第3話 人助けと言うからには……魔装法対決
面倒事だけは避けよう。何があっても、隠れてこの場をやり過ごそう。
そんな俺の考えを打ち消すように、その声は響く。
「――お願い、助けて!」
ハハッ……笑えねえ……ここで登場するような馬鹿はいない。
いたら本当に馬鹿だ。ヒーロー気取るなよって感じだ。そんな奴がいたら、そうだな……なんて言って馬鹿にしよう?
「お前はいつまで過去の出来事を引きずって、人助けなんてしようとしてんだ……!」
俺はダンボールの陰から姿を現し、口論――男子生徒がかなり暴力的に出ているが――する二人の前に立つ。
いきなりの登場に驚いた二人は、一瞬止まる。
「ええと……その……なんつうかさ、嫌がってんのに無理やりってのは、ちょっと……。それに、腕掴んで声荒げてたら、捕まるよ……?」
格好つけて登場した割に、少し人見知りの俺は、引け腰に男子生徒に注意する。
ああ……マジ格好悪い。ちょっとでもいいから威勢良く言えば良かった。
「なっ……なんだ、お前! お、お前には関係ないだろ!」
男子生徒はなんとか状況を飲み込み、反論してきた。すげえありきたりな台詞だ。
さすがに生で聞くのは初めてだけど。
女子生徒は、ポカンとしている。ちょっといきなり過ぎたか?
「俺たちはこれで関係成り立ってんだよ! お前が横から言うことじゃ――」
「いやいやいや、まず会話が成り立ってないだろ、おい。てか、スルーしてたけど、腕掴んだ辺りからお前の言動むちゃくちゃだったぞ」
思わずツッコミを入れる俺。馬鹿だ。清々しい程に馬鹿だ。
男子生徒は俺に台詞を遮られ、まともなことを言われ、口をパクパクしている。
すると、乱暴に女子生徒の腕を離し、ポケットから切れない仕様――つまり魔装武器用のナイフを取り出す。
「えっ!? あれっ!? 使用許可申請は……」
「馬鹿か! それはもう入学手続きの時に、一つだけ申請可能だっただろうが!」
な……なにいいいいいいいいいいい!?
嘘だろ……見落としてた……適当に書いて、戻ってきたら空欄埋めようと思ってたのが、文字通り馬鹿を見た。
既に敗北感……。
「まさか……魔装武器が……ないの……!?」
腕を乱暴に離されてバランスを崩した女子生徒が、地面に倒れた状態で、俺に驚きの声で聞いてくる。
俺が自分の失敗に呆然としながら首を縦に振る。
「に、逃げて……! 魔装武器の有り無しじゃ、勝負にならないよ……!」
それは分かる。言われずとも。それこそ一般常識だ。
魔法発動には何も必要ない。
しかし、魔法効果には武器や道具がいる。
戦闘では、安全性を上げるには魔装高校の制服は便利だが、それが一方的な攻撃ならば、制服の防御魔法も気休め程度だ。
なぜなら……ダメージを受けるだけなのだから。
それでも……逃げない。
助けを求める人の前で逃げ去るのは、最低なことだ。
てかよ、ここまで格好つけて登場しといて逃げるってどうよ?
「悪いが逃げねえよ……? こんな奴、魔装武器なんて無い方が丁度いい」
強がって、男子生徒と相対する。
一瞬、全員が動きを止めた。
そして、その次の瞬間に男子生徒が動く。
左手を前に出し、素早く何かを描くように指を走らせる。
次にコンマ何秒の速さで、右手のナイフを横に払う。
そのナイフの先端から、光の粒子のようなものが刃の形で飛び出した。
ナイフでも、遠距離戦が可能――魔法を使った戦いでは、そういうことだ。
しかし、前にも言った通り、魔法の種類と人に相性があるように、魔法と使用武器にも相性がある。
元々は近接武器のナイフに対し、遠距離系の粒子攻撃は相性がいささか悪い。
ま……様子見の初撃だろう。
俺はそれを、跳んで躱す。二メートルぐらいの高さで。
実は……前に話した、訓練の結果に可能になる、あれができる。
脳内イメージ。
名称として、思考発動だ。
利点は言うまでもなく――発動スピード、切り替えが早いことに尽きる。
その分のイメージ力は必要だが、それこそ訓練だ。
今使ったのは、ほとんどの人間は可能で、初歩的な魔装法。
移動魔法だ。
上靴に魔装力を集中し、魔装法発動。
上への加速移動をした。
「チッ……! 思考発動が使えるのか……!」
男子生徒は苛立ちを募らせた顔で、俺を睨む。
既に、思考発動ができるかできないかで、実力差はあるのだ。
「最初に言っておこうか……今なら、行き過ぎた行動は慎み、彼女にも乱暴などをしないと約束すれば、この場は収めよう。さっきのも、彼女には悪いが見なかったことにする。どうだ?」
俺は地面に着地し、自信に満ちた声で言う。
まあ、最初から負ける気はしていないが、今の一瞬だけで実力差は分かった。
勝てる勝負は強気……これが人間なんだ。俺だけじゃないぞ。むしろ俺は今、人間の性格を代表しているのだから、褒めて欲しいぐらいだ。
しかし、相手はそんな俺の余裕の態度を見て、更に怒りを募らせたようだ。
「ぐっ……ふ、ふざけんじゃねえ!」
男子生徒はつま先を何回か床に打ち付け、移動魔法を発動した。
移動魔法のような初歩的で簡単な魔装法は、魔法式も単純なものでいい。
男子生徒はかなりのスピードで俺に近づきながら、左手で空中に魔法式を描く。
俺も精神力を少し多く使って、移動魔法を使用すれば逃げられるだろうが、あえてそんなことはしない。精神力がもったいないだけだしな。
ちなみに、疑問に思った人もいるかもしれないので補足するが、魔装力は消費しない。あくまでも魔装法の効果に関係しているだけだ。これについては、俺が紛らわしかったな、うん。
ただ、イメージで魔装法を発動するのと同じで、魔装力は精神力に関係する。魔装法を使い続ければ、精神的に疲れてきて、魔装法が使えなくなる。だから、消費と同じようなものである。
さて……少しだけ、バックステップで距離を調節する。
アリーナを見に来る一年生がそろそろ来る頃だろうし、騒ぎを聞きつけられたり、先輩方に見つかっても笑えない。
強引に決着をつけるか。俺は武器がないしな。
俺は制服――ブレザー――を素早く脱ぎ、相手の近接魔法に対抗する。
相手の近接魔法は、先ほどよりは威力も高めだが、攻撃力を上げてリーチはそのままだ。
ギリギリで見切ったが、これは基本能力を底上げするだけで、特殊な追加効力はない。
余裕だ。
横薙ぎの一閃を、なんとか動体視力だけで対応し、制服を広げて受け止める。ちゃんと防御魔法を発動したので、切り裂かれずに済んでいるが、衝撃は強い。
それでも魔法効果が切れるまで耐え、素早く制服の両袖をクロスさせてナイフに巻きつける。
男子生徒は、どうなるかさすがに分かったのだろう。焦ったようにナイフを引き抜こうとする。
この勝負はもらった……高校生活最初の戦いにしては虚しい感じがあったが、怪我なく無事に終わりそうなのでいいとしよう。
「ロープ」
俺が言うと、制服は完全にナイフを縛り上げて無効化した。
技名のように言っていたが、思考発動のできる人間には結構大事で、イメージ力の増幅に繋がる。俺は短く適当に仕立てている。
そして、制服を引っ張り、ナイフごと回収。無装備の男子生徒に腹に、そっと足を当てる。
「……シャウト」
俺の足……正確には靴から風が巻き起こり、圧縮されて男子生徒を豪快に吹き飛ばした。
風魔法は俺の得意魔法の一つだ。主魔法として使っている。
大きく吹き飛んだ男子生徒は、床に身体を打ち付けて……動かなくなった。
え……おい……嘘だろ? まさか、事件になるのか……巻頭記事を飾るのか!?
近寄って確認したら気絶中。
危ねえ……ノリで犯罪者になるとこだった。
大きく息を吐いて、制服を広げる。絡まっているナイフを男子生徒のポケットに適当に入れて、制服を着る。
「やばいな……青奈の奴、またカップラーメンで昼飯を済まそうとするんじゃねえか……」
腕時計を見ると十一時半に差し掛かる頃だ。
さて、どうしよう?
「あの……」
後ろからの澄んだ声に驚いて振り返ると、そこには手を胸の前で組んでいる、戸惑い顔の女子生徒がいた。完全に忘れてた。事の張本人なのに。
忘れてたって……俺は途中から意味なく戦ってたことになるんだな、認識上。
「その……ありがとう……ございます」
少々もたついた感じで礼を言い、頭を下げてきた。
いきなりの展開で、ずっと戸惑ってたもんなこの子。
「別に……いいよ。それに、俺も一年だし、敬語とかいらねえからね」
俺はやはり人見知りなのだろうか? 上手く喋れてないぞ。
その時、大勢の人の声。遂に一年生がやって来たようだ。この遅き登場ということは、どうやらアリーナの前にどこかへ行っていたようだ。
とことん俺の行動は一般から離れてしまっているらしい。
女子生徒は、さすがにこれ以上厄介な事にならないでほしいという感じだ。確かに、俺たちが見つかったら色々と面倒だな。気絶している男子生徒は……仕方ない、見捨てるとしよう。自業自得だ。
「……よし、こっちだ」
俺は女子生徒の手を握って非常口へ急ぐ。
「え……あ、うん……」
いきなりだったので驚いたらしいが、とりあえず非常口を開けて、大勢の一年生に見つかることは避けられた。
さて……この後どうしよう……。
女子生徒のことも放っておけない俺は、とりあえず外からもう一度校舎に戻るため、女子生徒の手を引いて下駄箱に向かうのだった。