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第51話 対面

 

 陽愛からのメールを見た後、青奈が風呂に入ると言ってきたので、しばらくパソコンをいじっていた。

「お兄ちゃん、お風呂いいよ~」

「ういっす、了解」

 三十分くらいしてから青奈が言ってきたので、俺は風呂へ入る。

 その後、まだ疲れが残ってたらしく、すぐに眠ってしまった。

 

 ◇

 

 五時半に起床して朝飯を作った。その後、俺は休校ということで青奈が登校するのを見送る。

「行ってきま~す」

「はいよ、行ってらっしゃい」

 一人になったので、何をしようかと部屋に戻る。

 そこで、今日初めて携帯を開いて気付く。陽愛から結構早くにメールがきていた。

 え~と……八時半ぐらいには来て?

「それって……おいおい……三十分ぐらいで行かないといけねえじゃん。俺、何も準備してないよ」

 急いで着替えて外に出る。

 自転車を使わずに、走って向かう。

 青奈が、今日は家に帰ってから使うと言っていた。帰りが何時になるか分からないので、使ってしまって、文句を言われたらまずい。

 走っていると意外と早く到着した。八時十五分だ。

 チャイムを押すと、すぐに陽愛が出てきた。なんか……随分と身なりをきちんとしてますね。

「いらっしゃい、入って」

 急いでるっぽい。

「ああ……それじゃ……」

 入ってから、色々と真相を知ることになった。

 

「な……に……?」

 リビングに通されて、すごい神妙な顔で陽愛に言われた。その言葉に戸惑う。

「なんで、お前の恋人のフリをするんだよ……」

 完結的に言うと、そうなる。

 こいつ、そういう恋愛事は嫌いっていうか、トラウマっぽくなってると思ってたんだが。

 俺だって嫌っていうか、興味ねえよ。

「いや、その、あのね……実は、会うことになっちゃったんだよ」

 陽愛がとても申し訳なさそうに、困ったように言ってきた。

 実際、めちゃくちゃ困ってるっぽい。

「誰にだよ」

「……お父さん(・・・・)

 へ?

 お父さん? 陽愛の?

「だって……お前のお父さんって……お前が産まれて……」

 すぐに、離婚した。

 理由は分からないがそう聞いた。

 俺がそれを言うと、陽愛は更に表情を暗くした。

「理由は……よく分からないんだけど……教えてもらえるって……」

 今まで知らなくて、だから知りたかっただろう真実を、今日知ることになるのか。

「そう、なのか……それより、陽毬さんと、お前の母さんは……?」

 離婚している父親が、今更会いに来るのだ。母親や姉が同伴するのは当たり前だ。と言うか、それが道理だろう。

「昨日、私が家に帰る前に……会っていたらしいの。だから、今日は私だけ会うことになって……」

 マジか……それでも、一人だけで会わせるか?

「お前さ、会ったことないんだろ? 一人で会って、大丈夫なのかよ?」

 少し嘆息しながら言うと、陽愛は顔を上げ、(すが)るような目で俺を見てきた。

「だから……一人じゃなくて……黒葉にも、来てもらったの」

「は、いぃ?」

 驚きが強すぎた。マジで衝撃。

 一瞬、頭の中がフリーズしたが、なんとか言葉を発する。

「……なんで、俺?」

 あ、そう言えば……最初に言ってたな。

 恋人のフリって、そんなベタな理由を。

「恋人役として、頼める人が少なくて……品沼くんは、生徒会活動があるって言うし……」

 え、そうか。

 だよなあ……品沼の方が適任っぽいのに……。

「んで……恋人なら、同伴できるって?」

「う、うん。だから、お願い……」

 なるほど、っていやそうだけどさ。

 初めて会う父親と、二人だけで話すなんて難しいだろうしな。

 でも、それって……俺がいて、なんか変わるかなあ? 俺だって、対応が出来ないと思うんだけどな……。

「一応分かった。それなら俺も出来るだけ協力する」

 とりあえず、気まずい空気にならないように、何かあったら出しゃばれるぐらいはしよう。

 やばいなあ……俺、普通の服で来ちゃったよ。

 あ、だから陽愛は身なりを整えてたのか。最初に言ってくれよ、全く。

 

 ◇

 

 九時半に父親が来るということで、俺は淹れてもらったコーヒーを飲みながら待つ。

 時間が進むにつれて、陽愛が緊張していくのが分かる。

 どうしよう、俺。マジで役不足だよ。

 ん~……なんか、違和感あるよな。なんだろう……強烈な違和感を覚える。

 そりゃ、家族の問題に俺が介入してる時点で違和感ありまくりなんだけど。

 九時二十五分頃、チャイムの音が響いた。

 陽愛が俺の顔を不安げに見る。頷いてやると、陽愛も頷き返してきた。意を決したって顔で、玄関へと向かう。

 俺も緊張しながら、身なりを整えて待つ。

 リビングに入って来たのは……まだ二十代じゃないかと思うほどのスーツ姿の若い男だった。なかなかの美形で、外見だけなら陽愛に遺伝しているだろうと思う。

 立ち上がって、頭を下げる。

「陽愛さんのとも……彼氏で、白城黒葉って言います」

 なんか小恥ずかしいな、こういう挨拶。

 その父親の後ろで陽愛が、ごめんね、という顔をしている。

「ああ、話には聞いているよ。良い付き合いをさせてもらってるらしいね」

 陽愛父も頭を軽く下げながら、座る。

 陽愛も俺の隣に来たので、一緒に座って陽愛父と向かい合う。

「今まで……悪かった」

 陽愛に向かっての、父親の第一声がそれだった。

 この人は、悪い人には見えない……なんだろう、この感じ……。

「本当にすまなかったと思っている。母さんとは、別に仲が悪かった訳でもないんだ……俺が新事業を始めようとしていた。それが借金だらけで……巻き込めなかったんだ」

 思っていたよりもまともというか、家族思いっぽい理由だ。

 若い感じのイメージなのだが、新事業ってことは……結構な歳の社会人なのかもしれない。でも、借金だらけって言っちゃってるしな。

「だが、どんな理由があっても、お前たちに辛い思いをさせたことは変わらない。本当に悪かった、陽愛」

 そう言って頭を下げる陽愛父の話を真面目に聞きながらも、チラッと陽愛の方を見た。

 陽愛は俯きながらも、しっかりとした表情で聞いている。

 ……なんだ……さっきから……この雰囲気は……。

「別に、いいよ……何か、もっと悪い理由じゃなかったから……。お父さんも、私たちのことを考えてくれていたんだったら」

 顔を上げて、陽愛は真っ直ぐに言った。

 これで……最初の話としては充分な収穫だが……。

「それで……昨日、お母さんから聞いた話だけど……」

 陽愛が急に、話を変えてきた。

 陽愛父も、話の内容を察したらしい。そして……なぜか、俺の方を見る。

「私、この町からは引っ越さないよ」

 思い切ったように、陽愛が口を開いた。

 ……引っ越し?

 もしや……それは……。

「お父さんは、成功したから会いに来たって言うけど……それは、成功したからもう一度暮らそうって話なんでしょ?」

 そうか……ありがちだよな。

 そして、話から察するに、陽愛父の事業の拠点は遠いんだろう。ということは……こういう場合、引っ越すのは陽愛たちの方だ。

 別にそうしなければいけないって訳ではないが、働きやすさ、財力の問題などを合わせれば、陽愛たちが引っ越した方が効率的だ。

「……そのことは、もう知っている。お前が来たくないというのは、母さんから聞いた。だけど、陽毬もいいと言ってるんだぞ?」

 なるほど、な。

 確かに、決めるのは難しいだろう。

 バイトなどをしている陽毬さんは、学校に通っていないので、引っ越すと言われても対応には困らない。

 陽愛父の話からすると……まだ、陽愛の両親の仲、それ自体が壊れている訳ではない。

 なので、陽愛母も大丈夫なのだろう。

 だから、問題は陽愛なのだ。

 学生であり、高校には通い始めたばかり。人間関係も築けてきているのだ。

 しかし――もちろん本人に責任はないが――陽愛は結構な数の、危ない問題に巻き込まれている。これは、陽愛が転校する理由にするには丁度良い。説得材料としては、なかなかのものだ。

 けれど、最終決断は本人の意思。

「だから……言った通りだよ。約束通り、黒葉もいる」

 どういうことなんだ? やはり分からないぞ?

「そうだな……彼氏を連れてきたら、って条件だったからな……」

 陽愛父が悩んでいるように言う。

 は……? もしかして、そのために……?

 でも、なんで……そんな条件を?

「お、おい……」

 問い詰めようと陽愛の方を向くと、今は協力して、という無言の訴えがあった。

「いいでしょ? まさか、黒葉までは巻き込めないよ」

 彼氏がこの町にいるから離れたくない。まさか、彼氏まで一緒に引っ越す訳にはいかない。

 そういうことか?

 でも、それって……家庭の事情を凌駕するほどなのか?

 俺の疑問は、次の一瞬で消し飛んだ。

「だから……私は……」

 陽愛は、今日、俺を巻き込んだ本当の理由を口にした。

「結婚はしないから」

 

  

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