第2話 魔装高校始業式
魔法に必要なもの――イメージ。これだけは揺るがない。
しかし、そんなことを言ってみても、結局のところは実戦で明らかになり始めている。
元々、昔の人は魔法というか、不可思議なものに頼ってきた。それが意外にも、本当に行使していたのではないかという考えが出てきた。
いや、そんなものは前からあった。ただ、科学に光が強く当たり始めてから、それは本当におとぎ話で済まされていったのだ。
幽霊や妖怪が跋扈し、それを不思議な力で退治する異能者――
それが、本当におとぎ話ではなく、確かに存在していたものだった……という考えだ。
そのようなものを研究した結果、全ての人間が使えるようになったものが魔法だ。
前にも説明した通り、魔法は誰にでも使え、様々な事ができる。が、人によって魔法の得手不得手が存在する。
そして、近年明らかになったものとして――魔装力がある。
いわゆる、魔力のことだ。
まだまだ不明なことが多いので、魔装力が存在しているかどうかだって、調べるのが大変だったのだ。魔力という言葉は知っていても、それが本当にあるかと言えば、それは断言できなかったのだから。
魔装力は、人に元々ある、魔法を使うための素の力らしい。
しかし、生まれつき弱ければ、一生弱いという訳ではない。魔法を使えば使うほど、その力は少しずつ増していく。まあ、結局は勉強と同じなのかもしれない。
そして、魔装力には属性のようなものがあり――その区別は明らかになっていないが――それに応じて使える魔法があり、使えても効果が制限される魔法がある。
そんなこんなで、便利だったり不便だったりする、武器魔法だ――
◇
校舎内に入り、案内板に従い、一年A組の教室で待機する。
何人もの生徒の喋り声にうんざりしながらも、魔装高校のパンフレットを眺める。
魔装高校の制服には、その造り自体に魔法式が組まれている。
そのため、着用している人間が防御をイメージすると、微弱だが、防御魔法が発動する。
これでなんと、実技部分に関する危険性を回避している。いや、危険なのは変わらないのだが。
そんな感じで、新しいクラスメイトと言葉を交わすこともなく、入学式を迎えた。早くも溶け込めない雰囲気出しまくりだ。
別に……そういう性格じゃないんだけどなぁ~……。
入学式はとにかく面倒……大したことも話されないのに、長々と立たされて……ああ、眠りそうだ……立ちながら。
なんて、新入生の大半が考えていそうな堕落的思考に陥る。
「――この学校は知っての通り、近年に一般化された『魔装法』を授業に多く導入しており――」
この一言に、一年生のほとんどが気を向けた。早く終わってほしいと願っていた、校長の話に。
魔装法――小学校高学年ぐらいから、知識の他に実技も習い始める。それは、予行練習のようなものでしかない。
高校という、社会に出る直前の場所での、実践的魔装法教育――そのための準備運動だった。
遂に……本当の魔法教育が始まる。
結局大したことも言わずに話を終えた校長の次は、生徒会長の歓迎挨拶だ。
再び眠りに逃げ込もうとしていた俺は、その名目で現実に戻る。
魔装高校の生徒会長には、ハイスペックな人材が求められる。
業務に必要な性能、リーダーシップ――そして、魔装法の実力だ。
つまり、魔装高の生徒会長というと、その学校の魔装生(魔装法を習う学生)で、屈指の実力者という事だ。
さすがにトップとまでいかなくとも、トップクラスには入るだろう。
それが、今年はかなりの実力者と聞く。
壇上に上がる生徒会長は、少し焦げ茶色っぽい髪を、僅かに立たせたような髪型の男子生徒だ。
それが振り返った瞬間、驚いた。
かなりの美形だ。目をスッと開き、今から喋るという雰囲気を出している。目には温かみがあるが……その裏では、色々な考えを持っているのだろうと感じさせる瞳だった。
「新入生、入学おめでとう。この学校での活躍を期待します――」
声までもが良く通る。これは確かに実力者だ。
ちょっとした話をして、生徒会長は壇上を下りた。
なるほど……高校にもなると、ああいう人物にも出会えるのか。
確かに、中学と高校では大きく差があるようだ。
入学式も無事終わり、教室に戻ってきた。
明日の説明や、教材の配布などを済ませれば、今日はもう帰れる。
十一時までには家に帰れるだろうか……ああ……そうだ、今日は徒歩だった。
下校時刻は十時三十分頃……徒歩なら約四十分だったしな……それでも昼飯を作るのには充分な時間だろう。
妹である白城青奈も、今日は早く帰ってくるはずである。
あいつに、カップラーメンだけの食生活をさせる訳にはいかないからな……。青奈はある程度の家事はできるのに、面倒がってやらないのだ。
そんなことを気にしていると、実践魔法訓練用アリーナをいつでも使えることが担任の話で分かった。
……昼飯は遅くなるが、覗いてみよう。
諸連絡も終わった十時三十分。俺は訓練用アリーナに向かっていた。
クラスで早くも取り残された存在の俺は、アリーナを見ようとしていたクラスメイトより一足先に辿りついた。よく考えると悲しい。
校舎と渡り廊下で通じているアリーナの扉を開けて中に入る。
圧巻……野球スタジアムの半分……いや、三分の二はあるのか。何もなく、ただ広い。耐久性が恐ろしく高そうな壁と天井……この天井がこれまた高い。
確かに、実践――いや、実戦用だな。
魔装法を久しぶりに試そうとして――やめた。
使用許可申請を出していないため、今は私物の銃がないのだ。
魔装法の戦闘で使う武器として、一番多いのが銃である。
さすがに魔装法だけで威力充分なので、殺傷能力は著しく低い特殊銃弾の使用が義務付けられている。
それがないというのもあるのだが――自分の力を、ここで使いたくない。
自分の中にある、呪いともとれるこの力を、不容易に出したくない。
俺の中にある力……それは、命を巡らせる――
ガタンッ! という音で我に返り、咄嗟に、このアリーナで唯一と言っていい障害物の陰に身を隠した。授業で使う何かの入った、一メートル四方のダンボールの山だ。
別にやましいことはしていないが……一人でただっぴろいアリーナにいる一年生に、いい印象はなさそうだ。
「――だからさぁ……いいじゃん、俺と付き合ってよ」
男子生徒の声……台詞から後一人以上いる。
「だ、だから……私はそういうことは、なんかその……その場の感じで決めたくないっていうか……」
女子生徒の声……かなり迷惑そうな声を出している。
というか……綺麗だな、声。相手の男子のガサガサした声に対し、ガラスを弾いたような澄んだ綺麗な声だった。
「さて、何か揉め事か?」
俺は一人呟き、様子を窺う。出来れば面倒事は避けたい。
入ってきたのは、俺と同じ一年生だ。男女両方。
男子は百八十センチ近い背に、がっしりした体格だ。髪の毛ツンツンしてらぁ。
対して、続いて入ってきた女子生徒は細身で背が百六十ぐらい。長い黒髪は腰に届くストレートだ。小顔で、鼻筋は綺麗にすらっと通り、目はパッチリとしている。口を困ったように固く閉じている。
なぜ俺が、初めて見た女子の外見を詳しく言うかといえば……ついつい見入るような可愛さ……つまり、美人、美少女だったからである。
けれどまあ、俺は色恋沙汰に興味がない。
一瞬だけ、その見た目には惹かれたが、話しかけようとも思わない――
「いいだろ別に! それとも俺には興味ないのか!?」
「ちょ……や、やめて! 腕掴まないでよ、痛い!」
「付き合うってんなら離してやるよ」
「なっ……なにそれ! 酷いよ! たっ……助けて――」
――ただし、こういう場合を除いて、だけどな。