表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/219

第33話 実技授業後

 

 真面目に保健室に行ってきた。

 そこまで大袈裟にするほどじゃないけれど……あの、空気から逃げ出したかったんだ。うん。

 クラスメイトに見せてしまったからな。まだ全力とは言えないが、属性魔法使っちまったなあ……ううむ……。

 回復系の魔法を使われたけど……面倒だ、とか言われて、途中で止められた。後は包帯巻いて完了とか言われたぞ。職務怠慢だろ。

 大丈夫か、この学校は。

 

 四時限目が終わるにはもう少しだけ時間があるので、アリーナへと戻る。

 そこには……へたりこんでいる品沼がいた。

「お、おい……大丈夫か?」

 俺が近寄ると、品沼が僅かに顔を上げる。

「うん……疲れたから、さすがに休ませてもらってるんだ……」

 そりゃあそうでしょうよ。

 マジで苦しそうなんで、俺は離れておく。

「なかなか見物(みもの)だったぞ」

 突然の声に横を見ると、美ノ内先生がパイプ椅子に座っている。

「……冗談はやめて下さいよ。世界はこんなもんじゃなかったんですよね」

 俺はニコリともしない先生の顔を見て、ため息混じりに言った。

 実際、学校内ではトップじゃねえか? この先生。

 万全ではない品沼と俺の戦いだ……属性魔法を使っていたとは言え、世界まで行った魔装法使いに褒められるものじゃない。

「いや、謙遜するな。一年であの戦いはなかなかだぞ」

 どうやらお世辞でもないらしいので、一応頭を下げる。まあ、この人がお世辞を言えるような性格には見えないが。

 こちらも休憩中のクラスメイトたちの方に戻る。

「黒葉……怪我、大丈夫?」

 陽愛が俺に気付いて、そっと声をかけてきたので、俺は右手を広げて見せた。

「まあな。今までの怪我に比べたら、全然大したことねえよ」

 実際そうだよな。

 普通に腹を撃ち抜かれるし、全身打つし……結構ボロボロだよ。俺の高校生活はボロボロだよ。

「もう……授業なんだから……あんまり、無茶しちゃ駄目だよ……」

 折木に珍しく怒られる……ので、反省。

 ああ、この反省パターンはやめた方がいいな。控えめ過ぎて、怒られている感じはしないんだけど。

 なんだかんだで、残りは休憩で四時限目も終わったので、俺たちは教室へと戻った。

 

 ◇

 

 結局、全員戦えなかった。

 そりゃそうだよ!

 というツッコミはおいといて……品沼が本当に疲れていたので、保健室へと運んだ。俺が脇から支える感じで、もう引きずるように。

「品沼くん……大丈夫かな?」

 折木が、いちご牛乳を飲みながら心配している。

 俺も心配だが……精神的疲労なので、大丈夫だろう。

「それにしても、クラス代表は決まったのか?」

 全員戦ってない訳だし、決めるのは少し難しいか。

「まあ……黒葉は決まりだよね……」

 陽愛の呟きに、俺が固まる。

 コーヒー牛乳がなかったため、代わりに飲んでいた缶コーヒーを口から離す。

 なんとか口の中のミルクパンを飲み込んだ。

「いや……え? マジで?」

「そりゃそうでしょ? 生徒会メンバーの品沼くんと、あそこまで張り合ったんだよ?」

 確かに、そういう目的での戦いだったけどさ……俺としちゃ、品沼と戦いたいだけだったんだぞ?

 う~ん……そうとは思ってくれないか……いや、そうでしょうけども。

 仕方ない。

 もし、選ばれて戦うことになったら、潔く戦うさ。

「ま……なるようになるさ」

 ボヤくように言って、俺は缶コーヒーを飲み干した。

 

 ◇

 

 魔装法を使ったことによる精神的疲労、特に属性魔法によるものは、かなり回復しづらい。

 通常は、自分で感じられるほどは疲労しないし、感じられるほどまで使用すれば、無意識にストッパーが効く。頭が勝手に止めるのだ。

 しかし、それは通常魔法に限る。

 通常魔法は、精神的にも、脳内的にも、あまり負荷を与えない。そこまで集中しなくても使用できるからだ。

 属性魔法は違う。

 大きく言ってしまえば、通常魔法と属性魔法は、魔装法というだけの共通点しかないのだ。

 大きく違う点といえば、通常魔法は主に補助魔法で、属性魔法は独立した魔法ということ。属性魔法は自然的エネルギーを含んでいるものがほとんどだ。

 手助けさせる力というのは、言ってしまえば、それだけ(・・・・)では意味がない(・・・・・・・)ということだ。移動魔法があっても、移動するものがなければ意味はない。

 属性魔法だって、何かを経由させることに変わりはない。それでも、属性魔法だけで充分に意味はある。

 この、二つがなぜ、ここまで違うのかは分からない。

 使えること自体が未だ不明なのだ。魔装法そのものが。

 イメージして、物に纏わせることにより、その力は顕現する。それだけが分かっていることなのだから。

 話がずれたが……分かるだろう。

 補助するだけか、そのもの(・・・・)を出すかの、どちらが疲れるか。

 簡単で、少しずつ疲れていく通常魔法と違い、大きく疲れる属性魔法。それも、属性魔法は自然的なために、自分の感覚にも干渉される。

 人の危険信号は鈍り、本当に危険な状態になった時にやっと、魔装法が使用できなくなる。

 もちろん、それも例外はあるのだが……今回の品沼は、これに近い。

 そのため、品沼は五、六時限目の授業には参加していなかった。

 

 ◇

 

 五、六時限目の授業も終わり、俺は保健室へと行こうとする。言うまでもなく、品沼の様子を見に行くのだ。

 すると、丁度良く、廊下で品沼と出会った。

「もう、大丈夫なのか?」

 責任は……美ノ内先生にあるだろうけど……その一端が、俺にないとも言えない。明らかに、俺もやり過ぎた。

 ちょっと引け目を感じながら言うと、品沼はニコリと笑っている。

「うん。保健室の先生……えと……園田(そのだ)先生? あの人は、精神的回復魔法も使えるんだね」

 そうなのか……すげえ。精神的回復魔法とか、生半可な魔装法使いじゃないぞ。

 肉体的回復魔法だって、使うのは難しい。

 あの女の先生……若くて荒っぽそうなのに――俺なんて、治療が面倒だとか言われたのに――結構な実力者なのか?

「まあ……大丈夫だってんならいいや。生徒会も大変だな。業務外でも使われるのか」

 俺も、生徒会長をやっていた人物を知っているしな。その姿を見ていたってことで、組織に入るのが嫌いになったほどだ。指示するのもされるのも、相当に苦労する。

「まあね……一年で入るって決めた時は、覚悟していたよ」

 苦笑いする品沼に、俺も苦笑いで返した。

 

 一年の玄関を通って、品沼と外に出ようとすると……陽愛と折木に、玄関で待っててと言われていたことを思い出した。

「んー……まあ、待ってるか」

 品沼にも事情を説明して、待ってもらう。

「おっと……ちょっとだけ……」

 俺はもう一つ思い出し、階段を駆け上がって二階へ……一年生の教室がある階だ。

 A組の教室が目的ではない。というか、教室も生徒も目的ではない。担任の、狩野(かの)先生である。三十歳ぐらいの、独身の男の先生だ。

 やはり、A組教室を出たところにいた。

「あの……狩野先生。今度、転校生が来ますよね?」

 ほぼ決めつけたように言うと、狩野先生は少し驚いたように頷いた。

「おう。来るぞ? なんで知ってんだ?」

 この先生は、魔装法に関してはあまり得意じゃないらしいが、なかなか良い先生である。お人好しなのだ。

 俺が知ってる理由に関しては伏せておくとして……。

「クラスは、どこに……?」

 心配なのはそこだ。

 出来れば――

「ん? いや~……微妙な時期での転校だしな? 転校っていうよりは何? 親の都合で、入学が遅れたって感じらしいじゃん?」

 いいから言えよ。

 その(くだり)は知ってんだよ。

「今日って水曜日だっけ? えーと……あれ? 明日じゃん」

 ……え?

 いや、ごめん。待って待って。

 ちょっと待とうぜ。いや、待って下さい。

「……明日、ですか?」

「うん、明日」

 な……なんだって……? 聞いてないぞ?

 メールでも、もうちょっとで会える、みたいなことだけだったぞ!? 

「そんで、ほら、微妙な時期だからさ……とりあえずは、A組に来るぞ?」

 ……明日、学校休むか?

 いや、何の解決にもなってない。

「やめて下さい! 転校は仕方ないとしても! A組は! A組へ来ることだけは! お願いします!」

 めちゃくちゃ全力で頭を下げながら頼み込む俺。廊下にいた生徒が、何人か驚いている。

 ええい! 構うものか! 非常事態に体裁を気にする俺じゃない!

「え? いや、なんでそんな拒否ってんの? 可愛い女の子だってよ?」

「関係ないです! てか、やっぱりか! どうか……お願いします! あまり俺に近付けないで下さい!」

「え? なんなの!? 知り合いなの!? なんでそんなこと言うの!? 本人に言っちゃうよ!?」

「それも勘弁して下さい! あいつ、泣いちゃうんで! 結構真剣に!」

「お前、心配してんの!? 拒絶してんの!? どっちなの!? 俺もう帰りたいよ! 定時で上がりたいよ!」

 そんな壮絶なやり取りをしていると、陽愛と折木が教室から出てきた。

「あれ……黒葉」

「どうしたの……黒葉くん?」

 二人が同時に首を傾げている。

 それを、首だけ後ろに回して見つけた狩野先生は、左手を伸ばして助けを求め始める。

「おい、鷹宮! 折木! 俺を助けてくれ! なんか、大変だ!」

「なんか、ってなんですか……」

 陽愛が呆れたように言う。折木は戸惑い気味だ。

「とりあえず、俺の独断では無理だから! んじゃ!」

 そう言うと、狩野先生は逃げるようにして(実際逃げてんだけど)走り去った。

 まだ首を傾げている二人を背に……俺は肩の力を抜いて、ぐったりとなる。かなり取り乱した。トラウマが蘇ったせいだな。

 本当に……あいつは、俺と近付けない方がいいんだぞ……。

 

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ