第14話 回想――解凍される、三年前の――
遂に、ずっとひた隠しにしていた、過去の出来事を話さなければいけないようだ。
本当に気が進まないし、周りから見ればどう映るかは不明だが、自分からすれば本当に地獄だった。
三年前の六月一日。
その事件は起こった。
魔装法暴乱事件。
後にそう称される事件だ。
もう、隠す必要はない。その事件というのは、ある研究されていた魔法が暴走したというものだ。
三年前と言えば、俺が中学一年生で、青奈は小学六年生、兄さんは高校一年生だった。
俺たちの父さんは、外国で働いているといったが……その仕事は、魔装法研究だ。
つまり、俺たちの父さんは魔装法研究者である。
外国で働きだしたのは一年半前だ。三年前までは、東京の魔装法研究所で働いていた。
十年前――正確には八年前から魔装法は使われていた。
なので、三年前と言えば、俺だって兄さんだって使っていた。青奈さえも。
あの日――俺たち兄妹三人は、魔装法研究所にいた。
理由は簡単だ。父さんがその日から無期限で、研究所に泊まることになったので、荷物を届けさせられた。
母さんは仕事だったので、俺たち三人で行くことになった。
タクシーを使ってそこに到着した時は、既に時刻は七時半頃だったと思う。
そこで、色々と父さんに連絡をされるなどして確認をとられ、中に入れられた。
広かったので少し迷いながらも、俺たち三人は父さんに荷物を届けた。その時は八時を過ぎていた。
役目を終えた俺たちは帰ろうとした。
その時だ。
第一実験室――その研究所で一番の実験室だった――で、緊急事態が起こった。
その時に研究されていた魔法は――今まで存在していなかった、神話の生き物などを具現化した魔法と、あろうことか不死の魔法だった。
その二つを、何人もの高レベル魔装法使いがイメージして、データをとっていた。
それを続けた結果、通常はありえない力が生まれたのだ。町一つ消し飛んでもおかしくないほどの。
そりゃあ焦る。
魔装法研究者たちは力の暴走を防ぐため、魔装法使いが魔法を纏わせていた柱を壊そうとした。
この柱は実験室の本当の柱だが、機械であり、その柱自体が研究道具だったらしい。
しかし、それを壊そうとしたことによって研究所全体に緊急退避命令が出された。
第一実験室にいた研究者たちは、破壊を諦めて逃げ出した。魔法は暴走せず、町を消し飛ばしたりはしない、という希望にすがりながら。
その希望は現実となる。
町は消し飛ばなかった。
しかし、研究所と俺たちが消し飛んだ。
普段から非常時の避難方法を聞いていた研究者たちは逃げられたが、俺たちは迷った挙句に逃げ遅れ、第一実験室の柱を中心とした魔法の力により消し飛んだ。
研究者がフロアからいなくなると、それに自動的に反応して、シャッターが閉じるようになっていた。IDカードとかなんとかに反応するようになっていたのだろう。
その、さすがの高設備に俺たちは見放され、取り残された。
そして、不死鳥の魔法により、研究所が丸々吹き飛んだ。
だから……俺たち兄妹は、既に死んでいる。
そう、死んだのだ。
更に大事なのがここからだ。
死んだハズの俺たちの身体は、ある魔法によって復元された。
それこそ、不死鳥の攻撃魔法ではなく、不死鳥の補助魔法……不死の魔法だ。
不死鳥……フェニックス。
笑えることに、俺たちは殺された魔法に生き返された。
しかも……それだけではない。俺たちには、不死鳥の力が宿ってしまったのだ。不死鳥のフェニックスの、不死の魔法が。身体に。
本当に笑い話だ……だって、魔装法が宿るということは、俺たちは道具なのだ。既に、人間では、ないということになる。
灰の中から生き返る不死鳥。そのままの通り、俺たちは塵のなかから再び蘇ったのだ。
最初は何がなんだが分からなかった。
父さんは俺たちが生きていたことを泣いて喜んでいたが、すぐに異変に気付き、調べた。
その結果……分かったのだ。不死鳥の魔法のことが。
しかし……不死鳥の如く、炎魔法を使うということはできなかった。
なぜなら……幼少期でのショック、大きすぎるショックを受ければ……それに関する魔法は無意識に使えなくなるからだ。
俺たちは、憶えてなくても、知っていたのだ。不死鳥の炎に、焼き殺されたことを。
これで終わりというなら簡単だが、まだ続く。
それを知った研究者が、俺たちを研究しようとしたのだ。
両親の訴えを揉み消し、かき消し、俺たち三人は研究されたのだ。奴らの失敗によってできた身体を、奴らはまるで怪我の功名とでも言うように調べた。
それで判明したこと……俺たちは、寿命がくれば死ぬ。
いくら不死鳥の魔法と言えど、不完全な人間の形の中に収まっている魔法だ。不死鳥そのままとはいかない。
そして……俺たちは、寿命以外では死なない。
例え心臓が止まろうとも、燃え尽きた後、復活する。
巡る命の魔法――いや、呪いだ。
ただし……死ぬことにはデメリットがあった。
不死の復活魔法を使えば使うほど、俺たちの寿命は少しずつ縮まるのだ。
それはそうだろう。強大な魔法が何回も使われ続ければ、所詮人間の形の道具。すぐに限界がくる。
しかも、寿命の前に燃え尽きて、本当に死ぬかもしれないそうだ。
笑わせるな。
誰のせいでこうなった? 俺たちのタイミングが悪かった?
そうだろうな。ああ、そうだ。
けれど、あいつら研究者は、迷う俺たちを助けもせずに我先に逃げ出した。
その後に、まだ俺らを……あろうことか小学六年生だった青奈でさえ、実験対象にした。
結局……事の顛末は、この非情さにブチギレた兄さんが、研究者を全員消し飛ばした……という終わり方だ。
その時から、青奈は俺と兄さんに距離を置くようになった。
一方的に避け、拒絶し、同じ痛みを一人で背負おうとしていた。
傷を舐め合うつもりなんてない。それでも……青奈には話してほしかった。
どういう気持ちで、どういう痛みで、どれだけの苦労なのか……泣いて相談してほしかった。
どうしようもできなくても、どうにかしてほしいと頼ってほしかった。
どう思おうと、俺たちは兄妹だと言わせてほしかった。
結局は俺の、俺からの願いだったのだろう。甘えだったのだろう。
それでも兄さんは、努めて明るく俺と青奈に接した。
けれど……兄さんは、けじめをつけるためにか、高校卒業まで待ったと思えば消えてしまった。
フェニックスプロジェクトとは、兄さんに殺されなかった研究者が、極秘に研究を進めているものだった。
さすがの国家も、この件には干渉できず、俺たちは普通に生きてきた。
普通じゃない身体で、普通じゃない心で、普通じゃない思い出と共に、思うこともなく生きてきた。死んでいる身体で、もらった命で、辛うじて燃えている命で、俺たちは生きてきた。
これが、三年前の魔装法暴乱事件による、俺の、俺たちの物語の全てである。
俺たちは寿命で死ぬか、不死の魔法に身体が耐えられずに燃え尽きるか――そのどちらかで死ぬまで、死んでも生きていくのである。
それが白城黒葉の……白城青奈の……白城白也の運命であり、呪いなのだ。




