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第206話 実戦訓練Ⅴ

 

 ルール上、失格した参加者は介入の一切を禁止される。

 俺がいない間に何があったのかを、インカムで訊ねることもできないのだ。

 とりあえず……現状を確認しよう。

 チームA……陽愛のみ。輝月先輩は失格。三ポイント獲得済み。

 チームB……桃香、千条先輩。

 チームC……井之輪先輩、水飼先輩。瑠海は失格。

 チームD……俺のみ。小園先輩は失格。

 え、まずいだろ。

 輝月先輩も落ちたのはせめてもの救いだが、チームAは既に三ポイントを先行している。対して、チームDは俺しか残っていない状況で、目標物を獲得できていない。

 瑠海を落とせたのも良かったが、俺も無傷ではない。それに、チームCはそもそも三人。一人分の重みが変わってくるのは、終盤からだ。

 つまりは今、ピンチなのは俺である。

 俺を落とせば、チームDは否応なく最下位決定だ。

「おいおいおい」

 小園先輩を恨む気持ちは毛頭ないが、このままだと一万円が消える。

 吹き飛ばされたUSPの状況を確認しつつ、俺は周囲を警戒しながら非常階段の方へと向かう。

 何があったんだよ……小園先輩たちに。

 

 ◆

 

 時間は少し遡る。

 壱弦が陽愛を追い始めてから、僅か数分のことだ。

 三階に移動した陽愛を壱弦はなんとか捉え、高速移動で近付いた。

 陽愛の動きはそれほど速くなく、問題なく壱弦が仕留め切れるほどの距離だったが――

「小園が来たか。ちょっと意外だな」

 三階中央の柱で振り返った陽愛の隣に、鋭間が姿を現したのだ。

「はっ……? あんた、さっき千条たちと戦ってたんじゃないの?」

 壱弦が眉をひそめた。

 先ほどの爆発音は、鋭間の属性魔法でしかありえないと踏んでいたのだ。

「休戦協定は上手くいかなかったが……三つ巴は危険だと判断した。チームCと一時的に結託して、お前たちチームDを嵌めるために、水飼の爆発魔法を利用させてもらった。俺の爆炎を、水飼の収束魔法に預けた形だな」

 瑠海の休戦協定の話はハッタリだった。しかし、完全な嘘でもない。

 作戦を立てたのは瑠海で、インカムを通し、黒葉、壱弦との会話の中でキーワードを織り交ぜていた。

「で、白城が来ると思ったの?」

「お前は今回、割とマジだからな。勝つために、自分と姫波をマッチングさせると思ったんだ」

 鋭間の的確な分析に、壱弦は舌打ちをした。

 瑠海の動きによって、鋭間の予想には反した結果になったが……落ち着いている。

「小園と鷹宮じゃ、さすがに分が悪い……俺がサポートに入らせてもらうぞ」

 拳銃とナイフを抜いた陽愛が、表情を真剣なものにして壱弦と向かい合う。

 その少し後ろで、鋭間が拳を閉じたり開いたりしながら臨戦態勢を取った。

「はあ……――輝月、あんたの長所は、慎重で計算高くて、パワーバランスをしっかり考えて戦況を動かせることだと思うわ」

「へえ、そんなこと思ってくれていたのか。ありがとう」

 意外なことを言われて、鋭間が茶化すような笑みを浮かべる。

「だけど、自分が負けるかも、って考えがないわね」

 拳銃を構えた壱弦に、鋭間が今度は純粋に笑いかけた。

「お前は、自分が負けると思って戦う感じか?」

「んな訳ないでしょ」

 壱弦が引き金を引くと同時に、陽愛と鋭間が左右に分かれて、柱を迂回するように距離を詰めていく。

 二人の動きに対して、壱弦は真っ直ぐに走り込んだ。左右に分かれた二人と二本の柱、その間に自分が直線状に並ぶように、速度を調整している。

 陽愛の撃った弾丸が、僅かにカーブを描いて柱に突き刺さった。

 一瞬で三人の位置が入れ替わる。

 壱弦は、陽愛の方向にサイドステップで移動しながら、鋭間と柱を直線に捉えて死角に入るように動く。その間に、陽愛とは細かな動きで撃ち合いを繰り広げていた。

(すごい……二対一の状況で、しかもこの距離……下手に手数を増やさないで、攻撃を捌くなんて……!)

 鮮やかなまでの壱弦の対応に、陽愛は感服していた。

 余裕がないハズの壱弦より、陽愛の方が被弾数が多い。全て急所を外し、加えて防御魔法で威力を弱めているとは言え、このままでは陽愛が押し負けるのは明らかだった。

 だが、撃ち合いはいつまでも続かない。ほぼ同時に弾切れを起こした二人と、それを音でいち早く理解した鋭間が、同時に動いた。

 陽愛はナイフを構えて移動魔法で壱弦に詰め寄る。壱弦の手持ちが、拳銃だけだと判断したためだ。

 鋭間は炎魔法による爆発力も加算し、強引に柱の影から抜け出した。

 壱弦は――

「『不完全な楽園(ザ・ユートピア)』」

 呟くように、空間魔法を発動した。

 今まで外していた弾丸……柱、壁、地面、それぞれに撃ち込まれた銃弾が、その世界を成すための魔法を纏う。

 一瞬で、駐車場の景色が変わった。

 眩い光が満ちる、大理石のような真白の世界が広がる。

「遅かったか」

 苦い顔で言いながらも、鋭間が拳を振るった。炎魔法を纏った拳が、熱風を散らしながら壱弦に迫る。

「遅いわよ」

 言い返しながら、壱弦が右の踵で地面を蹴った。

 壱弦の身体が光に包まれ、炎は全て、その周りを避けるように押し流されていく。鋭間の拳を、壱弦が左腕で受け止め、右脚でローキックを叩き込んだ。

 移動魔法で威力を逃がしつつ、鋭間が下がる。

 戸惑う陽愛と隣に立ち、鋭間が息を長く吐いた。

「小園の真骨頂がこれだ。冷静で細かな動き、正確な銃撃で相手の意識を散らしつつ、結界魔法や空間魔法の下準備をする。条件を有利にしてから、一気に畳みかけてくるんだ」

 鋭間が小声で解説するのを、陽愛は頷きながら聞いている。

「こうなったら仕方ない……空間魔法の効果が分からない内は、下手に攻めないのが鉄則だ」

「どうするんですか?」

「空間そのものを破壊するか、細かい攻撃で効果を分析するか、だな。離脱も手だが……今日はやめておこう」

 鋭間がそう判断したのは、当然、訓練のためだ。

 勝ち目のない戦いは避けるべきだが、今回は勝つことが最上ではない。逃げてばかりでは、実戦訓練の意味がなくなる。

「いいわね?」

 壱弦が左の踵を地面と擦る。その身体が光に包まれ、高速で陽愛たちの前に移動した。

「なっ……!」

「チッ!」

 二人はすぐさま防御の姿勢を取る。

 壱弦が、右の踵を地面に打ち鳴らすと同時に、急加速した左の回し蹴りを放つ。その脚は光に包まれていて、強烈な威力を生み出した。

 陽愛が地面を滑るように飛ばされ、鋭間は柱に背中を打ち付ける。

 短く息を吐き出して、壱弦が少しだけ下がった。

「なるほど……この光は、強化魔法の収束効果があるとみていいな」

 痛みに顔を歪ませつつも、鋭間が推測を口にする。

「鷹宮、どう思う?」

 意見を求められ、陽愛は一瞬慌てたが、軽く目を閉じて眉根を寄せた。

「……相手の防御を崩すタイプじゃなくて、自分を極端に強化するタイプ……身体を覆う光は、おそらく空間で捉えた力を出力している……ですかね?」

 最後の方は自信なく疑問口調になりながらも、陽愛なりの推測を口に出した。

 それを見て、壱弦が僅かに感心した様子で頷く。

「そんなところだろう。問題は、この空間内で、エネルギーがどういう移動をしているか、だが……」

 立ち上がった鋭間の身体から、炎が吹き上がる。隣にいた陽愛が、思わず後退るように距離を取った。

「鷹宮なりの答えを出したんだし、俺が回答を見つけてやるか」

「随分と強気じゃない」

 壱弦が両脚の踵を同時に鳴らすと、身体全体を光が覆った。

 二人が向かい合う中で、鋭間は先ほどの光景を思い出していた。

 炎魔法を押し返すほどのエネルギーは、どこからきたのか。おそらく、周りから吸収して蓄えるタイプだとは考えたが、それほどの力はどこにもなかったハズだと。

(いや……そうじゃないか。空間魔法にも、イメージが反映される。大理石のような輝く空間に、意味があるんだ)

 拳を構えた鋭間の前で、壱弦も拳銃をしまって構えを取る。

(大理石……輝く……光……反射……)

 足元を見た鋭間が、そこが景色を反射するほどに輝いていることに気が付いた。

 両者が同時に駆ける。しかし、光を纏った壱弦は、瞬間移動にも匹敵するような急加速で鋭間に近付いた。

 タイミングを外された鋭間が、速度を抑えながら拳の構えを小さくする。

 潜り込むようにアッパー気味の右拳を振るった壱弦に、鋭間はボディを狙うように正拳を放った。

 一際大きくなった光が壱弦の腹部を包み、鋭間の拳の炎を押し退け、威力を急減させる。

「鷹宮!」

「はい!」

 左腕で壱弦の拳を防御しながらも、一瞬身体が浮くほどの衝撃を受け、鋭間が地面を転がる。

 しかし、そもそも鋭間に勝つ気はなかった。

 陽愛が即座に、地面に両手をつく。

 陽愛を中心に水が流れ始め、(くるぶし)ほどの高さまで達した。

「…………」

 空間を流れる水に、壱弦が唇を噛む。

「小園の空間魔法は、床を通して反射したエネルギーを糧にしていた。地面を蹴ったことによる反作用や、炎魔法で床が帯びた熱、それらを全て反射して、自分のエネルギーに変換していたんだ。相手が強く抵抗すればするほど、強化される空間魔法ってとこだな」

 水によって地面との接触は断たれた。水魔法は攻撃ではなく、流れを生じるものでしかない。変換するほどのエネルギーはなくなった。

「はあ……ちょっと、侮ってたわ」

 壱弦が拳銃を取り出して、頭を掻く。空間魔法がゆっくりと崩れ、元の駐車場へと姿を戻した。

(さて、と……これ、生き残れる……? 白城に連絡入れとくべきか……)

 逡巡してから、壱弦は銃口を真っ直ぐに鋭間へと向けた。鋭間は先ほどの拳による影響で、まだ体勢が整えられていない。

 水面を叩く音と共に、鋭間と壱弦の間に一メートルほどの水飛沫が立ち上がった。

 迷わず壱弦は発砲するが、鋭間は転がってそれを躱す。

「『流水切断(スプラッシュ)』!」

 追撃しようとしていた壱弦の注意を逸らすように、陽愛が叫ぶ。陽愛の足元から、水が刃物のような形となって、壱弦へと飛んでいく。

 腕で防いだ壱弦の服に、僅かな切れ目が入った。続けて、何発もの水の刃が飛来する。

「くっ……」

 防ぐことを諦め、転がりながら攻撃を避けつつ、壱弦は柱の影へと逃げ込む。

(この水魔法のせいで、動きが制限されるわね……)

 地面を流れる水を苛立たしげに蹴り上げ、壱弦は鋭間の様子を窺う。

 鋭間は今の時間で完全に立ち直っており、攻撃に転じる姿勢をしていた。

 深呼吸をして、壱弦は弾倉を入れ替える。

「『不可侵の個室(ザ・ルーム)』」

 身体の関節を線で繋ぐように、壱弦の服が結界魔法を発動させた。

 流れる水が、壱弦の周りを避けていく。

(この威力じゃ、輝月の炎は流せないわね……それに、この魔法は……)

 壱弦は苦い顔をして、再び二人の様子を窺った。

 今の結界魔法を使っている間、壱弦は自分に強化魔法が使えないデメリットを負っている。

 ゆっくりと近付いて来る二人を見て、壱弦は意を決した。

 結界魔法で水を弾きながら、素の状態で駆けだす。炎魔法で拳を構えた鋭間に銃口を向けながら、横に飛び跳ねた。

「『不発爆室(バースト・ルーム)』!」

 二発の銃弾が放たれ、鋭間の胸へと飛んでいく。鋭間は冷静に、それを炎魔法で叩き落とす。

 次の瞬間、鋭間の両肩と両膝に被弾の衝撃が走った。

(二発はフェイントか……! 敢えてタイミングをずらして、目立つように払わせたな)

 顔をしかめて膝をついた鋭間の動きが止まる。

「動かない方がいいわよ……私の結界魔法で、あんたを囲んでいる。その結界内で下手に高出力の魔法を使えば、結界そのものが爆弾となって、爆発するわ」

 陽愛を拳銃で牽制をしながら、壱弦が警告をする。

 鋭間がさりげなく、自分の左手首を見た。

「爆発の威力は、防御魔法で防げる程度だろうけど……左手首に威力を集中させてるわよ。間違いなく、ブレスレットは壊せるわ」

 静かになった駐車場から、ゆっくりと水が引いていく。これは単に、陽愛の集中力が切れたせいだ。

 陽愛と壱弦がお互いに銃口を向け合いながら、回るように横へ移動する。

「これがお前のとっておきか?」

「……実戦じゃほとんど役に立たないから、正直あまり使いたくなかったわ。でも、ルールの上なら、効果的な一手よ」

 鋭間のニヤッとした笑みに、壱弦が無表情で応える。

 空間や結界の中でエネルギーを循環させるのが壱弦の十八番だ。その中でも、爆発の威力への変換はあまり効果的なものではなく、好んで本人が使うことはない。

「ま、実戦もそんなもんさ。相手や状況によって、その時に一番効果的な魔法を使うのが正しい」

「お褒め頂けて光栄だわ」

 ニコリともせずに壱弦が皮肉を口にする。

 言葉の間を縫って、陽愛が柱の影へと移動した。今、壱弦の背後に鋭間がいる状態だ。

「ただ、お前の動きを見る限り、攻撃すると効果がなくなるようだな」

 見透かしたような鋭間の言葉に、壱弦が言葉を失う。

 左手首だけを狙わず、わざわざ両肩両膝の広い範囲で発動させたのには理由があった。鋭間がどこで魔法を発動しようとも爆発するようにするためだ。

 この結界魔法は、威力がそれほどでもない上に、外部からの衝撃で容易に瓦解するという深刻な欠点を抱えている。だからこそ、鋭間本人が攻撃して壊せないよう、全体を覆う発動が必要だった。

「これは負けだな、お前の」

 嘲笑うような鋭間の声を、壱弦は意識から遮断するよう努めた。明らかな挑発だ。

 上記の法則がある以上、陽愛の攻撃次第では、鋭間は簡単に解放されてしまう。だからこそ壱弦は、鋭間を守るような立ち位置に移動し、陽愛の攻撃を捌きながら反撃する必要が生じている。

 鋭間への結界魔法を持続させる以上、下手に複雑な空間魔法は使えない。壱弦はそう判断し、陽愛が動くより先に、柱を回り込んだ。

 『不可侵の個室(ザ・ルーム)』は、本人は防御魔法すら張れない代わりに、魔法や銃弾の勢いをも殺す。また、自分の攻撃に対する相手の防御魔法なども僅かに押し退ける。完全な遮断ではないが、短期決戦を目指すなら悪手ではない。

「はあッ!」

 陽愛に鋭間を解放する隙を与えないよう、格闘を織り交ぜた銃撃で壱弦は攻める。陽愛は、銃口が自分を向かないように何度も逸らせながら後退を始めた。

 格闘や銃撃に関して壱弦よりも劣る陽愛は、魔装法の補助で対応しながら、なんとか攻撃を捌き続ける。左手首のブレスレットを狙うのはお互いのため、どうしても右手が主軸となる。その影響もあって、決定的な瞬間が生まれないでいた。

 そんな中で、押されていく陽愛に、思わぬチャンスが巡ってきた。

 後退していた陽愛は、斜路側を背にしている。今まで駐車場内の暗さに慣れていた壱弦の目に、一気に夏空の日差しが降りかかったのだ。

 人体の構造による影響で、壱弦は思わず目を細める。

 その一瞬を見逃さず、陽愛は素早く二歩後ろに下がり、左手のナイフ横薙ぎに振るった。

「『降水切断(レイン・スプラッシュ)!』

 ナイフの刃から球状の水が六発放たれた。先ほどの刃の形の魔法より、速度が上がっている。

 躱そうとする壱弦の右肩と左脇腹を水弾が切り裂いた。

(直撃じゃなくて、掠った方がダメージを負うような攻撃……!)

 バランスを崩した壱弦に、陽愛が銃口を向ける。

「輝月相手だと分が悪いけど……あんたなら、そうでもないわね」

 壱弦が小さく呟いた。

 『不可侵の個室(ザ・ルーム)』の効果を直前で切った壱弦は、倒れた状態のまま、強化魔法を施した腕と脚で跳び退り、陽愛の銃弾を避ける。

「忘れてるわよ、自分で逸らした弾丸を」

 仕上げとばかりに、壱弦が天井に向けて一度だけ発砲する。

「『不平等な庭園(ザ・ガーデン)』」

 鋭間に使っている結界魔法を維持させた状態では、おそらく二分も維持はできない。それを自覚した上で、壱弦は、自分の代名詞とも言える空間魔法を発動した。

 駐車場が一瞬で、木々と花々が咲き乱れる庭園へと姿を変える。

 聖なる魔装戦セント・フェスティバルで見たことのある陽愛は、その光景を思い出してたじろいでしまった。

 その、迷いとも言える僅かな時間で、壱弦には充分だ。

全弾発射(フル・ショット)!」

 壱弦が、拳銃を横薙ぎに流しながら引き金を引いた。弾倉が全て空になるまで放たれた銃弾が、陽愛を襲う。

 防御の構えを取った陽愛だが……その横を抜けていったハズの銃弾が、木の葉や花弁にぶつかった途端に、Uターンして戻ってくる。それによって、四方八方から撃たれる形となった。

「つうっ……!」

 移動魔法でその場から抜けようとしても、戻ってきた銃弾が、更に木の幹に跳ね返されて陽愛を狙う。

 遂に一発の銃弾が、陽愛の防御を抜けて、その左手首のブレスレットに迫った。陽愛はなんとか、寸前でそれを躱す。

烈火の流星(メテオ・バニッシュ)

 驚く壱弦の背後から、炎の塊が三発放たれた。

 躱せないと判断して守りに入った壱弦を前に、鋭間が両手を交差するように振る。炎の塊の内二発が、カーブを描くように移動して、横から挟み込むように壱弦を直撃した。体勢が崩れた壱弦を、遅れて最後の一発が吹き飛ばす。

 離れていた陽愛の髪を揺らすほどの熱風が吹き荒れた。

「……やはり、無理だったか」

 壊れたブレスレットを摘み上げ、鋭間がため息を吐く。

「当たり前でしょ……誰だと思ってんの」

 痛みで起き上がれないまま、壱弦が言い返す。

 ゆっくりと右手だけを上げた壱弦の手には、焼き焦げたブレスレットが握られていた。

「お前、一年相手に『ガーデン』使うとか、大人げないぞ」

「あんたのせいよ」

 鋭間も壱弦も、相手への言葉に覇気がない。

 そんな二人を交互に見つつ、陽愛はどうすればいいのか戸惑っていた。

「ああ……鷹宮、俺たちはここで脱落だ。後は任せた。好きに戦って来い」

 陽愛の様子に気付いた鋭間が、壱弦への口調とは打って変わって、優しく言う。

「え、えっと……分かりました。頑張ります」

 まだ戸惑い気味ではあるが、力強く頷いて、陽愛は駆けだして行った。

「……やっぱり、実戦訓練って難しいな……パワーバランスが」

 鋭間が地面に倒れ込みながら、小さく呟いた。

 聞き流しながら、壱弦は拳銃をしまって本格的に脱力し始める。この場所から出て行く気もないような態度だ。

「チームC、姫波ちゃん、失格です」

 二人のインカムから、蓮瑪の声が流れた。

「お前の弟子が負けちまったらしいぞ」

「私のチームが倒したハズだから、プラマイゼロよ」

 力ない声で言い合う二人が失格したことを、少ししてから蓮碼の通信が告げた。

 実戦訓練は、三名の脱落者を出して、残り三十分を切っている。

  

  

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