表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/219

第49話 力差

 

 鎖を軽く回しながら、平然と立っている千条先輩。それを見て、魔装高の校舎を破壊した男は、完全に地面に降り立つ。

 千条先輩が来てくれたのは……この際、幸か不幸か分からない。

 あのまま帰すのも悔しいが、これ以上の戦いは被害拡大の恐れがある。

「さすがに、ここまでやったんだ。アリーナでのんびりしてる奴らも出てくるぜ」

 千条先輩は言いながら、鎖の動きを止めて、構えた。

 男は、全く動じなかった。

「それならば、早く終わらせるべきだろうな」

 パンッ! という音と共に、男の姿が消える。

 慌てて探そうとすると、千条先輩が殴られていた。

 あの、魔装生の中でも、戦いのプロと呼べる千条先輩が、何の抵抗もなく殴られた。

「な……そ、そんな……」

 俺は遠くから見守るだけで、前に出て行けない。

 いや、足が地面に縫い付けられたように、動けない。

 あの男に、恐怖を感じている。

 殴られた千条先輩は、大きく後方に吹き飛び、脆くなっていた校舎の壁を突き破った。

 何、やってんだ……俺……動け!

 自分に苛立ちながらも、体が竦んでいる。

 その時……校舎から、ゆっくりと千条先輩が出てきた。

「まあまあ、速いな」

 首を回しながら、千条先輩は余裕の態度だった。

 どうやら……無抵抗に殴られたというのは、俺の勘違いだったらしい。

 千条先輩の周りを、鎖の輪が囲っている。

「どうした、挨拶がわりだぞ」

 男の方も余裕だ。

 しかし、そんな男の足元が少し動いたかと思うと……数本の鎖が飛び出し、男に巻き付くように、竜巻のように上へと回っていく。

 その様子を見て、後ろで慌てるだけだった7人が、千条先輩の方へと突進していく。

 そんな7人の前に、風紀委員が10名近く立ちはだかった。

 どこから現れたのかも分からないが……千条先輩が指揮をとったんだろう。

 これで、千条先輩と男の1対1の場は整ったが……。

 凄まじい音がして、男に巻き付いていた鎖の束が、一瞬で砕け散った。

「……へえ」

 千条先輩は目を細め、手元の鎖を大きく垂れてから、体ごと回転して男を打つ。

 そのスピードは速く、威力も充分に思われたが……がしっと男は鎖を掴んで止めた。

 そこへ、間髪入れずに地面から鎖が伸びる。

 本当にいつ仕掛けたかも分からない鎖が、次々と地面から飛び出して男に向かう。

 しかし、その四方八方の連続攻撃を、簡単に躱していく。

「大口叩いて割には、大した事ねえな」

 男はそう言って、右の手のひらを千条先輩に向けた。

 バンッ!!

 突然、千条先輩の体が空中へと高く上がり、地面に打ち付けられる。

 それこそ……抵抗もしない内に。

「本気を引き出すぐらいは、するかとも期待したんだが……的外れだった。付き合う必要もない」

 男はそう言うと、右手を強く握ってから開いた。

 千条先輩の集中力が切れたせいで、鎖の動きは止まっている。

 男の動きに合わせ、千条先輩の体は後方に回転しながら吹き飛んだ。

「が、あァッ!!」

 なんとか防御しようとしているが、未知の攻撃には耐え切れず、千条先輩は激しく体を打ち付ける。

 ……駄目だ、千条先輩でも何も出来ていない。

 それを見ていた風紀委員達は、唖然としている。そこへ7人の様々な攻撃が当たり、かなりのダメージを負う。

 風紀委員会が……全く敵わない。

「ふん……このまま引き上げるつもりだったのだ。別に構わん」

 男は面倒そうに言って、手を動かす。

 地面に転がる鎖の破片などが浮かぶ。

「死ね」

 その破片を、なんとか立ち上がろうとする千条先輩に猛スピードでぶつける。

「ぐっ……あが……ッ!」

 咄嗟に防御魔法を使ったようだが……駄目だった。

 破片は持ち主の体を貫き、鮮血を飛び散らせた。

「……ほう。意外としぶといのだな。ま、邪魔するなら……」

 男は次に……校舎の瓦礫の山を浮かび上がらせた。

 ヤバイ……ヤバイ!

「うああああッ!!」

 竦む体をなんとか動かし、全速力で千条先輩の所へと駆ける。

 何やってんだ……間に合わないじゃねえか……!

 宙を漂った瓦礫は、千条先輩の周りを遠巻きに囲んだ。

「やめ――」

 俺が言い終わるのも待たず……瓦礫は四方八方から、千条先輩にぶち当たり……その体を埋めてしまった。

 

 ◆

 

 恐怖で……動けなかった。

 突然、校舎が軋みを上げ、壊された。それと同時に、僕と戦っていた野々原さんも外へと飛び出していった。

 それから呆然としていたけれど……風紀委員長が出てきて、戦って……それで……負けた。

 何も……出来なかった。

 

 ◆

 

「チクショウ……! クソッ!」

 俺は震える足を動かして、瓦礫の山へと駆け寄る。

 バラバラと崩しながら、千条先輩を引きずり出す。

「千条先輩ッ! しっかりして下さい!」

 本格的にヤバイ……鎖の破片で、体を貫かれたせいだ。臓器まで何個かやられたようだ。

 瓦礫による圧迫、しかも瓦礫の鋭い部分などで、体もボロボロだ。

「おい、どけ」

 背後からの声……いや、威圧感に、振り返る。

 男が冷たい眼差しで、千条先輩を見下ろしている。

 近くに来ると……恐ろしい、というレベルではない。

「威勢までは良かったが、所詮は学生、やれる事も知れている」

 こいつ……トドメをさす気か……!?

「させるか……これ以上、誰も傷付けねえぞ……」

 ブルって竦んでて、今更出てきて何言ってんのか……自分で言ってて馬鹿らしい。

 それでも、させる訳にはいかない。

 立ち上がって、男と向き合う。

 この恐怖心……この男、普通の人間じゃないんじゃないか……。

「……無闇に人を殺す気はないが……立ちふさがるなら、仕方あるまい」

 男はそう言うと、ゆっくりと手を上げて――

 

「その手を止めろ」

 

 背後からの声。

 そこには、立ち上がった千条先輩と、その千条先輩に肩を貸す輝月先輩の姿があった。

 その遥か後ろ、校舎の前に何百という生徒が集まっている。

「これ以上、騒ぎを大きくしたいのか?」

 輝月先輩が言うと、男は眉を上げた。

「ふむ……なるほど、な。良いだろう。どうせ、そのつもりだったのだしな」

 そう言うと、男は踵を返した。

 手で、仲間の7人に合図を送る。7人は戦いを止め、急いでその後を追う。

 7人と戦っていた風紀委員達は……既にボロボロで、どうやって戦っていたのかも疑問に思うほどだった。

 ヴェンジェンズと言った、組織の8人は……ゆっくりと立ち去っていった。

 その場にいた全員が、その姿が見えなくなるまで黙って動かなかった。

 

 ◇

 

 千条先輩はすぐに保健室へと運ばれた。

 病院じゃなくて良いのか、と思ったが、保健室の園田先生が、これぐらいなら病院よりもここの方が安全だ! とか言っていた。

 これぐらい、って……臓器に穴空いてたんだぞ?

 一体どれぐらいなら、保健室で対応出来なくなるんだ?

 品沼に会うと……落ち込んでいた。

「何も……出来なかった。あの黒い服の男が……怖かった」

 俺も気分は沈んでいた。俺だって、何もしていない。

 陽愛達も暗い顔をしていて、何も言ってはこなかった。それでも、心配の言葉をかけてきてはくれていた。

 もちろん、クラス対抗魔装法試合は中止。

 それほど重要でもない、と先生がぶっちゃけてたので、なんとか収まっている。

 ……あれ、収まってる?

「すいません……俺、何も……」

 保健室前の廊下で、輝月先輩に俺は謝ろうとした。

「王牙は、自分の意思で戦って、負けたんだ。お前の責任じゃないよ」

 そう言いながらも、輝月先輩は辛そうな表情だった。

 これから、生徒会の集会があるらしい。

 生徒会、風紀委員会の重役、各種委員会の委員長などが集められ、今回の件について話し合うらしい。

 校舎がここまでボロボロにされたり、生徒が重傷を負っても、必要以上に騒がないのが、この魔装高の狂ってるところである。

 その日は早くも下校させられた。

 そりゃそうだけれども……いきなり帰すのも、危ないとは思わないのか、先生方よ。

 陽愛と折木、瑠海と一緒に静かに帰る。

 俺は……無力すぎる。

 自分より弱い相手にしか、結局は大きく出ることも出来ない。

 変わるには――

 強くなるしか……方法はない。

 

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ