第23話 新たなる火種
魔装高での個人の魔装武器の使用は3つまでとなっている。
許可申請を出し、許可を貰った3つまでの個人所持武器を使えるのだ。
しかし、この制限が存在しない生徒が一部だけ存在する。
それこそが、風紀委員会実力行使特別許可委員である。 長くて面倒なため、風紀委員のひとまとまりとされることが多い。
現に、特別といえど、風紀委員会の6割がそれだ。残りの4割は、情報の入手、連絡係、雑務などを引き受けている。
生徒からは、実行風紀委員と言われている。
この実行風紀委員だが……風紀を守るため、風紀違反者を取り締まるために、どんな手段を使っても良い。それについて、職員、生徒の親、そして生徒自身から、何も咎められない。
風紀を守るために、風紀から外れた生徒になれるのだ。
◇
今、喧嘩をしていた男子生徒2名を、一瞬の内に倒した女子生徒……井之輪 蛍火先輩。
同じ中学で、その頃から風紀委員をやっていた。
中学では、いわゆる実行風紀委員はなかったため、普通の風紀委員だった。
それでも、彼女の魔装法の実力については、中学の頃から知らされている。
「さて……1年よね? 名前を教えてもらうわ」
倒れた男子生徒に屈んで訊いている。
俺はそこにゆっくりと近付く。
いまや、様子を見ていた生徒達は、風紀委員を恐れて散っている。
「井之輪先輩、お久しぶりですね」
話しかけると、井之輪先輩は顔を上げ、俺の顔を確認する。
さっきまで厳しい表情だったのが、少しだけ和らいだ……気がする。
「あら、白城君じゃない……確かに久しぶりね」
さっきは男子生徒に直接聞いてたのに……今や、勝手に生徒手帳を抜き取り、身元の確認をしている。容赦ねえ。
「あなたが第3に来てたのは知ってたわ。今じゃもう、風紀委員会で有名だからね」
ああ……不良先輩の件か。
仕方ないとはいえ、嫌な感じで有名だな。
「そうですか……それにしても、朝から大変ですね」
周りの生徒が、先輩――しかも、風紀委員――と話している俺を見て、若干距離を置いてる。
ヤバイ……更に孤立しそうだ。
「そうね。どこにでもいるのよ……乱暴な奴とか、色々ね。なんなら、白城君も風紀委員会に来ない? あなたの実力は知ってるし、結構簡単に入れるわよ」
苦笑するしかない。
中学で俺は、ちょっとした問題を起こし、この先輩にいきなりぶっ飛ばされ、そのまま魔装法を使った戦いになってしまったのだ。
その時にも、同じ誘いを受けた気がする。
「遠慮しておきますよ。柄じゃないですしね」
井之輪先輩は分かっていたようで、すぐに頷いて立ち上がった。
「風紀委員室まで運ぶのは大変だし、この二人については報告だけで済ませるわ。それじゃ……」
そう言って、自分で倒した二人の生徒を置き去りに、井之輪先輩は校舎内に消えていった。
さて、と……。
いらん勘違いをされる前に、俺はその場から逃げ出したのだった。
◇
風紀委員が活動を本格化したというのは、1年の間でも知れ渡っていた。
実際、風紀委員の活動は尋常じゃないぐらいに危険な事もある。
教室に入ると、折木が二人の女子と話していた。
一人は陽愛で、もう片方は……分からない。同じクラスのハズなんだけど……。
考えてみれば、折木の席は俺の前だった。
前の奴が休んでても気にしない……こんなんだから駄目なんだろうな~……。
「よう、折木。学校来れたんだな」
俺が後ろから声をかけると、折木が急いで振り返ってきた。
「う、うん……おはよう」
折木らしい、大人しくてオドオドしているような声だ。
どうやら陽愛も折木も、土曜日の誘拐事件からは立ち直ってくれたらしい。ありがたい。
そういや……品沼が来てないな。
いつもなら来てるハズなんだが。
風紀委員が本格的に活動し始めたという事で、もう一つ問題があった。
どこかの小説や漫画と同じで、風紀委員の取り締まりがやり過ぎだと、生徒会が動くのだ。
あくまでも生徒の代表として君臨する生徒会として、厳しい取り締まりに対する生徒の苦情には、動かなければいけないのだ。
しかしながら、風紀委員はその取り締まりをやめるつもりはない。
よって、対立なのだ。
◇
品沼は事情がなんちゃらで遅れるそうで、俺は陽愛と折木と軽く話していた。
HRで、クラス対抗の魔装法試合の出場願の紙を配られた。
もちろん出ないが……見学としては楽しみだ。
その日も適当に授業を流し、昼休みには陽愛と折木と共に昼飯を食べた。
そのまま下校時刻までなって――
「結局、品沼は休みか……」
礼とお詫びがあったんだが……仕方ない。明日にでもするか。
陽愛と折木と一緒に下校する事になった。
「う~ん……最初の一週間だけで、勉強に付いていくのが大変になっちゃたな……」
折木が悩ましげに言うので、陽愛が軽く先週の授業内容を話している。
体の弱いという折木は、風邪のために、入学してから最初の一週間を休んでいた。授業もさほど進んではいないが、それでも大変なんだろう。
そんな感じで、校舎を出た時――
ドオオオォォォォォォオオオン!!
凄まじい音と共に、地面が揺れた。
「な……何!?」
俺が驚きながらも音の方へ走り出す。後ろから、陽愛と折木が付いてくる。
周りにいた生徒も驚いた様子で、音源へと向かう。
音の出どころは中庭だった。
そこには――
「ッ!? 井之輪……先輩!?」
正しく風紀委員の中の実行風紀委員、2年、井之輪先輩だ。
そして、その前には一人の女子生徒が立っている。
どこかで見た憶えが……。
「――だ・か・ら! 君達のやっている事は、風紀を守るためとはいえ、さすがに危険なんだよね!」
井之輪先輩の前の女子が、妙なハイテンションで喋った。
その声で思い出す。
あの人は……! この前の土曜、折木と買い物をした時に、俺に突然話しかけてきた先輩だ!
しかも……あの腕に巻かれてる腕章は……。
「生徒会……?あの、ハイテンションの先輩が……生徒会執行部の人間なのか?」
俺が呟くと、隣の陽愛が答えた。
「今年度の生徒会は、裏で動いてる事が多いらしいから、生徒会長以外はあまり知られてないんだよね……。でも、あの先輩は知ってるよ」
水飼 七菜
それが、あの先輩の名前らしい。
確かに今年度の生徒会は、まだ日が浅いとはいえ、目立った活動はしていない。
俺も生徒会室に入った事はあるが、生徒会長である、輝月先輩以外にメンバーがいた事はない。
生徒会は、生徒会長自らが指名したメンバーでやっているらしい。
よく……後輩とはいえ、あのハイテンションを生徒会に誘えたな……なんであの人かは、全くもって不明だが。
「私達は、風紀に則って動いているだけよ」
毅然とした態度で、井之輪先輩が返す。
冷たい声で周りを制しているが、水飼先輩はお構いなしだ。
「ものには限度ってものがねえ~あるんですよね~」
正反対の二人だが、どちらも邪魔者は寄せ付けない雰囲気だ。
それにしても……さっきの轟音は……?
「いや~さすがに生徒会長と戦うのは無理っすわ」
そう言って陰から現れたのは、風紀委員の男子生徒。1年のようだ。
それから次々と、風紀委員のメンバーが現れる。
人数的には、圧倒的に生徒会が不利だ。
実を言えば、生徒会も風紀委員会も、学校に縛られていない。生徒会の下に属する、委員会も同じだ。
むしろ、縛っている。
生徒会などが、自分達の実力で全てを統制していた年もあったらしい。
そのため、ここで生徒会と風紀委員会の本気勝負が始まれば、生徒会は屈するだろう。
そして、風紀委員は縛られない。
あまりにも学校側に不利な状況を生み出せば、風紀委員会もただでは済まないが、生徒会と揉めるぐらいなら、咎められない。
今や、風紀委員は10人近い……しかし、生徒会としては水飼先輩しかいない。
「おいおい……どういう流れかは分からねえけど、止めた方が良いんじゃねえか……?」
自分って言っておいてなんだが、止められる雰囲気ではない。
けれど、どちらも戦う気が大アリだし、そうなったら生徒会は負けるだろう。それは、色々とまずい。
「待て……意見の食い違いがあるようだな」
声の方を向くと……そこには、輝月先輩の姿があった。
その後ろには、生徒会メンバーと思われる3人がいる。腕章をしているし、まず、間違いないだろう。
その時俺は、その後ろの、一人の人物を見て……驚愕する。
その人物とは……何を隠そう、今日は登校して来てないハズである――
――品沼 悠、だった。




