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第173話 面会

 

 陽愛、桃香、瑠海の三人と共に、俺は生徒会室を訪れた。

 今後の動きや考えについて話し合い、俺たちは一応の対策として、いくつかの案を練ったのだった。

 

 そして今、俺は刑務所にいる。

 もちろん俺が入る訳ではなく、仲の良い知り合いがいる訳でもない。

「面会時間は五分です」

 刑務官に告げられ、俺は頷いて面会室に入る。

 本来、会わせてはもらなかった奴だ。学校側も秘匿にし、俺だけじゃなく、輝月先輩や千条先輩たちにも触れさせなかった。

「……久し振りだな……」

「刑務所暮らしは慣れたか? 随分とやつれて見えるぞ」

 ギラギラとした目は変わらない。

 こいつは前に桃香を尾け、学校では一人の男子生徒を利用して攻撃を仕掛けた、フェニックスプロジェクトの残党。本人は明言しなかったが、俺は既にその情報は掴んでいる。

「今更、なんの用だ……」

 俺が来たことに驚いているらしい。目に、戸惑いが浮かんでいる。

 それはそうだろう。こいつを捕まえたのは俺自身だ。その時に、俺はこいつから情報を聞き出している。

「時間がない。答えろ」

 本当は、江崎と連絡が取れれば楽なんだが……あいつには今、連絡が全くできない。それほどに、江崎の置かれている状況がまずいのか。

 全ては憶測の域を出ないが、仕方ない。俺の問題だ、俺でなんとかしよう。

「お前が俺たちに接触してきた時……既に、リバースとサーフィスで分かれていたのか?」

「それを聞いてどうする?」

「俺の質問に答えろ。まあ、今のお前の口調から、既に存在してたんだな」

 相当前から、か。

「なら、いつからだ。具体的には」

「お前の兄、白城白也が高校三年生になった日だ。その日と聞いている」

「だが、お前はサーフィス側だった。つまりお前は、スパイだった訳か」

「ああ。元々、裏表なんて分け始めたのは、リバース側の奴らなんだからな」

「だろうな……実際、サーフィスがリバースの存在を確信したのは最近だと聞いてるよ」

 江崎たちが襲撃を受けた日。もしくは、それより前だったかもしれない。

「お前は何故、サーフィスにそれを伝えなかった? リバースを認知したのは、俺たちに接触するより前だったハズだ」

 それが伝わっていれば、江崎たちは早くに摘み取られていた可能性が高い。

「お前の兄のせいだな。奴はスパイの存在に気付き、しかも容疑者に俺を含めていた」

「組織結成の初期段階で紛れ込むのは定石だし、当然だろうな」

 お前の目、ギラギラしてるし。スパイっぽいもんな。

 というか、自然(ナチュラル)に兄さんのことを出してきたな。全くもって配慮とかがない。別に求めちゃいないが。

「ああ……だからあいつが消えるまで、俺は報告らしい報告ができなかった。だが、奴が突然アメリカへと渡ったことで、俺は動きやすくなった」

 兄さんが渡米したのは、突然のことだったか……俺たちにだけじゃなく、仲間にも教えず。

 それでも、陽毬さんには教えたのか? どうも、そこが納得いかない。

「だが、兄さんの考え方は組織に染み付いていた……お前は『テンラン』を介して任務を受けられたが、所詮は雇っただけの犯罪グループに報告を託すまではいかなかった」

「そうだ……白城白也が姿を消せば、待ってましたとばかりに動く奴が出る……リバースはそれを狙っていた。俺はそれに気付き、『テンラン』を利用しようと決めたんだ」

 なるほどな。

 サーフィスとリバースは、根本は同じ組織だったのだ。スパイが紛れ込むのを防ぐのは難しい。

 スパイは複数いた。それは確実だ。だが、こいつが捕まるという事態が起こり、下手に動くことができなかったため、表と裏の衝突は長引いた。

 それから、第二の可野杁栄生という生徒を使い、サーフィスはリバースへと仕掛け始めたのだ。

 こいつとの面会を許せば、サーフィスへと情報が伝わることになってしまう可能性がある。だからこそ、学校側もこいつとの接触は禁じた。

 そうなると……第三高校に、プロジェクトのことを知っている人間がいるということか。

「スパイはまだいるのか?」

「もう一人だけいる」

 それなら、前回の襲撃騒ぎで明らかになったハズだし……大丈夫か?

「ネクストプロジェクト、という単語については?」

「いや、知らないが……なんだそれは」

 知らない、か……どうやら嘘ではなさそうだが。

「教える気はない。最後に一つ。兄さんが、お前らと行動を共にした理由と、明確な時は?」

「…………時間のようだぞ」

 腕時計を見ると、きっちり五分経っている。

 刑務官が扉を開けて、俺に出るよう促した。

「いつから、くらいなら言えるだろう……! いつだ!」

「お前の兄だろ? 直接聞くんだな」

 それくらい教えろよ……!

 こいつとの面会は、プロジェクトについての情報を公安に流すという荒業で取り付けた。もう一度こいつと話す機会があるかは分からない。

 だが、やはり答えは得られないまま、俺は部屋の外へと出されてしまった。

 俺は三年前の件で、政府に知り合いがいる。今回もその伝手(つて)があったのだが、そこまで親しい訳でもない。公安へ情報を渡すのは、それなりの支払いだったのだ。

 話を聞いたところ、公安はどうやら、ヴェンジェンズをテロ組織として追っているらしい。おそらく、ネクストプロジェクトに構っている暇はないハズだ。

 掻き混ぜてもらえりゃ、戦いも楽だったんだが……どうせ、そんなことだろうと俺も最初から諦めてたよ。

 だが、これでハッキリしたこともある。

 表と裏が静かに分かれたのは、約一年前。その時には既に、兄さんはリバースについていた。

 そして疑問も残った。兄さんがいつからプロジェクトメンバーに加わったのか、だ。

 青奈のペンダントには、プロジェクトデータが自動更新される特殊なUSBメモリが入っていた。仕掛けたのは兄さんだろうが、青奈にそれを渡したのは約二年前。青奈が中学一年生だった年の誕生日プレゼントだった。

 それはつまり、少なくとも二年前には、兄さんは研究者たちと協力していた……もしくは情報を盗み取っていた、どちらかだ。

 後者だと信じたいが……分からない。

 あの人は俺に、何も話さない。それでいて俺を操るんだから腹が立つ。

「さて、と……仕方ない」

 兄さんの件は気になっていたが、そこはまだ調べようがある。

 それに、俺の今回の目的は別だ。言ってしまえば、こっちはついで、とも言える。

 まだ、俺の渡した情報の貯金が残っているのだ。

 

「白城黒葉か……お前が来ることはないと思っていたよ」

「そうだな、俺も会うことになるとは思わなかった」

 俺は今、別の受刑者と面会をしていた。

「兄さんに殺されないために、わざわざ捕まりやがって」

 渋木(しぶき)重孝(しげたか)。四十代後半くらいの、険しい顔をした男だ。

 こいつはフェニックスプロジェクトの研究員だった。町の外れにある元フェニックスプロジェクト研究所の隠し扉、その存在を知る数少ない生き残り。

 非道な実験に怒りを爆発させた兄さんから逃げ、命を守るために、わざと警察に捕まった。

 政府としても、フェニックスプロジェクトの存在を隠したかったため、渋木の逮捕は理想的だったらしい。こいつを殺せば楽なのだろうが、渋木の握っている情報は莫大で価値がある。なかなか思い通りにはいっていないようだ。

「いつまで政府と駆け引きする気だ? そろそろあっちも痺れを切らすか、お前を切り捨てるぞ」

「分かっている。そろそろ、私の持つ情報の価値も薄くなってきたしなあ……それに、お前の兄も、さすがに私に構う暇はないだろう?」

「それはどうだろうな。俺が代わりに殺すかもしれないぜ」

 俺とこいつの面会は、幾分か緩い。俺たちが接触することは、情報を引き出せるいい機会だからだろう。

「さて、と……聞きたいことがある。お前なら、今の状況から推測できるだろう」

「お前も落ち着いたな。昔は、研究員の類を見るだけで、怒り狂っていたというのに」

「いいから聞け」

 こいつの面会だけは、例外的に逐一記録されている。俺がこいつに話すということは、情報が漏れるということでもあるのだ。

 だが、それでいい。それで警察やら公安が動けば、俺たちの敵を倒せる可能性が上がる。

 俺は掻い摘んで、七大罪の情報を話した。

 腹立たしいことだが、渋木は優秀な研究員だった。こいつなら、七大罪の、というよりも交神魔法の仕組みに心当たりがあるかもしれない。

「……それで、私の見解を求めるか」

「政府側に、お前の刑期を縮めるよう言ってやる」

「君にそれほど権力があるか?」

「俺はまだ、価値がある情報を持っている。それを使えば、多少の無理は通るだろう」

 嘘ではないが、確実ではない。

 そもそも、渋木の刑期は残り三年ほどだ。終わるのを待って、今の件が落ち着くのを待つ方が賢明かもしれない。

 果たして、乗って来るか。

「……まあいい。面白い話だったし、私の見解を述べよう」

 よし、江崎と連絡が取れない今、予測でもいいから対策材料が欲しい。

「プロジェクトメンバーがお前の兄に殺された時、お前は気を失った。その時、白城白也は不死鳥の力を使ったのだ」

「な……! 初めて聞いたぞ」

「当然だな。それを見ていた奴はほとんど死に、生き残ったメンバーは逃げたりした」

 馬鹿な……兄さんは既に、不死鳥の能力を使いこなしていたというのか。

 俺の中の前提が崩れる。

「その時に、奴は自我を保ったままだった。不死鳥の人格など出てこなかった。それはつまり、あいつが不死鳥を従えた、という考えが正しいだろう」

「……精神的な話か?」

「そうだ。事実、あいつは実験中、しばらく意識を失った後に急に目覚め、あの大虐殺を行ったのだ」

 ほとんど、覚えていない……。

 俺は意識を失っていた。最後に覚えているのは、拘束を引き千切り、研究員を攻撃する兄さんの姿だけだ。

「意識の中で、兄さんは不死鳥の人格を抑え、能力だけを借りたと?」

「だろうな。身体の中に意思は二つ……強い方が実権を握るのは当然と言えば当然だろう」

 俺の話はしていないが、こいつはほんとんど、俺や江崎の推測と同じことを思っているようだ。

 だが、もっと本質的が話が欲しい。

「意思の強い弱いなんて、どこで決めるんだ」

 そう、意思の強さ。

 月音の場合など、俺はあまり深くは聞かなかったこともあり、よくは分からない。ただ、俺の場合を考えれば、推測はできる。

 身体を持つことに対する執着、か。揺るがない目的意識、か。

 そんなところだろう。

 しかし、渋木はさすがに、そこまでの明言は避けた。

「それは意識の中のやり取りを体験した者にしか分からないんじゃないか? 私はそこまでの推測はできない」

 仕方ない。これは、月音と話を照らし合わせるなどするしか、考えようがないだろう。

「それで? 結局お前は、何が言いたいんだ?」

「つまり、だ。意思と能力には密接な結び付きがあるのではないか、ということだ」

「結び付き……?」

「そもそも、魔装法はイメージによる特殊能力だ。通常の思考とは異なる思考回路が人には元々存在していて、ある人物(・・・・)がその思考回路を初めて開き、それに影響された人々によって魔装法が広まった、というのが一般的な考えだ」

「それは昔の考えじゃなくてか?」

「三年程度で進んだとは思えないがな……。まあ、その話はいい。この考えは、魔装法の能力は柔軟な意思によって進化し、強くなっていくということだ。早く、明確な思考の切り替えこそ、能力を使う上で重要になるのだ」

「だからこそ、意思は消すのではなく保存しておくべきと?」

「大雑把に言えばそうだ。その交神魔法と呼ばれる奴らの意思としても同じ。人間の意思を抑え込み、利用すれば完全に近くなるだろうが、意思を殺せばそれは不可能だ」

 江崎の言っていたことと近い。

 完全な能力は、意思の共存か、意思の統率で実現すると。意思の殺し合いじゃなく、意思の奪い合い。

「もし……意識の中で戦い、相手の意思を殺した場合、そいつの能力は完全に失われるのか?」

「それは憶測すら難しいな。実際、私がさっき述べた完全になる方法というのも憶測だ。ただ、可能性は高いだろうな」

 それじゃあ……一番、聞きたかったことを。

「七大罪は、人間の意思は死んだ、と言った。それで、完全になるために俺を狙っているらしい」

「聞いたが?」

「どうやって完全になる? まさか、俺の意思を奪うってのか? 俺の中の不死鳥が邪魔になるだろう」

 そう、これが疑問だった。江崎には聞きそびれてしまっていた。

 人間の意思が死んだのなら、それは奴らが完全になる機会を失ったということ……で、あるならば、俺をなんのために狙うのか。俺をどう使えば、完全になる?

「さあな……強力な吸収魔法でも使えばできるかもしれないな。そうでもなければ、科学者の力を借りれば可能だろう」

「科学者? どうやって?」

「初代であるお前には、他の奴にはない使い道があるんだ」

 初代――偶然の産物である、不死鳥のことか。それなら、俺と青奈、それに兄さんだって……。

「ここでは情報が少ない。確かなことは言えないが、折角、比較対象がいるんだ。比べてみればいいだろう?」

「言えよ、勿体ぶらずに」

「今日の推測はここまでだよ。正直、私が見たことのある人外だけでは、あまりにも情報が少なすぎるんだ」

 決定的なことは特に聞けなかったが……最初から、研究者の意見が聞きたかっただけだしな。江崎だと、気を遣って話さない、ということもありそうだし。それと、限られた情報の中での専門家の意見ということも重要だ。

 俺だけではどうも考えが纏まらず、冷静には考えられない。

 七大罪が襲ってきた時は……既に、腹を括って殴り合うしかない。今は、情報の整理と、抜け道を探すこと。

 そもそも、俺が狙われる理由をなくせないか、と考えているのだ。

「また君と、生きて会えることを祈ろう」

「……心にもないことを言うんじゃねえよ」

 平淡な口調で憎まれ口を叩く渋木に、俺は背を向けて扉を開けた。

 

  

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