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第48話 襲撃

 

 クラス対抗魔装法試合の第二回戦は、二年A組対二年B組。

 その先鋒戦が始まろうとしている。一回戦が、思ったより早く終わってしまった。 

「う~ん……黒葉、携帯に出ないな……」

 私が嘆息すると、隣の桃香が顔を覗き込んできた。

「陽愛、どうしたの?」

「え、と……黒葉が携帯に出ないんだよ。さっき、出て行ったっきり」

 さすがに遅いので、自分から電話してみたんだけど……一応、メールだけでも送っておこう。

 少し前にいる瑠海も、振り返ってきた。随分と憂い顔だ。

「う~ん……逢い引きじゃなければいいんだけどね……」

 そんなことを平然と言う瑠海に、桃香があたふたしている。

 いや……私としては、その心配は必要ない気がする……。

 それよりも、もっと大変なことが起こっていそうな気が……。

 

 ◆

 

「足止めする気だったんなら、気絶させときゃ良かったのによ」

 俺は言いながら、拳銃(パラ)を抜いてナイフをしまう。

 目の前の築垣は、少しふてくされていた。

「だって……自信があったんだもん……意外に、行動が読めないね」

 頬を膨らませて、文句っぽく言ってくる。

「そりゃあな……で? お喋りの時間はないんじゃねえの?」

「そりゃ、こっちの台詞だよ!」

 少し小馬鹿にしたように言うと、築垣は更に頬を膨らませて叫んだ。

 やっぱ……幼いぞ、こいつ。

「そんじゃ、まあ……」

 移動魔法で距離を詰め、至近距離から一発。

「むう!?」

 少し驚いたような声を出したが、飛び上がって避けた。

 そのまま、天井に足をつける。逆さ状態。コウモリ状態って訳だ。

「……天井好きなの?」

 俺が再び銃口を向けると、逆さのまま、ポケットに右手を入れた。

 引き金を引こうとした瞬間、素早い動きで、ポケットから手を引き抜いた。その勢いのまま、右手を前に振りながら開く。

 そこから飛び出したのは……さっきと同じ、牙。

 銃弾よりも少し大きいぐらいの牙が……手から離れた瞬間、巨大化した。

「は……はい?」

 突然の事についていけず、俺は慌ててバックステップで躱す。

 珍しい魔装法で、虚をつかれてしまった。そして、ハイレベルな魔装法だ。

 でも、最初に俺を縛り付けた牙で、気付いても良かったかもしれない。

「拡大魔法、ねえ……ここまでのレベルは、さすがにすげえよ」

 俺が言うと、自慢げに腰を手に当てて、一回転して床に足をつけた。

 巨大化させた牙は三本。しかも、さっきと同じ、俺の身長ぐらいある。

 まあ……さっきまで、四本巨大化させてたしな。

 この種類(タイプ)は、集中切らせたら元に戻る……それを、今もまだ、合計七本巨大化させている。

「だから言ったじゃないかあー! 私は重役なんだぞー!」

 プンスカ怒りながら、築垣が騒いでいる。

 ヤバイな……時間がない。

「やっぱ、お喋りは今度」

 移動魔法で扉の前に移動し、風魔法と強化魔法を足に使う。移動魔法の勢いも利用し、瞬時に扉を蹴り抜く。

「あ! 逃げるなー!」

「悪いな」

 俺は怒る築垣を背に、教室を飛び出した。

 

 ◆

 

 遠隔操作系の魔法を使う少女と、僕は一対一で戦っていた。

 しかも……この子は……。

「生徒会役員の……品沼 悠、でしったけ? 本当は戦う気がなかったのに、こうなったのはあなたの責任ですわよ?」

 ナイフが四本、一斉に刃をこちらに向けて飛んできた。

 恐ろしい速さだ。なんとか移動魔法も使って避ける。後ろの壁に突き刺さった音がした。

 コンクリートの壁なのに……凄まじい操作魔法の力だ。

「……よく言うよ……わざとらしく、挑発しただけなのに……」

 そう言った途端、後ろからナイフが戻ってきた。

 刃の方じゃないから、まだ安心だけど……。

 避けようとした瞬間、耳元でナイフが止まる。

 しまった……と思ったが間に合わない。

 全身に響く金属音が、ナイフから発せられる。四本のナイフから、同時に。

「うがぁっ!」

 両耳を抑えて下がる。

 彼女は操作魔法と、音響魔法の両方を使えるのだ。

「まだ、終わってないわよ?」

 再びナイフが空を切る。

 大丈夫……この攻撃は見えた。

 手に持った紙片を投げ、植物魔法を発動する。伸びた蔦が、ナイフを絡め取って封じる。

 あれ……? ナイフが……二本?

「ふふっ、このナイフは、わざと見えるようにしたのよ?」

 右上から迫ってくるナイフになんとか気付き、ナイフで弾く。

 しかし……もう一本が左から飛んできて、背中に刺さる。

「ううグッ……!」

 そのナイフを掴んで、蔦に絡ませる。弾いたナイフも同じだ。

「次の攻撃を封じる方に気を回すなんて、結構な経験者ね」

 でも、と野々原さんは余裕の態度だ。

「終わってませんわ」

 そう言って取り出したのは……小さい……黒いボール?

 ゴルフボールぐらいの大きさだけど、ツヤツヤしていて、本当に丸い。

「こっちの方が、扱いやすいので」

 宙に放った六個のボールは、くるくる野々原さんの頭上を回って……止まる。そこからいきなり、こっち向けて、さっきのナイフよりも速いスピードで飛んできた。

「くっ……!」

 躱したり、ナイフを両手に持って受け流すけれど……威力が強すぎる。

 壁に当たっては、破壊の痕を残している。

 駄目だ……このままじゃ、削り殺しだ……!

 

 ◆

  

「なんだよ……こりゃ……」

 とりあえず、何の情報もないので、警備の情報をアテにした訳だが……。

 警備をしていた風紀委員、実行風紀委員でさえも、全員気絶らせられていた。

 品沼に連絡しようと携帯を取り出すと、不在着信……陽愛からだ。

「巻き込めねえよな……」

 メールも今は確認せず、とにかく品沼に電話をかけるが……出ない。

「何かあったんじゃ……」

 俺を誘い込んで閉じ込めた、築垣のように……誰かが、品沼に接触しているかもしれない。

 もしくは……ここの風紀委員達のように、やられているかも……。

 十時までは残り五分。もう、時間がないのだ。

「学校の破壊? 爆弾でも仕掛けてんのか? ……いや、さすがに見つかるだろうし、今じゃ手遅れだ」

 それに、中にまだ仲間がいるんだぞ? 規模の大き過ぎる爆弾なんて、やらないだろう。

 犯行予告には、襲撃、と書いてあった。

 深い意味はなかったとしても、襲撃と爆破じゃ、何か違う。

「チッ……ヤバイな……」

 舌打ちをして、とりあえず外へと出る。

 校庭に出て、校舎に異常がないかを確認しようとしたが……。

「な……なんだ……あれ……」

 絶句する。

 校舎の上、上空に、一人の人間が浮いている。

 黒い服に……黒いマントのような物を羽織り、黒い手袋をはめている。

 その人物は、ゆっくりと右手を上げて、下に向けて素早く振った。

 ドガンッ!!

 という鈍く大きい音がして、校舎の屋上部分が潰れたようになり、四階を圧迫する。

 外からでも分かるほど……その力は強大だった。

 窓ガラスが全て割れ、色々な窓から六人の人影が飛び出した。その後に慌てて、俺を追っていたのだろう築垣が、一階の窓から飛び出した。

 空中に浮く人物は、その七人に全く見向きもせず、今度は左手を動かした。

 外に停めてあった一台の車に手を向け、そこから勢い良く横に振った。

 その車は浮かび上がって、校舎にぶち当たり、正に力技で不格好に破壊していく。二階部分を削り、次に右から左へと、三階部分を削っていく。

 そして、浮いている人物が、空中で手を前に突き出した。車は見事に、二階と三階の間ぐらいの部分を突き抜け、風穴を開けた。

「この、我ら、『ヴェンジェンズ』の襲撃は始まりである。ちょっとした挨拶がわりだ」

 この破壊を行った人物――どうやら、男のようだ――は、良く通る声で言った。

 俺は立ち竦んでいる……動けない。

 ヴェンジェンズ……? 組織の名前か? こんなことして、何が目的だ?

「ひとまず、今日はこれだけで帰ってやるが……いつまでも、あのこと(・・・・)を続けるつもりなら、もう容赦はしない」

 そう言った男は、宙に浮いたまま後ろを向く。

 一体……何人が聞いていたのか……三階の一室の割れた窓から、呆然とする品沼が見えた。

 男と最初に学校にいた七人は、既に校舎に背を向けている。

 男はゆっくりと、七人の近くの地面へと降りていく。

 しかし、そこに何かが猛スピードで突っ込んでいく。

 男は振り返ると、その何かを簡単に避けた。七人が慌てて振り返る。

「待てよ……帰ってやる? だと……?」

 ……鎖だ。

 躱された鎖は、持ち主の方に素早く戻っていく。

「……そうだ。これ以上、被害を出したくはないだろう?」

 男が鎖の持ち主を睨みつけながら言った。

 しかし、言われた本人は鼻で笑う。

「フッ……あのなぁ……こんな不意打ちで、好き勝手やられて――」

 この学校の、生徒会長とまともにやりあった三年生。

 荒っぽかったり、冷静だったりと、きまぐれな風紀委員達の上に立つ、絶対的実力者。

 千条 王牙……!

「風紀委員長としても、生徒としても、黙って帰すと思ってんのか、アホが」

 

  

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