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第32話 本気勝負

 

 自分としては、魔装法試合なんて参加したくない訳なんだけど……実は、品沼と全力で戦いたいとは思っている。

 今まで、そんな相手は同年代にいなかった。

 いや……違うのかもしれない。

 俺は、無意識に思っているのかもしれない――

 

「……次」

 品沼の短い言葉に、俺はゆっくりと顔を上げた。

 今までは、生徒会に入ってるだけの大人しいクラスメイト。そんな認識しかされていなかった品沼だが……この無双っぷりで、みんながビビっている。

 既に十五人を連続で倒している。

 誰も動こうと……立ち向かおうとしない。

 一歩前に出る。

「……やるんだ。今回は、適当に流すのかと思ってたよ」

 俺の雰囲気を感じ取ってか、品沼が微笑んで言う。

 俺は拳銃(パラ)を抜いて、頭を掻きながら品沼に少しずつ歩み寄る。

「ああ……ま、今回()流すつもりだったよ。だけどさ……ちょっと……」

 三メートルほどの距離で止まり、銃口を向ける。

「楽しくなっちゃって」

 ニヤッと笑って、どちらも一斉に動き出す。

 後ろの陽愛からの、三人じゃなくていいの? という質問を無視し、俺は一発撃ち込む。狙いは肩。

 それを制服の防御魔法(・・・・)で弾かれる。

 単純な基本魔法である場合、その優劣は、魔装力の強さと、精神力をどこまで注ぎ込むのかによる。強化魔法を施した銃弾を制服で弾くには、それなりの魔装力の高さが必要ということだ。

「そうだよな……。どうしたんだよ、俺と本気(マジ)で戦うことはないと思ってたのか?」

 忘れがちだが、魔装法には相性がある。

 そして、属性魔法はそれを合わせるのが難しい。というか、出来ない。

 自然的エネルギーの属性魔法は、人工物的な物との組み合わせの力は無だ。

「それが、よりによって植物魔法。正に自然の力……」

 ナイフを使っての魔装法の多用。

 そんなの、難しい以前に、魔装力や精神力、集中力の消費が激しいに決まってるんだ。

「戦えんのか、よ!」

 移動魔法で小刻みに動きながら、俺は銃弾を何発も撃ち込む。

 しかし、そこはさすが品沼。

 移動魔法を駆使し、一瞬で俺の左側に避ける。右利きの俺にとっては、銃口を向け直し難いし、方向転換なども少し時間がかかる。

「もちろん、本気でかかってきてもらって結構だよ」

 そう言うと、品沼は俺に詰め寄ってきた。ナイフをメインで扱う相手とでは、この距離は不利だ。

 距離を取ろうとすると、何かを投げつけられた。

「……? これ、なん――」

 そこまで呟きながら首を傾げ――気付く。

 これは……マジかよ……!

 丸められて投げられたそれ(・・)は、魔装法の戦いでは、手榴弾なんかよりも威力がある。

 ()、なのだ。

 紙は、木の加工物。つまり、自然的で、更に人工的な道具でもあるのだ。実戦では見ることは少ないが、工夫して戦う人は、現実にいる。

「ちっ! ……でも、忘れてんぜ!」

 俺はバックステップで距離を取りながら、制服から風を吹かせる。

「忘れてないよ」

 品沼は冷静に、風に押されて手元に戻ってきた紙をキャッチする。

 その目は……僅かに、勝利を確信しているように見えた。

「単なる脅しだからね。白城くんなら、下がってくれると思ってたよ」

 カツンと、右脚の踵に何かがぶつかる。

 それは、品沼がさっきまでの戦いで、地面に突き刺したままだった投擲用ナイフ。

「確かに、属性魔法……それも、植物魔法をナイフに使うのは大変だよ。でも……しばらく休ませてもらえば……」

 地面のナイフから(つた)が伸びてきて、俺の両足首に絡み付く。

「それに、さっきまで使ってなかったのは、そのナイフにずっと集中して使ってた(・・・・)からだよ」

 まさか……嘘だろ?

 直接触れているか、触れてから数秒の間だけしか発動しないのが魔装法だが……離れていても、ずっと集中して(・・・・・・・)使い続ければ(・・・・・・)、発動され続ける。

 今まで、ずっと集中してたってのか?

「マジかよ……ありえねえぞ、そんなの……」

 ここぞとばかりに迫ってきた品沼に焦る。

 とりあえず、俺はナイフ自体を地面から引き抜こうとするが、抜けない。仕方なく、銃を収めてナイフを引き抜き、切り裂こうとするが……。

「させないよ!」

 近付いてきた品沼の横薙ぎのナイフを、寸前で戻したナイフで切り結ぶ。

 しかし、両脚が動かせず、バランスを崩して後ろに転倒しそうになる。

 不安定な状態で踏ん張り、押し返そうとするが……品沼は左半身を傾けて、右足蹴りをしてくる。それを、しゃがんでから左腕でガードする。そのまま、右手のナイフで蔦を切り裂こうと試みる。

 その一瞬で……蔦がかき消えた。

「なっ……!?」

 いきなりのことに、再びバランスを崩す。

 そこに、品沼の踵落としが迫ってきた。バランスを崩したことで、右手を地面についてしまったので、左腕を掲げてガードする。

 俺の左腕は……さっきの右脚蹴りをガードしたことも重なって、既に限界だった。

 凄まじい衝撃は、俺の左腕を突き抜けて身体中に浸透する。

「くっ……」

 顔をしかめて、痛みに耐える。折られはしなかったが……感覚が麻痺した。

 左腕から風魔法を使い、品沼を吹き飛ばそうとしたが、その前に下がられた。

 俺は立ち上がった勢いで、そのまま品沼に突っ込む。

 さすがに、これ以上長くさせてはいられない……ナイフで、決着をつける。

 てか、限界なんで、これ以上の植物魔法は勘弁して下さい。

 風魔法をナイフに帯びさせ、自身も移動魔法と風魔法で高速移動する。

 ダメージを無視して突っ込んできた俺に、品沼は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに切り替えたようだ。

 いつもの大型ナイフを構え、右脚を前、左脚を後ろにして構えている。

 さすがに集中力、精神力に、限界がきているようだ。ずっと、投擲用ナイフに意識を集中していたからだろう。属性魔法は使えないのかもしれない。

 それなら……温存していた俺の方が、有利だ。

「ハァッ!」

 俺はナイフを真っ直ぐに突き出す。

 品沼はそれを、俺の右横に一回転して避ける。その勢いのまま、俺の右後ろから大型ナイフを横に振るってきた。

 制服の防御魔法で対応しようとしたが……駄目だ。

 攻撃魔法の更に補助……攻撃特化のみの魔法を張ったナイフ攻撃には、俺レベルの防御魔法では耐えられない。

 当たる間際のギリギリで、俺は魔法を使ったバク転で避ける。

 制服が少し破けてしまったが、今更どうでもいい。

 動作的には遅れてしまうが、左手でホルスターの右側にあるパラを抜く。しかし、それを素早く品沼に叩き落とされた。

 即座に、左手に持ち替えた大型ナイフの突き攻撃がくる。

 俺って……得意っていうか……なんていうか……。

 自分の身を犠牲にする方法っていうか、肉を切らせて骨を断つ戦法ばっかだよ。この頃、本当に多い。

「って……ことで……!」

 自分のナイフを空中に放り投げ、素手で大型ナイフの刃を掴む。

「な……何して……!」

 品沼が俺の予想外の行動に怯む。

 そして……決着だ。

 カキイィィンッ!

 品沼のナイフを、俺のナイフが弾き飛ばした。

 俺はナイフを、ただ放り投げたんじゃない。風魔法を使って、飛ばしたんだ。

 カーブさせるように風魔法を使用して、上からの急襲を狙った。

 刃を素手で掴んでたせいで、俺の右手は結構酷い状態になってるけど……出来るだけ早く放したから、切り落ちるという最悪の結末にはならずに済んだ。

 どちらも武器はない状況だけど……仕掛けてた方は、やることを決めてんだよ。

 近距離の膝蹴りに風魔法を使って、品沼を吹き飛ばす。

 しかし……やっぱ、さすがの品沼だ。

 空中で一回転をして、体勢を整えて着地した。よくもまあ、ぐらつきもせずに、って感じだ。

「そこまで」

 決着とはいかなかったので、俺は追撃態勢をとったが、そこに美ノ内先生の冷静な声が響いた。

 まあ……さすがに、これ以上の戦闘は被害が大きくなるだろうからな。

「悪い、品沼……熱くなり過ぎた」

「いや……僕の方こそ……ごめん。怪我、大丈夫?」

 殺伐とした空気は一瞬で息を潜め、俺と品沼は互いに謝った。

 そういや……ここで勝ってもどうしようもないしな。なんで、無駄に怪我してんだ、俺。

 結局は、品沼も万全じゃなかった訳だし……全力勝負とはならなかったからな。

「んじゃ――」

 俺は静まり返るギャラリー側に戻りながら、右手を見る。

 脚を止めて、回れ右をした。

「保健室、行って来ます」


 

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