表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/219

第143話 聖なる魔装戦~決着と血に捧ぐ想い――The last of blow

 

 『巡炎の腕(ガントレット)』から伸びる刃を、真っ直ぐに二号へと向ける。

 なんだ……今のこの、スッキリとした感覚……。

 さっきまで熱さを感じていた右腕も、今は自然な感じだ。一体感がある。

「ふぅ……」

 小さく細く、息を吐きだす。

 無言で、二号が構えた。何かを感じ取ったらしい。

「偽者で、吸血鬼のコピーのお前が、何をしようってんだよ」

 ガントレットのブースターから飛び出た、尾羽のような炎が猛烈に勢いを増した。

 それだけだと、右腕のみが加速する事でバランスを崩し、空回りする。しかし、その尾羽の炎は、俺の身体に巻き付くように流れた。

 同時に地面を蹴り、二号へと向かっていく。

 瞬間、俺の身体が急加速する。

 スローに流れる視界で、二号が防御の動作に移るのが見えた。

(おせ)えよ」

 ――……スッ……――

 すれ違った途端に、俺の加速が終わる。

 急な速度の変動に顔をしかめながら、俺は軽く刃を振った。

『瞬間加速か……人間の身体じゃあ、使い勝手が悪いと思うよ?』

「……ッ!」

 俺の身体が、さっきの動きと反対方向に吹き飛んだ。

 受身もできず、地面へ激突して咳き込む。

 二号は斜めに大きく切り裂かれ、霧のように消えた。だが、俺が止まった瞬間に、吸血鬼が棺桶で殴ってきたのだ。

「グ、ハッ……そ、その程度、か……?」

 立ち上がって、口の中に溜まった血を吐き出し、強がって見せる。

 そんな俺に、吸血鬼はニヤリと笑った。

『そうだね……じゃあ、君も魔法武器を出せたんだし……終わりにしよう』

 試合時間、残り六分ぐらい……。

「ああ……そうだな……」

 俺は左手でパラを抜いて、不死鳥の炎を込めようとして……止めた。

 いや、正確には……無理だった。

 魔法武器を出している精神力で、限界らしい。つまりは、このガントレットの制限時間(リミット)を過ぎれば、試合云々を差し置いて、戦えなくなる。

「眠れ……吸血鬼ッ!」

 急加速によって吸血鬼へと肉薄し、パラを向ける。

 今は強化魔法を施すので精一杯だが……ないよりマシだ。

 魔装法で強化された鉛玉が、至近距離で吸血鬼を捉える。

『甘いね』

 棺桶から染み出した闇のエネルギー波が、銃弾を流してしまった。

 だが、本命はそっちじゃない。

 吸血鬼(こいつ)には、不死鳥の炎を叩き込まなきゃ、消せないようだしな。

「ハアッ!」

 金色と紅緋の炎を纏った刃が、吸血鬼へと振り下ろされる。

 棺桶によって弾かれたが、想定内だ。

 見た目からしても分かる通り、刃と棺桶じゃ、重さが違いすぎる。それらを振り回す近接戦なら、明らかに刃の方に分があるのだ。

 武器には、丁度良い重さが必要だ。軽すぎると扱いにくい。

 しかし、棺桶はいくらなんでも重量オーバーだろう。

 

 速さで……上を行く!

 

「ウオォォォォォォォォォォッ!!」

 ガントレットを急加速させ、速さにも緩急を付ける。だがそれも、緩急と呼べるレベルじゃない。

 守りに徹する吸血鬼に、右、左斜め下、右斜め上、下、左斜め上、と連続で叩きつける。

 縦に棺桶を置かれれば、素早くステップを踏んで、横から斬りつける。

 しかし、棺桶は受け止めている時にも、闇のエネルギー波を発することが出来るらしい。

 俺の突きを受け止めたと同時に、闇のエネルギー波がカミソリのような鋭さで迫ってきた。

 一撃を宙返りして躱し、別の一撃は刃で受け流す。

 棺桶が振り上げられる前に飛び込み、連打を浴びせる。

 だが……どうしても崩せない。

 急加速を使った移動と斬撃、不死鳥の炎による攻撃と速度の補助、その攻撃を全て防がれてしまう。

 射撃のフェイントもかけるが、それは闇のエネルギー波で流される。

 再装填(リロード)する時間もなく、パラは最終的にお荷物となってしまった。

 蹴りも混ぜ合わせてみたが、棺桶の大きさは、付け焼刃の手数攻撃は寄せ付けない。

 その間にも、闇のエネルギー波が少しずつ俺の体を削っていく。切り裂かれる痛みは、もう感じないが。

 気を抜けば……少しでも集中を切らせば、カウンターで死ぬ。

『……素晴らしいよ』

 一瞬……俺が体を反転させる一瞬……その一瞬で、吸血鬼が蹴りを繰り出してきた。

 仕方なく下がり、頭を狙った横薙ぎの棺桶を、しゃがんで避ける。

 だが……反撃させてはまずい……ここで決めるしかない……!

 

 

  

「纏え……不死の炎……巡炎の刃に……突き破れ――不死鳥の緋炎刃フェニックス・スラッシュ・エディション――」

 

 

 

 吸血鬼も、棺桶を縦に構えて、真っ黒なエネルギーを溜め始めた。

 

『葬れ……血を欲し……生命に飢え……噛み付け――吸血鬼の黒血牙ヴァンパイア・ブラッド・ファング――』

 

 

 この技で……全てが決まる……終わる――

 

「喰らえええぇぇぇぇぇッ!!」

 (まばゆ)い、光り輝く不死鳥の炎を纏った刃を、左斜め上に振り上げる。

 鳥の羽のような炎を散らしながら、金色と紅緋の斬撃が飛んでいく。

『吸わせてもらおうか……その力、全てを!』

 棺桶の蓋が砕け散り、赤黒い闇のエネルギー波が飛び出してきた。

 そのエネルギー波は、一メートルほどの、吸血鬼の牙のような形をしている。

 

 ビィィィィィィィィィィィィィィィィン!!

 

 炎の斬撃と、闇の牙がぶつかりあい、甲高い音を立ててせめぎ合う。

 不死の炎が斬撃の命を巡らせ、吸血の闇が斬撃のエネルギーを奪っていく。

 強烈な衝撃波に、俺と吸血鬼の体が後方に押される。

「突き……破れぇッ!」

 爆発音が盛大に鳴り響き、粉塵が巻き上がった。

 立ち尽くす俺の左右の地面に、真っ二つとなった闇の牙がそれぞれ突き刺さり、激しい衝撃波を撒きながら爆散した。

 その向こうで、微かに残った炎の斬撃が、吸血鬼へと迫っていくのが見える。

『まだ、だアアアァァッッッ!!』

 声を荒げた吸血鬼は、斬撃へと棺桶を投げつけた。

「いや……夜はもう終わりだ」

 急加速した俺は、残った斬撃を通過するように、刃を上段から振り下ろす。

 棺桶は、ゆっくりと真っ二つに断ち切られ……霧散した。

緋炎刃の追撃スラッシュ・パーシュート

 斬撃が不死鳥のような形になり、吸血鬼へと飛翔していく。

 不死鳥の斬撃は、吸血鬼の胸へと突き刺さった。

 同時に、その箇所から炎が吹き上がり、吸血鬼を包み込んだ。

 

 ◇

 

 試合時間は、残り三分と少し。

「……終わった」

 静かに息を吐きだして、俺は右腕のガントレットを解除した。

 途端に、強烈な疲労を感じて地面に座り込む。

 癖で、弾切れのパラを抜いて再装填する。

「そ、そうだ……月音……月音っ……」

 疲れた体に鞭打ち、立ち上がる。

 会場全体を覆っていた、夜の空間魔法が崩れていく。

 月音は仰向けに倒れていた。駆け寄って、跪く。

「大丈夫か……月音……おいっ……」

 そこまで言って、目を見開く。

 胸に、刃物で刺されたような傷があり、そこから血が流れている。

 これは……俺が、吸血鬼に攻撃した……。

「な、なんで……」

『当然だろう。あの攻撃により、不死鳥の炎が吸血鬼を抑えた。つまりその傷には、吸血鬼の回復力は適応されていない』

 俺の呆然とした声に、脳内で不死鳥が答えてきた。

 え……そ、それなら……これは……。

「どうすりゃいいんだよ……俺は――」

 一つ、思い出す。

「おい! 不死鳥の涙だ! 使ったことはねえけど、前にお前が……」

『無理だ』

 必死な俺の声を、不死鳥が冷静に否定してきた。

「でも、実際に……!」

『お前は、不完全な不死鳥体だ。使える能力には限りがあり、特性は選ばなければならない』

「な、に……?」

 初めて聞く話に、俺は顔をしかめる。

 それって……もしや……。

『お前は、戦いのために巡る命を使った。回復のために、命を巡らせたりは出来ない』

 聞いてない、と文句を言おうとして……筋違いだと気付いた。

 もし知らされていたとしても、戦うための方を選択しただろう。それしか、道がなかったから。

「じゃあ、本当にどうすりゃいいんだ……このままじゃ、吸血鬼を倒した意味が……」

 ……月音を助けることが、できねえじゃねえか。

「クソッ!!」

 拳を地面に叩きつける。

 月音の体を起こし、大きく揺すった。

「…………く……ろ……」

「!? 月音!?」

 薄らと月音の目が開いた。

「……ご、め……んね……く、ろ……ば……くん……」

「謝んなよ……! 大丈夫だから! しっかりしろって!」

 月音はゆっくりと右手を上げて、自分の胸の傷を触る。そして、血の付いたその手で、俺の左頬を軽く撫でた。

「あ、はは……やっぱ、り……わた、し……死にたく、です……」

 その目から、一筋の涙が落ちる。

 月音を抱く腕に、力が入った。

「当たり前だろ! こんなとこで、死なせるかよッ!」

 だけど、どうすればいいんだ……?

 本当はこんな傷、吸血鬼状態ならば、一瞬で回復して――

「……!」

「くろ、ば……く、ん?」

 固まった俺に気付いてか、月音はか細い声で問いかけてきた。

 月音の潤んだ目を真っ直ぐに見つめ、俺は唯一の方法を提示する。

「いいか? 月音を救うために、約束してくれ」

 静かに、苦しそうに、月音が頷く。

 時間がない。

「絶対に、自分を見失うな。自分を弱いなんて思うな、卑下するな。俺が側にいる……だから、戻って来るって強く思え。出来るか?」

「う、ん……わか……り、ました……」

 深く息を吐き、呼吸が弱々しくなる月音を抱え上げる。

 

 そして、俺は自分の首筋を差し出す。

 

「月音……俺の血を、吸ってくれ」

 そう……残っている吸血鬼の力なら……この傷を、回復させられる。

 それには、俺の血が最適だろう。

 だが、それにはリスクがあるんだ。

 言うまでもなく……吸血鬼が復活する可能性……折角倒した奴が、戻って来てしまい……俺の血を利用して完全となり、月音が消えてしまうリスクだ。

 だから……最後の策。

 月音の意志を信じ、俺は自らの首を差し出して、血を与える。

 

 あの夜……月音の意志ではなかったけれど、初めて俺と月音が逢った夜。

 俺はナイフで刺された。

 だが……聞いた話だと、通報したのは高校生ぐらいの女の子だったと言う。

 状況から考えて、それは月音自身だ。刺した本人だ。

 その時に、月音は俺の顔を見ている。

 しかし、商店街で、初めて月音の意志で逢った時は、そんな素振りはなかった。

 つまり……無意識に、月音の良心が動いたんだ。

 少しだけ、無意識下で、吸血鬼を抑え、助けを呼べた。

 

 なら……自分の助けだって、呼べるだろ?

 

 戸惑った月音の後頭部に手を回し、ゆっくりと俺の方へと押す。

 そして……静かに……俺の首筋へと、牙が立てられた。

 痛みを感じ、目を閉じる。

 ……しかし、それはどこか……少しだけ、優しくて……。

 俺は、軽い目眩と共に、温かいぬくもりを感じながら……意識を失った。

 

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ