表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/219

第35話 女子の思い

 

 屋上にて――俺は、日本人離れした外見の美少女に抱きつかれていた。

 知らない奴から見れば、甘い展開に見えるかもしれないが……そんなことはない。断じてない。

「離れろってば! 誰かに見られたらどうするんだよ!」

 俺は必死に引き剥がそうとするが、無邪気な――本人からしたら純粋な――女子相手なので、乱暴にも振り払えない。

「いいよ、別に。中学時代と違って、隠すようなことでもないでしょ?」

「いや、隠せよ! 性格(キャラ)が違い過ぎだろ!」

 ニコリと笑うその顔は、とても可愛らしいのだが……俺では対応しきれない。

 てかお前、中学時代だって隠し切れてなかったからな? お前が去った後のクラスの、俺の扱いに困る感すごかったからな?

 そんなやり取りで争っていたが、遂に、想定しうる最悪のパターンがきてしまった。

「黒葉……? いるの?」

 屋上の扉がガチャリと音を立て、ゆっくりと開く。

 その声の主は……陽愛だ。後ろには、折木もいるらしい。

 錆び付いた動きで、俺がゆっくりと、首だけ動かした。

「……あ……え……ええと……」

 そこには、固まっている二人の姿があった。

 作った笑顔で止まっている。というよりも、死んでいる笑顔だ。

「いや、違うんだぞ!? これは違うんだ!」

 俺がよく分からない弁解をするが……二人の表情は固まったままだ。笑顔で。

 瑠海は……二人に見向きもせずに、俺に抱きついたままだ。というか、俺が固まっている隙に、更に密着してきている。

「……へ、へえー……知り合いって……そういうことかー……」

 陽愛は表情もそのままに、ほとんど棒読みで言ってきた。つまり笑顔だ。

 ああ……こんなお約束展開になるとか、こんなところだけ忠実にならなくてもいいんだぞ……女子のみなさん。

「これは……その……勘違いで! そう、勘違い!」

 俺はとにかく必死になるが、自分で何を言っているか分からない。ボキャブラリーが、どっかの金髪に吸い取られているんじゃないだろうか。

 上手い言葉が出てこない。

「……そういう関係の……女の子が、いたんだ……」

 折木が聞き取れない声量で何かを言っている。少し笑顔で。

 なんか恐い……お願いだから、話を聞いてくれ。

「あの」

 いきなりの声。瑠海だ。俺に甘えてくる声じゃない、低く、不機嫌そうな声。

「すみません……私が戻ってくる(・・・・・)前に、黒葉がお世話になったみたいですが――」

 やめろよ……? これ以上、火に油を注ぐなよ……?

「――今、いいところなので、邪魔しないで頂けませんか?」

 油どころか、火薬ばら撒いたんじゃねえか!?

 爆発してねえか!? 炎上してるだろ!?

 焼け死んじゃうよ!? 主に俺が!

「「「………………」」」

 その場に居た、瑠海以外の全員が無言だった。さすがに、笑顔はもうない。

 空気が張り詰めている……と言うよりは、死んでいる。主に俺が死んでいる。

 こいつ……本当に変わらない。俺に近付く女子を、友達関係だろうと、嫌って潰しにかかってくるところとか。

「……戻ろうか、桃香」

「……そうだね、陽愛」

 二人はそれだけ言うと、百八十度方向転換をして、屋内へと戻っていった。

 ……ヤバい。あれ、人を殺す目してた。ちなみに、人と書いて白城黒葉と読む。

「これで邪魔者はいないねっ」

 あくまでも無邪気に笑いかけてくる瑠海……こういうことをされても、やっぱり、俺は怒れない。

 だけど……。

「悪いけど、今は待っててくれ」

 制服から少しだけ風を吹かせ、その力と合わせて、瑠海を身体から離す。

「わっ、わぁっ……」

 妙な力で身体を移動させられた瑠海は、少しグラつている。

 それを少しだけ支えて、ちゃんと立たせた後、俺は屋上の扉に手を掛ける。

「本当は、お説教しなきゃいけねえけど……それより、あっちの方が先だからな」

 俺が背中越しに言うと、瑠海は寂しそうに言ってきた。

「やっぱり……会わない内に、嫌いになった? 迷惑……だよね?」

 ふう……と、俺はため息をつく。

 分かってる……瑠海に、悪意はない。俺に好かれようとしているだけで、悪意はないし、それ以外に他意もない。その目的のために、ついつい悪い行動さえしてしまうのだ。こいつは本当に、純粋が過ぎる。

 正直、迷惑だったし、久しぶりに体験しても、やっぱり迷惑だと思ってしまう。

 だけど……友達として、嫌いにはなれない。人として、好きだとしか思えない。だからといって、さっきのような態度を、許す訳にもいかない。

「嫌いになんか、なれるかよ」

 俺にはできないこと……お前は、俺にできないぐらい真っ直ぐだ。純粋で、一直線で、だから横槍のように、周りの人間を見てしまうことがある。

「迷惑だ、なんて中学の時から言ってんだろ」

 そりゃあ、そうだよ。限度を知れ。

 というか常識を知れ。俺の限界値を知ってくれ。

「それでも、お前は折れなかったし、今だって折れない奴だろ」

 ったく……どんだけしつこいんだ。俺に魅力なんて無いだろ。

 一体どこに、惚れる要素があったのか。

「だから、今だけは言う」

 泣かれるかもしれないけど……それも、俺の好きな、お前の真っ直ぐさだ。

 俺は、お前を泣かせない方法は取れない。昔も、今も。

「迷惑だから、今は(・・)追うなよ。お前も、考えてかないといけないだろ」

 俺は屋上を後にした。

 

 すぐに陽愛と折木を探したのだが、見つからなかった。

 まあ……結局は二時限目、教室で会えるのだが……話す機会はない。

 ちゃんと戻ってきた瑠海は、泣いてはいないようだったので、ひとまず安心した。

 でも、転校初日からこれじゃあ、ちょっと大変かもな……。

 

 う~ん……どうしよう。

 休憩時間どころか、昼食休憩さえも、陽愛と折木に避けられていた。

 どこにいるのかも分からず、話すことさえできない。

 瑠海は、何人かの女子と談笑しながら昼飯をとっている。

 あいつはなあ……威張った態度は取らないし、普通に性格がいいから、クラスに馴染むのが早いんだよ……俺に近付かない女子には、攻撃的にはならないし。

「まあ……あいつは大丈夫っぽいし……問題は、二人だが……」

 俺は呟きつつ、購買の焼きそばパン片手に教室を出ようとした。

 すると、後ろから声がかかった。

「白城くん、どうしたの?」

 いきなり挫かれたので、ガクッと膝を軽く折りながら振り返る。

 品沼だ。

「なんか、今日は忙しないよね」

「あ、ああ……陽愛と折木を探しててな」

 そういや、今日は品沼とは全然喋ってなかった……色々と手一杯だったからな。

「え? そういえば、今日は二人とも、元気なかったよね……」

 その原因なんだよ、俺。後、無関係っぽく飯食ってる瑠海も、だけど。

 とりあえず教室を出たいと思っていると、品沼が再び口を開いた。

「今ならきっと、食堂だよ? さっき、向かっているのを見たもん」

「……品沼。お前の情報力は素晴らしい」

 俺は親指を立てて、その場から走り去る。

 思わぬ有力情報で、一気に時間短縮。食堂へと向かう。

 マジで移動魔法などを使いながら、猛スピードで食堂へと突入する。

 そこには、昼食を摂ろうとしている二人の姿があった。

 小さな二人用のテーブルに、向かい合って座っている二人の横に、俺が止まる。

 二人とも、一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに怒ったような顔になって、昼飯のかき揚げ蕎麦へと向き直った。

「お、おい……二人とも、朝の出来事は誤解であって……」

「なんのことでしょうか?」

 俺は、とりあえず誤解を解こうと話し始めたが、即座に陽愛に遮られた。

 え、いやいや、怖すぎるんですけど?

「何を言っているのか分かりません。朝に何かありましたっけ?」

「さあ……? 私も……身に覚えがないよ?」

 折木まで冷たい声で言っている……うう……泣きそう。目に光がない。

「ほら、ボーッとしてないで、彼女(・・)の所に行ってあげたら?」

 やっぱり、誤解してんじゃん。そこが問題なんだ。

 てか、なんでこんなに怒ってんだろう? 不純異性交遊だと怒っているのか?

「彼女じゃねえって! だから、誤解なんだよ……それに、なんで怒る必要があるんだ?」

 真面目に疑問に思ったことを言うと、二人は顔を見合わせて、同時にため息をついた。

「それが分かってないから……こうなってんでしょうが……」

「なんで……気付かないんだろう……本当に……分かってないのかな……」

 俺って、重要なところが分かってないのでしょうか?

 なんだろう……女心は分からないです。分からないから、こうなっているのかというと、微妙なところではあるが。

「友達だろうがなんだろうが、ああいうところ(・・・・・・・)を見せられたら……ねえ?」

 陽愛が俺を諭すように言ってきた。

 う~ん……とりあえず、蕎麦が伸びるぞ、とか言ったら怒られそうだな。考える時間稼ぎがしたいのに。

 勢いで二人を探してしまったが、よく考えていなかった。 

「何を話してるの?」

 不意の後ろからの声に、俺は驚いて振り向く。

 そこには……瑠海がいる。事の張本人。

「おい……今は追ってくるなって――」

「ああ、丁度良かった。あなたの話だったんだ。黒葉との関係、教えてもらっていい?」

 俺の言葉を遮って、陽愛がなぜか挑発的に言う。

 ていうか、その話なら俺がしようとしてるじゃん。なんで無視するの? いじめか?

 どんだけ信用してないんだよ。

「……そうだね……黒葉くんは、女の子関係じゃ信用ならないもん……」

 折木も挑戦的だ。

 ん? なんか……失礼な発言をされなかったか? 地味に傷付くのだけれど?

「いいよ?」

 瑠海があっさりと答える。

 しかし、その目はいつもと違う。攻撃的な視線。

「黒葉と親しそうだから、気になってたんだ……そっちも教えてもらうよ」

 まあ、女子同士で丸く収まってくれたら……と、俺は思っていたのだが……。

「ただし、私と魔装法を使った勝負をして、勝ったらね」

「は……はい?」

 言われた二人じゃなく、俺が驚きの声を上げた。

 魔装法での……勝負、やんの? お前らが? んな馬鹿な。

「いいよ。だけど、ルールとかはどうするの?」

 陽愛が即答。折木は喋らずに頷いている。

 え? いいの?

「二対一で結構ですよ。相手が戦闘不能になった時、決着」

 シンプルなルールだけど……。

「お、おい……三人ともやめろよ……。そんな大げさにする話じゃ……」

「「「黙ってて」」」

 三人から同時に制された。さすがに黙る。

 あの折木でさえも、強気で言ってきた。怖い。

「これは……私の戦いだから」

「苦手だけど……負けられないの……」

「これは女の戦い。黒葉でも、邪魔することは許さない」

 陽愛、折木、瑠海が、それぞれやる気満々に言葉を発している。

「絶対に……黒葉は渡さない」

「黒葉くんとは……ずっと……同じ学校だったんだし……私が一番長いんだよ……」

「黒葉は、私のものよ」

 あれ……?

 なんか、変わってないか? 色々と。

 戦う目的が変わってきている……ていうか、本当にやんのかよ? おいおい……。

 

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ