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第55話 謎の少女

 

 いつも通り、五時半頃に目が覚めた。

 隣の陽愛はまだ眠っていたので、起こさないようにそっと布団から抜け出した。

 着替えて、一階へと下りる。

 勝手に冷蔵庫を開けるのは気が引けたので、外へと出て自販機へと向かう。

 朝だし、もちろん炭酸ではない。ミネラルウォーターとスポーツドリンクを買って戻る。

「あ、おはよう」

 リビングへと入ると、陽愛が起き出していた。

 少しだけ外を歩き回っていたのだが、まだ時刻は六時になる少し前だ。

「おはよう。早いんだな、陽愛も」

「うん、まあね」

 その後、軽く朝飯を済ませて、俺たちは外へと出た。

 

 朝の散歩と言っても、とりあえず暇なので歩いているだけだ。

「さて、と……どうするかな……」

 ぶらぶら二人で歩きながら、商店街まで来てしまった。

 特に何かを買う目的がある訳でもなく、駄弁りながら歩く。

 しばらくすると、今まで自分が来ていなかった道の方まで来ていた。そこで、俺の足が止まる。

「ん? 黒葉、どうしたの?」

 こっちの道は……方角的に、研究所へと向かってる。

「この道は……人が通ってないし、何もねえよ」

 塀が高いし、狭くて何もない。

 建物の影で暗くなっているし、とても通りたい道ではないだろう。

「そうだね……戻ろっか」

 俺たちが(きびす)を返そうとした時……道の暗がりで、何かが動いた。

「……!? なんだ……!?」

 ゆっくりと近付いて確認する。

 曲がり角に何かがいるみたいだ。

 陽愛には後ろで待っているように指示して、俺は角を素早く曲がって、その何かを確認する。

 そして……気が抜けた。

「陽愛……来てくれ」

 静か過ぎる俺の声に慌てて、急いで陽愛が近付いてきた。

「え……?」

 

 その何か(・・)は、眠っている幼い女の子だった。

 

「これって……どうするの?」

 陽愛は戸惑っている。俺だってそうだ。

 謎の女の子は、壁に背を預けて座り込み、眠っている。短い黒髪で、可愛い顔立ちをしている。年齢は……十歳ぐらいだろうか?

「なんでこんな所で眠っているんだ? 普通じゃ……ないだろ」

 経験的と言うか、いつもの癖で構えてしまう。

 いや……さすがにこんな女の子が敵だとは思えないけど……。

 結構、小さな子供は苦手な方なんだが。

「このままで、ほっとけないしな」

 陽愛も静かに頷いたので、近付こうとした時……女の子が目を開けた。

 

「あ……えっとぉ……」

 困ってしまった。これって、悲鳴上げられたりしてしまうんだろうか?

「あの……すみ、ません……ここ、は……?」

 初めて、女の子が言葉を発した。どこか、片言っぽい。

「う、うん? ここは、商店街近くの裏通りって言うか……」

 ほとほと困り果ててしまった。

 それを見かねたようで、陽愛が後ろから俺を押しのけて前に出てきた。しゃがんで、女の子の目線の高さに合わせる。

「ごめんね、いきなり。でも、なんでこんな所に眠っていたのか心配で……お名前は?」

 陽愛が言うと、女の子の顔に、改めて戸惑いの色が浮かんだ。

「なん、で……? な、まえ……?」

 どうなってる?

 なんなんだ、この女の子は……普通じゃない。明らかに。

 危険って感じはしないんだが……。

「まさか、記憶喪失とかってやつじゃねえよな?」

 陽愛に囁く。

 やはり、陽愛も困ってるっぽい。

「……ッ!!??」

 とりあえず、この道から出よう、と呼びかけようとした瞬間、背後からの気配を感じて振り返る。それと同時に、小さな針のような物が俺の顔に飛んでくるのが目に映った。服に防御魔法を使って、腕を顔の前でクロスさせて守る。

「く、黒葉!?」

「その子を連れて逃げろッ!」

 俺は塀の上に立つ、一人の男を睨みつけながら叫んだ。

 陽愛は短く返事をして、女の子を抱きかかえて逃げ出した。その後を、男が目で追う。

「こっちだろ!」

 運悪く……俺は拳銃を持ち合わせていない。ナイフもだ。

 てか、運悪くも何も、持ってる訳ねえだろ。休みだぞ? 朝だぞ? 泊まり明けだぞ?

 それでも、戦うことは出来る。

 バンッ!

 地面を強く蹴り、移動魔法で跳び上がる。その勢いのまま、男を蹴りつける。

 しかし、俺の足は空を切った。男が前方宙返りをして躱したのだ。

 躱された体勢から、風魔法も使って軌道修正をして、左足で壁を蹴る。そこで、着地した男に殴りかかった。

「ぐあァッ!」

 やられたのは俺。

 俺の拳が当たる寸前で、男の服から複数の針が飛んできて、俺に突き刺さったのだ。

 拳を引いて、地面を滑るようにして距離を取る。

 この痛みは、痛覚魔法か?

 武器などによる攻撃力はそれほどでもないのに、痛みを増強させるものだ。基本、元の攻撃力が高いものには合わない。

 やはり、そうらしいな……痛みが消えない。ズキズキと痛む。

「チッ……これぐらい……ッ」

 男に再び詰め寄ろうとした時、男は素早い動きで道から抜け出した。

「何……!? 待てッ!」

 慌てて追う。

 朝早くなので、まだ開いている店も少ないだろうが……陽愛や、あの女の子がいる。

 道を抜けたと同時に、頭上からの気配に気付く。

 飛び退って上を見上げると……電柱の上に立つ(どこぞの忍者か何かかよ)がいる。

 身長からしても高校生ぐらい。背格好からすると女の子っぽい。

 ってか、あれは……学校を襲撃したグループ、ヴェンジェンズと名乗った組織にいた、七人の中の一人じゃねえか!?

「どうなってる……あの男も、ヴェンジェンズのメンバーか?」

 呟いたが、今の状況を思い出す。

 辺りを見回すと、陽愛と女の子は、まだシャッターの降りている店の前で男に追い詰められていた。

「クソッ……だから逃げとけって……!」

 とりあえず、今はあの男だ。

 移動魔法でなんとか追い付き、後ろから飛び蹴りを放つ。 

 男の反応も早く、チラッと俺を見て移動魔法で横に躱してきた。

 その一瞬で、俺は陽愛と女の子の前に立ち、守るように立ち塞がる。

「お前も、ヴェンジェンズの仲間か!?」

 俺が男に叫ぶと、無口で無表情だった男が少し動揺したように見えた。

 違う……のか?

「フェニックスプロジェクトの手先か……どっちにしても、戦う理由はあるんだよッ!」

 俺がそう言って蹴りを放つと、男は腕を振るい、小さな針を複数飛ばしてきた。

 飽きたな……そういう武器、技、戦い方。

 不意打ちでもなければ、攻撃ですらない。

 風魔法で全て吹き飛ばし、速さと威力を更に上げた状態の蹴りを男に叩き込んだ。

 それでも咄嗟に防御魔法を使ったのだろ――結構クリーンヒットだったのだが、ぐらつく程度で済まされてしまった。

「うおおッ!」

 風魔法の補助も使いながら、男に猛然と殴り、蹴り、連続攻撃を仕掛ける。

 徐々に押し始め……いける……と思った瞬間、男が一瞬の隙をついた蹴りをしてきた。

 後ろには陽愛たちがいる……避ける訳にはいかない。

 防御魔法を張った左足で受け止める。痛覚魔法か……ちょっとした痛みのハズが、凄まじく痛む。強打されたように感じる。

「ハッ!」

 その左足を地面に打ち下ろし、踏ん張って、風魔法を使った蹴りで打つ。男は向かい側の店のシャッターに叩きつけられた。 

「黒葉! 上!」

 ふう……と息を吐いた俺に、陽愛の慌てた声が聞こえてきた。

 危険を察し、上空を見上げると……先ほどの女が滑空してきている!

「な……!?」

 女は体全体を深緑色のジャンパーで覆っていて、顔もよく見えない。しかし、今はそれどころじゃない。女が、炎の息吹とも呼べる攻撃をしてきたのだ。

 属性魔法……これにも色々とあるのだが、炎魔法も人によって様々なのだ。

 それは、もちろん魔装力などもあるのだが、人によるイメージによる。魔装法はイメージにより成り立っていて、特に属性魔法はそのイメージが重要なのだ。一番の要素である。

 ということで、同じ属性の魔法でも、人によって色々と変わってくる。同じイメージを持つ人間など、滅多にいないのだから。

 輝月先輩の炎魔法は力強く、使用方法なども幅広いが……この女の炎魔法は、威力と言うよりも、精密さや範囲などが重点的な感じだ。炎の色も、明るいオレンジって感じだ。

 いやいや、解説してる場合じゃないんだ。

「や、べえ……」

 しまった。避けられないんだった。

 陽愛に逃げるように指示するのが、遅れてしまった。これでは間に合わない。

 最終手段だ――俺は、服全体から風を吹き上げ、炎に対抗しようとする。

「来いッ!」

「……!」

 俺の小竜巻と、女の炎の息吹がぶつかり合おうとした瞬間……。

「いやあああああああああっ!!」

 後ろで、女の子が大きな悲鳴を上げた。

 この戦いにさすがにビビったのか……まだ幼いし、記憶喪失っぽいのに、こんなのをいきなり見せられたら、怖くなるだろう。

 女の子は耳を塞ぎ、しゃがみこんだ。

 しかし……それが問題ではなかった。

 俺と陽愛は固まり、女の方も地面に着地して女の子を静かに見つめる。

 その場にいた全員が静まり返った。

 まさか俺たちが、女の子の悲鳴ぐらいで、戦いを止める訳がない。

 しかし、それは全く関係ない。

 

 女の子が悲鳴を上げた瞬間、俺達の魔装法の効果が消滅(・・・・・・・・・)したのだ。

 

 簡単に言えば、風魔法による竜巻が一瞬で収まり、炎魔法による炎の息吹は掻き消え、念の為に張っていた俺と陽愛の防御魔法も効果が消えた。

 魔装法の効果が、なくなった。

「魔装法が……打ち……消された……?」

 もう一度風を起こそうと思えば、ちゃんと起こせた。防御魔法も使える。

 しかし、確かに……俺たちのイメージと関係なく、魔装法が消えた。

 この女の子……少女は、何者なんだ……?

 

  

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