第72話 見え始める真相
生徒会室……そこでは、緊急招集がかけられた生徒会役員が集まっていた。
白城黒葉とは音信不通だった品沼悠も、しっかり参加していた。
「この件に一番詳しいのは、水飼だな?」
輝月生徒会長が、静かに口を開く。
「今回は、俺にも落ち度がある。あまり大きな口は叩けないが……今からでも善処しようと思う」
全員が黙る。
この件と言えば……ほとんどの人間が認知していない。
「『魔装法研究部』、『人間研究部』……なんででしょう? 数ある部活動の中でも、まだ有名な部類に入っているはずなのに……彼らのやっていることを認識できていなかった」
吉沢静河書記が首を傾げる。
静かな部屋で、羽堂今晴副会長が口を開いた。
「それは……何らかの魔装法が、裏で働いていたから?」
品沼悠庶務が頷いた。
「そう考えると、水飼先輩の話とも合いますしね」
「それじゃあ次は、どう対処するかだけど――」
納得したように羽堂が話を進めようとした。
「『人間研究部』の」
その話の途中で、いきなり吉沢が口を挟んだ。静かな、淡々とした声で続ける。
「一年生の女子生徒で、駒井梨衣菜という子がいるのですが」
「その子が、どうかしたのか?」
輝月が眉をひそめる。
吉沢は軽く首を振った。
「別に、どうということではありません。水飼さんの話だと、彼女が主犯なのかもしれませんが……そこではなく、ですね……」
今まで黙っていた水飼七菜会計が、首を傾げる。
「珍しく、歯切れが悪いねぇ? あの子がどうしたの?」
間接的にだが、負かされている形になっている。やはり、気になるのだろう。
「彼女は、いじめにあっていたらしいです。中学生の頃から、一貫して」
「でも、それが今とどういう関係があるんですか?」
品沼の問いに、吉沢は顔を背けた。
「いえ……特には、ないんですが……。ただ、そのいじめが、彼女が『人間研究部』に入った頃から、パッタリと止んだそうです」
その場の全員が戸惑う。
本当に関係ないようにしか感じない。
「理由は、ですが」
最後と言わんばかりに、吉沢はキッパリと言う。
「彼女をいじめていた生徒全員が、大怪我を負ったことらしいのです」
◆
えと……もちろん、俺は油断してはない。
相手が女子だろうと、『人間研究部』にいた謎の少女、全力で戦うべきだ。
まして、相手は暴走状態だ。
無差別に雷撃を発射してくるし、その威力もなかなかだ。
しかし、俺も雷魔法を使える。慣れているのだ。
雷と言っても魔装法……よっぽどでなければ、感電死などはしないで済む。
「……の、ハズなんだけどなあ……」
俺は呟いて、痛む身体を起こした。
押されている。
圧倒的な破壊力……まさか、だ。
飛んできた雷撃を、転がって避ける。その勢いを利用して立ち上がり、少女にパラの銃口を向ける。
しかし、向けたと同時に少女は動いていた。
一瞬で俺の目の前にまで迫ってきて、恐ろしい速さで、雷を纏ったナイフが突き出される。
「クッ……!」
雷魔法の特性、と言っていいのか……とにかく、特徴の一つに『伝達』がある。攻撃自体は守れても、触った所から雷が伝わり、ダメージを負うのだ。
それを警戒して、俺はナイフを横に回転して避ける。
そこから間髪入れずに、雷撃が迸り、周囲の床や壁を打ち砕く。その一撃が、俺の方にも向かってくる。
顔の前で両腕を交差させ、防御魔法を使う。
けれど、破壊的雷魔法は、いとも容易く防御魔法を打ち破った。
「ガアアアッ!」
俺は後ろに吹き飛び、階段に身体を打ち付ける。背中を角に強く打ち、痛みに顔をしかめる。
そこへ更に、雷を纏った銃弾の追撃がくる。
「黒葉っ!」
遠くから、陽愛の叫び声がする。
巻き込まれないように、逃げるよう言ったのだが……俺が見える程度では駄目だ。
「いいから、もっと離れてろ!」
どこかに叫び、俺は雷防御魔法を制服に使う。
雷同士で相殺、とはいかず、元々防御型じゃない俺の魔装法では、破壊系は抑えきれなかった。銃弾が打撃の痛みを与えてくる。
それにしても……どうしちまったんだ、この少女は。
いきなり暴れ始め、恐ろしい強さで俺を責め立ててくる。
人が変わったようだ。
「なんなんだ……この規格外」
呟いて、起き上がる。その勢いのまま跳び上がり、少女の追撃を避ける。
「おい、落ち着いてくれ」
「……うるさい……嫌だ……もう、傷付きたくない……」
ブツブツ言うと、振り返って銃口を向けてくる。
移動魔法でタイミング良く銃弾を避けたが、雷撃が俺の足元を抉る。
「チックショ……」
バックステップで距離を取ったが、銃弾が連射され、頭部を守るために顔の前を腕で覆う。
しかし、防御を解いた瞬間、目の前には少女が立っていた。
「ハァッ!?」
思わず声を上げた時、ナイフが突き出された。
なんとか首を曲げて躱すが、首を掠めた。
そこからすぐに雷撃が迸り、俺を直撃する。大きく吹っ飛び、下駄箱の角に身体をぶつけ、床を派手に転がる。
口に溜まった血を吐き出し、仕方なくパラを再び構える。
確かに、少し遠慮していたかもしれない……しかし、この少女の力が格段に上がっている。普通じゃないぞ、これは。
「何か、スイッチ入ったか……?」
思い当たる節と言えば……俺が、個人的な目的はないのか、と聞いた時だ。
何か、平和で住みやすい世界が、とかなんとか言っていた気がする。
相手の拳銃を狙って発砲するが、そこまで甘くはないらしい。瞬間的な高速移動で躱しながら、近付いてくる。
こうなったら、仕方なし。
俺も雷魔法を使い、銃弾を三発撃ち込む。雷の槍のように、それぞれの銃弾が少女に迫る。
……驚いた。
真正面から雷の塊で迎え撃ち、弾け飛ばしたのだ。
威力にもビックリだが、ずっと使い続けていて、今だに衰えない精神力だ。いわゆる、暴走状態。無意識のイメージ、精神力を使っているため、本人の限界を超えてしまう可能性がある。
普通なら、俺でも電池切れになるレベルだ。
「なんでだ? 何があったんだよ」
俺は素直な疑問を口にするが、返答は来ない。
なら……やることは一つ。
「一旦退く」
軽く宣言して、風魔法で周囲の物を巻き上げる。
それすらも雷で撃ち落とされていくが……自らも風で移動し、少女を風で引き剥がし、俺は校舎の外へと逃げる。
「黒葉!?」
どうやら外にいたらしく、陽愛が駆け寄って来た。
「逃げるぞ」
そう言って走り出し、次の言葉を口にする。
「調べて欲しいことがあるんだ。もしかすると……これが、鍵になるかもしれない」
◆
「しまったなあ……駒井さんが暴れてしまったか」
『魔装法研究部』の部長が、本当に困ったように頭を掻いた。
彼は部室にいた。
「彼女には、もうちょっと後で、生徒会と戦ってもらうはずだったんだけど……」
そう言って、しばらく考えるようにした。
しかし、すぐに結論づけると、声を張り上げた。
「計画変更。生徒会執行部を今、潰す。その後は、計画の続行だ」
「はい!」
その声に応えて、三十人近い『魔装法研究部』の部員が立ち上がった。
◆
黒葉の話を聞いて、陽愛は小首を傾げた。
「でも……生徒会執行部って、あくまでも生徒でしょ? 学校の支配まで出来ないんじゃない?」
黒葉は首を振って喋る。
二人は小走りに、裏の玄関口に向かっている。
「表はな。けれど、生徒会ってのは大きな力だ。元々、放任主義のような教師陣だ――先生がいなくても、学校を運営できるんだよ」
「だけどさ……それって、今の役員だから成り立ってるんじゃ?」
黒葉は再び首を振った。
「それはそうだとしても、今の時期は安定期間……やろうと思えば、短期間だけで役割はできる。例えば、一つの目的を達成するまで、とか」
そこまで詳しくは分からない。
そう言って黒葉は少しだけスピードを速めた。やはり、陽愛は納得いかないような顔をしている。
「だって……だってさ……相手の目的が、生徒会って……あまりにも無謀じゃない?」
「だから、ああいうのがいたんだよ。暴走してまで、力を使い……しかも、その目的を共有できる人間……」
黒葉が遠くを見つめる。
「彼女……いじめられてたんじゃないか? 学校を、世界を、変えたいと思ったんじゃないか?」
未だ正体不明の彼らを脳裏に浮かべて、目を細めていた。




