第27話 何らかの予感
「さっき、お前達のリーダー格……生徒会長を攻撃した生徒がいたろ? そいつは、俺が操っていた」
俺が追い詰めたことで、遂に男が話し始めた。
「まあ、操っていたっていう表現は正しくないな。俺たちの思念を植え付けたんだ。その結果、障害となるであろう人間を攻撃し始めたんだな」
俺たち……?
こいつは、『テンラン』に所属していたんじゃないのか?
それに……障害って、何に対しての障害だ?
「俺は、魔装高内の動きなどの監視を役目としていた」
そして、俺を馬鹿にしたようにフッと笑った。
「『テンラン』が潰れた今、俺が動いている理由だと? 元々俺は、テンランの人間ではない」
なに?
こいつは、誘拐して売り飛ばす女子高生として、折木に目をつけ、尾行していたんじゃないのか?
俺がそのまま口に出すと……。
「表面上はな。それに、テンランなど、俺たちが利用していたに過ぎない。あの小娘どもを誘拐したのは……お前に近付くためだよ」
その後、俺は男を不審者として教師陣に引き渡した。
奴は、自分の組織の名前を口には出さなかった。
しかし……もう、予想はついている。というか、ここまでくれば俺だって察しがつく。
俺に近付くため、俺に親しい友達を誘拐した?
ふざけるな。
そういうのが気に入らねえって言ってんだよ。
「フェニックスプロジェクトの研究者が……!」
俺は自室で一人、怒りの言葉を吐いた。
◇
男を引き渡した後、なんとか巻き込まれずに済んだ、陽愛と折木と共に下校した。
生徒会の方でなんとかしてくれるらしいので、一応今回は、大きく巻き込まれないで済むらしい。
「もう! 危なかったんだよ! 何かあったらどうしてたの!?」
「強くても……危険なことには変わりないのに……! ちょっとした怪我で済んだけど……!」
俺は帰り道、ずっと陽愛と折木に怒られていた。俺が生徒会と風紀委員会の戦いに、割って入ったことについてだ
静かで引っ込み思案の折木が怒っていたので、ここは俺も黙って言われていた。
最後はちゃんと謝って、後は何事もなく談笑していたのだが。
「それじゃあバイバイ。明日、またね」
「じゃ、じゃあね……明日」
「おう、じゃあな」
陽愛と折木、俺は、例の十字路で三方向に別れた。
疲れていたので、俺はとにかく風呂に入り、九時半にはベッドに横になった。
ふと、隣の部屋にいるハズの青奈のことが気になる。
今日……あの男の話を聞いて、考えてしまったからだろう。
青奈は相変わらず、俺には心を閉ざして、まともな話もしてはくれない。
「なんで……なんだろうな……同じ、痛みを味わって……同じように、苦しんでるハズなのに……」
どうしてなんだろう? いや、だからこそなのか?
同族嫌悪なんて、そんな言葉を口にする訳じゃない。それでも……事情を知っている俺に、何も話してくれないのは、そういうことなのか?
「フェニックスプロジェクトの残骸、か……」
それが今、再び起動し始めた。寄せ集めたような欠片の集合が、悪意と欲望を渦巻かせて。
誰が動かしている? どれぐらいの奴らが動いている?
残骸は修復され、繋がれ、作られ、再び構築されている。
俺はひたすら考えていたが……結局、深い眠りへと落ちるのだった。
◇
欠伸をしながら自転車を動かし、魔装高へと向かう。
昨日の戦いのせいで、校舎は結構な少なからずダメージを負っていたハズだが……どうなってるだろうな。
まあ……それよりも、俺は確かめることがあるんだ。
少し早めに学校に着いて、教室で待機する。
そこに……問題の相手――品沼がやって来た。問い詰めないとな。
「よっ……と言うよりも、聞かなきゃな」
俺が真剣な表情で言うと、品沼は苦笑いした。
「別に隠してた訳ではないんだよ。中学の時、会長とは知り合いで……それで、第三に入学してすぐ、誘われたんだ」
知り合い……程度で、生徒会に誘われたりはしないだろう。
中学の頃に、何があったかは知らないが、輝月先輩は品沼を高く評価しているようだ。
「ふうん……そういや、輝月先輩と千条先輩って、昔からの付き合いなのか?」
そこも気になっていた。
同じ中学というなら、知っているだろう。
「うん。というか、幼馴染みたいな感じかな? 昨日の戦いは、二人にとってのじゃれあいみたいなものでね……」
いや、最低限あれがじゃれあいだったとして、そんなノリで校舎破壊しちゃ駄目だろ。それぞれの組織の役員たちも、堪ったものじゃない。
生徒会長と風紀委員長だぞ?
自重しろ。
一応、品沼の説明に納得する態度で、俺は話を終えた。
「そういや……」
携帯を開いて、メールを確認する。
二日前に、あいつのメールがきて以来、以降の連絡がない。珍しい。
「黒葉、おはよう」
後ろからの声に振り返ると、そこには陽愛の姿があった。
「おう、おはよう」
品沼にも挨拶しながら、陽愛は自分の席へと向かう。
その後ろ姿に……何か、暗いものを感じた。
どうやら、思い過ごしではなかったらしい。
俺と折木、品沼の三人で昼飯を食べていたが、陽愛は他の友達と食べるでもなく、一人で食べていた。随分と、お悩みのご様子で。
こっちから誘おうとも思ったのだが、そういう雰囲気でもないしな……。
「……珍しいな。なんか今日は元気ないみたいだし」
「喧嘩したの?」
「なんで俺なんだよ」
俺の一言に、品沼は小馬鹿にしたような返し方をしてきた。口調は至って真面目なのが、どうにも腹立たしい。
「でも……本当に元気ないよね陽愛。どうしたんだろう……?」
折木が心配そうに言うので、俺も更に不安が募る。
昨日、例の男から話を聞いたというのもあり、陽愛のことは心配だ。もちろん折木も。
けれど、俺から人に話しかけるというのは苦手で……結局、そのまま下校時刻にまでなってしまった。
そういえば、中庭と、中庭に面した校舎の被害が、既に修復済みだった。
さすがに驚きだが……そうでもしなければ、生徒会長と風紀委員長の喧嘩という事件が、お咎めなしで済むかは怪しい。お咎めが実際にあったかどうかは、俺の知るところではないのだが。
一方で、輝月先輩を攻撃した三年生の生徒は、正気を失っていたとのことでお咎めなしだった。
あの幻惑男は……その後は知らない。俺も他言無用と念を押された。
まあ、それはおいといて。
放課後すぐに、陽愛の姿を見失ってしまった。
少し校舎内を探したが、見つからない。一声くらい掛けようと、ようやく決心したところだというのに、どうやら遅かったようだ。そりゃそうだ。
しょうがないので、校舎を出て自転車を取りに行く。
自転車を押しながら校門に向かうと、タイミング良くというべきか、陽愛が出て行くところだった。
しかし……そこに、俺は声をかけられない。
なぜって、男子生徒と二人きりで帰ろうとしているからだ。
別に、だからなんだってんじゃない。
俺とは違ってコミュ力? あるし、人付き合いは良いのだから、友達がいるのは当たり前だ。男子生徒だって、俺がいる時点で例外ではない。クラスでもそうだ。
けれど……それでも、違うのだ。
勘違いかもしれないのだが――
入学式の日と、同じ感じがするのだ。
少し困った様なあの顔で、俯いている。
違う点と言えば、唇が引き結ばれていて、何かを決心したような雰囲気もあるということか。
「あれ……陽愛……? なんで……古賀島くんと……?」
気付けば、隣には折木が立っていて、小さな声でそう呟いた。
「古賀島……? 一年か」
「うん……一年C組の、古賀島くんだよ?」
ゆっくりとしたペースで遠ざかっていく二人を、ぼんやりと眺める。
隣で、折木の説明は続く。
「私自身は、面識がないんだけど……陽愛の、中学からの同級生だって」
なるほど……それなら、俺よりは深い関係ではあるハズだ。
一緒に帰っていたっておかしくはない。
それより気になるのは折木の方で……なんで、と言った。
「だって……仲は良くないハズだよ? この前だって……何か話してたけど……陽愛、迷惑そうだったし……」
やはり、入学式の日の時と、陽愛の表情が似ているのは勘違いじゃないのか?
初めて陽愛と出会った……酷い出会い方と同じ……そんな雰囲気を感じる。
「陽愛……前に、告白されたって……言ってたしね……」
そういうことは知っている。見てさえ、いる。
だから……不安なのだ。
俺から見ても美少女である陽愛は、性格だっていい。モテるのだろう。
だから……だからな。
そういう顔してたら、不安になって、心配になるだろ。あの日でもう分かっただろ?
「折木……先に帰らせてもらうわ。明日な」
「……うん。じゃあね……」
折木は早くも察したらしく、それだけ言ってくれた。止める気配ではない。
明らかに、いつも通りではない道を行く陽愛……俺はそれをゆっくりと追う。
思い過ごしなら、ただのストーカーだし、迷惑でお節介野郎だし……マイナスなイメージばかりだ。
「本当……何、ヒーロー気取ってんだって感じだよ……過去に助けてもらえなかったから、俺は助けてやるってか? 思い上がるなよ……馬鹿みたいだ」
自嘲気味に呟いて、俺は自分の頬を軽く叩く。
まあ、俺は馬鹿でもいい。うん、どうせ馬鹿だ。
ヒーローなんてありえないし、過去のことなんて関係ないだろ?
でも、ストーカーだけは勘弁して欲しいな。言い逃れできない状況ではあるのだけれど。




