第66話 部活動調査
水飼先輩の謎の言葉に、俺たちはしばらく呆然としていたが……自分たちで調べることにした。
「じゃあ、俺はこっち」
「私はこっちだね」
「そ、それじゃあ……私はこっちで」
「うん、じゃあ私はこっち~」
俺たちはそれぞれに分かれ、各部活動を調査することにしたのだ。
水飼先輩が、予算削減以外の何か別の理由で部活動を潰そうと言うのなら、それは部活動に問題があるハズ。
俺は二階の端の部屋に向かった。
そこで活動している部活……今日、井之輪先輩に話された部活、『人間研究部』が存在する。
ノックをすると、どうぞ、と言う女の子の声がした。
「失礼します」
入って最初に驚いたのは、意外にもしっかりとしている印象だったからだ。
研究資料のような紙束が積み重なり、パソコンが長机に置かれて起動して、ホワイトボードにはそれらしき記号やら文字やらで混雑していた。
「どなた、ですか?」
一台のパソコンの前に立ち、小首を傾げる少女がいた。一年生だな。
「俺は一年A組の白城です。この部をちょっと見学させて欲しくて……」
どうやら、俺を入部希望者だと思ったのか、笑顔になって説明を始めた。
ざっと状況を覗うと、どうやらこの少女しかいないようだ。
部員が一人、ではないだろう……まだ、来ていないのか?
「――と、まあ、こんなことをやっていますね。突き詰めると、魔装法の研究とも言えますし、立派な部活だとは思いますよ?」
聞き流していた説明の、最後の部分だけに引っ掛かった。
「魔装法の研究……ですか。でも、『魔装法研究部』もありますよね?」
実際ある。
『魔装法研究部』は、一番古くからある部活動で、部員もそれなりだという。
俺が、一番入るか迷った部活動だ。
「え……え、ええ……そうですね。こちらの方が、幅が広いということですよ」
そう言ってニコッと笑う少女に……俺は、違和感を感じざるをえない。
何か、『魔装法研究部』にあるのか?
「考えておきます。ありがとございました」
俺はそう言って、人間研究部、部室を出る。
それから俺は、みんなとも連絡を取り合いながら、『深海魚研究部』、『パン食部』、『家電部』などの意味不明な部活動を調べた。
どれも、平凡に意味不明な部活動ばかりだった。
そこで……ある事に気付く。
「『魔装法研究部』って、どこで活動してるんだ?」
それだけじゃない。
誰が部員だとか、具体的に何をしているだとか、全く知らない。
「確か……玄関口に、ポスターが一枚貼ってあったんだ……」
血の気が引いた。
何を見た訳でもなく、何があった訳でもなく、ただ、鳥肌が立った。
「あ……れ……?」
俺はなんで『魔装法研究部』の情報を知っていたんだ?
それは、ポスターを見て、先生に聞いたからだ。
じゃあ、なんで場所も何も知らない?
それは、無駄に部活動が多すぎて、把握しきれないからだ。
一番、入るか迷ってたのに?
それは、最終的に入る気がなかったから……。
「おかしい」
俺は急いで、現在位置の二階の廊下から階段へと向かう。階段を駆け下り、一階へ行く。そこから、移動魔法を使って玄関口へと走り込む。
「……ッ!?」
ポスターが……消えている。
「どこに……」
横を見た瞬間、角を曲がって消えていく人影が見えた。
その手に……見憶えのある紙を持っていた。
「待てッ!」
俺は大声を上げて、走り出す。
角を曲がると、二階へと消える人影が見えた。
「チッ!」
盛大に舌打ちをして、階段を駆け上がる。
次は三階……四階……もう、屋上だけだ。
誰だ……こいつは……!
「待ちやがれ!」
屋上への扉が閉まる音がした。
急いで駆け寄り、扉を開け放つ。
飛び出すと、そこには――
「ようこそ、白城黒葉くん」
――男子生徒、三年生だ。
「初めまして、だよ。そんなに不思議そうな顔をするなよ。僕が一方的に知ってるだけさ」
流暢に喋る男子生徒を、俺は睨みつける。
「お前は……『魔装法研究部』の部員か?」
男子生徒は楽しそうに笑う。
「ご名答。それどころか、部長は僕だ」
まだ、何があるかが分からない。
下手に刺激は出来ない。
「なんで君が来たのかは知らないが、まあまあ、こっちに来なよ。君でも充分だろう」
今更気付いたが、屋上の地面に黒い布が掛かっている。
「……なんだよ、これは」
「それは、僕のじゃないよ」
警戒する俺に、本当に分からないと首を振ってきた。
「私のです」
陰から現れたのは……少女。
『人間研究部』に一人いた、あの少女だ。
「……お前たちは、何をしようとしているんだ?」
俺が拳銃に、そっと手を伸ばしながら言うと、二人は顔を見合わせた。
「学校を乗っ取るつもりです」
少女が当然のように言った。
突拍子もなさすぎて、俺は動きを止める。
「は……? んなこと、無理に決まってんだろ……お前、生徒会や風紀委員会どころか、教師陣さえも敵に回してまで、出来ると思って……」
「出来る」
部長を名乗る男が、力強く断言した。
「そりゃあ、武力では勝てっこないさ。けれど、油断しきっている奴らの、裏をかくことは出来る」
「なんだと?」
……おかしいぞ。
あいつらの足元の黒布が、光ってる?
何をする気だ……?
「本当はもっと、時間をかけるべきだったんだ。しかし……あの会計職が面倒を起こしたからね」
水飼先輩のことか。
「『魔装法研究部』と『人間研究部』の共同で、計画は動いていた。遂に、実現する……少し、荒っぽいけれどね」
パラを抜き放つ。
真っ直ぐ、男子生徒へと向ける。
「何をする気か知らねえけど……やめろ。学校の乗っ取りなんて、させねえぞ」
「手遅れだよ」
ファァァァァァァァァァァァァァン――
屋上全体が発光した。
最後に、浮かび上がった黒布の下に、魔法陣のような模様が見えていた。
光が、屋上から下っていき、校舎――学校全体を包んだ。
次に俺が目を開けた時……俺は屋上に倒れていた。
「ん……なんだったんだ……?」
周りには誰もいない。黒布も消えている。
頭がボヤーっとする。
ん……なんだ……?
「魔装法が……?」
なぜか、精神力が疲労しきっている。魔装法が使えない。
「なんなんだよ、ったく」
携帯を取り出し、とりあえず陽愛に電話を掛ける。
「もしもし、今、どこにいる?」
「え? 今は一人で四階にいるけど?」
「部活は調べ終わった?」
「うん、私はね」
確認して、つい、口に出していた。
「『魔装法研究部』の部室って、どこにあるんだ?」
陽愛からの返答に、耳を疑う。
「え? 『魔装法研究部』なんて、ないと思うけど?」
は……?
「何言ってんだよ……あるだろ? それが今、『人間研究部』と何かを――」
「待って」
俺の言葉を遮って、陽愛が焦った声を出した。
「『人間研究部』って何?」
おかしい。
何が起こってる……確かに、二つの部活は存在していたハズだ……。
何がどうなってるんだ……?




