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第38話 会合

 

 俺は青奈の部屋の前で座り込んだまま、しばらく動けなかった。

 母さんが帰ってきた音で、ようやく立ち上がる。

 青奈に何かを言おうとしたが……駄目だった。俺には、気の利いた言葉どころか、簡単な慰めの言葉も出なかった。

「何かあった?」

 母さんの言葉に、俺は黙って首を振った。

 さっきの会話だけで、とても疲れた。とてつもない倦怠感が身体にまとわりつき、心も身体も重い。

 携帯にメールが届いたようだが……それを取り出すまでに、少し時間をかけてしまった。自分の部屋に入って、携帯を開いてメールを確認する。

「……あれ?」

 そのメールは、身に覚えのない番号からだった。

 こういうケースには慣れている。いや、通常慣れることもできないケースだけど……まあ、色々と。

 大体は俺のトラウマになることばかりだったんだけどな。

 件名はなし。

「なんだ……これ……」

 内容を見て、俺は一人呟いた。

 アルファベットと数字が並んでいるだけ。意味が分からない。

 

 ……いや、待てよ……これって……?

 

 その時、電話がかかってきた。品沼からだ。

「もしもし―――」

「あ、繋がった。ごめん、代わる」

 俺が要件を聞くより先に、品沼は一方的に言うと、相手が代わった。

「白城か。悪いな、品沼を使っちまって」

 相手は……生徒会長、輝月先輩だ。どうやら、シリアスモードらしい。

「この前、お前に魔装法暴乱事件について話そうとしたよな」

「……ええ」

 このタイミングで、その話を持ち出してくるか。

 確かにそうだった……その時は、俺が勝手にキレて、勝手に暴れそうになったんだけど……。

「ちょっと話があるんだが……今から、学校近くのファミレス、来れるか?」

 その場所は知っている。

「……分かりました」

 そこで一旦通話を止め、母さんに出かけると言って外へ出た。

 

 ◇

 

 数分後、ファミレスだが……。

 凄まじい絵面になっていた。

「……え、ええと……」

 手前側に、輝月先輩と品沼、そして俺が座っている。

 その向かいに、水飼先輩を含む女子三人が座っている。

 残りの女子二人は、副会長である三年生の羽堂(はどう)今晴(ことは)先輩と、書記である二年生の吉沢(よしざわ)静河(しずか)先輩だ。

 つまり……第三魔装高の生徒会役員が揃っているのだ。

 さすがにビビった。

「すまない、急に呼び出してしまって」

 挨拶もそこそこに、輝月先輩が謝ってきたが……正直、どうでもいい。

 まさか……こんな形で、全メンバーと対面することになるとは……。

 とりあえず、圧倒されて固まりきる前に、本題に入ろう。

「それで……話って?」

 俺が聞くと、品沼が答えた。

「今、裏で魔装法暴乱事件の関係者が動いているんだ」

 きっとそれは……フェニックスプロジェクトの関係者だ。

 話を輝月先輩が引き継ぐ。

「まあ、それだけなら俺たちが動かなくてもいいんだが……微々だが、各魔装高に影響を与えている。そこで、調べたんだが……先代の生徒会長が関わっている、という話が出てきた」

 ……なるほどな。

 第三魔装高校の、先代の生徒会長の名は――白城(・・)白也、俺の兄さんだ。

「しかし、先代は今、行方不明っていう話だ。普通の事態じゃない。そこで……元同級生として、鷹宮陽毬さんと話をさせてもらった」

 そう言えば……陽毬さんと兄さんは、同世代だ。

 よくよく考えれば、元同級生ということに気付いてもおかしくなかったのに。

 だからこの前、水飼先輩は、陽毬さんと接触しようとしていたのか。

「陽毬先輩は、何も知らないと言っていたわ」

 羽堂先輩が嘆息混じりに言った。

「あなたと鷹宮陽愛が知り合っているのは、ただの偶然じゃないと思っていたのだけど」

「もし、偶然じゃないなら……俺は掛かっただけですよ」

 断じて、俺は仕掛けた側ではない。

「まあ……白城くんを呼び出したのは、聞くためだよ」

 品沼が、いよいよ本題というように話し出した。

「白城くんも、お兄さんの行方は知らない。けど……白城くんの家自体が、魔装法暴乱事件に関わってるよね? ……なんで、三年前の事件の当事者たちが、魔装高を狙うのか……その理由。分かる?」

 フェニックスプロジェクトのことは……話せない。

 そうすれば、俺の身体の魔法についても話さなければいけなくなる。

 それは……無理だ。

「……いや、分からない」

 そうか、と残念そうに呟く品沼。生徒会役員が黙り込む。

「入学してからですね」

 いきなり、今までドリンクバーの飲み物を飲んでいただけの吉沢先輩が喋った。

「今の一年生が入学してから……白城さんが入学してからです。そして、小さな事件については不明ですが……この前、生徒会長と風紀委員長が暴れた時の侵入者、あれは白城さんが捕まえたと聞いています」

 抑揚のあまりない声で、淡々と告げる。

 俺は思わず眉をひそめた。

「彼が、会長の命を狙っていたというのもあるらしいですし、あれは重要事件でしょう。それを加えて考えると……どうも、白城さんは中心にいるような気がするのです」

 さすがに、何も知らないとは言えないかもしれない。

 メンバーの人選としては、バランスがいい。

 こういう風に、冷静に分析する人間は必要だろうな。そして何より、会話のテンポが変化するから、こっちの調子が崩される。

「……分からない……けれど……少しは知ってます」

 俺は意を決し、吉沢先輩を見る。

 しかし……吉沢先輩は、俺が話すことを決めたと分かって、視線を落とした。そして再び、ドリンクバーのオレンジジュースを飲みだす。

 え? 俺、嫌われてる?

「ああ、クローバーくん! 気にしないで! 静河は、人見知り激しいんだよ――それより……知ってることって?」

 さっきまで自分もドリンクバーのジュースを飲んでいた水飼先輩が、急に声を上げた。あのハイテンションな声から、いきなりシリアスモードだ。

「……はい。まず、三年前の事件の研究者ですよ、色々仕掛けてきているのは。彼らは――何らかの目的があって、邪魔者の排除や、研究に必要な人間に接触しているんです」

 一旦話を切る。

 ここは慎重に話さなければいけない。

「目的は、分かりません。調べて知っていると思いますが……俺の父親が、魔装法研究者なんですよ。俺と兄さんは、父親の研究所に入ったこともありますし、それについての話も聞いたことがあるので」

 目的はおそらく――

 不死の魔法、神話の生物――神話の力などを行使すること。

 ……これは、話さなくともいいだろう。

 いや、話すべきではない。

 それに俺は……妹である青奈が関わっていることを伏せている。

「すみません、あまり役には立てないです……」

「いや、それより」

 俺が話を終えようとすると、急に輝月先輩が喋りだした。

「俺は……白城兄弟が、三年前、どんな風に事件に関わったのかが知りたい」

 場が……静まり返る。というよりは、そうなってしまった。

 一番恐れていた質問――俺の雰囲気が一瞬で変わったからだ。殺気とも呼べる気配を、俺が全身から放つ。

 それを感じ取って、生徒会の面々の雰囲気も変わり、身構えたようになる。

 唯一、のんびりと構えているのは輝月先輩だけだ。

「落ち着けよ。俺は学校に何があっても守る、守りきる覚悟がある。目的云々は、襲って来た奴を捕まえて吐かせればいい。でもなあ……」

 落ち着いた、しかし、周りを縛り付けるような声で続ける。

「先代の生徒会長――お前の兄貴と、お前に起こったことは分からねえんだよ。調べても出てこない……どころか、政府にまで守られてる情報、究極の重要機密(ブラックボックス)って訳だ」

 そうか……そういうことか、この先輩……!

 確かに、三年前の事件について、俺に話を聞くというのは正しいだろう。

 けれど、わざわざ放課後に、ファミレスにまで呼び出す理由が分からなかった。

 確信はないのに、生徒会メンバーを揃えてまで話を聞く理由……それは、俺から情報を聞き出すため。前に話を切り出した時は、俺が勝手にキレて駄目だった。だから、今回は……実力行使になっても聞き出すつもりなのだ。

「それを……俺が話す義務は、あるのか?」

 俺が重い声で言うが……輝月先輩は動じない。

「実際、それを聞くためだけに呼び出したみたいなもんだ。どうなんだよ。それを聞けば、奴らの目的だって分かるかもしれねえしな……お前が言う理由としては、充分じゃねえか?」

「だから……なんだ」

 さすがに、一戦交えるつもりはない。

 五対一で勝てる訳がないだろうし、ここで戦うのは他の人にも迷惑だろう。

 移動魔法などで……振り切って逃げる。

「ああ、それと」

 重い空気の中、一人だけ違う空間にいるように、軽く……輝月先輩が言葉を紡ぐ。

「お前と兄貴だけじゃなくて、中学生の妹も(・・・・・・)、だよな?」

 バアァッン!!

 俺の制服から風が巻き上がり、周りのメニュー表などを吹き飛ばす。

 隣の品沼に風が吹きつけ、テーブルも浮く。

「おい……なぜ……」

「それぐらいまでは調べてるっつうの。落ち着けって」

 全員が一斉に立ち上がる。

 他の数人の客も、驚きの眼差しを向けてきた。

「ふ、ふざけんな……青奈は……関係ない」

 俺がなんとか風魔法を抑え込みながら言った。

 武器を抜かないようにしながら、俺は必死に考える。

 今、青奈を危険に晒すような……傷付けるようなことはするべきじゃない。誰かに明かすような……明かしていいような、秘密じゃねえんだよ。

「ま……言いたくないってんなら、そこまで強要はしねえよ」

 さすがに揉め事は気が引けたのか、輝月先輩が話を引っ込める。

「……失礼します」

 俺は席を立ち、振り返らずにファミレスを出た。

 ……この時から、静かに何かが動き始めていたことを……知る由もなかった。

 

  

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