第46話 クラス対抗魔装法試合
「意外では、あったよね……」
アリーナへの移動途中で、陽愛が呟いた。
丸一日を使って、このクラス対抗魔装法試合を行う。そのため、俺達は軽いHRを終えて、アリーナへと向かっていた。
「別に……俺としちゃ、願い下げだったしな。応援に徹してるよ」
右隣には陽愛、その隣に折木、俺の左隣には瑠海がいる。品沼は生徒会の仕事のため、先にアリーナにいるらしい。
全校生徒が集まる大イベントだが、代表生徒以外は暇な時間が与えられる行事だ。
三つの魔装高校に分けられた生徒たちだが、一つの学校に四百人は超えている。魔装法を使った高校の設立が間に合わず、あまりバランスがとれていない。
それに伴って、アリーナの大きさも凄まじい。
戦う生徒は一対一として充分な広さを保ち、他の全校生徒に見学させられるスペースを要している。
しかしまあ、そうは言っても……魔装法を使った戦いで、一対一というのは、生半可な場所取りでは間に合わない。
それにより、これほど大きさのアリーナができた訳だ。
「アリーナだけなら……第三魔装高校が一番の設備らしいな」
俺が言うと、瑠海が頷いた。
「まあ、これだけの敷地面積だもん。やっぱり、利用するならアリーナが一番いいんだよ」
確かに、それが一番の利用方法だからな。
俺としても、その方が喜ばしい。
アリーナに入ると、そこには大勢の生徒がごった返していた。
「……思った以上だな……」
ついつい俺が呟くと、折木も黙って頷いた。
折木には、こういう人の多い所は苦手らしい。
その人混みの中を風紀委員が縫って、整備している。特に、実行風紀委員の活躍が目立つ。
とは言っても……その迫力で生徒が避けているようだ。
「あ、井之輪先輩」
特に強烈な存在感を放つ、二年生の風紀委員を見つける。
俺が色々とお世話になっている先輩が、忙しく働いている。
俺の声に振り向くと、しばらく固まった後、不機嫌そうに喋りだした。
「あら、白城くん。……女の子をそんなに引き連れて、いいご身分ね」
「なんか……言葉にトゲがありませんか?」
この人怒ると怖いしな……なんかしちゃったかな?
「あなたは出場しないみたいね」
井之輪先輩の言葉に頷く。
「はい。どうやら実力不足だったみたいで……」
「あなたが出場出来ない理由は知ってるわ。謙遜しなくて結構よ」
やっぱり知ってたか。
ほんの冗談だったんだけど、あまりネタにしたくはないな。
「それじゃあ、風紀委員会の仕事、頑張って下さい」
その場から離れると、陽愛が首を傾げて聞いてきた。
「あの先輩って……実行風紀委員の人だよね? どんな関係?」
実行風紀委員と関わる人は少ないからな……ましてや、入学して日が浅い位置年生なんて、風紀委員会に属するぐらいじゃなければ、話すのも気が引ける。
尊敬の念もあるが、畏怖の念もあるのだ。
「ああ……中学からの先輩なんだよ。折木は、知ってるよな?」
折木が周りの人に警戒しながら頷いている。
「でも……あの人って……昔、黒葉くんと……」
うわー……同じ中学だから、知ってるのか。昔の俺と井之輪先輩の争いを。
でも、なんで憶えてんだよ。
「私も知ってるよー! 一年の頃はいたからね」
瑠海が少し寂しそうに口を挟んできた。
「そうだったな……ま、その話は後にして……」
そう言って、クラスで集まっている人だかりへと向かった。
「よ~し、今日の試合で使われた魔装法を、この紙に記録して、内容を分析して書けよ~」
狩野先生がそう言って、クラス全員に大きな紙を渡している。
試合に参加しない生徒も、この記録用紙があるので、うかうかしてはいられない。
しかし、試合中などのアリーナの出入りは自由で、試合見学に飽きたら、食堂で食事をしていてもいい。
「先輩から聞いたけど……これって、皆で協力して書いてしまえばいいって、言ってたよ……」
誰かがブツブツ言ったが、あえて狩野先生は何も言わなかった。
つまり、交代制で記録して、それを写し合えばいいってことだ。
後十分で第一試合が始まる。
最初は、三クラスある三年生の試合だ。
まずはA組対B組だったな……。
「さて……どんな戦いが見れるか……」
「黒葉、意外と楽しんでるよね……」
陽愛が少し呆れ気味に言ってきたが、俺は黙って、自分の場所を決めて座り込んだ。
最初の試合、三年A組と三年B組だ。
一クラスで三人。武器は一人一つ、何をしても良い自由形戦。制限時間は二十分。それまでに相手を、戦闘不能、降参させた方の勝ち。決着がつかなければ、三人の先生による判定。
これぐらいの簡単なルールだ。
ということで、第一試合先鋒戦。
名前は知らない男子生徒同士だ。
「三年生って……結構レベル高いね……」
折木が唖然としている。
俺も同感ではある。
A組側もB組側も、とても魔装法のレベルが高い。
どちらも使っている武器は拳銃だが、近接戦をしている。
移動魔法と加速魔法を両方扱っていて、代わる代わるに使っている。そのせいで、二人が交錯した時に火花が散っている所しか確認できない。
至近距離からの発砲と、それを弾く防御魔法で、火花が上がっている。
「早いな……でも……」
「そうだね、まだ初期魔法」
俺の言葉の途中で、瑠海が口を開いた。
その言葉通り、二人は一旦距離を取って、別の魔装法を使い出した。
A組生の銃弾は、当たった瞬間に爆発した。爆発魔法を銃弾に使っただけだが、その威力が凄まじい。確かに、充分なスペースを取らなければ、観客席が怪我をするレベルだった。
一回戦なので、おそらくは景気づけだろうが……勝負としては、あまりにも強大すぎた。
歓声が上がるが、爆発によって巻き上がった粉塵により、B組生の姿が見えないのだ。
ザァァァァアアアッ!!
大きな音と共に、巻き上がった粉塵が、B組生の銃口に吸い込まれていく。
吸収魔法……物理系。
B組生の銃から発射された銃弾は、砂嵐を巻き起こしながら飛んでいく。
「さっきの爆発魔法は強力だったし、あれで決まれば、いい景気づけだったんだけどな……」
俺が言うと、陽愛はすぐさま紙に書き始めた。
……こいつ、パクってんな。
この銃撃も凄まじかったが、さすが三年生。
ポケットに忍ばせていた何個かの銃弾を投げ、爆発の壁を作った。
反応速度などからしても、相当な実力者なのだ。
更に、爆発を伴った銃撃と、銃弾が分裂する魔装法の銃撃など、様々な戦いが繰り広げられている。
「……後で、教えてくれ」
俺は陽愛たちに囁き、そっとアリーナを出た。
◇
「それで……どうしたってんだ?」
俺がアリーナを出た理由は、小腹が空いた訳でも、気分転換したかった訳でもない。
「まだ、一回戦も終わってないんだぞ」
文句を述べると、品沼は苦笑いを浮かべた。
こいつが俺に合図していたので、仕方なく出てきたのだ。
「ごめんね。ただ、生徒会も風紀委員会も、手一杯な状況だからさ」
そう言うと、ポケットから折り畳まれた紙を取り出した。
開くと、極秘事項と書いてある。
「……なんだよ、わざとらしいな」
「ハハハ……それについては、同意せざるを得ないよ。問題は、中身だけどね……」
紙は重ねてあって、めくると……。
『本日のクラス対抗魔装法試合の最中に、学校を襲撃する』
シンプルな、ワープロで打ったような字が並んでいる。
下に概要があり、これが今日の朝に届けられたようだ。
「先生方は、生徒会と風紀委員会で事態の収集をしろ、ってさ」
「……さすがだな、おい。その投げやり方針……。てか、それで?」
品沼の言葉にため息をつきながら返すと、品沼は笑っている。
しかし、その顔はどこか不安そうだ。
「言ったでしょ? 結構、人員不足でさ……白城くんぐらいにしか、頼めないんだよ」
それなら、まず、魔装法試合を中止しろよ……とも思ったが、どうやら無理らしい。
「お偉いさんが視察しに来るらしいよ。先生方の事情として、中止させたくはないみたい」
だからって、他にもやれることはあるだろう……というツッコミも、この際伏せる。
これを誰がやったのか、悪戯なのか本気なのか。
全くもって不明だ。
「襲撃ってのも、随分とアバウトだな」
俺が指摘すると、品沼も頷いた。
「そうだよね……爆破予告とかの方が、まだ楽だった。でも……」
紙の束をめくると、そこには、風紀委員の見張りの場所が記されてある。
「これだよ? 誰も入ってこれない……」
確かに、完璧に配置されている。
ただ……これは、この手紙を送りつけてきた奴が、外部だった場合に有効な布陣だ。
もしかすると……もしかすると、だが……。
内部の犯行ってのも、ありえるかも、だ。
これも……フェニックスプロジェクトの研究が活発化したことに、関係しているのか?
さすがに、思いすぎか?
まったく……面倒なことに巻き込まれたな。




