第17話 尾行の真相
辺りを一応捜索したが、尾行していた男は見つからなかった。
仕方ないし、折木の事も心配なので、ここは一旦引き下がった。急いで折木のいるだろう場所へ向かう。
なんとか見つけて安心した。
「おう……悪いな、遅くなって」
なんとか笑顔で言ったつもりなのだが……。
「ど、どうしたの? そんな汗だくで……暑いの?」
確かに走ったからな……何度も言った通り、移動魔法を連続で使用する事は出来ない。なので、俺はほとんどは走って移動していた。
苦笑いして汗を拭う。
「ああ、まあ、まあな……それより、なんかあったか?」
「ん? ううん……何も、なかったけど?」
周りを警戒するが、再度尾行されている感じはしない。
さすがに……何が目的かは分からなかったが、今回は諦めたようだ。
「そんじゃあ……行くか」
◇
それから折木は少し買い物をして、俺は荷物を持って一緒に歩き、最後にファストフードで昼飯を済ませた。
気が引けたが、青奈に電話をして、昼飯は自分でどうにかしてくれと伝えた。
12時半。
俺達は公園に戻ってきていた。
「今日はその……ありがとう……。一緒に買い物に来てくれて」
折木が恥ずかしそうに言ってきた。
まあ……俺が一緒に行った意味は、結局分からなかったけど、楽しかったし。
ただ、一つを除いては。
「いや、俺こそありがとうな。なんか、誘ってくれて」
俺が言うと、折木は俯いてしまった。なんだか……顔が赤い気がするが……。
うん……?
なんかまずい事を言ってしまったのか? やはり会話力が低い俺だと、良い言葉が出てこないな。
「あ、ありがとう! また今度ね!」
折木にしては珍しく大きい声で言うと、急いで家に続く道を進んでいった。
最後の最後で怒らせてしまったのかな……ううん……分からん。
さて、と……しなきゃいけない事がある。
何を? 言う必要はあるか? ないよな?
尾行者の件についてだ。
携帯を取り出す。俺の少ない登録アドレスの中から、品沼の名前を選択する。
少し待ってから、品沼が電話に出た。
「やあ、白城君。電話で話すのは初めてだね。どうしたの?」
なんとも優しげというか……良い奴って感じの声色だよな、こいつ。
人を安心させる感じだ。ゆるキャラってもんに向いてるかもしれない。
「お前、結構裏の事情とかに詳しいって言ってたよな」
以前、俺が不良だった2年の先輩を撃退した時、品沼が妙に不良などの情報について話していた。事情を聞くとはぐらかされたが、何やら裏の事情について詳しいらしい。
色々な……組織、とかな。
「うん、言ってたよ? それがどうかしたの?」
「実は――」
俺は品沼に、今日の出来事について、出来るだけ詳しく話した。
品沼は静かに聞いていた。俺が話し終わると、品沼は黙って何かを電話の向こうで始めた。なにやら紙が擦れる音がする。
「なるほど……ね。それはおそらく『テンラン』だよ」
「て……てん……らん? 展覧?」
全く聞いた事もない。
「天下を乱す……って意味らしいよ。だから、テンラン。まあ、そんな事言っても、陰で色々やってる普通の組織だよ」
話によると、朝っぱらから尾行していて、狙われる理由もない女子を狙っていたというなら、テンランだろうという事だ。
つまり、誘拐目的。
テンランはこの頃、女子高生の誘拐などをやって、売り飛ばしているらしい。
な~にが天下を乱すだ。
乱れてんのはお前らの頭ん中だよ、馬鹿野郎どもめ。
「上手く逃げてるらしいよ? 警察が何度も追い詰める直前までいってるんだけど……」
追い詰める直前なら、まだまだだな。
それにしても……無差別だろうな。大体は美少女狙いなのだろう……可愛いってのも考えものだ。
「ふうん……この町にもいるんだな。そういう危ない組織」
俺が言うと、品沼は微妙に笑った。
「そうだね……まあ、この組織ぐらいしか大きいのはないし……それも、この前までは大人しかったしね」
何か……違和感を感じた。
何か……引っかかる。
「なあ……それって、いつからだ? 活発化したっていうのは」
真面目に聞くと、品沼も真面目な声で答えてきた。
「そうだね……僕達が入学した時ぐらいだから、本当にこの前だよ」
入学した時ぐらいから……俺への魔装法研究者の接触があった。
偶然……だろうか?
「まあ、分かった。悪いな、こんな事聞いて」
「いやいや? 別に大丈夫だよ? お役に立てて良かったよ」
そんな風に気軽に言う品沼……お前、こんな事知ってるって、結構すごいんじゃないか?
俺は礼を言うと、電話をきった。
どうするべきか・……。
無差別な集団誘拐犯。
また狙われるとは限らないが、折木がまた襲われる可能性はゼロではない。
それに……そうじゃなくとも、実態を知った以上は、動かない訳にはいかないんだ。
「陽愛や青奈とかが襲われても……嫌だしな」
呟いて、一度家に向かう。
戦闘準備だ。
◇
家に戻り、ナイフを持って、予備弾倉も備え、保険である兄の拳銃を持つ。
やれやれ……何もない日のハズなのに……。
「青奈、また出かける」
呼びかけると、青奈はテレビを見たまま振り返らずに、頷いた。
◇
どこにいるか分からない。
けれど、情報を聞き込みで集め、なんとか捜せば――
そんな事を思って1時間……テンランのアジトどころか、メンバーの一人も見つからない。
「うわ……こんなに大変なのかよ……」
一旦休みながら、俺は携帯を開く。時刻は2時だ。
その時……見知らぬ番号からのメールがきた。
一瞬、身を固くする。ゆっくりとメールを開くと……。
『お前の友達が危ないぞ』
それだけ、だった。
誰からだ……?
そんな事を考えるより先に、俺は陽愛に電話をかけていた。
「頼む……悪戯で……勘違いで……あってくれ……」
少し時間がかかったが、電話が繋がった。
「もしもし、黒葉? どうしたの?」
今日はよく、どうしたの? って聞かれるな……。
一人で笑うと、一応安心した。
「今、何処にいるんだ? 外か?」
俺が聞くと、釈然としない感じで答えてくれた。
「桃香と一緒に……学校から少し離れたファミレスにいるよ」
学校から少し離れたファミレス……ああ、学生とかが皆で集まって行ってるらしいな。良い集まり場所なのだろう。
女子二人だけっていうのも気がかりだが、大丈夫だろう。
「そうか……折木は今いるのか?」
俺が聞くと、いない、と言う。
再び不安になってきた。
「今はね、家に忘れ物したっていうから、一度帰ったよ。もう来ると思うんだけど……どうしたの?」
もう一度聞いてくる陽愛に、俺は答えられない。
言いようのない不安。募る恐怖。
感覚が……危機を告げている。
「おい……そっから動かないでくれ。ちょっと今日は――」
「も、桃香!? ――く、黒葉! 桃香が店の前で誰かに!」
俺の台詞を突然遮る、陽愛の悲鳴にも近い声。
背筋が凍る。
折木が……誰かに? 誰に? 何を?
分かりきってる。
「おい! 落ち着け! 外へ出て、追おうとするなよ!? 動くな!」
俺が電話の向こうに叫ぶが、陽愛は混乱したようで、聞いていない。
最悪の事態……陽愛が店の外へ出てしまった。
「も、桃香! も――」
電話越し――焦っていてきっていない――に聞こえる、陽愛の声が突然途切れ、陽愛の呻く声が短く聞こえた。それから……携帯の落ちる音。静かになった。
「おい……陽愛? 陽愛……陽愛! 聞こえるか!? おい!」
すると……電話から、声が聞こえた。
「死なせたくないなら、警察には言うなよ」
低く、威圧感のある声で、そんな決まり文句を言ってきた男――!
「て、テメエェッ!! 陽愛に、折木に……二人に、何をしたッ!!」
俺が叫ぶと……男は笑った。
「お前の彼女かなんかか? 随分な美少女だな……これは良い商売になりそうだ」
――商売。
この……この野郎……!!
電話がきれた。
俺は全速力で、間に合わないと分かっていながら、ファミレスへと向かう。
チッ……! あまり人通りのない道に沿って建つファミレスだ。人通りが少ないからこそ、学生も集まれたりするのに丁度良いのかもしれない。
「完全に……悪効果だ!」
こんな偶然……あるのか?
俺がフェニックスプロジェクトの元研究員と接触した事……それとほぼ、同時期に活発化した『テンラン』の犯罪活動……。
偶然か?
いや……今の俺がする事は、考える事じゃない。
動け……! 出来るだけ、早く……!




