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第28話 恐れていた事態

 

 本当に、これはお節介かなあ……?

 陽愛を遠巻きに尾けながら、俺は首を傾げた。

 自分で勝手に心配して、勝手にやっておきながら、今更ながら不安になる。

「なんか……マジで俺、ただのストーカーっぽいな……」

 呟いて、また不安になる。

 そういや……テレビ番組で、元カノに執着して付きまとう元カレっていうのを、見たことがあるぞ……。

 あの時は鼻で笑ったもんだが、見た目だけなら、今は案外似ている。

 ヤバい、ヤバい。

 十分近く歩き続けているが、俺は自転車を押しながらだ。正直、目立つだろう。

 そろそろ引き上げるか?

 なんか……俺がしてることは、俺の嫌いな過保護っぽいことみたいだし。このままだと、いずれは気付かれるだろうしな。

 俺は、幻惑とか隠密系の魔法は不得手なんだよ。

 そんなことを思っていると、ついに陽愛と古賀島の脚が止まった。

 何が目的なのか、どこに向かっていたのか、影から様子を窺っていると……。

 古賀島が周りを見渡して、二人は道を逸れて行く。

 あれ……? あっちの方には、何もなかったハズだけどな……?

 林に囲まれていて、草むらが広がっているだけの場所のハズだ。遠い昔に朽ち果てた、木の残骸とかはあったかもしれないけれど。

 警戒しながら尾けてみると……そこには、俺の知らない(こんな場所に用があったことはないから、知らないのも当たり前だが)小屋があった。林に近く、影に隠れてよく見えない場所だ。

 どうやら、二人はそこへ向かっているようだった。

 一回……小屋を見て、陽愛の脚が止まり……躊躇ったように見えた。その背中を古賀島が軽く押したので、陽愛は俯きながら小屋に向かう。

 二人が入ったのを見届け、俺は自転車を、小屋から離れた大きな木の近くに停めた。

 慎重に小屋に向かう。

 これって……やっぱり、プライバシーの侵害とかなんだろうな……何やってんだ、俺。

 本当にただ、陽愛の意思で来ているだけなら、俺はそっと帰ればいいんだ。何も、変な目的がある訳じゃない。

 俺はそう決心して、姿勢を低くし、小屋の入口の反対側に回り込んだ。

 小屋、とは言っても、なかなかの大きさではある。小屋にしては、なかなかの大きさってだけだ。それに、古びていてボロボロ。

 この前は廃工場に行ったしな……俺って、そういう場所に縁があるのかもしれない。朽ち果てた場所とか。

 いやいや、嬉しくない。

 壊れている壁の隙間から、そっと中を覗く。

 陽愛は、古賀島と向かい合って立っていた。

「……告白のことなら、断ったでしょ? それなのに付きまとってきて……小屋(ここ)に大人しく来たんだから、けじめをつけてよ」

 やや強い口調で陽愛が言った。

 告白のこと……というと、古賀島に告白されたってことだろ?

 本当にモテるな、陽愛あいつ。

「そう怒るなって。分かってるよ。……それにしても、お前、入学式の日にまで告られたらしいな」

 どうやら、ちょっとした奴には知れてるらしい。ちょっと馬鹿にするように、古賀島がそう言った。

「あいつ……なんだっけかな? お前に掴みかかってきて、返り討ちにされたんだろ? お前のクラスの男子生徒に」

 それは俺だ。俺も知られてた。

 こいつは生半可にも、事実を知っているようだ。

 陽愛がそれを聞いて、少し顔を赤くした。

「だ、だから何? 今は関係ないでしょ? それがどうしたっていうの?」

 ……状況は違うけど、入学式のあの日と酷似しているな。

 言い争う二人、その会話を盗み聞きする俺……うわ、なんか危ないポジションにいる。社会的に。

 とりあえず、言い争っているようなので、陽愛の安全のために待機。

「そりゃ関係ないけどよ……そいつに、俺のことは相談しなかったんだな」

 古賀島が、何故か得意気に言う。

「……それはそうだよ……だって……黒葉には、迷惑かけっぱなしなの。あんたの知らないことで、私が困っていても助けてくれたし……助けられてばっかじゃ……駄目なんだよ」

 長く、途切れ途切れに言った。

 ……そんなこと。

 そんなこと、気にすんなよ。

 なんで、困ってんのに、強がんだよ?

 強くいられない時は、強くなろうとしなくていいんだよ。弱い時は、弱いままでいいんだよ。

「……ふうん。そういう言葉が、聞きたかったんだよ」

 そう言うと、いきなり古賀島が陽愛に掴みかかった。

 陽愛が短い悲鳴と共に、押し倒される。

「じゃあ、お前の面倒な連れはいないし、ここも知らないってことか。なら、邪魔はいないな」

 古賀島はニヤリと笑って、暴れる陽愛を抑え込もうとする。

「いや……! やめて……!」

 陽愛は驚きのあまりか、声が小さい。小さく叫び、という器用な行動に出ている。

 大きくても、こんな場所では、聞こえる人間はいないだろう。

 おいおい……さすがにこれはアウトだろ? 古賀島(おまえ)、警察沙汰だよ?

 むしろ勇気があると言えるかもしれないが、全く褒める気はない。そりゃそうだ、誰が褒める。

 陽愛は今、驚きと恐怖で、思考能力が低くなっている。

 思考発動を陽愛は使えないが……それでも、イメージが重要な魔装法は、これでは使えない状況だろう。

 なんて、冷静に分析してる場合じゃないな。

 ま、この距離だ。相手は油断している二流のクズ野郎。俺が負ける相手じゃない。

「こうなったら、陽愛の貞操のため、俺がヒーロー気取るか――」

 呟いた瞬間、後ろからの殺気を感じて、振り返りながら距離を取る。

 そこには六人の男がいた。

 全員、高校生ぐらいだが……乱れた服装、髪型、ピアス……その他。どこから見ても、不良そのものだ。魔装高の生徒じゃないな、これ。

 一人だけ違うのがいるとすれば……。

「お前……あの時の……」

「久しぶりだな……テメエ……」

 入学式の日、陽愛に告って玉砕、勢い余って暴力――結果、俺にボコられたという、悲しい経歴の一年生だ。

 しかし、何組だったかも憶えていない。というか知らない。

 悲しいかな、俺視点の配役では、脇役といって差し障りない。

 って……そんなことじゃない。

「なんでいるんだよ? 他の五人の方も、息巻いちゃってさ。俺、急いでるから。話なら後で聞くよ」

 このやり取りの最中にも、陽愛の悲鳴、古賀島の声が聞こえる。

 ぶっちゃけ、苛立ってた。

「知ってるさ。だからだろ? 念の為に、俺たちが見張ってたんだが……どうやら、正解だったな」

 ああ、うぜえ。

 人数が多くなきゃ、こんな奴蹴散らすのに。

「残念だが、今回は邪魔させない。お前は、目の前のものを守れなかったという罪悪感でも背負ってろ」

「……いいのか? お前、好きだったんだろ? それに、なんで古賀島に従ってんだ」

 怒りと焦りを抑えて言う。

 勝てるかどうか分からない時は……口で丸め込めるかどうかだ。

「仕方ない。古賀島さんは、俺たちの頭なんだよ」

 特に平均的な体格の古賀島……そいつが、この不良グループ、プラス一人のリーダー?

 ということは、強いのは魔装法を踏まえた戦い、ということだろう。頭が良いようには見えないしな。

「まあ、しゃあないさ。中学からの仲なんだよ、あの二人は。目をつけられてた時点で、鷹宮はこうなる運命だったんだ。ま、見た目はいいんだから、古賀島さんに従っときゃ、不幸には――」

 その台詞の途中で、名も無き脇役くんは後方に三メートルほど吹き飛んだ。

 ニヤニヤしてた五人の不良の顔付きが、変わる。

「……うるせえな。黙って消えれば、何もしなかったのによ……手間かけさせてんじゃねえよ」

 俺が拳銃(パラ)を抜きざまに発砲したのだ。

 残った不良五人が、一斉にそれぞれの武器を構える。

「……邪魔だ。邪魔過ぎんだよ。もう、飽きたんだよ。守れなかった罪悪感? んなもんは、昔から背負ってるんだよ。背負うのには、慣れてんだよ」

 五人が、呟く俺を取り囲んだ。

 パラを握る手に力を込めて、周りに視線を這わす。

「だからってな――」

「うらァッ!」

 鉄棒のような物で後ろから殴りかかってきた一人を半回転して躱し、その脇腹に風魔法を使った脚で蹴りを入れた。

 三人同時にかかってくるのを、俺はナイフも抜いて応戦する。

 攻撃をいなしながら、たまに反撃を加えるが……避けたりするのに魔装法を使うので、テンポがイマイチだ。

 そんな中で、一人のヌンチャクのような武器が、俺の後頭部を強打した。一瞬、意識が遠ざかり、両膝を折るが……その状態から、手だけ後ろに向けてパラの引き金を引く。

 朦朧とする頭で、微妙なイメージだったためか、風魔法が中途半端だった。音で分かるが、決定打にはなっていない。

 まだ……四人いる。

 更に、大型のナイフが俺の左の二の腕を切り付けた。

 そのナイフを……俺は、素手(・・)で掴んで引っ張り、持ち主を近付ける。左の手のひらに、凄まじい痛みを感じた。

 ナイフの持ち主に、こっちのナイフで一撃を加え、風魔法を使用して吹き飛ばす。

「だからってな――罪悪感よりも、何よりも! 助けないハズが! 見捨てるハズがねえだろうがッ!!」


 

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