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第20話 崩れる研究所

 

 誰も動かすハズのないトラックに、エンジンがかかった。

 反射的に、俺は銃を抜いて振り返る。

 

 ちなみに……随分と焦らしたが、さっきまで銃が使えなかったのは、相手の結界魔法のせいだ。

 詳しく言うと、空間魔法。

 空間魔法とは、結界魔法と同じ種類のものだ。

 結界魔法は使った場所、使った物にのみ、効果が発動する。空間魔法はその更に上で、使用者の任意の範囲でその効果が適用されるのだ。

 もちろん難易度がものすごく高い。

 それを奴等は重ねて発動していた。そのため、実験場の空間全域という広い場所でさえも、濃い効果があった。

 詳しくは分からないが……相手の銃弾のみを防ぐ魔法だったみたいだ。

 

 そして、固まる俺たちの前でトラックがゆっくりと動き出した。

「どういう……ことだ? 誰が動かしてる……?」

 俺が呟くと、品沼も再び、警戒しながらナイフを抜いた。

 後ろでようやく陽愛と折木が立ち上がったらしい。

 確認すると、テンランの四人は間違いなく倒れたままだ。誰かが気を取り戻して、トラックで逃亡しようとしている訳でないらしい。

 ならば……誰だ?

「確認しよう……このまま逃がしちゃ駄目だ」

 品沼が言ったが、俺だって言われるまでもなくそうするつもりだった。

 トラックはの窓は黒いミラーが張られており、外からは見えないようになっている。

 警戒したまま俺が近付こうとすると……ゆっくりと、助手席側の扉が開いた。

 そこから出てきたのは――

「――石垣(いしがき)……」

 白衣を着た男が出てきた。

 三十歳ぐらいの賢そうな顔……研究者だ。実際、賢い……とても賢い。

 フェニックスプロジェクトを動かしていた研究者の一人で、俺たちの兄妹の中から真っ先に青奈に接触しようとした。

 身体が不死鳥になったことにまだ慣れず、精神(メンタル)が弱かった青奈にだ。   

 なんとか俺が応じることで何もなかったが……もし会わせていたら、もしかするとだが、実験(・・)が再び始まっていた可能性もある。

 それぐらい、危うい男だった。

 俺も関わるまでは分からなかった。あいつの研究心は、危ない。

「やあ、久しぶりだな黒葉くん」

 気さくに話しかけてきた石垣だが……警戒は解けない。

 むしろ、更に高めなければいけない。

「黒葉くん……? 知り合い?」

 折木が不安そうに聞いてくる。

「ああ、そうだ……知り合いだよ」

 ほとんど上の空で俺は答えた。

 少しずつ近付いてくる石垣に、俺は歯軋りした。

 もう……プロジェクト関係者とは、関わりたくないんだよ……!!

「お前……! なんでこんな場所にいるんだよ! そのトラックを運転してるのは誰だ!?」

「おいおい、落ち着いて話そうじゃないか。旧交を温めよう」

 そんな事を言う石垣……何が旧交だ……。

 お前たちの非道さは、もう、嫌というほど経験してきた。

「白城くん……ごめん。そろそろ、結界魔法が切れそうだ」

 横から静かに、品沼が言ってきた。

「いや……充分だったぜ、ありがとう。無理しないでくれ」

 実際、ものすごい集中力だった。

 品沼……こいつもこいつで、謎が多いな。

 そんなことを思っていると……石垣が遂に目の前までやって来た。

 俺が銃を向けると、両手を挙げて笑った。

「戦う気はないよ……これだけ、済ませたかったのさ」

 そう言うと……白衣のポケットから、リモコンのような物を取り出した。

「この実験場は惜しい気はするけどね……こうなったら、しょうがない」

 まさか……!

 俺が止めようとする前に、既にボタンは押されていた。

 盛大な爆発音と共に、実験室の壁や天井が崩れ始めた。

 

 ◇

 

 テンランのリーダーにでさえ知られずに、どうやって爆弾を仕込んだのかについては不明だ。

 警察にテンランの四人を引き渡した結果、背後に別の組織が絡んでいたということが結論だ。

 おそらく……フェニックスプロジェクトが、再び動き出したんだ。

 俺を誘き寄せる為に……陽愛と折木を誘拐させたのかもしれない。

 そこについては、テンランは口を割らず、真相は分からない。それに、俺を誘き寄せるにしても何が目的だったのかも分からない。

 本当に、ただの偶然だったのかもしれないし。

 あの時――

 

「逃げなよ。このままではみんな、瓦礫の下敷きだ」

 石垣はそう言って、仕事は済んだとばかりにトラックに戻っていく。

 俺は……向けた銃の引き金を引けずにいた。

「くっ……待て……待てよ! 逃げるな! あのトラックを動かしてんのは誰だ!」

 去り際の背中に叫ぶと、石垣は顔だけ振り向いた。

 その顔に、不敵な笑みを浮かべて。

 三年前のあの時のように……馬鹿にしたような、なめきったような、軽蔑したような……そんな表情で、俺を見ていた。

「さあ? 気にしないことさ。それより、後ろの奴らはどうでもいいのか?」

 そう言ってトラックに乗り込んだ。

 なんとか運転席の奴の顔を見ようとも思ったが……無理だった。トラックは、最初に壊れた壁を突き抜けて外へと出て行った。

 俺は銃をしまうと、慌てる陽愛、怯える折木、状況を確認しようとする品沼に合図をして、テンランの四人を引きずってなんとか外へと出た。

 テンランの四人が目を覚ます前に、品沼が持っていたロープで縛った。

 こうして……俺たちは崩れる実験場を前に、警察への通報をしてから、家に帰った。結局、研究所は全壊せず、あの実験場とそれに隣接していた部屋などがなくなった。

 テンランとフェニックスプロジェクトが関わっていた証拠などは見つからなかったため、それを消すことが目的だったのかもしれない。

 面倒事になりそうだったので、品沼にだけ事情聴取を任せ、警察が来る前に俺たち三人は帰らせてもらった。

 酷いと思うだろう? うん、酷い。ここまでしてくれた品沼に、最後までさせてしまった。

 なんかもう、任せっぱなしだった気がする。

 そして、その日の夜に品沼から説明の電話を受けたのだった。

 その後の午後七時、品沼から電話を受けた。

 なんだかんだで怪我もほとんどなく、無事に二人を救出することもできた。

 何か……首尾良く行き過ぎている気もしたのだが……とりあえず、収まるところに収まったのだ。

 あの時にトラックを運転していた者が誰か、あそこまで俺が執着した事に意味はない。強いて言うなら……感覚が、告げていた。

 何か、危ない気がしたんだ。それだけで充分なほど、何か(・・)を感じた。

 

 ◇

 

 夜八時……俺が適当に本を読んでいると、携帯に電話がかかってきた。

 陽愛からだ。

「もしもし、俺だけど?」

 俺が応じると、陽愛はなぜか緊張したような声だった。

「く、黒葉? その……今日は、なんか……ごめんね……」

「ああ、そのことか。それより、大丈夫か?」

 今日のことなのに、色々と考えていたせいで忘れてた。

 まあ、気分的に大丈夫なのか、ってことだ。

「う、うん……大丈夫。……ありがとうね」

 それだけ言って、陽愛はほぼ一方的に電話をきった。

 何のために電話してきたんだろ?

 携帯を置いて本を再び開いた時、また携帯が鳴り出した。

 今度は、折木からだ。

「もしもし?」

「あ……く、黒葉くん……その、今日はごめんね……」

 なんか……陽愛と同じようなこと言ってんだけど……。

 どうすりゃいいの?

「いや、別に大丈夫だけど……それより、折木の方は大丈夫か?」

 てしか、返せないよな。

 やっぱり俺は、コミュニケーションをとるの苦手だよ……。語彙が少ない。

「うん……大丈夫だよ。その……あんなことがあったけど……午前中は楽しかったよ……。ありがとう」

 そう言われて、俺は再び、ほぼ一方的に電話をきられた。

 なんなんだ……マジで。

 俺には結局、二人が伝えたかったことが分からなかった。

 

  

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