表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
215/219

第214話 七月二十三日 Ⅱ

 

 第二都市に向かう電車に揺られながら、瑠海は眠っていた。

 第二高校の最寄り駅までは約十五分。

 瑠海が起きる保証がないので、俺は乗り過ごさないよう起きていたが……駅の直前でタイミング良く目を覚ました。そういうところはしっかりしている。

 電車内での仮眠ですっきりしたのか、爽やかな表情で第二高校に足を踏み入れた瑠海を、俺は慌てて追いかけた。

「大会議室で九十分の講義だって。その後に、休憩を挟んで八十分の実技講習」

 瑠海が周知メールを確認しながら、室内シューズに履き替えた。

 今日の特別講義は実技が含まれている。一応、実技は任意で参加を選べる。その分の時間は他で埋め合わせをするのだが。

 のろのろと廊下を歩いて行く俺たちの横を、第一や第二の生徒が通り過ぎていく。

 特別講義期間なので、制服を着ていれば特に受付などをする必要もない。出席確認は講義の際にされる。

 大会議室に辿り着いた俺たちは、中を覗き込む。そこでは、おそらく第二の生徒会であろう面々が、忙しく歩き回っていた。大量の資料などを長机の上に並べ、教師の支持に従って机と椅子を移動させている。

 生徒会が教師にこき使われるのは、どの高校も同じなのだと憐れんでいると……俺たちのいる扉とは反対側の、教室前方の扉が開いた。八人の生徒が入って来る……腕章があるから、その面子が生徒会役員だ。見知った顔が二人ほどいる。

 ともすると、さっきの面々は何者なのか? 

 俺が逡巡していた間の会話で分かったが、ボランティアで手伝いに来ていた一般生徒のようだ。

 第三は、生徒会などの委員会が動くことでイベント等の動きをスムーズにしている。よって、選ばれるのは仕事ができる上に、今は魔装法の能力などもポイントとなる。また、人手が足りない時は例外こそあれ、委員会同士でメンバーの貸し借りで補う。

 それと比べて第二は……生徒会役員もこちらより多いし、今のようなボランティアもいる。突出した優秀者に任せるというより、生徒会長というリーダーを中心にみんなで動くというイメージだ。

 学校の組織としての形は、第二の方が正しいのだろうけど、第三だって第一ほどじゃないだろうな。第一は徹底した実力主義だと聞くし。

 ここに突っ立ってるよりも、手伝った方がいいよな。打算的だが、ここで不舞さんに好印象を持ってもらえれば、後々話を通しやすくなるかもしれない。

「あの、できることがあるなら、手伝います」

 俺が卑しい決心をするよりも早くに、瑠海が生徒会に歩み寄っていき、笑顔で手伝いを申し出た。

 隣にいたのに眺めているだけじゃ、好印象どころかマイナスのイメージしかない。俺もそれに続く。

「あなたは確か……」

 挨拶をした俺の顔を見て、不舞さんがおっとりとした目を僅かに見開いた。

「この前はお世話になりました」

 第一の生徒会長である雲類鷲さんは威圧感のあるタイプだったが、不舞さんは包容力がある。第三(こっち)の生徒会長は、その両面を使い分けるタイプだ。

 思わず力の抜ける笑顔で、不舞さんは首を振った。

「お世話になったのは私たちの方なの。この学校の生徒の問題なのに……どうも、上に立つのは向かない性分らしいの」

 月音の学校での様子を聞きたくなったが……一人の生徒の日常について、そこまで気を遣っている余裕はないだろう。一応、月音に関する件は、あれ(・・)で解決したことなのだ。

 そんな俺の迷いの間に手伝いの話が流れるように進み、俺は個人的なお願いをするタイミングを完全に逃した。

 

 ◇

 

 配布資料を並べ、プロジェクターの設定をしている間に、不舞さんは消えてしまった。

 探そうかとも思ったが、時刻は講義開始の十時半に近付いている。仕方なく俺は、人が溢れ始めた室内を席を求めて進む。

「黒葉!」

 呼ばれて、横から左腕を掴まれる。

 顔を向けると、瑠海だ。その隣には、陽愛、桃香が座っている。

「なんだ、もうみんないたのか」

 長椅子の間を通りながら、俺は鞄を桃香の隣に降ろす。

「私が四人分の席取ってたんだよ~」

 二人を挟んで瑠海が誇らしげな顔を向けてくる。

「私たちもさっき着いたとこ。でも、月音ちゃんがいないんだよね……連絡したら、出るとは言ってたんだけど……」

 陽愛が首を傾げるのに合わせ、俺も肩を竦めて見せた。

 ただ……月音がいない理由は、学校での自分の様子を、少しでもみんなに知られたくなかったからじゃないかと邪推してしまう。

 場所が違うというだけで、認識には大きな違いが生まれる。月音の場合は、扱いの差だ。

 一部分しか知らない第三の生徒からすれば、月音はか弱くて腰の低い一般女子生徒に見えるが……第二の生徒からすれば、集団催眠でも起こしたかのような、得体の知れない存在となっている。

 俺もあまり……第二で月音と会いたいとは思わない。変に気を遣わせるかもしれないし、俺も遣ってしまかもしれない。

「もう始まるし、仕方ない。とりあえず、会うにしても後にしよう」

 無難な言葉選びに、三人は頷いてくれた。

「隣いいですか?」

 聞き慣れた声に、驚いて右に顔を向けると……困ったように笑う月音が立っていた。

「あれ、月音ちゃん! やっほー!」

 いち早く反応した瑠海に、陽愛と桃香も続く。

 俺だけが微妙な反応しかできないでいるのを見て、月音は笑って右隣に座った。

「……あまり、会いたくないかと思ってましたから」

 月音の声は、幾分か沈んでいた。そのお陰で、おそらく俺にしか聞こえていない。

 言葉の意味が分からず、俺が顔を覗き込むと、あの困ったような顔で月音が笑った。

第二(ここ)だと、黒葉くんは嫌なことを思い出すかな、って思っていて」

「それは……大会のことか?」

「……はい。あの場にいた人たちが、ここにはいますから」

 やっぱり、変な気を遣わせてしまった。

 でも、俺の思っていた考えとは大分違う。むしろ、俺が心配される側だったとは。

「俺は別に大丈夫だよ。月音の方こそ、俺と会いたくないと思ってた」

「そんなことないですよ! 変な勘違いさせてごめんなさい」

 首をぶんぶん振って否定する月音の様子からして、下手に気を遣っているということでもないらしい。

 おそらく今も、月音の周囲との問題は解決してはいないのだろう。あれほどの規模の集団催眠もどきが起こった以上、簡単に解決するとも思えない。

 それでも月音は、俺が思っている以上に強い心を持っている。それか、あの一件で強くなったのだ。

 禍を転じて福と為す、とは違うだろうが……吸血鬼の能力を月音が使えていなかったら、俺はマモンとの戦いで死んでいた可能性だってあった。

 俺が心配するほどじゃないのかもしれないな、月音のことは。ほったらかしにするって訳じゃないが、俺が保護者のようなツラで心配するのは、やはり違うんだろう。

「今日は、第二での講習だから、色々と場所が分からなかったりするかもしれない。その時は、案内してくれ」

 俺の言葉に、ニコッと笑って頷いた少女は……きっと、あの綺麗な星空の日に、弱音だけを吐いていた少女とは、別人なのだ。

 

 ◇

 

 講義の内容は、近年の移り変わりの激しい魔装法事情から、それに対する使用意識の話だった。

 使い古したような内容だが、やはり魔装法の発展速度はすさまじい。初めて聞いたような言葉、研究結果などが、講師の口から出てきた。

 使用意識については言うまでもない。自衛を銘打っていても、魔装法は当然、相手を傷付けることも容易な力だ。それを俺は――いや、俺たちは、この数ヵ月の間で身をもって知っている。

 その中でも、誰もが興味を持った内容がある。と言うよりも、持たざるを得ない内容。

 魔装法の天才(ウィザースト)登録。

 今のところ、政府の定めている基準は公に明かされてはいない。

 日本では現在、約三万人が登録されているらしい。その内、何人が学生なのかなどは分からないが……瓜屋先輩が、内一人であるのは事実だ。

 現在、犯罪の抑止力となるべき警察力は低下している。いや、魔法という未知の方法が普及したせいで、強化が間に合っていないのだ。


 講義が終わって、人がぞろぞろと会議室から出て行く。

「私たちはどうする?」

 欠伸をしながら、瑠海が首を傾げた。

「今日は弁当持ってきてないんだよなあ……」

 一応、今日は第二の学食やら購買が開いているらしいが。

 軽く考えていたが、人が多い。学食も混みそうだし、購買でも人が並びそうだ。

「もしや、誰もお昼ご飯持参してない?」

 苦笑いを浮かべた陽愛に、各々(おのおの)肯定的な反応を示す。

「どうする? どこも混んでそうだけど」

 瑠海も思っていたのか、首を傾げたままに、疑問を重ねる。

 会議室に残って持参した弁当を食べている生徒もいれば、俺たち同様にどこで昼食を摂るか決め兼ねている生徒たちもいた。

「あ、あの……それなら、私の知ってるお店に行きませんか?」

 無言になった瞬間、月音が思い切ったように声を上げた。

「ここからなら、充分に間に合いますよ」

 全員の視線を受けて少し恥ずかしそうにしながらも、月音がそう提案してくれる。

 他に当てがないどころか、飯のことをあまり考えていなかった俺を含め、一同には特に反対意見がある訳もなく。月音の案にそのまま乗る形で、会議室を出た。

 月音を先頭に、陽愛、瑠海、桃香、俺と続く。

 道中で話を聞く限り、月音は最初からその店で昼食を摂るらしかった。

 ――ちょっと気になるな。

 陽愛や桃香は、決して抜けている(・・・・・)タイプじゃない。瑠海は俺の家に泊まっていたから仕方ないにしても、二人が何も準備していない、というのが引っかかる。細かいことだし、そもそも気にするほどのことではないかもしれない。

 そんな小さなことを頭の隅に置きながら雑談に興じつつ、第二高校の敷地内を出る。

 歩いて数分……こじんまりとしたカフェレストランに着いた。なんとなく雰囲気が、俺の馴染みの喫茶店である『きのまま』に似ている。

「こういう感じのお店が好きかな、って思いまして……」

 俺にだけ聞こえるように、月音が囁いた。

 確かに好きだけど、俺の好みに合わせていいんだろうか?

 そう思って周りを見たが、俺より先にさっさと入っているし、何も問題ないな。

 店内はウッドの内装。全体的に落ち着いた色で、お客もそこそこいるが、静かな雰囲気を保っている。

 奥のテーブル席に案内されて、奥側に桃香と瑠海、手前側に俺と陽愛と月音、が座った。

 それぞれメニューを見て注文を決めていく。

「陽愛と桃香は、昼食どうする気だったんだ?」

 気になっていたことを口にした。それほど重要なことだとも思ってなかったし。

 しかし、思ったよりもまずい質問になってしまったか。陽愛と桃香が視線を交わした。

「あ~……私たち、午後の実技は参加しないつもりだったから」

「不参加? どうしてだ?」

「今日、訓練があって……それで」

 なるほど。つまりは家に一度帰るつもりだったのかな。

「あれ、じゃあいいのか? 時間とか」

「それが、緊急の用事だとかでなくなったの。詳しくは教えてもらってないんだけど」

 陽愛の歯切れの悪い言い方に、俺は心の中でため息を吐いた。

 輝月先輩と千条先輩、どちらの用事かは不明だ。桃香の方まで中止ということは、生徒会揃って、ということになるのだろうから、少なくとも輝月先輩は出ているのだろう。

 そうなると、不穏な気配を感じる。千条先輩まで出張っているなら、尚更だ。

「その代わり、午後の実技は出るのか?」

「そりゃあね。早めに最低限の出席は取っておきたいし」

 陽愛が頷くので、俺は視線を下げた。あまり不安がっていることは悟られたくない。

 今は目先のこと、実技講習について考えよう。

 どういう日程なのかは分からないが、実技講習なんか名目だけだ。要は、三大高校の生徒たちの親善試合みたいなものである。

 あくまでも聖なる魔装戦セント・フェスティバルは、代表選手の戦いだからな。

狙撃手(スナイパー)はどうするの? 狙撃戦するような場所あるっけ?」

 瑠海が思い付いたように首を傾げた。

「た、多分、ないと思う……魔装法を使うのがメインかな……」

 狙撃銃(L96)の入ったケースを、桃香が軽く撫でながら答えた。

「でも、ナイフで近接もいけるだろ?」

「最近はあまり練習してないし……あくまでもあれは補助だから」

 俺の言葉に、桃香の口調が少し曇った。

 どうやら、訓練の進みが遅いことを気にしているらしい。あの瓜屋先輩が、少し厳しいことを言うくらいだからな。

 この前の実戦訓練では、そこまで遅れているとは俺は感じなかったのだが。

「そうか……。瑠海は? まだメタルズハンドは登録できてないだろう?」

「そうなんだよねえ~、何と変えようか、って悩んでいるんだけど」

 夏休み中でも武装登録の変更はできるが、そんな時間はなかったと思って瑠海に話を振る。

 一応、俺たちはお互いの登録武器は知っているんだが……。

「あれ、拳銃二丁あったよな? しかも片方は回転式(リボルバー)

 今時、回転式なんて珍しいと思ったので覚えている。

「回転式の方は、雁屋さんから貰ったやつなんだ。予備(スペア)として持ってたんだけど、壊したくないし、外そうかな」

 あ~……なるほど。

 この前の事件の時、雁屋さんは拳銃を持っていなかったように見えた。代わりに色々持ってたけれど。

 瑠海に譲ってたんだな。新しいのを買えばいいと思ったが、急に常時戦闘状態になってしまったし、時間もなかったんだろう。

「月音ちゃんは?」

 ちょっとだけ気まずそうにしていた月音に、瑠海が視線を向けた。

「あ、っと……私は、拳銃とナイフだけです。学校のやつなんですけど」

 驚いたように返事しながら、月音は眉尻を下げた。

 第二の可野杁さんに戦闘指導を受けているらしいが、俺たちほどガチなものじゃないそうだ。その温度差を、どうやら気にしているらしい。

「第二のって、ぱっと見てだけど、第三よりも質いいんだよな」

「え、そうなの?」

 俺の武器マニア的な話が始まり、場の空気が計らずも和んだ。

 各々が注文した料理も運ばれてきて、さっきまでの少し殺伐とした話は霧散した。

 月音のチョイスは良く、料理はとても美味い。

 だが、俺の中には様々な考えが渦巻いていて、どこかドリアの味は遠のいていた。

 

「そう言えば、上繁の奴を見てないな」

 店を出て、第二高校まで戻る途中。

 あいつも来るようなことを、前に言っていた気がするのだが……。

「私はさっき見たよ?」

「え、いつ?」

「黒葉たちと合流する前に、チラッと。声をかける前にいなくなっちゃったけど」

 陽愛が言うので、いたらしい。

 なんだかんだで、あいつにも世話になってるからな……飯くらいは奢ってやろうかと思ってる。

 第二高校の敷地内に戻って来たのは十三時。講習開始までは二十分の猶予がある。

 正面の玄関には、実技講習はグラウンド集合との貼り紙がされてあった。全員、持ち物はそのままなので、月音の案内でグラウンドに向かう。

 ――なんだ?

 駐輪場に差し掛かった時、急激に周りの空気が変わったような気がした。冷たい、刺すような視線を感じる。

「……みんな止まれ」

 先頭にいた月音の腕を掴んで引き止め、他のみんなにも低く声をかける。全員が身を固くしたのが分かった。

 素早く周囲に視線を走らせる。

 自転車で来る生徒は少なくない。俺たちと距離は離れているが、ざっと見ても十人はいる……こんな目立つ所で、まさか……?

「思ったよりも多いわね、なんかあるの?」

 そんな気軽な台詞と共に、駐輪場の柱の後ろから現れたのは――ゆったりしたコートを着て、眼鏡をかけた、二十代前半くらいの女性だ。身長は俺よりも少し高いくらいで、スレンダー。言わばモデル体型というやつだろう。

 教師とも生徒とも明らかに違う。異質でいて確立している、独自の空間を持つ……この存在感。

 最早、確認するまでもない。

「悪魔か」

「さすがに分かるか、こんな姿でも」

 自分の身体に視線を落として、そいつは肩を竦めた。

 いや、そんな姿だからこそ、目立って分かるんだぜ? 悪魔ってのはやはり、そういうとこが分かってない。

 全員が、静かに息を呑むのが聞こえた。

 ゆったりした足取りで近付いてくる悪魔に対し、俺は掴んでいた月音の腕を引き寄せるようにして後ろに回し、代わりに前へ出る。

「名前は?」

 おおよそ、堂々と仕掛けてくるほど調子が良いという時点で、察しはついているが。

「レヴィアタン。司る罪は嫉妬」

 悪魔――レヴィアタンは、随分と素直に、その名を口にした。

 この存在感……下手すりゃ、ベルゼブブに匹敵する。

 白昼堂々と仕掛けてくるのは、こいつに始まったことじゃない。だとしても、ここまで力の程を感じるのは、あのベルゼブブ以来な気がする。

 俺がパラに手を伸ばした瞬間、レヴィアタンと俺との間に、サッと二つの影が割り込んだ。

「つまりは、敵……なんだよね?」

「この前と同じってことでしょ?」

 陽愛は拳銃(WaltherP99)を手に、瑠海はメタルズハンドを(まだ登録していないので、正式には校則違反だが)装着して、それぞれ既に戦闘態勢を取っている。

 背後にチラッと視線を向けると、月音も拳銃を抜いており、桃香の姿はない。おそらく桃香は、狙撃位置を探しに行ったのだろう。

 おいおい……全員、やる気満々かよ……! 

「チッ……外れか」

 小さく、レヴィアタンが呟いた。

 聞き間違えじゃないよな? 外れ? つまり、これほどの存在感を持つ悪魔相手でも、今の戦力が揃っていることは計算外、または不覚を取るかもしれない、ということなのか?

 パラの銃把(グリップ)に手をかけた状態で動きを止めた俺を、レヴィアタンが真っ直ぐに見据えてくる。

「こっちに来い。今更、言うまでもないだろう」

 ぞんざいな口調だが、有無を言わせぬ威圧感が込められている。その勢いに圧されてか、陽愛の靴底がコンクリートを擦った。

 確かに、こんな目立つ場所でドンパチやらかす気にはなれんが、大人しく付いて行くと思ってんのか。

「随分と偉そうじゃん。前回と違って、人質も何もないのに」

 敢えて、だろう。瑠海が強気に言い放った。

 マモンの時のことを引きずってるのかもしれない。それならば、反動で無茶をやらかすかもしれないし、あまり前に行かせない方がいいな。

「は? そんなの、この場にいる人間全員の命と引き換え、に決まってるでしょ」

 呆れたように、当然だと言うように、軽々しくレヴィアタンが応えた。

 ――まずい。

 俺が怒るより先に、前に立つ二人がピクリと反応した。お陰で、俺が逆に冷静になれる。

 二人は今まで、悪魔と戦うために(俺は自衛のためのつもりでだったのだが)鍛えてきたのだ。それを軽んじるようなことを、レヴィアタンは平然と口にした。

 さすがに動くぞ。こっちから。

 俺が二人の動きを止めようと動いた瞬間、一発の銃声が響いた。

 

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ