第63話 裏事情
「――ええ、そうです。白城 黒葉が倒したようですよ。まあ、所詮は知能もないような怪物でしたしね。演算装置を使う事で辛うじて、戦闘が出来てたんですから」
一人の男が、携帯電話で通話している。
口元には笑みを浮かべている。
「あの、完全消去の使い手、ですか? その少女が協力したらしいですね」
男は相手の言葉を聞いて、笑った。
「そうですね――それより、ですよ」
本題、とばかりだ。
「フェニックスプロジェクトも、どうやら一枚岩じゃないようです」
◆
俺は、陽愛、小鈴ちゃん、江崎と共に、ロビーにいた。
アブソリュウスは……倒れた後、少しずつ肉体が崩れていった。
吸収魔法が消えた事で、寄せ集めていた肉体を、繋ぎ留められなくなったのだ。
「それで……どうするんだよ、江崎。こんな苦労して、俺達で解決したんだから……研究所を復活させねえと意味ねえぞ?」
重い空気の中、最初に俺が口を開いた。
「分かってるよ。――今回は、本当に世話になったね」
「あの……」
頷く江崎と、俺との会話の中に、控えめに陽愛が割り込んできた。
「ん?」
俺が首を傾げると、陽愛は少し怒ったような顔をした。
「小鈴ちゃんの事だよ。どうするの?」
俺と江崎が顔を見合わせる。
本人は疲れてしまったようで、今はソファで眠っている。
「安全を考えると、君達に任せたいんだが……そこまで迷惑は掛けられないね。リバースで預かるよ」
その言葉で陽愛は、安堵したような、寂しいような表情を浮かべた。
「でもよ……安全って言うんなら、リバースに匿われていた方が安全なんじゃねえの?」
俺が聞くと、江崎は首を振った。
「分かるだろう? 確かに、こちらの警備だって充実はしているが……いつ見つかって、実験に利用されるか分からない」
江崎が辛そうに言った。
こいつは案外……優しく、一番裏方に適しているのかもしれない。
「そうだな……でも、俺達の方にいた方が見つかりやすいだろうし、やっぱりそっちの方が安全だろう」
その前に……知りたい事もあるんだけどな。
起きた小鈴ちゃんに、いくつかの質問をしたが……自分がなぜ植物状態だったのか、誰が親なのか、全く思い出せなかったらしい。
思い出せたのは、研究所で目を覚ました後の事だけだったらしい。
「すいません……何も、思い出せなくて……」
「いや、小鈴ちゃんが謝る事じゃないって。一番辛いのは、君なんだから」
申し訳なさそうに俯く小鈴ちゃんに、俺はなんとか励ましの言葉を紡ぐ。
「そうだよ? 無理しなくたって、大丈夫だよ」
陽愛も優しげに声を掛ける。
そこで俺は、小鈴ちゃんの後ろに立つ江崎に顔を向ける。
「それとさ……不自然だよな?」
最初から気付いていたが、アブソリュウスを倒す事に集中していて――もし失敗したら、知っていてもどうしようもなかったし――あえて言及しなかった事。
あまり、陽愛の前では話したくなかった。けれど、ここで問い詰めなければ、後で言い逃れをされそうだしな。
「他の研究者達はどこだ?」
全員、アブソリュウスに殺られたなんて、そんな訳が無い。
研究所の外へ出てはいない。そんな時間はなかったし、それなら誰かが警察を呼んだりしてもおかしくない。
一枚岩じゃない、そう江崎に教えられたばかりなのだ。考えが違う奴もいるハズだ。
逃げ遅れて、アブソリュウスに殺られた研究者達は、数少ない普通の研究者達だったんだ。
それなら……サーフィス、リバース問わず、他の研究者達はどこに消えた?
陽愛と小鈴ちゃんは、俺の言葉にポカンとしていた。
江崎はしばらく考え込むように黙っていたが……やがて、フッと笑って、両手を挙げた。
「降参だ。やっぱり、見逃さないか」
当然だ、と返して、俺は江崎を睨む。
「ここまでしてやって、まさか言い逃れる気か?」
「まさか。降参、って言ったろう?」
ニヤニヤ笑うと、江崎は人差し指を立てた。
それで、真っ直ぐ地面に指す。
まあ……予想はしていたよ……。
「地下だ」
俺も結構、小説やら漫画やらを読んでいるんだが……それで思うんだよな。
なんで、悪の組織とか、秘密結社とかは、必ずと言って良いほど、アジトに地下室を作ってんだろう?
追い詰められたりすると、地下に逃げたがんだよな。
見つからないから?
とんでもない。
建物の下、地面の下なんて、危なっかしいだろ。
それに……地下にまで追い掛けられたら、追い詰められたも同然じゃないか。
「……とか、思ってみたけど、そこまで行く気にはなれねえよなあ……」
「え? 何か言った?」
俺の呟きに、陽愛が小首を傾げた。
「いや、なんでもない。こっちの話……」
そりゃね?
サーフィスと呼ばれる、今も俺達の敵である奴らと、顔合わせをしたいとは思ったけどさ……。
あんな怪物と戦った後に、そんな場所に突入とか正気じゃない。
精神力も体力もゼロだって。底ついてるって。
そんな感じで、俺と陽愛は、小鈴ちゃんと江崎に別れを告げて、鷹宮家に向かっていた。
隣町から戻って来て、後10分程で着く所までやって来ていた。
既に時刻は午後4時。
「ああ……昼飯も食ってないんだった……腹減ったな……」
本気で疲れていたので、無意識にため息をついた。
早朝からずっと動きっぱなしって言うか、なんて言うか……何も食ってない。
「それなら、私の家で何か食べて行きなよ」
「ま、マジで? お願いするわ……」
言ってしまえば、俺の家の方が近かったんだけど……作るのは面倒だし、陽愛の家に、少ないけれど荷物を置きっぱなしだったし。
到着。
「やっぱり、まだ帰って来てないね」
陽愛の言葉に頷く。陽毬さんと、母親の事だろう。
「でも、本当に今日はお疲れ様」
あの後、陽愛には質問されっぱなしだったけど……大部分をはぐらかしていた。
「いやいや……陽愛だって、大変だったろ? なんか、ごめんな……危ない事に巻き込んじゃって」
「なんで謝るの? 私は、黒葉に助けてもらったんだよ?」
陽愛が笑顔で言うので、俺もなんとか笑みを浮かべる。
しかし、家に入ってからは、すぐさまソファに倒れ込んだ。
「ごめん……失礼だけど、ちょっと寝かせて……」
「え……あ、うん……」
俺の疲労っぷりに、陽愛は驚いて頷いた。
◇
午後6時。
俺が目を覚ますと、陽愛がナポリタンを作ってくれていた。
「おお……じゃあ、いただきます」
すぐに食べ始めると、陽愛も一緒に食べ始めた。
「ん、美味い」
「ありがと」
笑いながら陽愛が言った。
そういや、明日は学校だった……スゲエ疲れたから、学校休みてえ……本当は、今日を合わせて2日の休みがあったってのに……。
「小鈴ちゃん……大丈夫かなぁ……」
陽愛が、食べる手を止めて呟いた。
「ん~……なんとも言えないけど、江崎は信用出来ると思う……」
まだ分からないが、江崎は仲間だと信じたい。
陽愛もうわ言のように、そうだね、と言っている。
フェニックスプロジェクトの内部を、少し知っただけだが……思った以上に複雑なようだ。
これから、壮絶な戦いが待っているんだろうか?
それこそ、バトル漫画や、小説のように……。
◇
「んじゃ、明日」
「うん、じゃあね」
俺は陽愛にお礼を言って、帰宅路についた。
時刻は7時半。晴れた夜空。
「サーフィスにリバース、ねえ……ヴェンジェンズとかってのも現れたし、いよいよ複雑だな……」
そして、俺達、か……。
そう言えば……携帯、確認してなかった。
「んな……!」
青奈からのメールが3通。折木から4通。瑠海から5通来ていた。
やべえ……どうしよ……。
「とりあえず……青奈だな」
俺は自分の家の前で、ため息混じりに呟いた。




