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第207話 実戦訓練Ⅵ

 

「これ、俺たちが無理に戦う必要ねえだろ」

 構えを解いて、大きく欠伸をした王牙が言った。

 王牙の目の前には、蛍火と七菜の二人のみである。

 鋭間は、七菜に一時的な協力を申し出た後に、陽愛の後を追って行った。

「そう言うなら、狙撃手を退かせて下さい」

「しゃあねえなあ……」

 抜け目なく要求する蛍火に、王牙はインカムで桃香に指示を出した。

「一年がメインだからね~。さすがの風紀委員長も、今回は自粛ですか~」

「なんかお前イラつくな。お前だけは潰してくか」

「え、ちょ、酷い」

 王牙に鋭い目つきで睨まれ、七菜が蛍火の後ろに隠れた。

 ため息を吐いて、蛍火も断刈を下ろす。屋上から覗いていた狙撃銃のスコープが消えたからだ。

「いいんですか? 他のチームから、狙撃手を仕留めに行く人がいそうですよ?」

 王牙が、戦わないと言いながらも、桃香のフォローに行く素振りもないので、蛍火が首を傾げる。

「あ~……だろうな。鋭間は違うだろうけど、小園のアホは、存外マジだったからなあ……」

 考え込むように、王牙が空を見上げた。

「と言うかですね? 会長や私たちは、比較的、戦略面も一年生優先だったんですよぉ? それなのに、風紀委員長は違うんですかぁ?」

「喋り方イラつくな。殴っていいか?」

「すみません」

 七菜の言葉に、王牙が舌打ちをする。

「まあ……折木はまだ、その段階じゃないっつうか、心構えが違うんだよ。白城は特例にしても、他の二人とも違う。あいつは……そういうタイプじゃない」

 桃香のことをあまり知らない王牙だが、特有の雰囲気を感じ取っていた。それについては、蓮瑪や静河たちも、なんとなく気付いてはいたのだが。

 少しずつ雲が流れて、周囲の気温が上がっている。直射日光を避けて、三人は建物の影に逃げ込んだ。

「……屋上、暑くないですか?」

「あ~……うん。そうだな」

 蛍火の声に適当に頷き、王牙がインカムで桃香と通信を始めた。

 

 ◆

 

 非常階段を駆け上がる内に、俺は誰とも遭遇しなかった。

 現状、最大戦力を有するのはチームBだ。三年生唯一となった千条先輩が、どう出るのかが想像できない。狙撃手である桃香がいることも、戦略によっては大きなアドバンテージになる。

 俺が辿り着いたのは屋上……一応、桃香を探しに来たのだが……やはり、いないか。

 屋上は、中央が丸い庭のような形になっていた。ドーナツ型の穴の部分は、一メートルほどの高さのコンクリートの土台となっていて、雑草と栄養失調気味の木々が好き放題に伸びている。

 交通整理のためのフェンスがあるが、錆びて壊れていたりするし、屋上の縁は膝ほどの高さになっているだけでフェンスなどはない。

 どうするか。このままだと最下位はチームC、Dの二チーム。

 割り勘なら、都合いいけども……。

 チームCが目標物を獲得しないという保証はない。

「目標物探しか……」

 できるなら、戦闘を避けて目標物を獲得する。それが大雑把な理想だ。

 小園先輩が、屋上には何もなかったと言っていた。

 一階にもそれらしきものはなかったハズだし……輝月先輩の宣言通りなら、陽愛が目標を獲得してしまう。陽愛の発見が先決か。

 動きを決めた俺は、まずは四階に向かおうと、斜路に向かう。

「お」

「あ」

 お互いに一言だけ発して、立ち止まる。

「桃香ならいないぞ」

「ん~……やっぱりか」

 自動拳銃――Walther(ワルサー)のP99を持った陽愛が、上辺だけの残念そうな表情をした。

 お互い、銃口を上げずに無言で向かい合う。

 ここで戦うか……陽愛と。

 輝月先輩は上手くやったな……自分が万が一落ちたとしても、陽愛が気兼ねなく戦えるように、先に三ポイントを取っておいた。自分がやられる時も、おそらく小園先輩を巻き添えにしたんだろう。

 だが、小園先輩もさすが、ただで負けた訳じゃないらしいな。

「随分と汚れてるな。小園先輩にやられたか?」

 軽く払ったようだが、陽愛の私服は汚れている。地面を転がりでもしないと汚れない感じだ。

 露出している肌は僅かだが、少し怪我をしているようでもある。

「危なかったよ? 輝月先輩のお陰で助かったんだ」

 陽愛は否定しない。

 どうやら小園先輩と戦ったのは事実らしい。それに、輝月先輩も参加したらしいな。

 俺の推測は大体合っていたようだ。

「どうする? やるか?」

 俺が僅かにパラの銃口を上げると、陽愛は硬い笑みを浮かべた。

「あはは……ちょっと、遠慮したいけど」

 言いながらも、陽愛は拳銃をしまったりはしない。

 瑠海と違って、陽愛と戦うのは初めてだ。授業なんかで軽い手合わせをしたが、俺は拳銃すら抜かなかった。

 訓練の成果である水魔法は見たことがあるが……本格的な一対一ってのは初めてだな。

「……なんか、黒葉はそうじゃないらしいね」

 俺の表情を見てか、陽愛がそう言った。

 三年生のことを言ったが……俺も少し、戦うことを楽しみにしている。

 命を取り合うような場面でもなければ、俺は魔法に対して明るい可能性を感じているのだ。幼い頃から、魔法という力に期待していた部分があったからな。

「正直、ちょっと見てみたい。お前の成果ってやつを」

「期待に()えるものかは分からないよ?」

 ちょっとだけ笑い合ってから、俺たちは銃口を同時に上げた。

 ――あの日――第三魔装高校に入学した日、ただ助けを求めるだけだった少女が、こうして自衛の力を得ている。

 あの日から……俺たちは、前に進んでいるんだ。

 屋上での陽愛との戦いは、さっきの瑠海との戦いと比べてかなり状況が変わっている。

 障害物は少なく、日光は当たるし、上限(・・)がある。足を踏み外せば、真っ逆さまだ。

 だが、それは不意打ちされる危険が極端に少ないというメリットもある。全くない、とは言えないのは、千条先輩のように、自力で登って来る人もいるからだ。

 陽愛を相手に、俺は下がり気味に撃ち合う。障害物は少ないが、中央の緑化跡の土台を挟めば、有利に戦うこともできる。

「『風乱(ふうらん)』」

 風魔法を纏った銃弾が、屋上に出て来た陽愛に迫る。

 移動魔法を使ったステップで陽愛は横に避けるが……風魔法の余波で、体勢が崩れた。左膝をついたところに、俺が追撃の銃弾を放つ。

 陽愛は体勢が崩れた勢いを逆利用して、滑るように地面を移動した。ギリギリで、俺の銃弾が身体の上を通過していく。

 寝そべるような格好になった陽愛が、そのままP99を発砲する。

 そんな体勢からでも銃撃は正確だ。俺は身体を左右に揺らすようにしながら躱し、バックステップで距離を取る。その間にも反撃の引き金を引くが、陽愛は寝返りを打つようにして避けた。

 思ったより動きが読みにくいな……陽毬さんや羽雪さんのような、トリッキーな動きだ。柔らかく身体を操り、どんな体勢に追い詰められても対応する余裕がある。

 ちょっと撃ち過ぎた。P99よりもUSPの方が装弾数が少ないから、俺の方が先に弾切れして、陽愛にはまだ弾がある。

 それが分かってか、陽愛は安易に発砲してこない。俺を牽制する形でP99を使い、行動を制限してくる。

 落ち着いている……事前に小園先輩と戦ったからかもしれない。動きが瑠海以上に滑らかで、迷いがない。

 コンクリートの土台を盾にするには少し距離がある。これなら詰め寄った方がいいか……いや、近付けば銃弾を処理できないかもしれない。

 左手でナイフを抜いて、雷魔法を纏わせる。魔法を使った、力押しの遠距離攻撃だ。

 それを見た陽愛が素早く身体を起こし、自分のすぐ足元に銃撃をした。銃弾を起点として水の壁ができあがり、陽愛の身体を隠す。

 ナイフを横一文字に振るって射出した雷撃の刃が、水の壁によって阻まれた。

 属性魔法に限らず、魔装法の特性は本物の能力や特性を受け継ぐ。その詳細に関しては、使用者のイメージとコントロールによる。水の電導性は、水魔法を使った本人が操れるということだ。

 純水であれば、電気は通さない……そこまでコントロールできているのか、陽愛の水魔法は。

「これは油断できないぞ」

 誰ともなく呟き、雷撃をもう一度飛ばす。再び水の壁に阻まれるが、衝突すると同時に激しく発光し、陽愛の視界を塞いだ。その一瞬で素早く下がり、土台の後ろへと逃げ込む。

 俺の動きに気付いた陽愛が、移動魔法で距離を詰めながら銃撃してきた。

 弾倉を入れ替える時間は稼げたから充分だ。

 防御魔法を張った右腕で敢えて銃弾を受ける。

 陽愛は土台に跳び上がることで、回り込む時間を短縮してきた。普通に追ってくると思っていた俺は、空になった弾倉を右脚で蹴り飛ばして、陽愛を牽制する。

「『降水切断レイン・スプラッシュ』!」

 陽愛は、P99で撃つと警戒させておいて、左手でナイフを抜きざまに水魔法を発動した。

 球状の水が五発ほど放たれる。

 唐突に遊び心が芽生えた。俺も左手のナイフを振りかざし、見様見真似で雷球を発する。咄嗟の思い付きなので、三発が限界だったが……上手い具合に陽愛の水球を相殺してくれた。

 残った水球は、USPの雷魔法を纏わせた銃弾で撃ち抜く。

 だが、迎撃に少し集中し過ぎた。水魔法で生じた死角から、陽愛の銃弾が連続して俺の右肩に飛来する。

 慌てて防御魔法で耐えるが……タイミングが遅かったな。鈍い痛みに襲われ、俺の身体が時計回りに回ってしまった。

 仕方ないので、精密さを欠いた銃撃を風魔法で誤魔化し、陽愛の追撃を阻止する。

 陽愛は俺の銃弾を避けながら、P99の弾倉を入れ替えた。

「『流水装束(ウォーター・ベール)』!」

 俺が体勢を正面に戻した瞬間、陽愛の叫びが聞こえた。

 ……マジかよ。

 おいおい……成長が著し過ぎるだろうが……! これは、属性強化魔法……!

 陽愛の身体を、水が蛇のように流れ続けている。物理法則を無視した、縦横無尽な動きで、陽愛の服を覆っていた。

 思わず、陽愛が嫌がりそうな言葉を口にしそうになったほどだ。

 天才、と。

 連続して銃弾を放つが、ただの強化魔法では意味がなかった。水の流れが急激に速くなり、弾丸を流してしまうのだ。

 川遊びなんかで、流れの速い水面に笹の葉を落とすと、一瞬でその姿を流れに持っていかれる。そんな光景を思い出した。

 この威力、さすがに長くは保てないハズだ。

「『雷装(らいそう)』」

 俺は雷の属性強化魔法を使い、身体中から雷撃を迸らせる。

 陽愛は一瞬怯んだが、すぐに突っ込んできた。

 俺も土台の上に跳び乗り、陽愛と超近距離で撃ち合いを始める。お互い、射線から寸前で身を躱し続けながら、ナイフをぶつけ合う。

 どちらも同じような脚の運びをするために、まるで踊っているかのように、一点を回り続けた。

 俺の雷は流され、陽愛の水は弾かれ、両者の魔法は決め手にならない。

 分かっているからこそ、俺はこの距離に近付いた。

「よっと」

 弾倉の空になったUSPで、陽愛のナイフを抑え込む。体当たりするように陽愛に身体を押し付け、P99の銃弾を躱す。

 ゼロ距離になった俺たちの属性強化魔法がせめぎ合い、電気が跳ねる激しい音が響いた。

 ナイフの柄尻部分での攻撃を、陽愛は弾切れになったP99をしまって右上腕で叩き落とした。俺もパラをしまって、ナイフの柄を陽愛の左手の上から掴み、刃先を逸らしていくよう動かす。

 それからは超近距離格闘戦だった。

 ナイフを持ち替える暇もなく、お互い、空いた右手で攻撃をいなしつつ、左手のナイフを当てにいく。蹴りは近過ぎて使えないため、拳でいうジャブのような膝蹴りが時たま挟むくらいで、大体が徒手だ。右肩を当てるようにした半身の体当たりを入れるが、それをターンして躱される。そのまま肘鉄をするが、防御された上に反撃がくるので、今度は俺がそれを防ぐ。

 距離は全く開かず、ダンスのような一瞬の交錯があるだけだ。属性強化魔法も攻めには役割が働かない。

 せめぎ合いをする中で、急激な違和感が俺を襲った。

 これはくるな……瑠海の時と同じような、大技が。

 躱し切れない近距離だからこそ、張り合いがある。俺もここで、『魔纏』を使おうかと思ったが……近過ぎて、今の俺では上手く衝撃をパスすることができない可能性がある。途中で分散すれば、自滅にもなりかねないのだ。

 俺が迷った一瞬で、陽愛が少し強引に下がった。すかさず俺がナイフを振るおうとしたが、陽愛の魔法は既に整っていたらしい。

「『放水砲撃(キャノン)』」

 属性強化魔法による水が、陽愛の右手のひらに集まるように流れていた。陽愛が右手で、掌打のような一撃を放つと同時に、全ての流れが弧を描くように掌底へと集まる。

 俺の右胸に到達した掌打から、まるで荒波のような衝撃を感じて息が詰まった。抗いようのない流水の勢いに押され、土台から大きく弾き飛ばされる。

 素手だからって油断してた……属性強化魔法をそのまま攻撃に利用するとは、本当に成長速度が早い。

 お陰で、こっちも一発しか返せなかった。

 吹き飛ばされる寸前に、手首のスナップで頭上に投げていたナイフが、ゆっくりと落ちてくる。気付かない陽愛の右の足元に、ナイフが柄から落ちた。

「あっ……」

 不意を突かれた陽愛が、弱々しい声を上げて後ろ向きに吹き飛ぶ。落下したナイフから球状に雷撃が迸ったのだ。

 いつか、陽愛を助けた時に使った魔法と同じだな。その時は、自転車を媒介にしなければいけないほどピンチで、自爆特攻だった訳だが。

 二人とも、かなりの衝撃で飛ばされたが……俺は風魔法を逆ベクトルに使って和らげ、区画のためのフェンスを掴んで踏みとどまった。陽愛は、不意打ちだったのもあって受身の姿勢が上手くできていないが……俺もちゃんと調整したからな。背中がフェンスにぶつかるようにして――

 と、相手を気遣うほどの余裕を見せていた俺だったが……陽愛のぶつかったフェンスは錆びていて、衝撃に耐えられずにしなるように壊れてしまった。フェンスはクッション代わりになるどころか、ジャンプ台のように陽愛の身体を滑らせてしまう。

「……ッ……! 嘘だろッ!」

 陽愛が屋上から、冗談みたいに弾き出された!

 風魔法をフル稼働させて、弧を描くように大ジャンプをする。最高点を越えてから、落下速度を上げるように風魔法を使用し、陽愛の後ろを追う。空気抵抗が少なくなるように、身体を真っ直ぐにした。

 陽愛は上空で水魔法を使い、その勢いで戻ろうとしているようだが……こんなパターンには慣れていない(普通は慣れない)のだろう、上手く発動できていない。

 ……大丈夫だ、悲惨な事故にはならずに済む。

 こんな状況、今までのピンチと比べれば全く問題ない。

 空中で追い付いた俺は、陽愛を抱きしめて、横向きに風魔法を使う。二階に上手く乗るように威力と向きを調整し、縺れ合うように俺たちは着地した。

「大丈夫か……?」

 最早、体勢を整えて警戒する余裕もない。仰向けに寝転がったまま、俺は脱力しながら訊いた。

「うん……驚いたっていうか、なんていうか……」

 答える陽愛は……思ったより落ち着いている。上半身を起こして、倒れる俺を覗き込んできた。長い黒髪が俺の顔にかかる。

「でも、黒葉がいたから……助けてくれるんだろうな、って」

「おいおい……俺は敵なんだぞ?」

「敵である前に、友達でしょ?」

 呆れた俺に、陽愛が柔らかく微笑んだ。

 やれやれ、って感じだな……こりゃ。緊張感が足りないぜ。

 そう思いながら、俺も笑ってしまう。

「仕切り直すか?」

 冗談めかすと、陽愛は困ったように片目を閉じて肩を竦めた。

「遠慮したい、って言ったら?」

「協力してくれ」

 残り約十五分。陽愛と共闘して、最下位脱出を目指す。

「俺は絶対に陽愛を守る。だから、一緒に戦ってくれ」

 チームAは、陽愛が生き残れば五ポイント。メリットは少ないが、確実に勝てる状況ではないのだから、全く意味のない同盟って訳でもない。

 なんだろうな……先輩たちにコントロールされているような気もする。桃香とは真正面から戦っていないが、狙撃手なのだから当然と言えば当然だ。

「もしかして、お金ないの?」

「真面目な話してたつもりなんだが?」

 哀れみを含んだ眼差しを向けてくる陽愛に、俺は笑顔で凄む。

 確かに金はないけどさ。誰だって奢りは嫌だろ?

「陽愛の得るメリットは少ない。別に断られたからって、ここで俺が恨むようなことは――」

「オッケー、一緒に戦おう」

 随分と軽い口調で承諾し、陽愛が立ち上がった。

 拍子抜けして、動きの止まった俺を見て、陽愛が笑う。

「だって私は、黒葉の隣で戦うために訓練してたんだよ?」

 上半身を起こした俺に、陽愛がそう言って手を差し伸ばしてきた。

 できれば、戦って欲しくはないんだが……元々、負けず嫌いっていうか、頑固なところがあったからな。俺に心配されることすら、不満なんだろう。

「じゃあ……頼む」

 伸ばされた手を取って、そのまま立ち上がる。

「まずは目標物を獲得しに行きたいんだが……輝月先輩のはハッタリか?」

 可能性は高い。そもそも、目標物を獲得せずに、あの場所に来る理由がないからだ。

 最初は、輝月先輩が陽愛を甘やかさないためにそうしたのかと思ったが、陽愛は目標物のない屋上に来た。それで俺は、十中八九ハッタリだと決めつけたのだが……。

「半分は嘘かな……目標物は見つけたけど、獲得証明地点はまだ」

「充分じゃねえか。獲得証明地点は、さっきと同じとこ行けばいいんだし」

 目標物があるなら、それだけでいい。自分たちが持っていれば、他のチームが残り二つを独占するという最悪の事態は避けられるのだから。

 体勢を低くしながら、端に移動し、外の様子を窺う。

 さっきの証明地点を見た瞬間……慌てて首を引っ込めた。

「いる……水飼先輩が、見張ってるよ」

 どうなってんだ? チームBとチームCが組んだのか?

 井之輪先輩が目標物を探し、見つけ次第、陣取っていた証明地点に移動する、という魂胆なのだろうか。

 とにかく、さっきの証明地点には行けない。

「探すしかないか……目標物は、陽愛が持ってるのか?」

 粗方探したハズだが、心当たりはある。まずは証明地点を見つけよう。

「これだよ」

 そう言って陽愛は、ポケットから取り出した。

 小さい……!? 

 俺が見つけたのとは違って、携帯サイズで軽い。だが、包装は同じなので、間違いはないだろう。

「これなら邪魔にならないし、丁度いいな……じゃ、行くか」

「行くって……残り十五分切ったけど、当てはあるの?」

 不安そうな陽愛に、俺は頷いた。

「多分、誰も行こうとはしないだろうさ……地下一階には」

 

  

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