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第36話 素人決闘

 

「なんか……面白いことになったらしいね」

「全くもって、面白くなんかねえよ」

 教室で、俺は品沼と喋っていた。

 残り少ない昼食休憩を、品沼と駄弁って過ごしているのである。

「売り言葉に買い言葉だよな……何やってんだか」

 俺も正直、他人のことを言えたもんじゃないが……。

 粗方、事の経緯(いきさつ)を品沼に話して、俺はため息をつく。

「僕も君がやってきたことを全て把握してる訳じゃないからね……どこで、そんなに人気が出たのかは分からないよ」

 品沼はニコニコと笑って、意味がよく分からないことを言う。

「いやさ……瑠海の性格的に、ああいうことを言い始めたのは分からないでもない。でもさ……陽愛と折木があそこまでムキになる理由が分からないんだ」

 率直な疑問を口にすると、品沼は呆れたような感心したような顔をした。

 そして、一人頷く。

「なるほどね……こりゃ怒るよ。でも人って……ここまで鈍感というか……無関心になれるんだね……」

 一人ブツブツ言うのはやめれくれよ……味方がいなくなっちまう。今のところ、お前が最後の砦だ。

「そりゃ友達としてはさ、いきなり他の奴と親しくされても困るだろうけど――」

「待ちなって……当人からすると、分からなかったりするんだろうよ?」

 俺がとりあえず考えていたことを言おうとすると、品沼は苦笑いで遮ってきた。

 少なからず嘆息している。

「僕も経験はあるけどさ……それは、小学校の頃だよ? もう、高校生なんだし……」

 あ、こいつ本当に呆れてやがる。

 人がマジで困っているというのに……分かんねえかな?

「結局はさ、どうしたいの?」

 品沼の問いに、俺は真っ直ぐ答える。

「そりゃあ……三人仲良くしてもらいたいよ。戦いなんて、殺伐としたこととかやらずによ」

 品沼と戦いたがってた自分の過去を棚上げして、至って平和的な希望を口にする。

 丁度、昼食休憩の終わりを告げる鐘が鳴った。

「それなら……傍観者としてでも、なんとか割り込んで、どうにかするしかないよ」

 品沼はそう言うと、そっと立ち上がった。

 それぐらい、分かっている――ハズだ。

 いや、つもりだ、か……つもりじゃ、駄目なんだろうけど。

 

 ◇

 

 五、六時限目もなんとか終わった放課後――俺と品沼、そして、例の女子三人は、アリーナにいた。

 俺だけでは不足と、仲介役などとして、品沼を呼んだのだ。瑠海とは親しくないが……陽愛と折木とは親しい。そこは、少し公平さを欠くという意見もあったが、生徒会役員という肩書きで信用してもらった。

「ルールは昼に話した通り……単純(シンプル)な魔装法による戦闘」

 瑠海が確認のために言うと、陽愛と折木は頷いた。

「……ねえ、いいの?」

 隣に立つ品沼が、俺に小声で囁いてきた。俺が介入する気ゼロなのに、少し驚いているらしい。

「……しゃあねえだろ? 本人たちが戦る気なんだから、思う存分やってもらうしかない」

 そこで、一旦息を吐く。

 二対一……瑠海に圧倒的に不利な条件で、優遇(ハンデ)さえない。

 当人たちは武器を出す――折木以外は銃だ。折木は、小型ナイフを両手に持っている。授業でも、俺が少しは手ほどきをしたのだが……どうやら、銃の扱いは苦手らしい。

 しかし、器用なことに、両手で持ったナイフをそれぞれ複雑に動かせる。そこで、あの戦闘態勢(スタイル)なのだ。

「……もちろん、大怪我しそうになったら止める。そこも助力……頼むぞ」

「……白城くんは、どっちが勝つと思ってるの?」

 品沼に問いに、俺はため息をつく。

「すぐ、分かるさ」

  

 始め!

 品沼が声を張り上げる。

 一斉に動き出す。陽愛も折木も、俺が手伝ったことで、簡単な思考発動は出来るようになった。

 しかし――

「ほらっ!」

 左右に別れた陽愛と折木ペアだったが……瑠海は慌てず、後ろに下がりながら陽愛に銃を向ける。

 銃を持たない折木なら、ある程度の接近は許せるという判断だろう。射程距離に捉え、ナイフの攻撃範囲の外から、地道に崩す狙いのようだ。

 陽愛は左右に小刻みに動いて、相手に照準を合わせないようにする。その内に折木は急いで近付いていこうとしていた。

 確かに……二人の動きはいい。

 けれど……言いにくいが、素人にしては、だ。

 やはり、二人は戦いには慣れていない。魔装法の実技授業だって、そこまで積極的には参加していなかった。

 対する瑠海だが――

「ふうん……打ち合わせは、してきたってか感じかな」

 余裕だ。

 折木も同じ中学で通っていたが……瑠海とは別クラス。

 瑠海は翌年には転校したし、面識はない。

 いや、転校しなかったとしても、中学では実戦なんてほとんどない。

 だから……知らないだろう。

「でもね、私に勝てるほどじゃないよ」

 瑠海は不敵に笑って、クルッと横に回る。斜め後ろから迫ってきた折木を躱し、逆に、その後ろに回り込む。

 上手い……陽愛に攻撃されないよう、折木を盾にした。

 折木も急いで振り返ると、サイドステップで飛び退く。陽愛が攻撃できるように射線を通したのだ。

 けれど、それでは駄目だ。

 陽愛は急いで銃口を向けるが、瑠海の方が早い。

「ハッ!」

 短く気合を出すと、瑠海が引き金を引く。それと同時に、横に跳んで倒れる。

 陽愛も引き金を引いたが、銃弾はギリギリで瑠海を掠る程度だった。

 しかし、瑠海の銃弾は陽愛の左肩に命中する。

「うっ、あ……」

 陽愛は痛みに慣れていないのだろう……少しぐらついて、なんとか踏みとどまる。

 倒れた状態からすぐさま立ち上がり、瑠海は折木から距離を取った。

 あいつは……なんだかんだ言って、実戦練習をしている。

 それに――まあ、俺に近付くためだったかどうか考えないでおいて――戦闘方法を俺に教えてくれと頼んできたことがあった。それに対しては、俺は快く応じていたのだ。

 それでも、強いかどうかは別だが……相手は、陽愛と折木。

「陽愛……!」

 折木は、陽愛に駆け寄ろうとしてしまったが……そこはなんとか自制して、瑠海に向き直る。

「ナイフじゃ……ねえ……?」

 瑠海は少し馬鹿にしたような口調で折木と対峙する。

 両手(デュアル)ナイフ……折木が使うなら(・・・・)、これだが……引っ込み思案な折木には、そもそも接近戦は向かない。

 つまるところ……折木は戦闘に参加しないタイプ――非戦力的な女子だ。

 それでも折木が勝てるとしたら、だが……。

「たあっ!」

 陽愛が発砲した。さすがに避けられず、瑠海は左足に被弾する。

 それでも瑠海はすぐに立ち直り、移動魔法で陽愛に近付く。

 二人が至近距離から何発か撃ち合うが……瑠海は、元々当てるつもりはない。自分に当たらないように誘導しながら、近付いていく。

 そして、組み合って背後(うしろ)をとる。

「……あれって――」

「ああ、俺が教えた」

 品沼が気付いたようなので、俺は先に言う。前に授業でやったからな。

 接近に持ち込んでから、柔らかく相手の後ろをとる……俺が教えた、瑠海の得意技だ。

「くっ……」

 陽愛がなんとか振り払おうとするが、後ろから羽交い締めにされている。

 まあ、さすがは女子の筋力か……瑠海では、抑えるだけで手一杯だ。

 銃が、思うようには使えない。

「……!」

 折木は移動魔法で近寄りながら、瑠海に攻撃を仕掛ける。右ナイフを斜め上から振り下ろす。

「おっと……!」

 瑠海は急いで左腕を挙げて、防御魔法でガードする。

 しかし、その一瞬の弛みで陽愛が技から抜け出す。

「桃香!」

「うん!」

 陽愛は一歩下がって、瑠海に銃口を向ける。

 折木は瑠海の後ろに回ってから、両手のナイフで突き技を繰り出した。

 即座に瑠海は銃を下から上へと振り、陽愛の銃口を逸らす。更に、右脚で軽く折木を蹴りつけて、攻撃を止めさせる。

「まだ……」

 陽愛は左腕で瑠海の銃を叩く。

 攻撃魔法を使っていたのだろう――予想外の威力で、瑠海の拳銃は叩き落とされる。それと同時に瑠海は陽愛の拳銃を殴りつけて落とした。

 後ろからの折木の追撃に振り返るが……間に合わないと判断したのだろう、防御態勢に入る。

 けれど……折木の特徴(・・・・・)からすると、無理だな。

 パンッ! という音と共に、折木の左ナイフの柄が瑠海の胸を強打する。

「えっ……!?」

 痛みでよろめいたところを、陽愛に後ろから無理やり倒されて――もう、終了だろう。

「ほら、やめだ」

 俺が駆け寄ると、品沼が続けて走ってくる。

 折木の特徴……加速魔法。

 移動魔法とは違って、加速魔法というのが存在する。

 移動魔法は、移動の補助……加速魔法は、加速の補助……何が違うかと言うと、微妙だ。

 言うなれば、移動魔法は初速が早く、短めの動きに対応する。

 加速魔法は、ある程度の動きの後に急激な加速などをさせる魔法だ。そのある程度の動きは人それぞれだが……折木は、移動魔法が長く続かずに、自然と加速魔法が出来るようだ。

 結構、構造が違っているらしく、俺も少しだけしか使えないんだが……。

「ま、まだ……!」

 瑠海は立ち上がろうとする。

「もう決着だ……お前らの場合は、早く止めるに越したことはない」

 初心者(ビギナー)だと、ちょっとした怪我じゃ済まなくなる時があるからな。

 負けず嫌いというのも分かるが……二対一だしな。よくやっていたよ。ぶっちゃけ、俺は瑠海が勝つと思っていたしな。

 まあ……折木の加速を考えずに、防御魔法が間に合わなかったのは残念なとこだ。

「……桃香ぁ!」

 陽愛が折木に抱きついている。

 折木の方は……複雑そうだが、まあ、少しは笑顔だ。

「それで……黒葉とは、どういう関係なの?」

 陽愛が唐突に切り出した。

 ああ……そういや、そんな戦いだった気もする……。

 瑠海は悔しそうにしながらも、口を開く。

「私は……黒葉の……彼女」

「おい」

「と、言いたいところだけど」

 俺がツッコむ前から決めていたらしく、ちゃんと言うようだ。

「普通に……友達。中学校時代からの、ね」

 その言葉で陽愛と折木は、良かった……みたいな感じで目を閉じた。

「私も……黒葉の友達だよ」

「……うん……私も」

 二人も、何か吹っ切れたと言うように教えている。え、結局はそうなるのか。

 なんか……ただの、仲直りのための喧嘩だったみたいだ。

 ま、直り(・・)、というよりは、作り(・・)、だったけど。

 俺はホッとしながら、なぜか馬鹿にしたように笑いかけてくる、品沼の視線をやり過ごすのだった。

 

  

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