第74話 敗北への足音
品沼が携帯に出ないのは、忙しいから、もしくは、この空間のせいだと思っていた。
しかし、幻影に身体を乗っ取られていない生徒は、携帯には出るようだったし、生徒会執行部に絞っているのかとも思えば、水飼先輩は輝月先輩と電話をしていた。
なら……なんで、品沼は電話に出ない?
理由は単純明快。
品沼は、空間魔法が発動する以前に襲われたんだ。
そこで、空間魔法が発動した後は、身体を乗っ取られた。
『人間研究部』の部長、八木に。
八木本人は、第一空間にいるのだろう。
幻影で操られている生徒は無差別に暴れているようだが、つまりは『魔装法研究部』などが操っているのだ。しかし、一人一人の行動を精密にすると、集中力、精神力が保たない。だから、あんなに暴走状態っぽくしている。
それを八木は、品沼一人に精神力を使ったんだ。
空間魔法にも色々あり、今回は多重空間創造魔法だ。
複数の、本来の空間とは全く別の空間を創る空間魔法。
そして、複製空間創造魔法だ。
元々存在する空間の建物、場所などを創り、特定の人間を閉じ込める。
これらの空間魔法は不安定で難しく、長時間使用される事はほとんどない。
複製空間魔法を使うと、その複製の元を再現する。その使った時、その瞬間、その場にいた人間、いた動物、生き物全ての複製が創られるのだ。
この幻影は、本物そっくりに行動する。
空間創造者が集中すれば、それらを自由に操れるのだ。
しかし、空間は大きければ大きいほど不安定になる。
複製空間魔法は、本物を下敷きにしているため、本物と違い過ぎる事が起こると、ヒビが入る。
だからこそ、あまり使われない。
次に、その幻影で人を操る方法だが……。
難しくはない。
別空間を創り、本人たちを入れれば、もちろん幻影は発生しない。
複製空間魔法では、幻影が出現するのは当然、効果なのだ。それが発生しないのは異常。
気付いただろうか?
複製空間魔法で創った空間には、実は本人たちを入れるべきではない。
二、三人ならば別として、何人もの生徒やらを入れるべきではないのだ。
しかし今回は、突然なこと、協力者が多いこと、計算されていたこと、空間の完成度が高いこと、創った空間が魔装高だったこと……様々なことが重なり、長く保たれた。
魔装高は、魔装法が使いやすい空間になってしまっているからだ。
話がズレたが……人を操る方法。
今回は、空間が三重だった。
第三空間の幻影を崩くことで、第二空間に落とす。
行き場を失った幻影は消えるのだが……消える前に、次の複製空間に入ってしまった。しかし、そこには本人たちがいる。通常は本人が優先されるに決まっている。
けれど、複製空間では、幻影がいない方がおかしいのだ。
それにより、何人かの生徒は、幻影に複製空間での存在優先順位を超えられた。だかと言って本人たちは消えない。
代わりに、意識が上書きされたのだ。
見事な手際だった。
品沼は気絶させられた状態で突然、空間を移動させられた。
普段の品沼の精神力なら、幻影に意識を脅かされることはなかったハズだ。
しかし……集団でやられたか、不意打ちされたか、品沼はおそらく、ボロボロだった。
もしかすると、品沼の身体を奪うためだけに、一時的な別空間を作ったかもしれない。
品沼は八木に身体を乗っ取られた。
◇
「よく、そこまで行き着いたな」
「ああ、ミステリー系は好きでね」
俺の推測に、品沼の姿の八木は手を叩いた。
「ブラボー! だけど、どうする? もう手遅れだぜ?」
確かに……八木に乗っ取られているとしても、俺に品沼は撃てない。
更に、守ろうと思っていた生徒会役員は、身内からの不意打ちに対応できず、倒れた。
遅かった。
「……どうする気なんだよ。お前たちの目的って、学校の乗っ取りらしいじゃねえか。いや、生徒会執行部の乗っ取りか? どっちでもいいが、いつまでも生徒会執行部に成り代われる訳はねえんだぞ」
睨むと、八木は口笛を吹いた。
「その通りだが、少し違う。お前の知りたがっていた、俺たちの目的だが……『魔装法研究部』の部長……益山は、純粋に魔装法の研究だったらしいぜ? 俺たちに協力し、空間魔法の有効活用とかを研究したかったらしい」
至って真面目な口調だった。
「ふざ……けんな……それだけのために、これだけの人間を巻き込んで……!」
パラを握る右手に、力が入る。
抑えろ……ここは、とにかく……油断させないと……。
「おいおい、何言ってんだ? 部活動の活動方針に合ってんだろうが。それに、あいつには既に、スポンサーが付いてるからな」
意味ありげな言葉に、俺は眉をひそめる。
「スポンサー……?」
考え込むようにして、八木は黙る。
「ああ……確か……研究所……播摩土研究所だとか、なんとか……」
「ッ!」
あいつらか!
チクショウ……学校にまで、手を伸ばしてたのか……。
「ま、俺の目的は、もちろん違うけどな。俺にはメリットがねえ」
「だったら、なんなんだ」
俺は怒りを堪えて、凄む。
「復讐だ」
八木は短く答えた。目には、既にユーモアの欠片もない。
「俺はつい最近……ヴェンジェンズに入ったんだよ。あいつらに、俺は共感した」
「な……に……? ヴェンジェンズに、だと……?」
ヤバイ。
想像以上にヤバイ。
現フェニックスプロジェクトの研究者だけでなく、ヴェンジェンズまでもが、魔装高に介入しつつある。
そういえば……こいつらの事件の前に、築垣が魔装高にやって来ていた。
あれは、進行状況の確認だったのか?
「復讐って……何にだ」
「決まってんだろう、魔装高だ」
当然というように。
目には、鋭い光が宿っている。
「俺は知ってしまったんだよ……だから、復讐せずにはいられない」
何を知ったって言うんだ……。
俺が問い詰めようとした時、廊下を走る大勢の足音が聞こえた。
それを聞いて、八木はフッと笑う。
「駒井は、騙しやすかったよ。いじめのない学校を作るためだとか言って、嫌がっていたのを協力させた。他の部員は、金を与えりゃ良かった。あの人から、その分はもらったからな」
「……!? あの人……千条先輩を倒した奴か!?」
一歩踏み出す俺を見て、八木はニヤリと笑った。
「時間切れだ」
生徒会室の扉が、乱暴に開いた。
◇
「後は、この空間を本来の空間にぶつける」
「ああ、了解した。それで、生徒会は……」
「そうだな……この空間でこれだけやれば、一週間は支配できる」
「そうか。ありがとう」
『魔装法研究部』部長、益山と、『人間研究部』部長、八木は会話を続ける。
その近くでは、意識を失った生徒会役員がいる。
「駒井さんは……どうする?」
「仕方ない……意識を乗っ取る」
ふざけるな。
彼女は、本当にただ、いじめのない学校を欲しがった。
それはきっと、自分のためだけではない。
最終的には、力で捩じ伏せたのかもしれない。
けれど、彼女は本当に思っていた。願っていた。
自分たちのためだけに、即戦力として利用し、最後は切り捨てる。
それが、お前たちなのか?
「なら、これが俺たちだ」
生徒会室には、益山、品沼の姿の八木、『魔装法研究部』の部員が十名ほど。最初は三十人ぐらいで来たのだが、既に終わっていたので、別の所に行ったようだ。
そして……益山の足元には、倒れた陽愛。
……ごめんな。任せちゃって、一人にして。
俺は立ち上がる。
益山は生徒会室に入ってくると同時に、俺を見て発砲した。銃弾は、俺の脇腹を貫いている。
だが……死ぬほどじゃない。
むしろ、なんで今まで倒れてたんだかな。
益山が振り返り、俺を見る。
「まだ、起きる元気があったのか」
「お陰様でな」
パラを、握り締める。
「これ以上、好き勝手させるか」
吐血しながら、言葉を絞り出す。
そんな俺に、半ば呆れたように八木は話しかけてきた。
「止めるつもりか? 悪いがな……現実に、分かりやすい悪役はいないんだよ。確かに、反旗を翻した俺たちは、悪役だろうな。けれど、それがなんだ。それなら、お前は正義の味方で、俺たちが負けるってか?」
俺はフッと笑って、立つ。
「俺も、それならいいんだけどな……今の状況、どう考えても、正義の味方でも負けるさ」
もう、パラを構える力もない。
益山は小さく笑った。
「そうか……なら、寝てたらどうだ? 悪も、勝てば正しくなるかもだよ?」
「ならねえよ」
俺は血と共に、吐き捨てる。
「勝てば官軍……嫌でも、その通りだと思うが……それでも、正しくはならねえよ」
不愉快そうに、俺に銃口を向ける益山。
俺は構わず、最後の言葉を告げる。
「正義の味方でも負けるさ……でも、俺たちの味方は、きっと勝つぜ?」
生徒会室の扉が、吹き飛んだ。




