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第25話 頂点VS頂点

 

 なるほど……感じる。

 

 輝月先輩の火――炎には、周りの物や者、全てを圧倒し、薙ぎ払う力があった。

 もちろん、輝月先輩は人を焼き尽くしたりはしない。

 防御としてだけで使っている。後は熱風を使っているだけだ。

 ということは……もちろん、攻撃に使った時の威力は想像できない。

 それを考えるだけで、戦う気も失せる。というか、勝てないだろ。

 そう思えるし、それは変わらない。

 ハズなのだが……。

 

「なんだよ……あの気配……」

 俺は感じていた。明らかに、輝月先輩に匹敵する力を、目の前の男に。

 そして、それが誰かも分かっているのだ。

「そうだよ……あれが……」

 品沼の声でハッとする。

 

 千条(せんじょう)王牙(おうが)

 

「風紀委員長……!」

 周りを制圧する雰囲気、声、存在感などを持つ人間はいる。

 意外に多く。

 しかし……ここまで、恐怖を覚える人間は久しぶりだ。

 一対一で向き合う事は無理だと……そう、感じさせる。

「よう、鋭間(えいま)。派手にやってんじゃねえか」

 鋭間……輝月先輩を下の名前で呼んでいる。もしや、思った以上に親しい仲なのか?

 それにしても、威圧感というかなんというか……凄まじい。

 輝月先輩と千条先輩。

 炎の中で、ゆっくりと向き合う。

「うい、王牙。久しぶりの揉め事だ」

 輝月先輩も片手を挙げて応じる。

 その言葉で、千条先輩は風紀委員たちを見る。いや、睨む。

「おいおい……どうせ生徒会に言われちまって、カッとして暴れたんだろ?」

 そういや……裏で何が起こっていたのか、俺は知らない。

 何が?

「私が水飼会計さんと言い争っていたんです。それで、他の風紀委員が暴れてしまいました」

 井之輪先輩が物怖じもせず、千条先輩に事情を説明する。

「そうか……ってことは、風紀委員会(こっち)に責任があるか。……なら、しゃあないな」

 そう言うと、千条先輩は風紀委員の面々に向き直る。

 何か……危険な雰囲気が漂う……何か、する気だ……!

「待てよ。生徒会(こっち)にもあるさ、責任の一端が」

 輝月先輩が静かに言い放つ。

 それを聞き、千条先輩はニヤッとして、再び輝月先輩に向き直る。

 俺たちは黙って見守るしかない。

「どうするよ?」

「久しぶりだな」

 既に……二人の間では、俺たちには不明なやり取りで話がまとまったらしい。


 スパアァァァァァァァァン!!

 

 一瞬の炸裂音。

 気付けば、千条先輩が輝月先輩に拳を振るい、それを輝月先輩は止めている。

「一瞬で……近付いた……!?」

 これは、前にも見た。

 輝月先輩が音もなく、俺に近付いて来たことがあるのだ。

 そんな驚きより、だ。

 いきなり二人が戦い始めちまったぞ……!

「白城くんッ! あの二人が戦うんだったら、僕たちは校舎内に入るんだッ!」

 品沼が慌てて、生徒会メンバーと共に校舎内に入ろうとしている。

 俺もとりあえず従う。

 すぐに意味は分かった。

 

「生徒会長として、お前を倒すぞ」

「風紀委員長としては……まあ、やれねえな」

 二人はそれだけ言って、距離を取る。

 先に動いたのは輝月先輩……両手を千条先輩に向け、ソフトボールぐらいの火炎弾を二つ放つ。

 しかし、その火炎弾は届かなかった。二人の中間地点で、弾け飛んだのだ。

「あれって……」

「風紀委員長の武器よ」

 俺の疑問に井之輪先輩が答えてくれた。

 千条先輩が手に握っているのは、鎖だ。長い長いチェーン。

 それを前方に引き伸ばして、火炎弾にぶつけたらしい。

「風紀委員長っていう役職に合ってるイメージの武器だな」

 けれど、あれはあれで使いにくいハズだ。

 いや、使うのが難しいハズだ。

 しかし……千条先輩はそれを……。

「這いよれ、鎖陣(さじん)

 千条先輩の一言と共に、更に五本の鎖が飛び出し、地面を這って輝月先輩に迫る。

「本当……好きだな、それ」

 猛スピードで迫る鎖を前に、輝月先輩は笑っている。制服から炎がほとばしり、合計六本の鎖を焼き切ろうと迎え撃つ。

「そうだけどな……それだけじゃあないんだぜ」

 鎖は……焼き切れていない。

 少し黒くなっているが、焼き切れずに、目標に向かって突き進む。

 まるで、蛇のように……地面を弧を描くように這い進んでいる。

「なるほど……確かに変わったな」

 輝月先輩は少しも焦る様子はなく、むしろ落ち着いている。

 移動魔法も兼ねて大きく前方に跳躍すると、制服などから炎を撒き散らし、それを球状にして自分を包む。

「子供騙しだ」

 球状火炎……防御形態のまま輝月先輩は突っ込んでいくが、そこに鎖が素早く突き刺さる。

 すると、その鎖を伝って、炎が千条先輩に迫る。

 球状火炎が解けた輝月先輩は……鎖を掴んで止めていた。千条先輩は、炎を断つために、鎖を一本手放す。

「なるほどな……焼けなきゃ伝える、か……お前も、寝ぼけてたんじゃないみたいだな」

 そう言った瞬間に、更に五本近い鎖が飛び掛っていく。

 移動魔法で避けながらも、輝月先輩は炎の波をぶつけていく。

 しかし、何本もの鎖を盾にした防御で、それは防がれる。

「千条先輩は、属性魔法が使えないのか?」

「そうよ……使えるようになろうとしてこなかったし、今もする気はない、ですって……」

 それなら、むしろヤバすぎる。

 属性魔法を使って戦っている輝月先輩相手に、特殊な攻撃補助などの魔法だけで、対抗しているのだ。

 鎖を操っているのは、遠隔操作系魔法のハズ。かなり、集中力を必要とするものだ。

 そんなことをあの人は平然と、しかも多くの鎖に、同時に使っている。

 それだけじゃなく、特殊な強化系を使い、普通よりも強い仕様としているのだ。

「てか……止めないんですか」

 俺が言うと、分かってるでしょ? と言う風に、井之輪先輩が鼻を鳴らした。

「見た通りよ。止められる訳……ないじゃない」

 

 二人の戦いは、さっきまでが前哨戦とばかりに激化し始めた。

 輝月先輩は、両手のメタルズハンドに炎を灯して強化する、特別属性強化を使っている。

 千条先輩は、鎖に更に強化をして両手に握る。

 一瞬だけ二人は止まる。

 その次の瞬間には、二人は元いた場所から速攻で移動し、近接戦へと入った。

 千条先輩が鎖牙(さが)(井之輪先輩から聞いたことで、千条先輩用に特殊に作っている魔装法用武器の鎖らしい)を左右から振り落とし、輝月先輩を攻撃する。

 それを、メタルズハンドで装備した両手で受け流したり、時には掴もうとする。

 しかし、掴もうとする度に千条先輩は鎖を手放し、それを輝月先輩の腕に巻き付けようとする。

 千条先輩はどこからともなく大量の鎖を取り出して、左右、上下、斜め……様々な方向から、自由自在に鎖を振るう。

 しかも、二人は移動魔法で高速移動をしながらの戦闘だ。

「精神力の消費が半端ないハズなのに……よく、保ってるな」

「だから、次元が違うのよ。二人は、魔装高の中枢組織の――頂点なんだから」

 確かに、井之輪先輩の言う通りだ。

 一般生徒のほとんどは、既に消えている。最初の見物の時より、遥かに危険な状態になっているからだ。

 千条先輩が、一旦距離を取った輝月先輩を追い、リーチを長くした鎖を左右から思いっきり振るう。

 

 これは……!

 

「しゃがめッ!」

 校舎の反対側で、まだ、心配そうに様子を見ている陽愛と折木にも聞こえるように大声で叫ぶ。

 慌てて、生徒会役員と、井之輪先輩、陽愛と折木、俺がしゃがむ。

 その上を鎖が、校舎の壁を突き破って(・・・・・・・・・・)通過する。

 これはもう……本気で危険過ぎる!

 千条先輩……あの人は、遠隔操作だけじゃなく、両腕の強化をして、自力で振っているのと使い分けてんのか……!?

 そんなの、倍の集中力、精神力を使うってのに!

 輝月先輩は、左右から襲い来る鎖を跳躍で躱した。

 そのまま校舎の壁を蹴って、一瞬で相手に近付く。

 そして……両手を向けて、至近距離から、爆発したのかとも思える火炎を撃った。

 その熱風、余波で、丈夫なハズの校舎の窓が遂に割れて飛び散る。その被害が、校舎二階にまで及んでいる。

 校舎の壁も、鎖でボロボロな個所から砕けて飛び散っている。

「うわ……もっと離れろ! 冗談じゃなく焼け死ぬって!」

 そんなことを全員が叫びながら、なんとか避難すると……。

 

「ハッ……! 忘れたのかよッ……!」

 

 不敵な笑みを浮かべ、千条先輩が立っている。

 校舎さえ、余波でぶち壊す火炎を正面から受け、ガードしている――!

 鎖が三重ほどに巻かれて、千条先輩の前を守っているのだ。

 しかし、その鎖も限界そうだ。

 が、それ以上の防御は必要なかった。

 さっき、千条先輩が言っていた『鎖陣』……それが、地面に埋もれて隠れていたのだ。

 『鎖陣』は、地面から急速に持ち上がり、輝月先輩を四方八方から攻撃し始める。

「会長……!」

 為す術なく、四方八方から鎖に打たれ続ける輝月先輩を見て、品沼が歯痒そうに叫ぶ。

 その時――輝月先輩の左胸を、何かが貫いた。

 

  

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