第22話 鷹宮家での日曜日
なんだかんだ言って、雑談しながら11時にまでなってしまった。
日曜なので、陽愛も暇だというが……これ以上、家にいられては邪魔だろう。
そう思って、俺が鷹宮家から出ようとすると、陽愛が止めてきた。
「もう、お昼だし……用事ないなら、ウチで食べて行って」
用事は皆無だ。
青奈は夕方に帰ってくると言っていたし……母さんも最低5時までは仕事をしているハズだ。
「ありがとう……んじゃ、甘えさせてもらうわ」
俺はそう言って、再びソファに座った。
陽愛が台所に向かう。
陽愛の家はシンプルで、特に目立った家具などはない。台所と言うより、キッチンという方が合っているかもしれない。
「なんか手伝うか?」
一応俺が声をかけるが、すぐに断られた。
「お客様だからね。いいよ、ゆっくりしてて」
そう言うと料理を始めた。
ゆっくりと言ってもなあ……。
とりあえずテレビをつけさせてもらい、ニュースを見る。特に面白そうな情報もないけれど……まあ、少しでもこういう事は知っとかないと。
「何か嫌いな物ある?」
薄黄色のエプロンを着けた陽愛が聞いてきた。
「いや、特にはないけど――あ、エプロン似合ってるぞ」
俺が言うと、陽愛は顔を真っ赤にして、馬鹿にするな! と言ってきた。
えー……馬鹿にしてないんだけどな……思った事をすぐ口に出すのはやめよう。
てか、そのくせして、なんで口元ニヤケてんの?
おっと……これは言っては駄目な雰囲気だな。
少し待っていると、陽愛が皿を運んできた。
その上には、見事に美味そうなオムライスが乗っている。
「おお、料理上手いんだな」
「ま、まあね……食べていいよ」
ソファーから椅子に移り、陽愛を待つ。
2つの皿しかないので、俺は首を傾げた。
「あれ? 陽毬さんの分は良いのか?」
「え? ああ、いいのいいの。お姉ちゃん、疲れてたから、12時過ぎないと起きてこないよ」
さすが姉妹……行動パターンを把握している。
という事なので、お先に俺と陽愛はテーブルにつき、手を合わせる。
「「いただきます」」
スプーンを手に取り、とりあえず一口食べる。
「うん……美味いな」
正直な感想を述べる。
母さんが飯を作るのは希なので、ほとんど俺が作っている。という事は、俺が人の手作り料理を食べる機会は少ない。
「そ、そう? ありがとう」
ニコッと笑いながら、自分もオムライスを食べ始める。
本当に美味かったため、すぐに食べ終わった。
食が進むって、こういう事なんだろうなあ……。
「ごちそうさまでした」
俺は手を合わせて言うと、キッチンに食器を運ぶ。
まだ少しだけオムライスが残っている陽愛は、そんな俺を見て慌てた。
「別にいいよ? 私がやるから――」
「いやいや、ご馳走になってばかりじゃ悪いよ」
洗い物には慣れてるしな。
フライパンと共に、自分の使った食器を洗う。
そこで、陽愛も食べ終わったので、一緒に食器を洗って……昼飯は終わり。
その後も少し喋って、12時に鷹宮家を出る事にした。
「今日はお姉ちゃんが迷惑かけて……ごめん。またね」
「気にすんなって。オムライス、美味かったぜ。ありがとな」
そんなやり取りの後、俺は自転車に乗って家に戻った。
◇
家に帰ってからは、昼寝をして本を読んで過ごしていた。
5時頃に、青奈と母さん、2人がほぼ同時に帰ってきた
母さんが早く帰ってきたので、俺は晩飯を作らずに済んだ。
メールで、陽愛に改めて礼をした。そこでふと、ある事を思い出し、折木にメールをした。
明日は学校に来るのか、という内容だ。
よく考えると、折木は風邪という事で先週は学校を休み、俺と陽愛が見舞いに行ったのも金曜日だ。土日の様子からして、大丈夫だろうとは思ったが……一応聞いておこう。
すると、『うん、大丈夫。明日学校でね。おやすみ』というメールがきた。
そのメールに安心して、9時には布団に入った。
◇
ついに暇だった週末も終わり、月曜日。
自転車の乗り、魔装高へと向かう。
今日は特に誰とも会わずに、すぐに学校に着いた。
すると……外にある連絡掲示板に、軽く人だかりが出来ていた。
俺も自転車を停め、皆が何を見ているのか確認する。
どうやら……クラス対抗、魔装法試合があるらしい。参加者はクラスで3人まで決め、武器一つで順番に戦うらしい。
俺は……出るつもりはない。
他のクラスの人間の実力も気になるが、不容易に魔法を使いたくないし、抑えて戦うぐらいなら最初から出ない。
どうせ、俺はクラスでは目立たない存在のハズだ……心配ないだろう。
「白城君」
突然の声に後ろを振り返ると、そこには輝月先輩の姿があった。
面識はあるが、あまり会っていない。実際、久しぶりに会った気がする。
「おはようございます、輝月先輩。どうしたんですか?」
聞くと、例によって爽やかな笑顔で答えてくれた。
「いや……君はこのクラス対抗戦に出るのかな? と思ってね」
ああ……なるほどね。
おそらく生徒会長は出れないだろうな。
「いえ、出ませんよ。こんなの、クラスの評価を決めるためのもんでしょ?」
俺が少し憎まれ口を叩くと、困ったように頭に手を置いた。
「いやあ……バレバレだなあ。でもまあ、A~D組まであるでしょ? 1年は結構多いよね」
第1魔装高、第2魔装高、第3魔装高と、地域や成績によってランダムに分けられるので、クラスは3クラスまでせいぜいだったりする。
特に、第3魔装高は一番生徒数が少なくなるので、4クラスでも多い方だ。
「そうですね……見てるだけで楽しそうですし、見物してますよ」
そう言うと、輝月先輩は頷いて、業務があるからと去っていった。
人だかりから離れ、校舎に入ろうとした。
その時――
「オイッ! テメエ!」
いきなり人だかりが割れた。
その中で、二人の男子生徒が組み合って喧嘩を始めていた。
こういう事は珍しくもないが……魔装法も使っているし、危ない雰囲気だ。
「ったく……朝っぱらから何やってんだ……」
呟きながらも、俺はどうするか迷っていた。
止めに行くべきか……行かないべきか。
周りの生徒も止めようとはしているが、がむしゃらに魔装法を使って争い合っている二人に、不容易に近付けないでいる。
何が原因かも分からず、どうしようもない。
ここは……放っておくか。
俺はそう判断して、喧嘩する二人に背を向ける。
その直後だった。
「グアァァッ!!」
「う……アグ、グアァ!!」
さっきまで元気良く喧嘩していた二人の声が、そんな悲鳴だけで止まった。
振り返るとそこでは……人ごみは完全に散り、喧嘩していた二人と、もう一人を遠巻きに見ていた。
いや……既に、もう一人の方だけを見ている。
半ば、怯えるように。
「ハァ……本当に、困るんですよねえ……朝から。新学期なんで、1週間は見逃してやってたけど――」
その、肩に真っ直ぐにかかった黒いショートヘアの少女……目が少し怖そうな雰囲気で……声は静かだが、周りの空気を制する雰囲気がある。
その腕には、腕章がある。
「これ以上暴れるようなら、安全は保証はしないわよ」
2年で風紀委員、実力行使特別許可委員の井之輪先輩だ。




