表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/219

第62話 死闘

 

 1発目……俺は、強化魔法を施した銃弾を、アブソリュウスに撃ち込む。

「今だ!」

 合図として、俺が叫ぶのと同時に、小鈴ちゃんが声を張り上げる。

「キャアッ!!」

 ほぼ悲鳴に近い声。

 アブソリュウスという未知の怪物が目の前にいる……その恐怖の念を弾き出した声。

 しかし……駄目だ。

 完全消去(オールキャンセル)は発動しない……銃弾は吸収されてしまった。

「落ち着け! 吸収される物のイメージ……それを否定しようとするイメージだ!」

 俺がアドバイスを言うと、小鈴ちゃんは緊張した声で返事をした。

 陽愛の、子供との接し方が……なんちゃらと言う声が聞こえてきた。

 なんか、まずかったかな?

 今は考えている場合ではなかった。

 江崎は後ろに下がり、陽愛と小鈴ちゃんの保護に当たってもらっている。

「うりゃッ!」

 移動魔法で鉤爪を避けて回り込み、後ろからコンクリートの塊を蹴り飛ばす。風魔法を帯させているので、なかなかの速度だ。

 今度はいち早く小鈴ちゃんが反応した。

 発動はしたが……俺の風魔法が無効化されてしまった。コンクリートが地面に落ちる。

 しかし、今度はアブソリュウスが反応した。

 力を感じ取ってか、小鈴ちゃんの方を振り返る。

「ギヤャャアァァァァァァァァァァァァァ!!」

 俺に背を向け、小鈴ちゃんや陽愛の方に向き直り、咆哮する。小鈴ちゃんがビクッと体をこわばらせた。

「させるかッ!」

 俺は風魔法で、少し前方に飛び上がる。

 風魔法を止め、落下する。そのまま、タイミングを合わせてアブソリュウスの脳天に踵落としをする。

 しかし、アブソリュウスは本能的になのか、標的を小鈴ちゃんに合わせたままだ。自分に対抗できる存在を感じ取っている。

「江崎!!」

「分かってる! 任せろ!!」

 江崎は移動魔法で動き、陽愛と小鈴ちゃんを避難させる。

 小鈴ちゃんの方に行こうとするアブソリュウスを、俺は後ろから攻撃しまくる。蹴りと銃撃を繰り返すと、さすがに振り返ってきた。

「ああッ!!」

 俺はナイフを抜いて切りつける。これは、江崎から借りた、本物の(・・・)ナイフだ。強化魔法を使わなくても切れるように、だ。

「ビャァァァァァァァァッ!!」

 頭上からの刃を、右に転がって躱す。

 そこを狙ってきた蹴りを、俺は慌てて左腕で防御する。人の限界を超えた力で、防御魔法を使えない俺は吹き飛ぶ。

「クソッ! 足での攻撃なんてしなかったじゃねえか!」

 悪態をつきながら、床を叩いて立ち上がる。

 そこに、俺を邪魔だと判断したのか、アブソリュウスが高速で詰め寄ってきた。

 右の鉤爪を、横薙ぎに払ってきた。

「……チッ!」

 バク転で後方に躱す。

 ……練習したんだよなあ、バク転……。

「グガオッッ!」

 更に、追い打ちの刃を横回転で躱す。

 やばいな……本気で狙いに来られたら、対応にしか集中出来ない。

 反撃なんて、とてもじゃないが無理だ。

 少しずつ早くなる両腕の攻撃に、回避はもう限界だ。

 跳躍し、右腕に一瞬だけ乗る。そこから、ほぼ間髪入れずに再び跳び、アブソリュウスの左肩を越えようとした。

 

 ブシャァァァッ!!

 

 油断していた。

 この怪物が、腕だけの攻撃に頼る訳がなかった。

 肩の近くに跳んだ瞬間、俺の右腕に鋭い痛みが走った。いや、鋭いどころか、強烈な痛み。

「うがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 転げるように、俺は着地する。

 右の前腕部分から、大量の出血。荒い傷跡で、引きちぎられたような感じだ。

 あの野郎……噛みやがった!

 口で引きちぎろうとしやがったな……危なかった。もう少し狙いが詰まっていたら、右腕が取れていたところだ。

「黒葉!!」

「黒葉さん!!」

 陽愛の叫び、小鈴ちゃんの悲鳴、江崎も焦ったような声を出す。

 痛いっつうか……駄目だな、もう右腕は動かせない。

「クソッ!」

 俺は前転で、アブソリュウスの攻撃を避ける。

 走って距離を取り、左腕でパラを構える。

 昔、兄さんに、戦いは両腕を均等に使えた方が良い、って言われてたからな……両利きってまでじゃないが、なんとか左腕も使える。

「気にするなッ! それより、小鈴ちゃん! 頼む!」

 何発も撃ち込むが、所詮は非殺傷の銃弾、怪物相手には効果的にはならない。

 と言うか、鉛玉でさえも、あいつは自分の糧としているのだ。

 徐々に迫ってくるアブソリュウス――小鈴ちゃんも最低限の努力はしてくれているが……これでじゃあ削り殺しだ。

 こうなったら――

 俺は真正面から、アブソリュウスへと突っ込んでいく。

 ナイフを左腕に持ち、最速で突き進む。

 向かってくる刃を、体を捻って躱す。少し脇腹を掠め、鋭い痛みが走る。

「ハアァッ!!」

 短く息を吐いて、ナイフを強く握る。

 お互いの速度を利用し、ぶつかる衝撃をそのままナイフに込めて、アブソリュウスの体の中心部分に突き立てる。

「ギヤアアアアアアァァァッ!!」

 アブソリュウスは吠えると、俺に攻撃を繰り返す。

 ナイフが引き込まれる感触……放したら、こいつに吸収される。

 俺はナイフを握り締めたまま、深く奥へと突き刺していく。

 演算装置をぶち壊す……それさえ出来れば、こいつは根本から崩れ、勝利できる。

 しかし、中央に近付くほど、吸収力は上がってくる。

 しかも、攻撃が連続で放たれる。

「うぐっ……があっ……ぐっ……」

 背中に鋭い痛みが繰り返される。肩にも、牙が突き刺さる。

 陽愛の悲鳴やら何やらが、遠く聞こえてくる。

 

 これじゃあ……吸収……される……。

 

 特に魔装法を吸収する力……魔装法でできている俺の体も、例外じゃない。それでも、魔装法の()が違うので、普通の魔装法よりも吸収されにくい。しかし、普通の肉体よりもされやすい。

 結局……俺の体も、少しずつ吸収されそうになっている。

 その時……気付いた。

 アブソリュウスの斜め後ろから、近寄る人影……。

「な……んで……だ……?」

 呟いた視線の先にいるのは……小鈴ちゃんだ。

 なんで……こんな危険な所に、近付いて来ているんだ……!?

 そのまま、アブソリュウスの後ろに隠れてしまった。俺とアブソリュウスを挟んで、正反対にいるようだ。

 もしかして――

 

「やめてえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 今までより、遥かに大きな叫びだった。

 俺に気を取られていたアブソリュウスも、やっと背後の存在に気付いたようだった。

 しかし……遅い。

 感じる……吸収魔法の力が、消滅した!!

「うおおおおおおおおおおお!!」

 俺は風魔法で自分を押しながら、ナイフで突き進む。

 後……ちょっとで……。

 そう思った時、アブソリュウスの鉤爪が、俺の左腕を捉えた。

 勢い良く、その鉤爪が振られる。

「――ッ!!」

 声も上げられなかった。

 今度も腕を取られはしなかったが……引き裂かれてしまった。

 痛みで、腕を引き抜いてしまった。無効化されているため、吸収はされないが……ナイフは、アブソリュウスの体の深くに刺さったままで、取り出せない。

 江崎に頼るか……!?

 いや、こっちに来るまでが遠すぎる。陽愛に関しても同じだ。

 時間がかかれば、完全消去(オールキャンセル)が途切れるか、小鈴ちゃんが殺される可能性が高い。

 両腕を動かそうとするが……神経をやられたようで、物が握れない。

 服から雷魔法を出して撃つか……!?

 そう思った瞬間――

「!」

 アブソリュウスは、まだ蓄えていた(・・・・・)

 竜巻が、俺を直撃して弾き飛ばす。

 風魔法……俺の魔装法を使いやがって……。

 どうやら、俺だけを狙ったらしく、小鈴ちゃんは吹き飛んでいない。

「あああああああ!!」

 叫びながら、俺は移動魔法を使いながら再び接近する。

 雷魔法が放たれる。俺も雷撃を放ち、対抗する。

 駄目だ……強化されたあいつの体は、吸収魔法がなくても、ダメージが致命的なものにならない。

 やはり、演算装置を壊すしかない。

「小鈴ちゃん! もう少しだけ耐えてくれ!」

 弱々しいが、返事が聞こえた。

 近寄ることで、より集中力を上げて、完全消去(オールキャンセル)を発動させたんだ。それによって吸収魔法を抑えたんだろう……しかし、これ以上は無理だな。

 かと言って、両腕が使えない状態じゃあ……。

 待てよ……これなら……。

 俺はアブソリュウスに詰め寄る。刃の攻撃が振り抜かれる。

 跳び上がる。

 しかし、躱さない。俺はそれを、自分の腰に当てる。

 服が切り裂け、俺の肉体も切り裂かれたが……目標の物も、切り裂いてくれた。

 体が真っ二つにされないよう、俺は風魔法も使って、体を捻る。なんとか致命傷にはならずに、刃を振り払えた。

 そして、次の鉤爪を、倒れて避ける。

 切り裂かれるように仕向けたのは……ホルスター。そこに収まっている魔装法用ナイフを、地面に落としたのだ。それを、情けないが、地面に倒れ伏した姿で取る。

 口で。

 よくも何回も噛み付いてくれたなあ……この野郎。

 でも、お前を噛み付きたくはねえからな……ナイフを噛んでやるよ。

 立ち上がって、口を開く。

 頼む……保ってくれ……小鈴ちゃん……。

 俺は強化魔法、風魔法、雷魔法を纏わせた右靴に集中する。

 サッカーは別に得意じゃない。

 風魔法は、速さ、威力を上げるのも目的だが、狙いを調整するのも目的だ。

 後は……頼むぜ、俺の足。どこまで狙いをつけられるか。

 そういや……忘れてた。

 兄さんは、両腕が均等に、とも言っていたが……両足も均等に、器用に使えるようにしとけ、って言ってたよ。

 落ちてきたナイフは、丁度良く、柄の部分が下を向いている。

 いつかやった、物から物へと、魔装法を伝える。

「黙って死ねよ、怪物」

 人のものを、全部吸い込んでんじゃねえ。

 全力で蹴ったナイフは、強化魔法で切れるようになり、竜巻を纏いながら、雷撃を放ちながら、アブソリュウスの中心へと飛ぶ。

 違う……それだけじゃなく……。

「押し込めぇッ!!」

 カチンッ! と音がして、ナイフが当たった音がした。

 最初に刺さっていた、本物のナイフに。

 更にそれに雷を伝え、ナイフがナイフを押し込む。そのナイフがビリヤードのように……。

「グガァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!」

 大声で吠えたアブソリュウスは、それを最後に――

 

 バギッ!!

 

 ナイフが、何かの機械に当たった音がした。

 雷魔法がその機械を射抜く。

「黙って死ねって言ったろ、アブソリュウス」

 全てが静止した。

 アブソリュウスの動きが止まり……ゆっくりと、前に倒れてきた。

 俺が一歩引いて、それを避ける。

 その後ろ――俺の前には……怯えたような、驚いたような、ホッとしたような……そんな、一人の、幼い少女が立っていた。

 

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ