第45話 不死鳥の魔法
本当じゃ……ねえよな……。
夢だって、誰か言ってくれねえのかよ。
「青奈ぁあああああああああッッッ!!!」
移動魔法も何もない、ただの、通常の俺で全力を出す。
さっきの爆発と、比べるべくもない。
走り寄って、抱き起こして揺さぶる。
青奈は……左胸から血を流し、目を閉じたまま動かない。
「そんな……そんな……おい……青奈……」
脈が……ない。呼吸、していない。
なんでこんなことが、一日で何回も起こってんだよ……。
俺は、何の役にも立っていない。
役に立たないどころか、青奈を――
青奈の身体が燃え上がった。
俺の腕の中で、熱さを感じさせない炎を吹き上げる。
実際、熱くもなければ、俺が火傷することもない。
しかし……青奈の体が、少しずつ薄れ……消えた。地面には、砂のような物が炎を纏って積もっている。
「う……ああ……」
自然に……涙が流れた。
不死の魔法、不死鳥の魔装法が発動したんだ。
その炎が勢いを増して……気付けば、服までもが全て元通りになった青奈が、俺の腕の中で眠っていた。
爆発で受けた傷、火傷、心臓の怪我、全てが元通りになっていた。服にも、焼けた後はない。
正しく、不死鳥のように、蘇った。
俺は青奈を抱きかかえたまま、ゆっくりと立ち上がる。
しばらく時間が経ってしまったし……いつ、研究者たちが目を覚ますか分からない。
通路を進み、研究所の外へと出る。
まだ雨が降っていたが、既に弱まっている。小雨だ。
「……青奈」
揺すると、青奈はゆっくりと目を開けた。
何が起こったのか理解出来ず、ぼんやりとして、戸惑っている。
「おにい……ちゃん……?」
俺の表情に気付いたのか、不安そうな声を出した。
おそらく俺は……悲しみと怒り、後悔など、色々な感情がごちゃ混ぜになった顔をしている。
それでも、なんとか笑顔を作ったが……出てくる言葉は一つしかなかった。
「……ごめん」
「お兄ちゃん……?」
多分、撃たれたショックなどで、記憶が混乱しているんだ。
不死鳥の魔法が発動する前に、気を失っていたから……自分が蘇ったことも、分かってない。
「本当に……ごめんな……」
久しぶりに泣いた。
本当は、俺なんかが泣いてはいけないのに……ごめん、としか言えず、涙が止まらなかった。
青奈が最後に死んだのは三年前だ。
実験で、あいつらは非人道的どころか、やってはいけないところまで手を出した。
認めたくはないが、当然といえば当然だった。
目の前に殺しても生き返る実験台があれば、研究者じゃなくても、当然だったのかもしれない。
つまり、殺した。
俺や兄さん、青奈を――殺した。
あの時に、俺は自分が人間じゃなくなったと、本当に実感した。実感させられた。実感して、痛感して、ただただ、心が痛かった。辛かった。この痛みも、偽りの元に生まれているんだと思うと、更に痛んだ。
けれど……ここで、終わる訳にいかない。
こんな理不尽な終わり方で、自分が終わっていいハズがない。
だから、一度は折れた心で再び生き抜くことを決めた。
「今まで……ごめん……」
恥ずかしくも、泣き止んだ俺は青奈と歩いていた。
小雨なので、少し濡れながら帰宅しようとしていた。
母さんに一応電話をして、青奈の無事と家に帰ることを伝えた。
「なんで、謝んだよ」
ゆっくりと帰り道を歩きながら、俺達は久しぶりに、まともな会話をしていた。
「心配、かけたよね……」
青奈は俯いて、悲しそうな顔をしている。
分かってる……青奈は、何も悪くないんだよ。
「今まで、お兄ちゃんにも……無愛想にしてたでしょ……」
ああ、そのことについては確かに辛かったし、心配してた。
「人間じゃないって……こんな身体の妹なんて……お兄ちゃんは、嫌いになるんじゃないかって」
「それを言うなら、俺だって……そうだろ。それに……」
隣の青奈の頭に手を置く。
思い出してしまっているだろうからな……不死鳥の魔法が発動したこと、自分が死んだことを……。
俺だって、辛い。
「俺がお前を、嫌いになる訳ねえだろ。そんな、ありえねえ話をすんなよ」
気の利いた言葉は出なかったが……俺だしな。
それでも、青奈には伝わったらしい。
俺の顔を見上げ、笑顔で頷いた。
◆
白城兄妹の立ち去った後……男が一人、目を覚ました。
「あの兄妹だからな……あの状態の白城黒葉なら、まだ対応出来ると思ったんだが」
初老の男は呟きながら、ゆっくりと立ち上がる。
「まだ、成長途中だ。結論に至るのも、まだ早い」
そう言って、機材の山の中に手を突っ込み、何かを引っ張り出す。
ビデオカメラだ。
「不死鳥の力が確認出来たことだけでも幸いとするか」
回った状態のビデオカメラの画面……記録を確認すると……。
白城青奈の、再誕の瞬間が記録されていた。
◆
俺と青奈が家に帰ると、母さんは特に何も反応せず、お帰り、とだけ言ってきた。
なんだこの優しさは……!
とか思ったが、まあ、普通じゃないことがあったというのは感じたらしい。
今回は俺も目立った怪我はしてなかったのだが……青奈が、治療すると頑固に言うので、手当てしてもらった。
確かに……青いファイルにあった通り、青奈の魔装法は回復系に向いている。
てか、治療のためだけど……久しぶりに、青奈の部屋に入ったわ……。
歩いて帰って来たということもあり、時刻は既に六時。
晩飯は母さんが作ってくれていたので、俺と青奈は一階に戻って夕食にした。
二人揃って晩飯というのも、またまた珍しい。
「あ、お兄ちゃん、ピーマン食べて」
「はあ? お前、この前普通に食ってたじゃん」
「この前は小さかったし、味付け濃かったし」
まともに兄妹っぽい(?)会話をするのも、本当に久しぶりだ。
これは、マジで一番懐かしい感じがする。
何も言わなかった母さんも、さすがに驚いていた。
「しゃあないなあ――塩をふりかけよう」
「え!? 食べてくれるノリじゃないの!? まさか、味付け濃くしてまで食べさせる!?」
本当に俺が塩を取りに行こうとして、青奈が必死に頼んで、仕方なく俺が食べて……。
今日は久しぶりすぎるのが多かったが――
久しぶりに、楽しい夕食だった。
◇
次の日、月曜日。
青奈は何事もなかったように登校し、俺も普通に登校した。
母さんも今まで通りに出勤し、白城家は元通りになった。
学校に着くと……前のように、掲示板に人だかりができていた。
「やれやれ……そういや、今日はイベントがあったな」
クラス対抗魔装法試合。
クラスから、代表三名が武器一つで戦うだけのシンプルなもの。
一年生は四クラスなので、総勢十二名が出場する。
もちろん、戦う相手は同学年だが……どうなるだろうな。
掲示板を覗くと……A組からの出場者に……。
俺の名前は、ない。
自惚れていた訳ではないが、自分は選ばれるだろうと半ば覚悟していた。
陽愛や折木、品沼も確実と言っていたから。
「意外かい?」
後ろからの声に振り返ると、そこには輝月先輩が立っていた。
金曜日の、黒々とした雰囲気ではない。いつもの生徒会長、爽やかな先輩の雰囲気だ。
「いえ、別に……」
「心配するなって。白城くんの実力が、評価されなかった訳じゃない。深い意味合いもない」
ちょっとした動揺を、この人はすぐに見抜くんだな……。
ま、そりゃそうか。
「むしろ、評価されすぎた。君の実力が、生徒会、風紀委員会とも同等とみなされたため、出場させられなくなった」
ああ、そうか……。
品沼とやりあったからな。
生徒会や、実行風紀委員の出場が認められていないと、同様にされたってことか。
過大評価だな。痛み入る。
「ま、応援してあげなさい。君だって、元はそのつもりだったんだろう?」
「今もそのつもりですよ」
俺が返すと、笑って生徒会長は立ち去った。
なるほど……俺としては好都合だ。
だから、俺としては本当に、ただの試合としてしか捉えていなかった。




