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第78話 強い意志

 

 強烈すぎる雷撃が、右足を貫く。

 しかも……雷魔法だけじゃない……なんだよ……これは……。

 駒井を中心にして、(いびつ)な空間がいくつも出現している。

 その魔法空間を雷が通過する度、様々に変化していく。

 不安定過ぎる、空間と雷の魔法……。

「駒井……打ち破れ……その暴走の核を……」

 あくまでも駒井の中の魔法空間。

 八木を倒さなくても、駒井自身で崩すことも出来る。

 しかし……それには、確固たる意識……強固な意思が――

 おい、何を諦めてんだ。

 駒井は強くなった。

 いじめのダメージからも抜け出せた……もう、弱くなんかない。

 いや、元々強かったんだ。

「まずは……駒井を抑えなきゃ……」

 そう呟いて、駒井を見据えるが……俺の両脚は、既に使い物にならない。

 右脚は先ほどの雷撃で撃ち抜かれ、左脚は八木の銃撃に貫かれ、ボロボロの状態。

 立っているだけでも上出来だ。

 駒井と初めて戦った時にも、駒井は暴走していた。

 しかし、それでも自我があった。苦しそうに……また、悲しそうに、叫んでいた。

 でも、今は違う。

 叫びもしない。無表情で、ただ、標的もなしに攻撃を繰り返している。

「クソッ……ふざけんなよ! 誰のせいで、なんのために、こんなことに……!」

 無意味に叫び、無駄に怒った。

 無情にも、そんな俺の身体に雷が降り注ぎ――

「黒葉くんっ! 危ない!」

 誰かの声が響き、動かない身体が大きく横に吹っ飛ぶ。

 床を滑りながらも、なんとか体勢を整える。

 見ると……俺を突き飛ばして助けてくれたのは、折木だった。

 どうやら、階段を下りてきたようだ。

「だ……大、丈夫……?」

 俺の側に来て、心配そうな顔で問いかけてくる。

 あの距離で、雷魔法を躱した……? 俺を助けて……?

 そうか……折木には加速魔法がある。緊急事態なら、尚更だ。

「ああ、大丈夫だ……」

 (かす)れた声で、なんとか応じた。

 壁の陰に隠れ、雷撃を避ける。

「それにしても……小さいとは言え、魔法空間が複数存在してる所によく来れたな。認識もできなかったんじゃないのか?」

「う、うん……近付くまで、何が起こってるのか……分からなかった」

 やはり、今はそういう状況か。

 その時、別の声がした。

「黒葉!? 桃香!?」

「黒葉ぁ! 大丈夫!?」

 すぐ近くに、陽愛と瑠海が走り寄って来た。

「お、おい! そこじゃ攻撃が当たっちまうぞ!」

 慌てて二人の腕を掴んで引き寄せた。

 すぐ側の床を、雷が走っていく。

「怪我してないかッ!?」

 二人は怯えたように頷いた。

 俺はひとまずホッと息をつき、壁から少しだけ出て、駒井を覗う。

「ど、どうなってるの……?」

 陽愛が不安そうに問いかけてくる。

「とにかく、ただ終わった訳じゃないんだよ」

 それだけ言って、俺は再び壁に隠れる。

 携帯を取り出して、アドレス帳を開く。

 そこで三人共、俺の怪我に気が付いたようだ。

「く、黒葉!? その傷!」

 瑠海が驚いて、俺の脚を指差した。他にも、左胸等から血が流れている。

「きゅ、救急車! 呼ばないと……!」

 折木が狼狽える。

「その前に、だ。あいつを放っておけない」

 メールを送る。

 言わずもがな……井之輪先輩や、生徒会役員の一同に、八木を捕まえてくれるように頼んだのだ。

 生徒会役員については、怪我の具合が気になるが……今は、少しでも急いで八木を捕まえて欲しい。

「そういや陽愛……生徒会の方は、どうなったんだ?」

「え、うん……私にはもう、限界だったから……全快にまでは治せなかったよ」

 どうやら陽愛の話では、全員を平等に、少し動けるぐらいにまでは回復させたらしい。

「お陰で、もう魔装法は使えないよ。精神力はすっからかん」

 控えめに笑うと、陽愛は自分の胸に手を当てた。

「充分だ、ありがとう」

 俺はそう言うと、なんとか立ち上がろうとする。

 けれど、やはりと言うべきか……すぐにへたりこんでしまった。

 三人が慌てて俺を止める。

「や、やめてよ黒葉……これ以上動いたら、悪化しちゃうよ?」

「私、回復魔法は練習途中で……ごめん……使えないんだ。無理、しないで……?」

「もう戦おうとしないで? きっと、先生たちも来てくれるだろうし……」

 陽愛、折木、瑠海が心配そうな顔で言ってくる。

 それでも、俺は動かないければいけない。

「瑠海……違うんだ。俺は戦うんじゃない。それに、先生たちでも、この暴走空間には気付けない」

 あるいは、偶然通りかかれば、魔法空間を簡単に破り捨ててくれるだろうけど。

 駄目だ。

 力任せな解決では、駄目なんだ。

「ごめん……今更、協力するよ」

 その声に振り返ると、折木が来る前に壁の奥に移動させていた、品沼が立っている。

「品沼……お前……」

「ごめん。僕が不甲斐ないから、色々と迷惑かけちゃったね……遅くなったけど、手伝うよ」

 そう言って、品沼は頭を下げた。

「おいおい……頭を上げろよ……俺は別に……。それより、協力してくれんだな?」

 品沼は笑顔になると、深く頷いた。

「もちろんだよ」

 

 少しずつ、校舎の被害が広がっていく。

 雷撃が、抉っているのだ。

 早く止めなければ、魔法空間があっても先生方なら気付いてしまう。そうなれば、乱暴な解決になる可能性がある。

 それだけは……それだけは、避けなければ……。

「いいか、品沼?」

「うん」

 壁から少しだけ身体を出し、俺と品沼がお互いに視線を交わす。

 俺の合図により、品沼がナイフを片手に飛び出す。

「頼むぞッ!」

「了解!」

 俺の声に応え、品沼は駒井に突っ込む。

 移動魔法で小刻みに動きながら、雷魔法を避けて行く。

 そして、左手で小型ナイフを二本、抜き放つ。

 すぐさま、駒井の足元に投げる。床に刺さった二本から、植物の蔦が伸びて、駒井の両脚に絡み付く。

 バランスを崩し、仰向けに倒す。

「今だよ!」

 品沼の声に、俺が飛び出す。

 いや……正確に言うと、瑠海が飛び出した。

 瑠海に肩を貸してもらいながら、俺は駒井の元へと向かう。

 ちなみに……人選の理由といえば、戦い慣れているからだ。

「少しだけでいいぞ、瑠海」

「うん……大丈夫だよ」

 不安そうにしながらも、俺を支えてくれている。

 後少しという所まで差し迫った時、俺は瑠海から離れた。それと同時に、風魔法で自分の背中を押して、立ち上がろうとする駒井に近付いて、押し倒す。

 使えるかどうかは、ぶっつけ本番だけどな……!

「空間魔法――!」

 俺は全ての精神力を使って、初めての魔装法を使った。

 精神力を使い果たしても、使えるかどうかは分からなかったが……なんとか発動し、魔法空間が俺と駒井を包み込んだ。

 

 本来の空間から切り離された別空間……そこでは、発動した本人がやろうとすれば、他空間からの介入を遮断できる。

 それを行うために、今の俺では全ての精神力を消費しなくてはならない。いや……本当はそれ以上だったのだが……俺と駒井だけの小規模の空間だったので、なんとかできた。

 他空間からの介入を遮断し、空間内の全ての力を抑えたため、駒井の暴走も止めることができた。

 しかし、今の俺の目的はそれじゃない。

 駒井に、暴走している空間の中枢を、自分の中から消し去ってもらうのだ。

「目を覚ましてくれ……駒井」

 俺はなんとか上半身を起こし、下で目を閉じている駒井に呼びかける。

 周りは、八木たちが起こしたような複製空間ではない。ただ、真っ白な、何もない空間だ。

「目を覚ましてくれ……お前は、弱くなんかないだろ……本当は、全部知って、悟ってたのに……それでも、自分を助けてくれた八木に、協力したんだろ?」

 自分のためだけじゃない……いじめを失くしたかっただけ。

 そんな奴が、弱い訳がない。

「俺なんて、いじめはなくならないって、諦めてんのに……それを、被害者側のお前が、なくそうと頑張っていた……」

 何も知らず、何もできず、何も知ろうとせず、何もやろうとしなかった俺と比べて……お前は、どれほど苦労してきたんだ。

 強かったんだ。

「お前ならできる! 八木に利用されるなんて、そんなことで終わるなんて、おかしいだろ! あいつの創った空間は、あいつの欲望……お前の意思でなら、簡単に壊せるんだ!」

 真っ白な空間に亀裂が入る。

 俺の力では……集中力では、これまでが限界か……。

 

「……やっぱり……優しいよね、白城くんは……」

 

 不意に響いた声に、俺はハッとする。

 下を見ると、駒井が目を開けて微笑んでいる。

「私には、何もできないけど……やろうとしないのは、利用されるよりも酷い」

 ゆっくり、言葉を紡ぐ。

「私は、白城くんが言ってくれるほど強くないけど……でもね……白城くんのお陰で、頑張ろうと思えたよ。だから……終わらせようか」

 そう言って、駒井は再び目を閉じる。

 俺の、一分間の空間魔法が消えた。

 これで……駒井が中枢を消していなければ……俺は、至近距離からの雷撃をくらって、おそらく死ぬ。

 けれど……本来の空間に戻った時、俺の目に映っていたのは……駒井の、笑顔だった。

「ごめんね。最後まで、迷惑かけちゃって」

「……いいんだよ、別に」

 そう言って、俺は長く、息を吐く。

 そこで駒井が、少し控えめに喋った。

「あの……さすがに、そろそろ重いっていうか……どいてもらえると、嬉しい、かも……」

「……ごめん」

 俺は一言だけ言って離れようとしたが、完全に動けない。

 やべえ……どうしよう。

「あ……いや……このままでも、いいよ……? しばらくは……」

 そう言って、駒井は再び目を閉じた。

 

  

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