第5話 生徒会室にて――生徒会長との
何がどうしてこうなったか……。
俺は俗に言う、高校デビューを入学二日目で失敗したようだ。全く成功する気もないし、意味も分からないのだが。
二日目で、朝から生徒会――どころか生徒会長直々に呼び出しとは恐れ入った。
さすが高校! 今までの常識は通用しない!
と言っても、常識が不足していたのは俺だったらしい。
「……えと……陽愛。教室行ってていいぞ」
「え……でも……黒葉……」
めちゃくちゃ不安そうに――というか、申し訳なさそうに俺を見てくる陽愛を残し、俺は靴を履き替える。そして、同じく靴を履き替えた生徒会長に黙って付いて行く。
階段を上って四階。生徒会室に到着。入室。
「うわ! これが生徒会室ですか! ここに入るのが夢だったんですよ! 最高!」
……なんて冗談を言える雰囲気でもなかったので、とりあえず生徒会長席の前に立つ。
輝月生徒会長は扉を閉め、生徒会長席に座る。
他の生徒会メンバーは……いないが、いたとしたら、俺は果たして正気だっただろうか?
この部屋だけで威圧感満載、そこに最高職の生徒会長……なるほど、俺は死にに来たのだった。
「昨日、アリーナで一騒動あってね。一年生が気絶していたんだ、一人で。その生徒は何も言いたくなかったらしいが、知り合い――風紀委員長が少しだけ聞き出してね」
やはり、それか。てか、それしかないからな。
そして、風紀委員長か……噂では、荒っぽいらしいな。入学式には、当然の様に出席していなかったし。だから、誰かは知らない。そうじゃなくとも、何人かの委員会委員長が未出席だった。
「それでね……ちょっと君に相談があるんだ」
ん……?
なんだこの遠回しに何かを伝えようとする感じ……おかしくないか?
少なくとも、聞き出したら君の名前が出てきた、みたいなことを率直に言われるものと……。
「魔装法を中心にやっていく学校でもあるしね。生徒間での争いも、『お遊び』程度なら別に許容の範囲ではある。けどね……さすがに初日ってのはまずいんだよ」
お遊び……じゃれあい。
怪我したぐらいで授業が済んでいるのも驚きの学校だ。その程度の事は実戦経験のようなものなのかもしれない。
「はい……分かります」
俺もここは潔良くしとかないと、まずいんだよ。
「初日だとね……能力とかの前に、性格面で問題視されるんだ。だから、入学そのものが議論される」
何……?
入学そのものが議論?
取り消し? 退学?
「ちょ、ちょっと待って下さい。俺は何も自分で喧嘩吹っ掛けたんじゃ……」
少し焦りだした俺の台詞を、輝月生徒会長は、椅子に座ったまま変わらず悠然とした態度で遮った。
「そこで戻るんだけどね。相談の件に。実は今、二年B組の男子生徒三名が不登校なんだ。それだけならまだしも、町で不良行為をしているんだ」
おいおい……まさか、この展開は……。
「風紀委員も原則、特例でもなければ学校外の問題は、生徒が起こしたものでも手出し出来ない。そこで、初日から問題行為を起こした生徒にチャンスを与える」
上手いシステムなのかもしれない。
傷付く人間を最小限に抑え、それでもって問題も解決できるし……。
「不良生徒を制圧すれば、このまま入学は許可だ。不良生徒を制圧したとすれば、初日の事件は自ら進んでやったのではない、自分はそんな性格ではないとアピール出来る」
ここで、この学校で全ての能力においてトップクラスの生徒会長は初めて笑った。
嘲笑のようだが……これは、このシステムに対する皮肉だろう。
「そして、二年を一年が三対一で倒したとすれば……実力もアピール出来る。良い条件じゃないかい?」
……整理しよう。
町で不良やってる二年の先輩を三人、一人で制圧すれば、今回の俺のアリーナの件はチャラになる。アピール云々は見かけだけだ。
なるほど、上等じゃないか。好条件だ。
「さて、相談だ。君がもし、アリーナで今回、事件を起こした生徒だとしたら引き受けるかい?」
嫌味な取引だ。
少なくとも失敗したり、俺がもっと大きな問題をやらかせば、入学していなかったことにして学校は責任を軽減する気だ。
入学できなかった腹いせに暴れたとか、適当な理由でっち上げて。
俺が訴えられない立場にあるのも計算で。
入学式の日――昨日、俺に負けた奴はどうなったか知らないが、俺に負けたんだからこの依頼は来ていないだろう。
「……受けますよ、俺なら」
仕方ない……しょうもない……なんだって運が悪いんだ。
陰謀としか思えない。
「そうか……期限は三日までなんだよね、これ。とりあえず、今日の授業は参加しときなさい」
俺は、軽く挨拶して一礼すると、最後まで優男っぽかった口調の生徒会長に背を向けた。
そして、生徒会室を出ようとドアノブに手をかける。
「……白城くん」
はい、と俺が返事して振り向いた瞬間、眉間に銃口が押し付けられていた。
「なっ……何ッ……!?」
立ち上がった音がしなかった。椅子を引いた音、俺に近寄る音、そうじゃなくとも気配、全てにおいて何も分からなかった。
輝月生徒会長の持つ魔装法用拳銃がカチリとだけ音を出す。
「これでも俺は、君を評価してるんだ……業務上、こういう形になったけど。それでも、ちゃんと入学してこいよ? 未来を自分で潰すことはない。それが例え、人助けであってもな」
声を低くして、素の生徒会長……いや、高校男子生徒って感じで言ってきた。
確かに実力者だが……とんでもない。結局、俺がなぜ喧嘩したかの理由も調べが上がってるし。
少なくとも二年下の後輩どころか、入ってきたばかりの生徒に銃向けるような奴だ。
俺は緊張と一瞬の恐怖で固まっていたが、次第にニヤリと笑ってしまった。
なんだ……やっぱりこういう一面があるじゃねえか。
「心配しなくとも戻って……いや、正式に入学ってきますよ。輝月生徒会長」
余裕ぶったその台詞に、満足したようだ。輝月生徒会長は銃を下ろしてくれた。
「生徒会長なんて、長ったらしいのは付けなくていいぞ、面倒だ」
そう言うと、俺に背を向けた。
戦う気は、もちろんない。
しかし、さっきまで拳銃を向けていた相手に背を向けるという……随分なめた態度をとってくれた。
「それじゃあ……またいつか……輝月先輩」
俺は生徒会室を出て、一年A組の教室へ向かった。
HRなどは終わりそうだったのだが……担任に生徒会長に呼ばれたと伝えると、特に何も言われなかった。
昨日は興味がなかった席順だが、改めて確認すると、陽愛とは結構離れていた。
どうせすぐに変わるのだから、やはり興味はない。
そして、休憩時間。
案の定、陽愛が俺の席の前に立ち、質問を浴びせてきた。
「何を聞かれたの? 大丈夫? 退学とかじゃないよね?」
最後の質問については際どい状況だったのだが……一応大丈夫と伝えておく。
それでも一応、不良制圧依頼については話した。理由はやんわりと包んだけど。
「もおー……黒葉はそうやって、結構自信家だよね。二年生三人って相当だよ」
頬を膨らませて陽愛は怒ったように言ってくる。
それはそうだけど……自信はある。俺にある力は俺のものであって、俺のものでないからな。つまり、俺が知っている以上の力があるかもしれないのだ。
「大丈夫だって。あ、後このことは口外するなよ? 噂にはしたくないからな」
口止めされてはいないが……不正な取引だっただろうし、生徒会の面子もあるしな。
「分かってるよ。けど、本当に一人なの? 大丈夫なの?」
同じようなことを何度も聞いてくる陽愛を制し、俺は立ち上がって、魔装法用武器使用許可証を取り出して担任に話しかける。
「黒葉ぁ! 心配してるのに、話聞いてよ!」
無事に、俺の三つの所持武器の使用許可証を出したし、制圧依頼は大丈夫だろう。
大丈夫じゃないのは陽愛だけど……本当に心配してくれてるし、あまり怒らせないようにしないとな。
周りでは、俺と陽愛がいつこんな親しくなったのかと、疑問のヒソヒソ話が展開されていたのだった。