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第53話 ラーメン店

 

 今更だが、なんで俺が陽愛の家に泊まるかと言うと……陽愛が、今日は一人なので心細いと言っていたので。というより、警備的な理由で俺が居る。

 

 ◇

 

 テレビで昼時のニュースを見ていると、陽愛が一階へと下りてきた。

「もうお昼だね……どうする?」

 父親と会うために服装に気を遣っていたっぽいが、やはり、ずっとあの格好は疲れるよな。

 ……てか、さっき着替え途中を見ちゃったし。

 緩い服装になっている。

「ん~そうだな……何か食いたいか?」

 逆に聞き返す。というか、俺は苦手なんだよ。自分に一任されるって。

「そうだなあ……ラーメン、とか?」

 陽愛が言うので、それじゃあそうするか、と立ち上がる。

「どうする? 作るか?」

 作るか? って……材料あるのかも分からんのに……。

 自分の家みたいなノリになってしまった。

 陽愛は考えるように首を傾げながら、キッチンに向かった。

 しばらくして、リビングへと戻ってきた。

「よし、食べに行こう」

 

 鷹宮家から歩いて十分ほどの距離に、ラーメン屋がある。あまり人通りが多い訳でもないのだが、意外に繁盛しているらしい。

 名前が『麺父(めんじい)』。とても、食欲そそる名前ではない。

 昔はよく来てたんだが……高校に入ってからは、まだ来てないな。

 陽愛と共に店内へと入る。

「いらっしゃい――って、クロじゃねえか。久しぶりだな」

 俺のことを犬のような名前で呼ぶのは、このラーメン屋を一人で切り盛りしている店主、通称――麺オヤジ、麺さん。

「おお……あんなに小さかったクロが、女を連れて来やがったか」

「何勘違いしてんだジジイ。友達だ」

 陽愛も困り顔なので、とにかくカウンター席に並んで座る。

「ラーメン二つに餃子一つ」

 話をしに来た訳でもないので、とりあえず注文する。

 麺オヤジはテキパキと作り始めた。

「あれ、白城くんに鷹宮さん」

 突然の声に振り返ると、そこには制服姿の羽堂先輩と吉沢先輩が立っていた。

 制服……やはり、生徒会は休校中も活動か。

 生徒会役員が二人揃ってこんな所に……どうしたんだ?

「私たち、常連なのよ」

 意外、だな。

 羽堂先輩の後ろでは、吉沢先輩が黙って頷いている。

 羽堂先輩は、俺の隣の空いている方のカウンター席に座った。その隣に、吉沢先輩が座る。

 この大人しい感じの二人に、この店の雰囲気は合わない気がするが……。

「麺さん、ラーメン二つ」

 羽堂先輩の声に、麺オヤジが顔を見せる。

「おう、らっしゃい……って、おお!? なんで、クロの周りに女が増えてんだ!?」

 黙ってラーメン作れ。

 

「もう、学校は大丈夫なんですか?」

 出来上がったラーメンを食べながら、陽愛が質問する。

 羽堂先輩もチャーシューを飲み込んで答える。

「ええ、先生方も動いて下さってるしね。輝月も働いてるわ。順調よ」

 この人、というか……あんな学校が順調って言うと、なんか怖いよな。復讐計画とか立ててそうで、危ない感じがする。

「そう言えば、二人はどうして今日、一緒にいるの?」

 いきなりの質問に、つい餃子を取り落とす。

「いや……別に……ただ、家にお邪魔してただけで……」

 とりあえず言葉を濁す。

 さすがに、変な噂は立たないだろうけど……同級生の女子の家に宿泊とか、勘違いされそうだからなあ……。

「ふうん。別に、詮索する気はないけれどね」

 やっぱ、羽堂先輩(この人)は察しがいいよなあ……何かあったって、分かってる感じだ。

「べ、別に、何もないですよ?」

 それに対して、陽愛は隠しごとがあまり得意そうじゃないなあ……。

 でもまあ、さっきから黙々とラーメンを食べ進めてる吉沢先輩――何を考えているか分からないのもあって、ある意味危険な人物だよな。

 そんなことを思っていると、ふと吉沢先輩が食事の手を止めた。

 そして、カバンの中から白いファイルを取り出した。

「これを白城さんに渡すよう、輝月会長に言われていました」

 って……忘れてたのかよ。

 ファイルを受け取る。

「ありがとうございます……」

 この場で見ていい物なのかどうか……輝月先輩からの届け物というと、あまりいい感じの内容ではない気がするんだが。

「それじゃあ、私達は失礼するわ」

 これを渡すのを見計らっていたようなタイミングで、羽堂先輩は立ち上がった。食い終わるの早いな……駄弁ったりしてたハズだが。

 吉沢先輩も食べ終わったようで立ち上がる。

「麺さん、ここにお金置いておきます」

 羽堂先輩はそう言ってカウンターに代金を置くと、俺と陽愛に軽く手を振って、店を出た。その後ろを吉沢先輩が、俺達に軽い会釈をして付いて行く。

「……意外な人達にあったな」

「そう……だね」

 颯爽とした去りっぷりに、呆然とする俺達。

「ラスト、食っとけ」

 最後の餃子を陽愛に譲り、俺は最後にスープを飲んで、トイレへと向かう。

 入ってすぐに、先ほど渡された白いファイルの中の紙を取り出す。

 『東京第三魔装高校 襲撃事件』

 との名目がある。

 調査書類……? なんで俺に渡すんだ?

 疑問に思いながらも、ざっと内容を見る。

 まず、俺を襲って来た築垣だが……魔装高付属高校の生徒(・・・・・・・・・・)だということだ。しかも一年生。今は、登校してきていない。

 あの……魔装法使いが、付属校の生徒……だと?

 付属校の生徒といえば、三つの魔装高に受からなかった奴が行く所だぞ。

 ほぼ、面接で落ちる可能性はないので、落ちるとしたら実技だが……あいつが魔装法で落ちるなんてことはないハズだが……。

 品沼を襲ったという野々原も、警備をしていた風紀委員達を襲ったその他の五人も、付属校の生徒らしい。結局、今は全員不登校なのだが。

 あの七人全員、学生だったのか。相当な実力者達のハズなのに、付属校の生徒だというし……分からないな……正体が。

 詳しい事は不明。

 次に……最も重要な人物。学校を破壊し、風紀委員長である千条先輩を倒した、謎の男。

 『ヴェンジェンズ』と言っていたが、やはり詳しいことは分からないらしい。男の名前など、全てが分かっていない。

 どうやら……この資料に載っているのは、男のことよりも、あの七人のことから調べた情報らしいな。

 とりあえず、今は詳しくは確認はしないでおこう。

 

 財布から代金を取り出し、カウンターに置く。

「え、いいよ? 私の分は私で払うから」

 陽愛が自分の財布を取り出そうとするのを止める。

「いいよ。今日、泊まらせてもらうんだし。これぐらいは」

 厨房の奥から、麺オヤジが出てきた。

「おう、また来いよ。まいど~!」

「はいはい」

 菜箸を置いてから、厨房から出てきてほしいんだが……まったく。

 

 ◇

 

 陽愛の家に戻りながら、俺はファイルの内容を喋る。

 あまり、外で話すべき内容ではないが、そこまで重要なことではない。

「そっか……輝月生徒会長も、黒葉のことを信用してるんだね」

 話を聞いた後、陽愛が言うので、俺は首を傾げた。

「どうだろうな……? あの人のことだから、戦力として、協力だけはさせとこうって話じゃないか?」

「もう、そんなこと言って」

 笑いながら言う陽愛だが、俺は内心、笑えない。

 俺を信用するなんて、お門違いだ。と言うよりも、輝月先輩が俺を信用しているとは、考え難い。

 前に、ファミレスに呼び出された時から思っていたが……むしろ、あの人は、俺のことを疑ってるんじゃないか?

 様々な事件に関わっている俺は、怪しい立ち位置にいる。

 慎重な輝月先輩のことだし、そう簡単には信用してくれないと思うんだが。もし、信用してくれていると言うなら……品沼と関わっていて、先代の生徒会長の弟、ということだけだろう。

「あ、電話だ」

 着信音に陽愛が反応し、携帯を取り出した。

 チラッと見えてしまったが、どうやら陽毬さんからのようだ。

「なに……え……うん、大丈夫だよ。それで? ああ……うん、分かった」

 何やら深刻そうな表情なので、少し距離を取って歩く。

 携帯を閉じて通話を終えた時には、鷹宮家に着いていた。

 そのまま、会話の内容を聞くタイミングを見失ってしまった。

 まあ……姉妹の会話のことを、聞くのも無粋だよな……。

 

 ◇

 

 三時まで、陽愛は家事などをしていたので、俺も掃除などを手伝っていた。

 三時になって、陽愛がソファに座って休憩を始めたので、俺もコーヒーを勝手に淹れさせてもらった。

 見ると、陽愛は眠っている。

 中途半端な態勢で首を痛めそうだったので、起こさないように、慎重に体を横にする。薄い毛布を掛けてやり、俺は椅子に座った。

 なんか……平和な感じがする。

 実際、今は平和なのだが、いきなり平和じゃなくなる。

 魔法は……便利だ。魔装法が使えるようになって、人々の暮らしは良くなった。

 反面、犯罪の手段も増えた。警察も強化はされたので、犯罪が増えたり、検挙率が下がったりした訳ではないが。

 いつからだったのだろう……非日常的で、非現実的な世界に憧れていたのに……本当にそうなると、平凡を望んでしまう。

 どっちなのだろう……世界が歪んで、世界が魔法に満ち溢れて……それで、誰もが憧れた非日常的世界になって――

 俺は、嬉しいのだろうか?

 今の状況を、今の世界を、今の俺を――

 求めていたものだと、言えるのだろうか。

 

  

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