」

「ほう……なら、長い付き合いってことかな?」

 一回、転校してったからなあ……あいつ。

 そりゃ、メールとか連絡は取ってたけど、長い付き合い……と言っていいのか……。

「はい」

 面倒なので全肯定。

「私の会社と外国の会社を、姫波が取り持ってくれてね」

 ああ、この人がパーティーのキッカケか。

 やべえ……意識したら余計話しづらい。

「今回は、私のためにパーティー開いてくれたみたいでね。参加してくれた君にも、感謝しなきゃね」

「いや、そんな……」

 そんな感じで、気の遣う会話を繰り広げている最中……人が更に増えてきた。

 何気なく目を向けた先に、サッと動く一人……。

「……すみません。席、外します」

 俺は返事も待たず、立ち上がる。

 さっき動いた一人を、急いで追いかける。

 二階へと上がって行く。二階には何もない……強いて言うなら、自由開放のテラスが存在するが……。

 行くとしたら、そこか。

「おい……なんで、いる」

「……お呼ばれしたからに、決まってるだろう?」

 若い男……二十代ぐらいの青年が、俺を見据えている。

千須和(ちずわ)……とか、言ったよな?」

「合ってるけどよ、覚えてんの中途半端かよ。しかも、相変わらず口汚いし」

 そう、千須和。

 こいつは父さんと同じく、外国で働いている研究員。

研究者(おまえら)は、信用ならねえからな。礼儀なんて、持ち合わせてねえよ」

 吐き捨てるように言い放つ。

 本当に……なんでだ……。

 こいつは外国にいるハズ……父さんから、何の連絡もない。戻ってきた理由……。

 本当に、招待されたのか?

「結構、大きな研究になってきてるからな。代表として、来たって訳よ」

「……お前が、代表?」

 疑うように、眉をひそめる。

 若くして優秀だとは聞いたが、地位が高い訳でもないハズだ。

「こっちは、直接的な関わりじゃねえからな。挨拶だけして、戻って来いってよ」

 名義上か。

「まさかとは思うが……研究は……」

「安心しろって。健全な研究だっつの。お前、自分の父親さえも疑うのかよ」

「いや、そうじゃねえけど」

 この千須和って奴も、三年前の事件の真相を知っている。

「それよりも……日本だろ? 今、危ねえことやってんのは」

 否定できないな。

 確かに、日本の方が研究は危ない。

 実際……播摩土研究所では……。

「とりあえず、今日は関わるな。すぐに帰るんだよ。用はない」

 それだけ言って、千須和はテラスから飛び降りた。

 ……今更、心配なんてする気もない。

 二階ぐらいの高さなら、大した魔装法じゃなくても大丈夫だろう。

「ったく……無駄な心配させやがって……」

 何か、アメリカの方のこと、聞いときゃ良かったな。

「アメリカ……? なんか、違和感が……」

 つい最近、そんな話が、別の所で出た気がする……。

「あれ、黒葉?」

 振り向くと……後ろには、瑠海が立っていた。

 更に、その後ろに……。

「は……? 陽愛に……折木……!?」

 薄黄色のドレスを着た陽愛と、薄桃色のドレスを着た折木が、瑠海の後ろに立っていた。

 って……さ、サプライズゲストって、こいつらかー!

「なんで?」

「そりゃ、呼びたかったからだよ~!」

 簡潔な回答だった。

「ま、いいや……なんで、ここに?」

 割り切った。

「こっちの台詞だよ? あのね、ここからの景色が綺麗だからって連れて来たんだ」

 まだ整理できていないのか、二人は驚いた顔で固まったままだった。

 そっちにも伝えてなかったのか。

 わざわざ説明する気はないしな……必要もない。

「俺も、そんな感じ」

「さすが! 以心伝心だね!」

 抱きつこうとしてくる瑠海を、移動魔法まで使って躱す。

「そ、そういや……樋渡さんと会ったぞ?」

 急いで話を持ち出してみた。

「樋渡……ああ、あの人ね。確かに、このパーティーの主役って言ってもいい人だし、挨拶しておいて正解だと思うよ?」

 やっぱり、あの人がキッカケなのか。

「とりあえず、俺は下に行くわ」

 そう言って階段へと向かう。

 なんか食っときたい。

「そうだねえ……私たちも、後で行くよ」

 陽愛と折木も、瑠海の言葉に無言で頷いている。

「そんじゃ、俺は先に……」

 テラスを後にした。 

 

 ◇

 

 正式会場へと入ると……端の方で、樋渡さんと千須和が喋っているのを目撃した。

 あの二人が……知り合い?

 いや、仕事関係って可能性もある。決め付けるには早すぎるだろう……。

「く、黒葉くん……」

 いつの間にか、折木が側に立っていた。

「おう、どうした?」

「あ、あのさ……ちょっと、外……一緒に、歩かない?」

「? まあ、いいけど?」

 二人で外へと出て、暗くなった庭を歩く。

「お、驚いたよ……黒葉くんも、いるなんて……」

 折木が、オドオドした口調で言う。

 前髪を右人差し指で弄りながら、俯いている。

「俺だって驚いたぞ。それにしても……ドレス、似合ってるな」

 色が、なんとも折木っぽい。

 言った途端、身体をビクッとして折木は俺の方を向いた。

「そ、そう? ……ありがとう……」

 再び俯き、小さな声でそう言ってきた。

「でも、本当……陽愛と折木が――」

「……桃香」

「へ?」

 俺の言葉を遮り、折木が短く自分の名前を口にした。

「桃香で、いいよ……?」

 名前で呼ぶのは、馴れ馴れしいと思っていたが……ま、本人が言うのなら。

「分かったよ、桃香」

 名前を呼ぶと……折木――桃香は、笑顔で頷いた。

 その時、屋内から俺たちを呼ぶ声が聞こえた。陽愛と瑠海だろう。

「よし、行くか」

「……うん」

 さて……騒動も何もないことを祈りながら、今夜は過ごしますか。

 

  

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