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第149話 帰路

 

 聖なる魔装戦セント・フェスティバルの閉会式が終わり、まさか打ち上げがあるとか伝えられ、俺は急いで荷物をまとめた。

 教師陣、運営側への挨拶もそこそこに、俺は飛斗梶スタジアムを出る。

「やべえ……あと、一時間しかないじゃねえか……」

 三大都市内なので、駅までは、走れば十分とかかからないだろう。

 そこから電車に乗って町に戻り、家まで走ってから、学校へ……。

「無理じゃないかなあ……無理じゃないかなあ……」

 とりあえず、唯一メールアドレスを知っている人物、輝月先輩にメールを送った。もちろん、打ち上げ場所を訊く内容である。

 ……返事来ない。

 返事来ないと、マジで遅れられないんだけど……場所知らないもん。

 打ち上げとか言いながら、どうせ反省会とかだろうし、後輩でもある俺が行かなきゃまずい。

 ちっくしょー逃げてえー。

 とりあえず、駅まで向かおう。

「白城くん」

 駆け出す体勢だった身体を無理やり戻し、俺は振り返った。

「……江崎」

「見てたよ、最後の試合。なかなか面白かったけど、惜しかったね」

 軽い口調で言う江崎に、俺は言い返そうとした。

 が、もはや何かのルールなのかと思うほどいつも着ている白衣が、血で汚れているのを見て、俺はため息を吐いて押しとどめた。

「小鈴ちゃんは?」

「ああ、小鈴は少し離れた場所で……ちょっとね」

 複雑な表情で言った江崎に、俺は眉を寄せる。

「なんだよ、放っておいていいのか?」

「いや、それがさ……僕が入らない方がいいっていうか……入っちゃ駄目っていうか……」

 妙に口ごもる江崎に、俺は更に不信感を募らせる。

 しかし、それと同時に俺は、重大な事態に気がついた。

「おい、話は電車内でだ。俺は急いで、町に戻らないといけないんだよ」

「おいおい……公共の場所で話していいのかよ。君にとっても、まずい話だろ?」

「……緊急事態だ」

 驚いたような、なんとも形容し難い表情を浮かべ、江崎は肩を竦めた。

「まあ、気分的な問題もあるだろうしね……仕方ない」

 まさか、納得したのか。

 正直、怒られる覚悟ぐらいはしていたのだが。

「分かってくれたと言うなら、早く小鈴ちゃんを呼んでこいよ。まさか、置いていかねえだろ?」

 確認するまでもなく、置いていく訳はないのだが……まず、この江崎が、小鈴ちゃんから目を離しているという時点で、どうも状況が掴めない。

 少し遠くに目を向けても、全く見当たらないのだ。

「いや、まあ……そう……なんだけどねえ……」

「なんだよ、ハッキリしろ。お前らしくもない」

 江崎は俺に言われて、軽く唸ってから頷いた。

「そうだね……とりあえず、君も知り合いだろうし。後から連絡させてもらうよ」

 何を言ってんだ、こいつ。

「小鈴ちゃんを、誰と会わせてんだ?」

 俺に背を向けた体勢から、江崎は顔だけ振り向いた。

「ん? ああ……小鈴と育った姉と、小鈴と血の繋がった姉、の二人だよ」

「……は?」

 

 ◇

 

 俺と江崎、小鈴ちゃんの三人は、電車に揺られながら話をしていた。

 小鈴ちゃんはシートに座らせ、俺と江崎は隅の方に立つ。

 帰宅する人も多い中で、俺たちは声を小さくする。

「一体……どういうことなんだよ。小鈴ちゃんの姉が、第二の生徒会庶務? でもその人は……」

「本当の姉じゃない。本当の姉は、君と戦った女の子、夜長三月音ちゃんだ」

 混乱する頭に手を当てて、なんとか切り出した俺の言葉を、江崎が継いだ。

 え~っとお……?

 ……整理しようか。

 月音の姉は、義姉だった。逆に、その義姉の実妹が、第二の生徒会庶務の人。更に、その庶務の人の義妹が、月音の実妹――それが、小鈴ちゃん……。

「やべえ……頭痛い……頭痛薬あるか?」

「おやおや。鷹宮ちゃんは、すぐに理解してたよ?」

 江崎の軽口に、俺は驚く。

「えっ? 鷹宮って……陽愛だよな? なんで陽愛が知ってんだよ」

 慌てる俺に、江崎は大袈裟に肩を竦めて見せた。

「そりゃ、今回の事件解決を手伝ってくれた人の中に、彼女がいたからだよ」

「は……? なんで?」

「偶然……と言ってしまえば、それまでだよ。それでも理由を求めるなら、君が夜長三月音ちゃんと繋がっていて、その君が鷹宮ちゃんと繋がっていたから、とでも言おう」

 ……これ以上、議題を増やしたくない。

 後ほど、陽愛本人から聞こう。

 あ……そうだ、陽愛を打ち上げに呼べばいいんだ。輝月先輩も、連れてきたきゃ連れて来ていいって、言ってたし。

 迷惑かけたっぽいから、謝るついでに、その裏話も聞けばいい。

「よし、その件は終わりだ。隣町で降りるんだろ? 急いで話せ」

 その時江崎が、白衣のポケットから何かの錠剤を取り出した。

「なんだよこれ」

「頭痛薬だよ」

「あるのかよ! つうか遅いし、本気で言ったんじゃねえし!」

 思わず大声でツッコんでしまい、周囲の視線に刺される。

 軽く頭を下げてから、俺は深くため息を吐いた。

「……いいから、話せ」

 不思議そうな顔で錠剤をしまう江崎を、心の中で毒づいて、俺はもう一度ため息を吐く。

「事の起こりは、僕たち(リバース)の存在が知られてしまったことだね。あ、その頃には既に、NPJ(ネクストプロジェクト)は始まっていたよ」

 できるだけ明確な言葉は伏せながら、江崎が話し出す。

「突然、僕たちは襲撃を受けてね。小鈴は連れ去られた。その後、小鈴はある研究者に言われ、君に接触したんだよ」

「ああ、もしかして……あの、お前が危ないから助けてって、伝えに来た時か?」

「おそらくね」

 その場に江崎がいなかったため、本人からは曖昧な返事が返ってきた。

 しかし……なぜ、その研究者は、俺に小鈴ちゃんを接触させたんだ?

 素直に疑問を口にすると、江崎は苦笑を漏らした。

「冗談だろう? 実際、君は通り魔事件に深く関わっていったし、上手い具合に噛み合ったじゃないか」

「そりゃどうも……。そういや、お前の仲間に、変装少女がいるだろ? ちょっと文句言わせてくれ」

 勝手に家に入った挙句、青奈に変装して色仕掛けとか、後始末は適当だとか、文句ありまくりなんだよ。あいつのせいで、青奈と喧嘩しちゃったし。

「変装少女……? 僕たちの側(リバース)にかい?」

「あ? ああ……そう言ってたよ。違うのか?」

 思ったよりも鈍い反応が返ってきた。

 いや、確かにそう言ってたよな……リバース側だって。

 江崎は口元に手を当てて、しばらく思案している。反応がおかしいよな、これ。

「……分かった。彼女か」

 やっと江崎は喋ったが、その顔はどうも浮かない。

「おい、本当にか? もしかして……サーフィスとか……」

 不審に思った俺が、ついついサーフィスという単語を出して訊くと、江崎は首を振った。

 やはりおかしい。神経質に隠語を使っていた江崎が、今の俺の失態を責めないとは。

「気にするな――それで、小鈴は今まで監視、というか……監禁されてたのかな。僕も詳しくは聞き出していないけど」

 座ってる小鈴ちゃんの顔を覗き込むと、どうやら眠っていたらしい。どうりで静かだと思った。

「過酷だな……まだ、十歳やそこいらなのに」

 気持ちが言葉として、そのまま出てしまった。

 こんな気の遣い方は、むしろ申し訳ないが。

「まあね。僕もどうにかしてあげたいんだが……そこで、一つお願いがあるんだよ」

「……なんだ」

 嫌な雰囲気になり始めたので、少し身を引いて訊くと、江崎は頭を下げた。

 丁度、隣町の駅に着く。

「襲撃されたから、この町には、播摩土研究所には戻れない。僕はなんとかするけれど……小鈴がね」

「一緒に……ってのは酷か。なら、月音か、元の家に預ければどうだ」

「それじゃあ、巻き込む恐れがあるだろう?」

 嫌な予感が、少しずつ形を成していく。

「だから、君の家で預かってくれ」

 こいつはどうやら、この駅で降りる気はないようだ。

 

 ◆

 

 私はバスに揺られながら、町へと戻っている。

 車内は、今日の試合の話などで騒がしい。

「陽愛~食べる~?」

 二つ隣の瑠海が、飴を私に差し出してくる。

 一番後ろで陣取っている私たちは、少しだけ静かだ。

「ううん、ありがと……」

 無理に笑うと、瑠海は心配そうな顔をした。

 それでも、何も聞かずに頷いて、乗り出していた身体を元に戻してくれた。

 ……今は、話す気分じゃない。

 窓際の私は、少し遠くの景色に目を向けた。

 暗い空に、星がキラキラと輝いている。

 最終代表戦の二戦目は、明らかにおかしかった……交神魔法ってものが関わっていたせいだって。

「黒葉……なんで、そんなものに関わってるの……?」

 小さく、呟く。

 関わっているかどうか、明確には説明されなかった。

 だけど、今回は偶然、黒葉が巻き込まれた……というのはありえない。

 そう考えられないことが、多くありすぎる。

「相談、してくれないんだ……」

 胸の奥が、微かに痛んだ。

 そうだ……黒葉は、毎回のように、私を気遣ってくれる。いや、私だけじゃない。みんなのことを、気にしてる。

 傷付く人がいたら、急いで助けに行って、守ろうとするんだ。

 それなのに……自分の傷だけは、誰にも見せようとしない。

 ついつい、黒葉の優しさに甘えてしまう。

 誰かのことを考えられるのは、自分に余裕があるからって、勝手に勘違いして。

 だけど……逆なんだ……黒葉の場合は、違う。

 自分が傷付いたから、その痛みを知っているから、誰かを助けるんだ。

「背負っちゃ……駄目だよ……」

 隣で、静かに寝息を立てる桃香に、身体を少し預ける。

 

 桃香は……黒葉のこと、好きなの?

 

 今日の、瑠海との会話を思い出す。

 疲労のせいだろう……それについて考える前に、私の意識は、夢の中へと潜っていってしまった。

 

  

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