表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/219

第7話 戦い明けて魔装高で

 

 物質変換魔法の説明を、先ほどは簡単に済ませてしまったが、案外難しいものなんだ。

 というか、訓練とかをしない普通の人にはできない。

 考えてもみてくれ。

 道具や武器を通すことでしか効果を発揮しない魔法……と言っても、そんなのほとんど意味がなく、俺がやったみたいに、壁を通して発動もできるのだ。

 そんなものなのだが、それでも、前から言う通り相性は重要だ。

 回復魔法なんてものも存在するが、その魔法をかけて消毒液をやれば、様々に派生する。そういうものだ。

 それを、自由に変えられる。変換できる。そんなものは危なすぎる。

 使える人間は……厳しい訓練を積んだか、元々の才能だ。

 事実、元々の才能で変換できる人間しか、俺は見たことがない。

 だから、不良の先輩に言った、「才能が惜しい」という言葉はまんざら嘘でもない。

 

 ◇

 

 帰宅して七時半。

 青奈はテレビを見ながら俺を待っていた。というか、晩飯を待っていた。

 前にも話したと思うのだが……青奈と俺は仲が悪い。俺が避けられているだけだが。この関係は三年前から始まり、続いている。

 余談だった。

 そんな関係の俺達だが、さすがに兄が左腕に大怪我を負って、結構な量の出血をして帰ってきたら驚かれた。心配されたというより、ほぼ怒られた感じだった。

「お、お兄ちゃん!? どうしたの!? 本当にもう……ちょっと待ってて、手当するから。動かないで座ってて!」

 ものすごい剣幕で言われたので、俺も大人しく椅子に座る。

 事情は話せなかったので……こけたらアスファルトから木が生えててそれに刺さった、と言っておいた。

 さすがに嘘だとバレたようだが、深くは突っ込んでこなかった。

 木の破片を取り除き、消毒し、包帯を巻いた。

 一応は回復魔法を使った。とは言っても、使ったのはあくまで青奈である(俺に回復系魔法の才能はない)。

 それから、急いで晩飯を作ったが八時過ぎになってしまった。俺ん家は、八時前には飯を済ませるようにしていたのだが……。

「悪い、疲れたから寝るわ」

 俺は青奈に言うと、早くも布団に潜り込んだ。

 

 ◇

 

 五時に起床した俺は、とりあえずシャワーを浴びて左腕の包帯を替えた。

 意外にも、傷はほとんど治っていた。青奈の回復魔法のおかげでもあるんだろうが。

 朝飯を作って、着替えを済ませ、昨日はすっぽかしたパラの整備をする。

 それから、携帯を開くと……うわ……昨日送られてきたハズのメールが何通かあった。差出人は、予想通りというかなんというか、陽愛だった。

 メール内容は、俺を心配してくれていて、昨日は何もやらなかったのかどうかという話が主だった。

 『遅れてすまない。一応戦った。一人だけは倒しといた』

 みたいな適当な返信をした。

 怒られるだろうなあ……俺。

 

 朝飯を済ませ、七時四十分に、自転車に乗って魔装高へ向かった。

 自転車を駐輪し、真っ直ぐに生徒会室に向かう。

 仕事が忙しいので、授業以外はほとんど生徒会室(そこ)にいると聞いた。

 扉の前に立ち、三回ノックをすると、どうぞ、という言葉が聞こえてきた。俺は少しだけ警戒しつつ、扉を開けて一礼した。

「一応、中間報告に」

 俺は生徒会長席に座る輝月先輩を、真っ直ぐに見つめて言った。

 正直、この先輩……生徒会長のことだから、あの(・・)先輩が登校してくるという情報も掴んでいるのだとは思う。それでも、自分で言いに来なければ安心できない。

 なので、昨日のことについて大まかに報告した。

 輝月先輩は穏やかな顔で聞いていた。

「……うん、了解。ご苦労さんだったね。後の二人もよろしく頼むよ」

 爽やかな笑顔で、そのイケメン面の生徒会長は言ってきた。

 まるで他人事のようだが……実際、他人事だろう。俺としては何も言えない。

「……はい。それでは、失礼します」

 時間も丁度良いし……ま、こんなもんでいいだろう。

 後は教室に戻って――

 

「ねえ、三年前(・・・)魔装法暴乱(まそうほうぼうらん)事件を覚えているかい?」

 

 突然の言葉だった。

 だが、その一言は俺に、反射的に銃を抜かせた。俺は振り返って、輝月先輩に銃口を向ける。

 何も考えていない。何も考えられない。自分が何をしたいのかも、分からなかった。

「……どういうつもりだい?」

 落ち着いた問い。けれど、俺は答えない。自分でも分からない。

「その事件が……なんだって言うんだ。覚えていたら、何かあるのか」

 無意識に口から言葉が飛び出した。

 今にも引き金を引きそうだった。意思に関係なく……その衝動を抑えられそうになかった。

 しかし……頭が真っ白になった瞬間、俺の拳銃は手元から消えていた。

「感情的になるな。周りが見えなくなってるぞ」

 いつの間にか、輝月先輩は俺の前に立ち、俺のパラを持っている。

 そのお陰で、俺も少しずつ冷静になってきた。

「すいません……」

 謝ると、輝月先輩は俺の腰のホルスターにパラを差し込んだ。

「いや、俺も悪かった。知っていること(・・・・・・・)をわざとらしく聞いてしまった」

 本当に悪いと思っているようだ。

 いや……この件に関しては俺が悪い。

「いいんです……それでは……」

 俺は沈んだ気分で生徒会室を出た。

 

 ◇

 

「ちょっと! ちゃんと話してよ!」

 教室に入ると、まあ、陽愛が居て。それでもって、第一声はそれだった。

 何に怒っているかって、あの適当なメールとか、なんで状況とかを教えなかったのか……みたいな。

「わ、分かった分かった。うん、心配させてごめん」

 あまりにも怒るもんだから、俺も気圧された末に話してしまった。

 話したけれど、更に怒られた。そりゃそうなんだろうなあ……。

 

 その日も普通に授業を受けて、昼休み。

 弁当は作らなかったので、購買で適当にパンを買ってきて食べる。

 コッペパンを食いながら、俺は遠目に陽愛を見る。

 陽愛は俺と違って、普通に友達がいる。まあ、当たり前かもしれんが。今は女子の友達三人と弁当を食べている。

 別に、無理して友達が欲しい、って訳でもないが……なんというか、羨望の眼差しを向けるしかないな。

 遠い目をしていると、一人の男子が俺の前にやってきた。

 あまり背が高くなく、小柄。優しそうな顔立ちの奴だ。

「やあ、白城くん」

 俺には見憶えのない奴だが……クラスメイトだよな……?

 あ、いた気がする。地味にだが、結構成績良い奴だったハズだ。

 えと……名前は……。

「確か名前は……品沼(しなぬま) (ゆう)……だよな?」

「うん、そうだよ。憶えててくれたんだ」

 良かった、間違ってなかった。

「一緒に昼食とっていいかい?」

「……ん? あ、ああ……」

 こんなことは初めて過ぎる。

 いきなりのことで戸惑ってしまった。

 品沼は弁当を机に置き、椅子を引っ張ってきて俺の前に座った。

「話すのは初めてだね。僕は君に興味があってさ」

 珍しい奴だな……俺みたいな根暗に関わろうと思うとは。

「ほら、白城くん、魔装法の授業で成績良いよね? 詳しいんだな~って」

 俺も知識は結構ある方だからな。

 昔、兄さんにも教わってたし。

「ああ、まあな。でも、授業に出る内容なんて、大体が皆知ってることばっかだろ」

 俺はコッペパンを飲み下し、コーヒー牛乳を飲み始める。

「そうだけどさ……分からないことだってあるよ。それに、魔装法と武器の相性がすぐに分かるってのはすごいことだよ」

 それは……自分の訓練、自習によるものだ。

 三年前から俺は、魔装法について詳しくなろうと思った。

 強くなろうと、思ったんだ。

 

 あれから品沼とは他愛ない話をして、昼の休憩時間を過ごした。

 午後の授業も難なく受けて、学校を出る。

 陽愛は用事があるとのことで、急いで先に帰っていった。

「今日も行く予定なら、ちゃんとメールしてよね! 分かった!?」

 帰る間際に、陽愛は怒り気味に俺にそう言ってきた。

 そうだな……陽愛も当事者だ。友達としても、少し配慮が足りなかったかもしれない。

 そんなことを思っていると、歩いて校門を出ようとする品沼が目に入った。

 俺は自転車を走らせ、横に着ける。

「よっ。お前、家近いのか?」

 いきなりの登場で驚いたらしいが、俺だと分かると笑ってきた。

 俺の問いに、品沼は首を横に振った。

「違うよ。電車で帰るんだ」

「ふ~ん……そうか。電車使うなら、第二高とかの方が近かったんじゃないのか?」

 納得の疑問が一緒に頭の中に巡っていたが、疑問を口に出してみた。

「そうでもないよ。それに、僕としては、第三高校(こっち)の方で良かったよ」

 俺はそうか、と言った後に別れを告げ、自転車を走らせた。

 いつもより急ぐ。

 なぜってそりゃ、今日で決着をつけるつもりだからに決まっている。

 

  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ