第43話 人間だって
こんな非常事態で言うことじゃないけれど、俺もヒーローには憧れた。いや、今だって憧れている。
だから、登場シーンも格好つけたい質なんだよな……陽愛の時も、そうだったけど。
それが、ヒーロー気取りなだけだったとしても。
それでも……そんな俺を、格好いいと言ってくれた人がいた――
「お……お兄ちゃんっ!?」
青奈が驚いた顔をして固まった。他の研究者も同様に固まっている。
しかし……一人だけ、何の反応もしない男――初老の男は、俺をチラッと見ただけだった。
俺はその全てを無視した。
「なんだかんだ言って、俺とか家族のことを気にしてる、心配してる。そのことで不安があって、他人からの分かりやすい嘘だろうと鵜呑みにする」
俺は青奈を真っ直ぐに見つめて、喋り続ける。
「その解決のためになら、自分が犠牲になってもいいって思ってる。でも陰では泣いてるのに、強がって頼ろうとしない」
やっと研究者たちが構え出し、動き出す。
それでも、俺は青奈だけを真っ直ぐ見る。今回の事件は……俺の責任なんだ。
だから、これだけは言わなければいけない。
「最終的には、自分が嫌われて解決しようとする。結局、自分で勝手に、いいか、って納得する」
戸惑う青奈の目を、俺は真っ直ぐに見つめる。
「いい訳ないだろ」
ずっと……言いたかった。
いや、言わなければいけなかったんだ。
「あれ――」
例え伝わらなかっとしても、伝えなければいけない。
「――青奈。お前、昔から変わってないじゃん」
人間じゃない?
そんなことねえよ。不死鳥の魔法がかかる前と、お前は全く同じだよ。
「俺が知ってた頃の青奈で、俺が知ってたハズの青奈で、俺が今も知ってる青奈だよ」
一歩前に出る。
泣きそうになりながら、青奈も俺に歩み寄ってくる。
「なんだよもう、泣きそうになっちゃって……それじゃあ、教えてくれ。誰が、お前を傷付けたんだ?」
全く……気取った台詞、気取った登場……本当に、ヒーロー気取りだよ……ったく。
でも――だけどな。
小学四年生ぐらいの頃、男子の上級生が青奈を苛めてた現場に、俺が登場した時……青奈は言ってくれたんだよな。ヒーロー気取りに。
格好良かったよ、って。
「……あの……人、たち……」
泣きながら言って、抱きついて来た青奈を、優しく受け止める。
子供のように泣きじゃくって……よっぽど不安で、怖くて、悲しくて、辛くて、寂しかったんだ。
誰にも相談できず、何も伝えられず、何も言えなくて……。
「辛かったよな。俺が何も気付いてやれなくて、向き合ってやれなくて、本当にごめんな」
声を上げて泣きながら、抱きついたまま微かに首を横に振る。
「でも、俺のために、犠牲なろうとまでしなくていいんだよ。そんなことまで、俺のために頑張る必要はないんだよ」
青奈の頭を撫でながら、俺は優しく言う。
ヒーロー気取ってるけど、俺は本当に駄目な奴だよ。
一番近くにいたハズなのに、何にも気付けず、相手のせいにして向き合うことを放棄し、逃げ出した。
「お前は人間だ。怒るし、傷付くし、泣くし、寂しがるし、強がるし、誰かを守ろうとして戦うし……お前は、立派な人間だろ」
正直なところ、感情があれば人間だとは、そんな綺麗事を無責任に言えるほど、俺は強い奴じゃない。
だから……無責任じゃない。
言ったからには、絶対に責任は持つ。責められても、背負う。
強い奴じゃないけど、せめて、格好いい奴でも我慢してくれ。格好つけてる奴で、なんとかさせてくれ。
絶対に、綺麗事じゃない、本当の心で言う。人間だって。
「それにさ、お前は笑える。なんかこの頃、見てなかったけどさ……お前の笑顔、可愛いぞ」
そう言うと、青奈は顔を上げて……本当に久しぶりに、俺を見て笑った。
涙に濡れた笑顔だったけど……最高の笑顔だった。
「家族ごっこは終わりかい?」
青奈の後ろで、ずっと見ていた研究者たちが不意に言葉を発する。
「実験台だから傷付けないようにしてたけど、もう済んだなら――」
「黙れ」
マジで言えば、こいつらがさっきの感動シーン中に何かしてきても、対応できる余力はあった。
だから、別にいつでも良かった。
妹を苛めた奴らを懲らしめるのは、いつでも構わない。
「……待ってろ」
まだ少し泣いている青奈を、俺は後ろに移動させる。そして、壁の陰に隠す。
「お兄ちゃん……」
心配そうに見上げてきた青奈の頭を、一回撫でて、俺は研究者たちへと向き直る。
「麗しき兄妹愛か……見ていたくもなかったが……」
「うるせえぞ。容赦はしねえからな」
喋りだした一人の男の言葉を遮り、俺は拳銃を抜き放つ。
俺は……キレている。
九対一なんて、とても余裕な状況じゃないが……妹の敵、というか代わりだからな。
「来いよ。実験、付き合ってやる」
挑発した瞬間、近くにいた女が一人、俺へ飛び掛かって来た。
手には……魔装法用でもない、本物の黒光りするナイフが一本。
「あまり、調子に乗るなッ!」
……残念だったな。
全員で攻撃、連携されれば勝てなかったが、所詮こいつらも研究者。
決闘者じゃない。
「甘いんだよ……」
一瞬の内に、女は地面に倒れた。
ナイフが当たる前に、女の右手首に、俺が下から素早く腕を強くぶつけた。
それによってナイフは飛ばされ、右腕は上に払われ、左腕だけ残る。その左腕を掴んで、足を払って床に叩きつけた。
これぐらい、俺が今までやってきたことの初歩だ。
「どうした? 遠慮してんのか?」
俺が更に凄むと、近くにいた男が二人、ビビって後ずさる。
その一人に、風魔法を使った銃弾を撃ち、大きく一回転させて吹き飛ばす。
すると、さすがに他の奴も攻撃に出てきた。
最初に部屋にいた女の一人が、銃を抜いて俺に撃ってくる。急いで弾道を読み、防御魔法を集中させて腹部への二発を防ぐ。
そこにすかさず、男が一人飛び込んで来て、下から鉄棒のような武器で殴りかかってきた。
俺はその攻撃を右踵落としを被せ、強制的にキャンセルさせる。そこから間髪入れずに、左足で横から攻撃魔法で蹴り抜く。
「三人……」
呟きながら、俺は左腕でナイフを抜く。
移動魔法で近付き、ビビっていた男にナイフで一撃、雷魔法を使って昏倒させる。
「こいつ……属性魔法を二つ……!」
驚いた近くの男を、ナイフで攻撃する。
しかし、防御魔法を使った腕などで上手く防御される。
こいつ……戦うのが上手いな。
後ろからの攻撃に気を付けながら、俺はその男を追い詰める。
左手でナイフの連続攻撃をかけながら、パラで三発撃ち込む。
すると、移動魔法を上にかけ、大きく飛び上がった。
その後ろから、女が一人、俺に拳銃を向けている。
「チッ……! いちいち上手いなッ!」
俺も移動魔法で上に飛び上がる。
しかし、これではただの的だ。
なので……風魔法で移動する。横に風で動き、飛び上がっていた男を殴りつけて、下にいた女に叩き落とす。
「うわッ……!」
押し重なった二人の上に、更に風魔法で落下加速をかけた蹴りを入れる。攻撃強化も使ったので……むしろ、死んでないかが心配なぐらいだ。
背後から迫ってきていた女には、前を向いたままパラで一発。
雷魔法で感電させて倒す。
「さて、と……」
俺はとりあえず武器をしまって、残った二人を睨む。
「あんた達はどうする?」
残ったのは、隠し部屋にいた男が二人。
柴山と、初老の男だけだ。
どちらも冷静で、戦う気配はない。……今のところは。
柴山は眼鏡を取ると、磨いて喋りだした。
「ん~……やっぱ強いよ、お前。非力な研究員の俺たちだけど、七人一斉に倒せるもんかね?」
「実際倒してんだろ。さて、どうすんだ」
こいつらを許す気はないが……戦う意思がないってんなら……。
ちょっと痛めつけるだけにしとこう。
「さて、と……」
柴山は眼鏡を掛け直し、俺に向き合う。
「昨日の続き、やる?」
「戦うのは、賢明じゃないんじゃねえのかよ」
一瞬で移動魔法で距離を詰め、柴山とぶつかる。
右膝蹴りを入れるが、いつはめたのか左手のメタルズハンドで止められる。
そこに至近距離から発砲するが、見事に躱される。
制服から放電し、柴山に攻撃するが、バックステップで避けられる。
確かに……この放電攻撃は、範囲は狭いが……。
「この間合いなら、分かってんだろうな!?」
銃口を向け、風魔法を使って三発撃ち込む。
「……サイクロン」
呟いて、更に二発撃ち込む。
柴山は防御魔法を使いながらも、威力は封じられずに……後方に吹き飛んだ。
なんだ……? 何か、違和感が……。
「お兄ちゃんっ!? 上っ!」
突然の青奈の声に……慌てて上を向く。
そこには……昨日もやられた、鉄片が大量に飛び散っている。
マジで……いつの間に……?
抜け目ねえどころじゃない……こいつ、幻惑魔法まで使えんのか!?
そんな風に、俺の頭はフル回転で動いているのだが……体は縫い付けられたように全く動かず……鉄片が爆発魔法で弾けるのが見えた。




